広告:ここはグリーン・ウッド (第4巻) (白泉社文庫)
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■サクラな日々(3)

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ボクはそういうわけで、女の子の服を着て、お化粧をした状態で、オフィスの外に出た。こんな格好で外歩くなんて・・・・恥ずかしい!でも5千円だもんね。頑張ろう。ボクはそう思って、開き直って女の子っぽい歩き方をして地下鉄の駅まで降りていった。ルーシーはずっと20mくらい離れたところを付いてきてくれた。
 
目的の駅で降り、待ち合わせ場所に行く。10分前に着いたのだけど、目印にしたキティちゃんのポーチに目を留めたのか、すぐに、30歳前後の学校の先生かな?という感じの男性が近づいてきて
「ルーシーちゃん?」
と声を掛けた。
 
「こんにちは、AKB29さんですか?」
「うん。どこかお店に入ろう」
といって連れて行かれたのは、資*堂パーラーだ。
 
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「わあ、可愛い」
などと私は入るなり言った。ボクもここはノリで女子大生になりきっている。
「何か好きなメニューある?」
と聞かれる。ここには実は昨年1度上京してきた従姉と一緒に入ったことがあった。その時、従姉はパフェを注文していた。
 
「ホワイトブーケパフェかな」
「じゃ、それ2つ」と注文する。ボクは元々甘党だからパフェ行けるけど、普通の男の人にあのわりと大きめのパフェ、大丈夫だろうか?
 
最初見た時にボクが思ったように、彼は中学校の先生ということだった。ストレスが多い仕事なので、その息抜きにメールをたくさん書いているらしい。今回のデートにしても、『ルーシー』を口説くことより、単に直接いろいろおしゃべりがしたかったというのが動機のようであった。
 
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「うちの生徒の女の子たちには嵐とかキスマイとかが凄い人気でさ。でも、僕は嵐のどの子が桜井君で、どの子が二宮君かとかも、さっぱり分からない」
「あはは。私はどちらかというとHey! Say! JUMPが好きですけど、櫻井君と二宮君の区別は付きますよ」
なんて会話をする。さすが中学生とふだんやりとりしているだけあって話題が若い。
 
やがてパフェが来た。ボクはゆっくりとそれを食べていくが、彼の方は途中でギブアップしてしまったようだった。
 
「そうそう。バースデイプレゼント。あまり高価なもの贈っても負担に感じるだろうからと思って」
と言って、彼は可愛い熊のストラップをくれた。
「わあ、可愛い。ありがとうございます」
とお礼を言う。
 
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その後も私はAKB29さんと、お互いの学校での話題やジャニーズ系の話題などを話し、結局20分後に店を出て別れた。
 
彼の姿が充分遠くなってから、ルーシーが近づいてくる。
「お疲れ様」
「疲れました。あ、トイレ行って来なきゃ」
といって、今出てきたビルのお店の入口近くにトイレがあったなと思い、そこに行こうとする。
「ミュウミュウ、トイレ入るほう、間違うなよ。君、今女の子だから」
「ああ!きゃー、どうしよう」
「開き直り」
「うーん。頑張ってみます」
 
と言って階段を上り、おそるおそるスカートを穿いた女性をかたどったマークが刻まれているほうのトイレのドアを開ける。ひゃー列が出来ている。結構人の多い時間帯なのでトイレも混み合っているようだった。
 
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女子トイレにはいつも列ができているという話は同級生の女の子から聞いたことがあったが、実物を見たのは始めてだ。仕方ないので最後尾に並んでひたすら待つ。その間、男とバレないだろうかとドキドキしていたが、AKB29さんと20分も話していてバレなかったんだから大丈夫、と自分に言い聞かせる。
 
やがて順番が来て、私は個室に入り、ふっとため息をついた。
 
しかしこれどうやってトイレすればいいんだ?
 
マーメイドスカートなので。まくりあげたりするのは無理っぽい。取り敢えずスカートを下ろしてみた。パンティーも下ろす。これで立ってできるかな?とも思ったが、ちょっと思い直して、便器に座ってからしてみた。
 
うん。なんかこっちの方がしっくり行く。女の子の服を着せられた時から、自分の心の中を女の子のような感じにシフトしていたので、その女の子の心では、おしっこを立ってするというのは違和感を感じたのである。女の子は座ってするよねー、などと自分で思う。出し終わってから、トイレットペーパーを少し取って、おしっこの出たあたりを拭いた。こんなことするのも初めてだ。でも、女の子っておしっこの後、拭くんだよね、などと思いながらそんなことをしてみた。
 
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パンティを上げ、スカートを上げて、流してから個室を出、手を拭いてから外に出てルーシーの所に行く。
「お待たせ。帰りましょう」
といって一緒に歩き出した。
 
「こうしてると、まるでミュウミュウとデートしてるみたいだ」
「もう、やめてくださいよー。今もう、恥ずかしくて死にそうなんだから、私」
となんだか声も話し方も女の子になったままだ。
 
「でも、すごく女の子が板に付いてる」
「そう?」
などといって、私が小首を傾げたのが、自分でも女の子っぽい気がした。あとでルーシーはあの時ドキっとしたなんて言っていた。
 
会社に戻ると、店長から「お疲れ様」といって迎えられる。
取り敢えず仔細を報告してねぎらわれた。
 
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「着替えてきまーす」と言ってノックして誰もいないことを確かめてから女子更衣室に入り、着ていた服を脱ぎ、空いているロッカーに収めていた自分の服を取り出して着た。脱いだ服を持って店長の所に行く。
「この衣装はどうしましょうか」
「ああ、更衣室の隅のバスケットの所に入れておいて。後で洗濯するから」
「はい」
 
「下着は自分で洗濯してから返しますね」
「あ、うん・・・あ、いや下着は君が持っておいて」
「あ、はい」
「下着は共用できないからね」
「確かにそうですね」
 
「あ、どなたかクレンジング持ってませんか・・・って女子がひとりもいない」
「あ、もうみんな帰っちゃったね」と店長。
「仕方ない。帰りにコンビニで買って帰ろう」
「あ、このメイク道具も君が持ってていいから」と言って、さっき使った化粧品をまとめて渡される。
「はい。じゃ、また使う機会があったら」
などと笑って言って受け取ったが、自分としてはまさかまたそれを使うようなことはあるまいと、その時は思った。
 
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「じゃ今日の報酬ね」
といって現金を受け取る。
「わ、なんか凄く多いんですけど」
「デートは1回1万円だから」
「えー!?5千円かと思った」
「それは付き添いの手当。5千円でいいの?」
「いえ、1万円頂きます」
といって、ボクは現金をバッグにしまった。
 
「わあ、でも1万円ももらえるなら、またしたいくらいだなあ」
などと軽い気持ちで言ったのだが
「ふーん。じゃ、またデートが発生したら頼もうかな。念のため、そのメイク道具とか、洗濯済みの下着とか、会社に置いとくかい?」
などと言われる。
「あはは、そうですね」
 
などという会話をしたのだが、なんと同様の事態が翌週も起きたのである。2度目だったので、少し心に余裕があった。ボクはお芝居の女役でもするような気分で、ロッカー(女子更衣室なのだけど、ボク専用のロッカーを決めてもらった)に入れておいた下着を身につけ、たまたま在社していた女性スタッフに衣装を見立ててもらい、メイクもしてもらって、男性スタッフに付き添いをしてもらい、ボクは2度目のデート外出をした。
 
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今度は25-26歳くらいの会社員という雰囲気の人だった。話題が車とか格ゲーとかの話ばかりだ。あいにく、ボクはその方面はあまり興味が無いので、単に相槌ばかり打っている感じになってしまった。『ランエボ』という単語が出てきて何のことだろうと思っていたらだいぶ後になってからそれがどうも車の名前のようだということが分かった、などという状態だったが、それはそれで問題ないみたいだった。別れ際に彼が
 
「車のこととかばかり話して御免な。俺、こういうのしか知らないもんだからさ。でも、相槌打って、ちゃんと聞いてくれていたから嬉しかった」
などと言っていた。彼とは30分ほど会話してから笑顔で握手して別れた。
 
付き添ってくれたメイリンさん(ハンドルは女の子だが本人は体育会系の男性)が終わってから「さてミュウミュウと事務所までデートだ」などという。
「もう、メイリンさんまで」
 
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「他の奴にもなんか言われた?」
「ルーシーさんからも似たようなこと言われた」
「そりゃ、これだけ可愛かったらね。ミュウミュウ、普段は女装しないの?」
「したことないですー」
「女の子の口調になってるね」
「いや、メールで毎日大量に女の子になりきって返信書いてるし」
などと言う。
 
その日事務所に戻ってからクレンジングで化粧を落としながら、ボクはふと思った。こういう事態が女の子がひとりもいない時に起きたらメイクに困るよなあ。お化粧少し勉強してみようかな。
 
そう思うと、ボクはメイク道具をバッグの中に入れて持ち帰った。遅くまで開いている書店で、メイクの参考になるような本を探してみる。うーん。そういう本はどこにあるんだろう・・・・あれこれ探してみて「実用」の所に少しあることに気付く。しかし・・・・見た感じ、あまり参考にならないふうだ。これはもともとお化粧が分かっている人向けの本だ。
 
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さてどうしようと思ってぶらぶらと書棚を眺めながら歩いていた時、ティーンズ向けの雑誌で「メイク初心者講座」なんて文字が躍っているのを見かける。
「そうか!女の子向けの雑誌でも、よくお化粧の話書いてあるじゃん」
と思って、その雑誌を買って帰った。
 
アパートに帰ってから、とにかく試してみる。ファンデは分かる。ひたすら塗ればよい。アイシャドウが、いまひとつよく分かっていなかったのだが、書いてある通りに、薄い色を眉毛の下に広く、濃い色をまぶたの上にだけ塗ってみる。あ、いい感じだ。
 
アイブロウを入れる。こないだメイクしてくれた女の子も、今日してくれた女の子も眉毛を1本線で入れたのだが、それはどうも略式のようで、本当は眉毛の毛の流れにそって、短い線を重ねて描いていかなければならないようだ。やってみる。けっこう時間が掛かるし、途中飛び出してしまったのを綿棒で拭いて消したりした。しかし完成すると、1本線で描いたのより、ぐっと自然な感じだ。いいな、これ。
 
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アイラインを入れる。これが難しい。目の中に飛び込みそうでこわい。慎重に慎重に描いたが、なんだか黒くなりすぎた感じだ。うーん。これはもう少し研究が必要だな。
 
マスカラを塗ってみる。なんか楽しい!これ。でもこのマスカラだけでぐっと女の子っぽい目になるんだなあ。。。たっぷり塗ってから、ビューラーで押さえて・・・・と思ったのに、うまくはさめないよう。えーん。
 
どうしてもうまくビューラーではさんでカールできないので、指で押さえて無理矢理上にカールさせた。これは宿題だ。
 
チーク。これが難しい。本には、チーク買った時におまけで付いているブラシではなく、もっと大きなブラシを買って使ったほうがいいと書いてある。よし、今度買ってこよう。今日はとりあえずおまけのブラシで。。。。こんな感じ?これ以上やると多分「おてもやん」になる。うん。このくらいで悪くない気がする。
 
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でもチークって、自分でメイクをされるまでは「おてもやん」みたいなのを想像していたので、最近の女の子はチークなんてしてないんじゃないかとばかり思い込んでいたのだが、実際のチークはとてもほんのり入れるのだ。メイクされてみて知ったことであった。
 
最後にルージュ。この雑誌を買う前に見た別の本ではリップブラシで輪郭を描いてからと書いてあったのだけど、この雑誌ではそういうやり方は採用されていない。ふつうにそのまま塗っている。ジャワティーにもそのまま塗られた。輪郭がピシッとしているのは、「お姉さん」の塗り方じゃないかなかという気がした。ボクの年齢では逆にそういうピシッとした塗り方しないほうが、若い子らしくなりそうな気がしたので、口紅をそのまま使って唇に塗った。
 
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口を大きく開けて、ちゃんと端まできれいに塗る。これ、こないだメイクしてくれたジャワティーにはされたけど、今日してくれた子にはされなかった。でもこれはちゃんと口角まで塗るべきだという気がする。
 
取り敢えず完成。
 
うーん。。。。。
 
なんか変だ。一応手順通りにしたつもりだけど・・・バランスが悪いんだろうなあ。よし、これ毎日練習しよう!
 
ボクは声の出し方についても少し研究してみることにした。カラオケ屋さんに行き「女の子っぽい」声の出し方をして、携帯で録音し、再生してみる。
 
うーん。これこちらを女の子と思い込んでいる人には通用するかも知れないけど、ふつうに聞くと男の声に聞こえるなと思う。よくバレなかったものだ。
 
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トーンを変えてみたり、指を喉に置いて喉の緊張度を調整したりして、試行錯誤をしてみる。あ、今のいい感じ。
 
あれこれしているうちに偶然女の子っぽい声が出た。この出し方をちゃんと覚えておこう。その出し方で「あいうえお」とか言ってみる。録音して再生。ちゃんと女の子の声に聞こえる。やったね。ボクはその声で『枕草子』の一節を暗誦してみたり、せっかくカラオケ屋さんなので女性歌手の歌を歌ってみたりしてみた。録音して聞いてみるが、やはり歌は音程の高いほうが不安定な感じになる。しかし朗読の方はわりといい感じだ。
 
よしこれ毎日練習しよう。
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サクラな日々(3)

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