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■サクラな日々(12)

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私達は海老名SAであらためて御飯を食べながら、いろんなことを話した。今回の事件で、結果的にはお互いの距離が縮まったような気もした。
 
「俺はハルちゃんの身体のことはそんなに気にしてないから」
「うん」
「俺のために手術しようとかは考えずに、自分がそうありたいと思うままであればいいと思う」
「ありがとう」
「それと、もしおっぱい大きくするとか、その・・・下の方切っちゃうとか、そういう手術したいと思ったらさ、手術する前に1度、俺に言ってよ」
 
「うん。実はこないだ母ちゃんからも言われた。でも、昨日はもうこのまま美容外科に飛び込んで豊胸手術でもしちゃおうかとも思った」
「わあ」
「でも、それ考えてるうちにタクシーが通りかかって、行き先訊かれたから羽田って答えちゃって、それで釧路に行くことになっちゃったのよね」
「あはは」
 
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「でも釧路までの往復のお金で、胸にヒアルロン酸注射でもしてれば少しだけバスト大きくすることもできたなあ」
「そんなのあるんだ」
「うん。ヒアルロン酸は無害だからね。おっぱいに注射してその分膨らませるの。ただし徐々に身体に吸収されちゃうから半年か1年くらいの命」
「へー」
「手術無しで豊胸できるから人気あるけど高いのよね。私の胸をCカップくらいにしようとしたら、たぶん50〜60万はかかる」
「ぶっ、それならシリコン入れてもいいんじゃない?」
「なのよね〜、シリコン入れるの80万でできるもん」
 
「シリコン入れたい?」
「分かんない。清花からはさ、女装生活始めたのが7月だから、来年の7月までは身体はいじらない方がいいし、ホルモンも飲まない方がいいよと言われた」
「賛成」
「うん。1年たってみてから、あらためて考えてみるよ」
「うん、そうしよう」
 
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この日、私達は御殿場まで走り、東富士五湖道路方面へ抜けて、山中湖で遊覧船に乗り、中央道経由で東京に戻った。一般道を走る時に少し私が運転させてもらった。基本的な運転感覚はいいから、慣れと場数を踏むことだけだねと言われる。駐車場入れは、スーパーとかの空いてる駐車場で何度も練習すればいいよと言われた。
 
「そうだ。こないだ成人式の振袖受け取ったんだけど、進ちゃん、まだ見てなかったよね」
「あ、うん」
「うちのアパートに来ない?私、振袖自分で着れないから、ちょっとひっかけるだけしかできないけど」
「うん、見たい」
 
私達は車をレンタカー屋さんに帰してから、電車で私のアパートまで移動した。
 
「わあ、可愛いね!」
と進平は私の振袖を見て言う。
「えへ。なんかいいよね〜。こういうの着れるのは女になって良かったなって思っちゃった。お金は掛かるけど」
「確かに女の子はお化粧品とかもいるし、何かとお金掛かるね」
 
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「ところで今夜は、私の手料理とか食べる?」
「食べたい」
「メニューのご希望はございますか〜?」
「うーん。肉じゃがとか」
「おお、カップルの定番メニューだ。材料買ってくるから留守番しててくれる?」
「OK」
 
買い物から帰ってきたら、「俺、さっきあの子に電話して、済まないけど別れて欲しいと言った」と進平。
「うん」
私は進平にキスして、肉じゃがを作りはじめた。
 
肉じゃがは「美味しい〜!」と褒められた。
「じゃがいもがホクホクだし、短時間で作ったにしては、けっこう味が染みてるし」
「ありがと」
「料理はよく作るの?」
 
「うん。毎日朝晩作ってるよ。昼は学食だけど。だいたいバイトを9時くらいまでしてるから日曜日に食材はできるだけ買いだめしておくのよね。でも足りない分を深夜営業のスーパーで買い足してから帰宅することもある」
「でも量が難しくない?」
 
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「そうなのよ。一人分だけって作るの難しいから、3〜4人分くらいの材料で作って、結局3日かけて食べることもあれば、冷凍できるものは冷凍しておいたりするよ。カレーはじゃがいもを外して冷凍」
「俺、呼んでくれたら食べてあげるよ」
「ふふ。遅い時間帯でもよかったら」
「じゃ、今度」
 
その夜は御飯を食べたあと、お茶など飲んで少し落ち着いてから、布団を敷き一緒に寝た。もちろんたくさん愛し合った。その日は物凄く燃えたので明け方近くまでやっていた。
 
その後もしばしば私は昼間の内に「今夜食べに来る?」などといって進平を誘い、22時すぎに一緒に遅い晩ご飯を食べた。莉子からは「おお、餌付けに成功したか?」
などと言われた。
 
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クリスマスイブには、昼間のうちから椎名君たちとカップル4組で車無しで都内のファミレスに集まり、クリスマスパーティーをした。夕方から各々別れてホテルなどに消える。(私はバイト先から「デート対応の人が足りない。HELP」と連絡があり、バイト先には出ないままデート対応だけ2件した。進平が付き添い役である。私がデートしてて妬かない?と訊いてみたが私を信頼してるから問題無いと言われて私は彼にキスした。そんなことをしていたので、私と進平のスイートタイムは21時すぎからになった)
 
そして翌クリスマスの朝(といっても10時頃)ケンタッキーに再集合して、みんなでチキンを食べておしゃべりを楽しむ。その後、茨城方面に車で走って温泉に入った。震災の影響でしばらく休業していたところが再開したとの情報をもらい、リニューアルオープンしたばかりの温泉につかった。
 
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「遠目では分からないけど、じっとそばに寄って見ると、ここに境目がある」
と花梨にブレストフォームの『境目』を指摘された。
「えー?どれどれ」と麻耶と美沙も近づいてくる。
「ふふ。気をつけて見ないと分からないでしょ」
「ここリニューアルオープンしたばかりで照明が明るいからね。ここまで明るくないところだと、たぶん全然気付かないよ」
「あ、やっと分かった。ここからこっちが偽乳かあ・・」と麻耶。
「うーん。私の目では分からないや。私視力無いからなあ」と美沙。
 
「これ元々ある程度おっぱいがある人が付けてもいいの?」
「もちろん。私がほとんど胸のない状態からCカップにしてるから、元々BくらいあったらEになるよ。これいちばん小さいサイズで、もっとボリュームのあるタイプもあるから、BからGくらいにボリュームアップすることもできる」
「わあ、やってみようかな。タッちゃんをびっくりさせる」
「はは。2万くらいするから、ジョークで使うには少し高いよ」
「でも触った感触がいいよね。本物と変わらない。ほら、花梨の触ってごらん」
などといって、麻耶が私の手をとって花梨のFカップの胸に触らせる」
「あ、ほんとだ」
 
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花梨は笑っている。
「なんなら、女子校名物のおっぱいの触りっこする?」
「私、中学高校と女子校だったけど、うちには無かったのよね」と美沙。
「うちの中学ではしょっちゅうやってたよ。特に私胸が大きいから真っ先にターゲットにされてた」と花梨は笑いながら言う。
 
お正月は帰省もせずにずっとバイトと勉強ばかりしていた。年末年始は会員さんのアクセスも多く、ちょっと稼ぎ時であった。昼間はずっとアパートで勉強していても少し煮詰まってくるので、時々学校近くのファミレスなどでも勉強していた。ここには同様に帰省していない莉子が時々来たので、一緒に勉強しながら、おしゃべりなども楽しんでいた。
 
「へー、じゃ寺元君との仲はその後かなり進展してるんだ」
「うん、最近週に2〜3日は彼、私のアパートに泊まってくよ、それで最近は朝、お味噌汁作るのよね〜。ひとりの時はめったに作らないけど。朝、御飯にお味噌汁って、男の人は喜ぶみたい。後は冷凍ストックしてる鮭の切身焼いたり」
「甘い生活してるな。もう同棲しちゃえば?」
「なし崩し的にそんなことになっていく気もする」
先月はちょっとした危機があったことも語った。
 
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「ま、男って浮気する生き物だからね。もちろんしない人もたくさんいるけど」
「私結婚は無理と思うから、その時になったら身を引くつもりではいるけどさ、私と一応恋人のままの状態での浮気は許さない」
「ハルリン、偉い。そうよ、自信持たなくちゃ。結婚だって諦めることないと思うよ」
「でも絶対向こうのご両親に反対されるよ。私は今ひとときの幸せをもらえたら、それでいい」
 
「そう?ひとときの幸せって。出会い系サクラやってる訳じゃなくて、これは本物の恋愛なんだからさ、もっと夢を持とうよ。ハルリン、彼が赤ちゃん産める女の子と結婚したいから別れてくれと言ってきたら、素直に身を引ける?」
「自信無い。泣きわめくかも」
 
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「だって好きなんでしょ?」
「うん」
「じゃ、結婚するつもりで頑張りなよ」
「そうだね。。。。。考えてみる」
 
成人式には予告通り母が上京してきた。髪は前日にセットしていたのだが、着付けの予約時刻が朝8時だったので、着付けが終わってから町で母と落ち合った。あらためて「可愛いわねえ」と言われる。マクドナルドにでもいって朝御飯にしようと言ったら「とんでもない」と言われた。結局和食のファミレスに入り、服を汚さないように紙エプロンをもらって付けて食べた。
 
11時に莉子たちと落ち合う。クラスの女子4人はうまい具合にみんな同じ会場なのでいっしょに入ろうと言っていたのである。
「リコのすごくきれいじゃない?」
「いや、ハルリンのも凄く可愛いよ」
「スズのも凄いよ、レンタルといってもこれかなりしたでしょ?」
「ヒサリンのは何かすごいモダンで格好いい」
と、しばし褒め合い。そしてお互いの携帯で撮影し合い。
 
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妃冴もお母さんが付いてきていたので、私の母と挨拶して、母同士で何かにこやかに話していた。
 
会場に入場する。記念品が男女で別のようであったが、私はちゃんと女性用の記念品を受け取った。なんか偉い人の話があっていたが、つまらないので私達は早々に小声でおしゃべりモードになっていた。式典は2時間ほどで終わった。
 
会場の前で4人並んで記念写真を撮る。写真は同級生の男の子がちょうど近くにいたので徴用して撮ってもらった。4人だけの写真と、妃冴の母と私の母も入った構図とで、私達が持ってきていた4台のカメラで撮ってもらった。
 
その後、回転寿司で、遅めのお昼兼おやつとしたが、妃冴と私の母から早々に「醤油禁止令」が通達された。「この子たち無頓着なんだもん」「脱がせるまで私達のほうが気が気じゃないですよね」などと2人の母が言っていた。莉子がノートパソコンを持ってきていたので、それを使ってお互いの撮影データを交換する。私は自分のデータをUSBメモリーにコピーして母に渡した。
 
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「ああ。じゃ、スズは今朝写真館で記念写真撮ってきたんだ」
「だってこれ借り賃が高いんだもん。着付け代だって、前撮りするなら2回分必要だし」
「私は12月に前撮りしちゃった」と妃冴。
「だからお正月に帰省したら、もう私の成人式の写真が飾ってあったという」
「私は正月明け早々に前撮りしたよ」と莉子。
「私は後撮り〜」と私。
「来週、あらためて着付けしてもらって写真館に行ってくる」
実は今日進平に振袖姿を見せることができないので(向こうは違う会場なので)来週それも兼ねて写真館で撮影するつもりなのである。
 
「なるほど、そういう手もあるのか」
「でも自分で着れたらいいのになあ」
「だよね。振袖は特に難しいみたいね」
「うちのお母さんにも普通の着物なら着せてあげられるけど振袖は無理って言われた」
 
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午後4時で解散し、各々脱がせてもらいに行った。私は振袖を自宅に置きに戻ったあと、母と一緒に羽田に行き、チェックインしてから空港のビルで夕食を食べた。
 
「私さ、今日の写真、父ちゃんに見せちゃうよ」
「えー!?」
「だって、こんなに可愛くなってるんだもん。見せないのもったいない」
「ショックで死ななきゃいいね」
「お兄ちゃんたちにはあんたのこと言ったけど、まあ最近そういうの流行りだし、いいんじゃないって言われた。風史(かざみ)なんて、どうせ女の子になるんだったら、さっさと早い内に手術しちゃったほうがいいよ、なんて言ってたし」
 
「うん。友達の中にもそう言ってくれる子もいる。慎重にねと言う子も多いけど」
「結局最後は自分で決めることだからね」
「うん」
 
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母は笑顔で帰って行った。
 
ふと気付くと進平からメールが入っていた。
『今日はみんな昼間から飲んじゃってるからドライブは中止。深夜のジョイフルで成人式パーティー』とある。思わず微笑んだ。このグループはいつも安全運転なのである。遠征する時もだいたい速度遵守だ。リーダー格の椎名君がそういうのにうるさいからシートベルトもみんなちゃんとしている。
 
私は自宅に戻ると振袖の包みを開けて、また身体に掛けて鏡に映してみた。
 
ほんと可愛いなあ。
 
デジカメと携帯のデータをパソコンに移し、画面で見てみる。うん。なんか感動。でも、去年の春頃の時点で、自分が振袖を着て成人式に行くなんてのは想像の範囲外だったな、とも思った。
 
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この1年は自分はどうなっちゃうのだろうと思うことばかりだったけど、釧路に往復してきた日、そして横浜に進平を連れに行った日から、自分の道を迷わなくなった気もする。あの時まで自分は流されているだけだったのかも知れない。でも今は1歩ずつだげど、ちゃんと自分の意志で人生を歩いて行っている。そんな気がした。
 
私はパソコンを閉じてスリープさせると、手早くメイクを直して、集合場所へと出かけていった。夜の風が心地よかった。
 
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サクラな日々(12)

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