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■続・サクラな日々(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2011-09-25
 
4月になり3年生の新学期が始まった。去年の4月は仕送りを停められてほんとにどうしようという状態だったが、今年は余裕で授業料も払うことができる。私は振袖を買うときに清花から借りたお金も1月までには返し終わっていたし、そのあと80万ほどの貯金も出来ていた(税金は自分で確定申告してちゃんと払った)。学校の勉強は3年生になってますます忙しくなってきたが、それをこなしながら、私は毎日バイトに行ってせっせとサクラとしてメールの返信を書いていた。この仕事を5年やっているというレモンは別格として、私はこのバイト先で、けっこうな古株になりつつあった。
 
私は進平に新学期になったのを機に同棲しようか?とも提案したのだが、進平は、同棲してしまうと自分が怠け者になりそう、ということでそれはもう少し先にして、しばらくは週末同棲のままで行くことにした。基本的には週末は彼が私のアパートに来て泊まっていくのだが、平日には逆に私が彼のアパートに泊まることもあった。
 
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新学期早々の金曜日、私は同じ専攻の学生数人と指導教官の自宅に招待された。うちの学科は40人ほどの学生がいるが、12の専攻があり、その各々に教授または准教授の指導教官がいるという構造になっている。私と同じ専攻の学生はこの学年では私を含めて4人だが、ひとつ上の学年に3人、そして院生(修士課程)に5人いて、合計12人が指導教官である神代教授のグループということになっていた。
 
女子はうちの学年では私だけ、ひとつ上の学年に1人(恭子さん)、院生の2年に1人(美森さん)いた。食べ盛りの男の子がたくさんいるので、先生のお宅では巨大な鉄鍋に大量のお肉を投入して、すきやき風にして頂いた。女子3人が先生の奥さんを手伝って、台所で野菜を切ったりしていた。
 
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「ハルちゃん、椎茸に十字入れるのうまーい」と美森先輩。
「えへへ。実は私、主婦だから」
「あ、同棲してるんだったよね」と恭子先輩。
「半同棲状態かな。週末はずっと一緒だし、平日も半分くらい一緒。朝のお味噌汁作るのが楽しみになっちゃって」
「もう結婚しちゃったら?って、まだ籍入れられないんだっけ?」
「そうなのよ。今年中に手術しちゃって、戸籍の性別変更したいんだけど」
「おお、すごい」
「でも、私の名前の読みはもう『はるね』に変更しちゃった。これは裁判所とかに行く必要なくて、区役所に届けるだけで変更できちゃうんだ」
「わあ」
 
「それと最初の頃は、うちの母ちゃんから手術とか慎重にね、なんて言われてたんだけど、最近は『やるなら、早くやっちゃいな』と言われるようになって」
 
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「それがいいかもね〜。就職活動するまでには性別明確にした方がいいよ」
「それもあるんだよね〜。実態と法的な性別が食い違った状態では、履歴書の性別欄のどちらに丸付けても、性別詐称と言われる可能性あるもん」
「私の高校時代の同級生にもオカマさんがいてさ、彼女、手術まだだから、性別欄の無い履歴書提出してるって言ってたよ。今みんなワープロの履歴書だし、性別欄消してもわりと違和感無いんだよね」
「なるほど」
 
食卓に移動しても、私の性別はけっこうみんなの話の肴にされていた。
 
「去年の後期から本学の方に来た時はもう女の子だったけど、この名前の子で、前期に教養部の方で見かけた男の子がいた気がするけどとか思ってた。似た名前の子と勘違いしたかな?とも最初思ったんだけどね」
と神代先生。
 
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「ある日突然女の子になって登校してきたんだよな。みんなびっくり」
と同級生の川口君。
 
「あれはまだ女装外出3回目だったんだよね。あれで学校に出て行くつもり無かったんだけど、前日女の子の友達と飲み明かしちゃって、家に着替えに戻ってたら遅刻しちゃうしと思って、そのまま出て来ちゃった。女の子の格好はあの日だけで翌日からはまた男の子モードで登校するつもりだったんだけど、クラスのみんなに煽られちゃって、明日も女の子で出てこようかなという気にさせられた」
 
「いや、3回目にしては女の子さが完璧だったよ。お化粧も自然だったし、声も女の子だし、そもそも雰囲気が女の子にしか見えない感じだった。みんな、多分吉岡さんはふだんずっとこの格好で暮らしてたんだろうなって思ってたよ」
 
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「あの日着てた服は実は自分が持ってる唯一の女物の服でさ、明日も女の子で出てくるなら着替えがいると思って学校の帰りにスーパーに寄って。って感じで、最初の一週間は毎日、明日着る服をスーパーとかユニクロとかで買って帰ってたよ」
 
「今は持ってる女の子の服と男の子の服の比率どうなの?」と美森先輩。
「男の子の服は11月に全部捨てちゃった。もう女の子の服しか無い」
「わあ」
「自分用の男の子の服が家にあることを許せない気分になったから」
「もう心が女の子になっちゃってたのね」
「今は、彼の男の子の服がたくさんうちにあるけどね」
「あら、ごちそうさま」
 
「性同一性障害の診断書とかはもうもらったの?」と恭子先輩
「1枚は今週もらった。あまりにもスムーズにもらえて拍子抜け。あなた本当にMTFなの?本物の女の子じゃないの?とか言われちゃったよ、最初。これからセカンドオピニオン取らないと」
「セカンド?」
「手術受けるのに2枚要るんだよね」と恭子先輩が補足する。
「そうなの。面倒だよね〜。でも過去の自分史は多少でっちあげた。
小学生頃から時々女装していたことにしちゃったし、去年の春頃から学校以外ではほぼフルタイムしてたことにしちゃったし」
「してなかったの?」と美森先輩。
「うーんと、そのあたりは企業秘密ということで」
「俺は吉岡さんは絶対昔から女装してたと思う」と同級生の金子君。
 
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「俺知ってる」とニヤニヤした顔で、同級生の香取君。
「地質科の赤星が、高校時代の吉岡さんの同級生なんだよね。あいつから色々聞いた」
「もう・・・・・」
 
「例えば小学生の時に学芸会で白雪姫を演じたって話。ま、他にも色々あるけど」
「へー」
「その話は結構あちこちでしゃべっちゃったなあ・・・・あれはね。別に最初から白雪姫の役をする筈じゃ無かったのよ。一応、私男の子だったし。白雪姫は女の子が演じるはずだったんだけど」
「ふんふん」
「私は白雪姫の継母役だったの」
「なんだ!やはり最初から女役じゃん」
 
「だって女の子たちがみんなやりたがらなかったんだもん。配役が決まらなくて学級委員の子が困ってたから、私、その子のこと好きだったから、助けてあげようと思って、私がやるって言ったの」
「ちなみに、その学級委員って、女の子?男の子?」
「男の子・・・・って、いいじゃん、そういう性別の問題」
 
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「いや、そのあたりは充分追求したいな」
「で、私が継母役で練習してたんだけど、当日になって、白雪姫役の子が風邪で休んじゃったのよ」
「あらら」
「で、誰か白雪姫のセリフ覚えてる子いないか?ってことになって、私ずっと一緒に練習してたから、白雪姫のセリフも入ってたの。それで私が白雪姫の服着て、主役やることになって。継母役は、小人役の男の子の一人がやってくれた」
「で、その後の評判も」と香取君。
 
「あの白雪姫役の女の子可愛いね、あんな可愛い子、うちの学級にいたっけ、と保護者の間で騒がれたという話ね」
と私は少し投げやりぎみに言った。
 
「やっぱり、ハルちゃんって小さい頃から女の子の素質あったのね」
と何だか納得したような顔の美森先輩。
「でもその頃から女の子の声が出せたの?」
「え〜?だって変声期前だし、女の子も男の子も声に大差ないでしょ?」
「あるよ〜」
 
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「小学校の修学旅行で女湯に入ったという話も」
「おお、いろいろ出てくる!」
「あれはクラスメイトの女の子達に拉致られたのよー」
「へー」
「男湯に入ろうとしていた所を入口で捕まって『女の子が男湯に入ってはいけません』とか言われて、女湯の方に強制連行されて服を脱がされて湯船に放り込まれた」
「女の子何人?」
「2人」
 
「女の子2人に抵抗できなかったの?」
「うん。私腕力無いし。で、放り込まれた後、一般客がどんどん入ってきて私、湯船から上がるに上がれなくて。拉致った子達は先に上がっちゃうし」
「あああ」
「アレはおまたに挟んで隠して、人が少なくなるまで2時間入ってた」
「ちょっと可哀想」
「で、私の服が入ってたはずのロッカーに女の子の服が入れられていて」
「でも逆にそこで男の子の服着るのはやばくない?」
「うん。それはそういう気もした。仕方ないからスカート穿いて、拉致した女の子の部屋まで行って、服を返してもらった。そこまで行く途中でも、すれ違った友達から『あれ?今日はスカート穿いて来たの』とか『女の子になったの?』とか言われて恥ずかしかった。翌日も『どうして今日はスカートじゃないの?』なんて言われたし」
 
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「莉子から高校時代に女子トイレに放り込まれたという話も聞いたけど」
「ああ、広められてる」
「結局、晴音って、子供の頃から、女の子にしてみたくなるような子だったってことでFinal Answer?」
 
その日はそうやって、話題の半分くらいが私の「女の子ライフ」のことで占められていたのであった。
 

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