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■サクラな日々(6)

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ボクは妃冴と別れたあと、地下鉄で◇◇まで行き、商店街の入口にある、その呉服店に入った。何気なくぶらりと入ったような顔をして、中に展示してある商品を見る。。。。
 
が、出ているのは主として生地だけである。反物が巻かれたままの状態で置かれていて、一部体操の鉄棒みたいなものに広げて掛けられている。和服の形で展示されているのは、表のショーウィンドウに展示されている2点だけだった。ボクは結局そのショーウィンドウの所に戻って、その服を眺めた。
 
振袖・・・・・って、これ振袖なんだろうか?きれいな着物だけど。。。実はボクには何が振袖で何が留袖なのやら、さっぱり分からないのである。しばらく眺めていたら、ひとりの店員さんが出てきた。どうもボクを客のようだと判断したようである。
 
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「お嬢様、和服をお探しですか?」
「あ、いえ。ちょっと見てただけです。あの・・・これ、振袖ですか?」
と目の前にある服を指して尋ねる。
「いえ、それは訪問着でございます。向こうのショーウインドウにあるのが振袖でございます」
「あ、そうなんですか!」
 
「成人式の御衣装とかをお求めですか?」
「いやその・・・・友達が成人式に振袖着るよと言ってたので、でも私、和服のこと、さっぱり分からなくて」
「お嬢様、よろしかったら、店内で少し和服のこと、ご説明しましょうか」
「あ、はい」
 
店内で店員さんは写真がたくさん載っている本を開いて、和服の種類とか「格」について、また帯のことなども説明してくれた。
「わあ、振袖ってローブデコルテなんかと同格なんですか!」
「はい。未婚女性の第一礼装ですので」
 
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ボクがほんとに和服について何も知らないようだと判断したようで店員さんの説明はほんとに懇切丁寧だった。あまりにも丁寧すぎて、ここまで説明してもらったら、やはりここで買おうかなという気にさせられた。しかし店員さんは押し売りもしてこなかった。
 
「和服のこと、あまりご存じでないようでしたら、資料とかも差し上げますので、少しゆっくりとごらんになってはいかがでしょう?9月11日の日曜日までにご注文いただきましたら、11月末までにはお仕立て間に合いますので」
と言う。
 
「ありがとうございます」
と言って、ボクはカタログや、「和服の話」というパンフレットなどをもらう。
 
「でも、お嬢様は背丈もありますし、目鼻立ちがしっかりしてますから、派手な絵柄が似合いそうですね。ご予算があれば加賀友禅なども似合うと思うのですが」
「すみません。そこまでは予算がありません」
 
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店員さんはずっとボクのことを「お嬢様」と呼ぶ。そう呼ばれるたびに、なんかお股の付近がむずかゆい気がした。お嬢様と呼んでもらうにはちょっとよけいなものが付いてるんだけどな・・・などと思っていた。
 
その日はカタログとか資料だけもらって帰ったが、それを少しゆっくり見たかったのでバイトは8時で上がった。近くのスタバに入り、コーヒーを飲みながらパンフレットを読んでたら「あれ、まだいたんだ」と声を掛けて、清花がお店の中に入ってきた。
 
「私もコーヒー飲んでから帰ろ」などといってオーダーしてきてから、ボクの席の向いに座る。「何見てんの?和服?あ、もしかして成人式に振袖着るの?」
 
「うん。かなり、その気になってきてる」
「いいんじゃない?私、晴音が背広とか着て成人式に出るのとか想像できない」
「もう、私男の子には戻れない気がして。背広で成人式に出るつもりは無い」
「女の子として出るんなら、やはり振袖だよね」
「でも、私、さっぱり和服のこと分からなくて。今日も呉服屋さんの店頭で『これが振袖かな』と思って見てたのが、訪問着だったの」
 
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「あはは、確かに知らないと和服はさっぱり分からないよね。訪問着も振袖も派手だし、作り方が似てるのよ。絵羽って分かる?」
「あ、それ説明聞いたような。ちょっと待って」と言ってパンフレットをめくる。
「あった、あった。縫い目を超えて模様が続いてしまう技法のことね」
 
「そうそう。凄い手間掛けて作ってるってこと。こういうことに手間を掛けるってのは、日本人以外には理解されないだろうね。アメリカ人は、そんなの縫い上げてからプリントすればいいじゃん、と思うよ」
「確かに」
 
ボクはパンフレットを眺めながら清花とおしゃべりをし、時々和服のことで分からないことが出てくると、清花に聞いてみた。清花は和服のことも一通りの知識があるみたいで、詳しく教えてくれる。
 
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「なんかやっと分かってきた感じがする。2〜3日、頭の中で醸造しよう」
「それがいいね。高い買い物だから、ゆっくり考えた方がいいよ」
「うん」
「予算はいくらくらいで考えてるの?」
「今貯金が50万できてるのよね。これに今月、月末までにあと10万くらいは稼げると思うけど、10月に後期授業料を払わないといけないから40万くらいまでが予算かなと思ってる」
 
「うーん。どうせなら70-80万の買わない?それカタログ?ちょっと見てみて。これが40万のやつ。これが80万のやつ。違い分かるでしょ」
「歴然としてる。でもそんなにお金無いし」
 
「少し貸すよ。晴音ならすぐ返せちゃうでしょ」
「えー?でも」
「晴音、親からお金借りられないでしょ」
「うん・・・」
「だから、ここは私が晴音の親代わり」
 
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ボクは清花の好意にすがることにして、月末までいろいろ勉強したり、ネットでもいろんな振袖の写真を見たり、デパートの和服コーナーに行って良い振袖を見たりもして、自分の感覚を鍛えてから、9月の初めに結局セット価格78万の振袖を買うことにした。現金で払うと言ったら、呉服屋さんが少し驚いたようで「2万円勉強させて頂きます」と言う。しかし付いてきてくれた清花が「あと1万」
と値切る。「分かりました。3万円勉強させて頂きます」ということになり、清花が現金で75万払った。「お仕立て上がりは11月28日の予定ですが、予定が近づいたらご連絡を入れます」と言われた。
 
ボクは店を出て一度カフェに入ってから60万を取り敢えず渡した。
「残り15万はできるだけ早く返すね」
「授業料払わないといけないでしょ。無理しないで」
と言って清花は受け取ったうちの15万をボクに返した。
 
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「うん・・・そうだね。じゃとりあえず30万貸しといて」
「OK。無理なく返せるようになった時に返して」
「ありがとう」
 
夏休みが終わり、大学の授業が再開されていたが、ボクは相変わらず女の子の格好で学校にもバイト先にも行っていた。
 
夏休み中の8月半ば頃に、ボクはネットを見ていて偶然タックというのを見つけて、凄いと思った。試しに幅の広いテープとかを買ってきて、その付近の毛は全部剃った上で、やってみると、立った状態で鏡に映してみると、女の子の股間に見えてしまう。最初にやった時は10分もしない内に外れてしまったが、これは練習してればけっこうな時間維持できるのではないかという気がした。
 
それからボクは通販でブレストフォームを取り寄せた。それまでふだんシリコンパッドを入れていたのだが、よりリアルな形の胸はいいなあと思い、買ってみることにした。写真で見て自分の肌の色にいちばん近い感じの色のものを選んだが、到着してみると、実際にほとんど同じ色だった。両面テープで身体に貼り付けてみたが、ちょっと見た目には偽乳というのには気付かれないかも知れないという気がした。
 
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ある朝、少し寝過ごして朝御飯も食べずに慌てて電車の駅まで走っていった。階段を下りて目の前に電車のドアが開いていたので、飛び乗る。ふう、と息をついてから、ふとまわりを見ると、女性ばかりだ。あ・・・ここ女性専用車両か、と思い至る。えっと・・・まあ、いいよね、とすぐに思い直した。でも、周囲が女性ばかりって、なんか気楽だなと思った。座席で眠っている人がいる。お化粧している人もいる。ボクもお化粧しようかなと思ったけど、やめといた。でもよく揺れる電車の中でうまくできるな、と少し感心した。
 
ある日は町を歩いていると、何か配っている人がいた。何気なく受け取ったがティッシュかと思ってよく見たら生理用ナプキンだ。あはは。男の子してる時は気付かなかったけど、こういうものも配ってるのね。新製品のキャンペーンかな?男として生活してるのと女として生活してるのでは、同じ町に生きていても、見ているもの、体験しているものが全然違うんだなと、ふと思った。
 
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それからよく気をつけて見てると、町で物を配っている時は、男性のみに配っているもの、女性のみに配っているものがあることに気付く。お化粧品とか美容室の案内とかは女性に配っているし、スポーツ用品店かな?と思うティッシュが、男性のみに配られていた。女子トイレの手洗場にしばしば『DV110番』みたいな小さなカードが置かれている。ああ、この手のもの置くには女子トイレというのは良い場所だよなと思った。またネットカフェの女子トイレにはナプキンが置いてある。なんかつい記念に1個持ち帰りたくなる気分だった。(持ち帰っても使わないしと思って思いとどまった)
 
8月くらいまでの感覚では、ボクは女装している時は一人称に「私」を使い、ふだんは「ボク」というつもりでいたのだけど、常時女装している状態になってしまうと、結局会話する時の一人称はいつも「私」を使うという状態になってしまった。それでこの頃から、自分で考え事をするような時も、自分のことは「私」と呼ぶようになってしまった。
 
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10月のある日、バイトが終わってから、その日は少し疲れるようなメール対応があったことから、私は、いつものスタバで甘いキャラメルマキアートを飲んで一息付いた。しばらくぼーっとしていたら、かなり気持ちが楽になったので帰ろうと思って店の外に出ると雨が降っている。
 
ああ、そういえば天気予報で夜から雨と言ってたっけと思い出すが、今思い出しても仕方ない。傘を買いに近所のコンビニまで走るかな?でもけっこう降ってるな、などと思っていたら、目の前に車が停まり、運転席の人物がシートベルトを外して助手席側に身を乗り出し「よぉ」と私に声を掛ける。
 
「あ、寺元君」
「傘持ってないの?乗せてくよ」
 
というので、助手席に乗せてもらった。
 
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「助かった。凄く降ってるからどうしようかと思ってた」
「ちょうど通りかかって、ふと見たら、あれ?吉岡・・・さんじゃんと思ったから」
「ありがとう」
「いっそ、アパートの近くまで送ろうか?※※だったよね?」
「え?いいの?」
「いいよ。どうせ暇だし。気分転換に夜のドライブしてたんだ。どうしても分からないところがあってさ。自主ゼミでやる本で」
「ああ、分からない時って、ほんとに分からないよね。分かってみると何でもないのに」
「そうそう」
 
「でもどこ行くつもりだったの?」
「ちょっと高速に乗って甲府あたりまででも往復してこようかと思ってた」
「わあ、長旅だね」
「高速だと、そんなでもないよ」
「あ、私も付き合おうかな。私もちょっと気分転換したかったんだ」
「OK。じゃ、とりあえず首都高に乗っちゃおう」
 
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寺元は近くのICから首都高に乗ると、車を調布方面へと向けた。雨が降る中、寺元の車は法定速度を遵守して走る。他の車がどんどん抜いていくが、気にしない。
 
「こういう精神状態の時はさ、スピード出しちゃうと歯止めが利かないんだよね」
「注意力も落ちがちだから、スピードは控えめがいいよ。それに雨だし」
「うん」
 
談合坂SAで少し休憩し、ハンバーガー屋さんで軽く食べる。寺元は巨大なバーガーを食べていたが、私はふつうのチーズバーガーにした。
「それで足りるの?前はチーズバーガーなら3個くらい食べてなかった?」
「それがさあ、こういう格好で出歩くようになってから、食欲も女の子並みになっちゃったのよね。不思議〜」
「へー、何か精神的なものなのかねえ。体重は?」
「ほとんど変わってない。49kgだよ」
「身長は165くらいだったっけ?」
「うん。163くらいかな」
 
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「かなり細いよな、元々」
「うん。それでW64のスカートが入ったから、破綻なく女装デートできちゃったのよね」
「ああ。その話はこないだも聞いたけど、しかし、よく初めての女装で相手にバレなかったよな」
「まあ、夕方で顔がよく見えなかったし、BGMが大きかったから声もそうはっきり聞こえなかったろうし。ヒゲの剃り跡とかもファンデ厚塗りして誤魔化してたし。でも今はヒゲは抜いてるから、すっぴんでも女の子で通る自信ある」
「確かに、今の吉岡さんだと、女の子にしか見えないし、男ではとか疑われる余地も無いよ」
 
「うふふ、完全にハマっちゃった」
「でも、どうすんの?今後。性転換しちゃうわけ?」
「莉子たちにも聞かれるけど、まだ分かんない。しばらくこういう生活してみて、それからゆっくり考える」
「だけど、今更男に戻れるの?」
 
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「まだ体は全然いじってないのよねー。脱毛くらいはしちゃうかもしれないけど、おっぱい大きくしたりとかする予定は、とりあえず無いし。でも、もう男には戻れないような気もしてならない」
「うん。もう無理だって気がするよ」
 
「私ね・・・成人式用の振袖、注文しちゃった」
「ああ・・・・・。ま、背広着ては出られないよな、今の吉岡さんじゃ」
「うん。背広着るつもりは無い」
「やっぱりもう女の子になっちゃうんだ」
「なんか、そんな気がする」
「しかし振袖ってさ、車が買えるくらいの値段しない?」
「する。最初相場聞いてひぇーって思った」
「女の子は金かかるよな」
「そんな気もする−」
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サクラな日々(6)

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