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■サクラな日々(2)

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「レモ〜ン」と店長がレモンさんを呼ぶ。
「はーい」と言って、レモンは自分の席を立ち、店長たちの所に行った。
「すまん。この客がどうしても会いたいっていって、かなり抵抗したんだけどもう押し切られそうな感じなんだ」
「OKです。会って、適当にあしらってきます」
「すまんね。いつも」
「マネー、マネーです」
「じゃ18時、△△前で」と店長の指示でスタッフが返信すると向こうからの返事も速攻で届いたようであった。
 
「マノン、あ、ミユウミュウも」
「はい」
「レモンがデートするから、付き添い頼む」
「はい」
と寺元は返事した。
 
「デートに付き添い?」とボクはびっくりして訊く。
「うん。どうにも会いたいという客には、適当にスタッフの女の子がその子の振りをして会いに行くんだけど、女の子をひとりでやる訳にはいかないだろ?レモンはこの役のベテランでほんとに男のあしらいがうまいんだけどさ。それでも、何かあったらいけないから。万一の時に守るために、男のスタッフが近くでデートの様子を見ておくんだよ」
「なるほど」
「一緒に行こう。お前もこの役、時々することになるだろうし」
「うん」
 
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レモンはノーメイクで23-24歳と思ったが、本人は「私27よ」と言っていた。元々若く見えるタイプのようだ。それが可愛くメイクをして若い感じの服を身につけると、充分18-19歳に見える。
 
「デート用の衣装もここにそろってるんだ」
と寺元は言っていた。ボクはこの時は「へー」と思っていた。
 
レモンの後ろ、20mほど離れて、ボクたちは歩いて行った。やがて待ち合わせ場所に男がやってきて、レモンと話している。男はふつうのサラリーマンという感じである。ごく普通の感じの背広を着ている。
 
ふたりはしばらく並んで歩いていたが、やがて一緒にファミレスに入った。ボクらも入り、2つ隣の席に座った。充分会話が聞こえる。何だか探偵気分だ。
 
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男はごく普通に世間話をしているし、レモンも無難な答えをしている。
「メールで積極的な奴に限って、リアルでは結構奥手なんだよ」
と寺元が小声で言う。
 
食事が進んでデザートなど食べ始める頃になって、男はやっとレモンを口説きにかかった。しかしレモンはうまい具合に、のらりくらりとかわしている。
「かわしかた、うまいですね」
「うんうん。レモンはあれがうまい」
 
攻防は20分くらい続いたが、ついに男は諦めたようであった。
「またメール書くね」
「うん。楽しみに待ってる」
などと言って、ふたりは別れた。彼がかなり遠くまで行ってから、ボクたちはレモンの近くに寄った。
 
「お疲れ様。今日の客はかなりしつこかったね」
「うん。かなり頑張った。またたくさんメールくれるんじゃないかな」
「また会いたいと言ってきたり?」
「どうだろう。かなりのガス抜きしたつもりだけど」
 
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実際、この手の客で何度も会いたいと言ってくる客はそうそういないらしい。ボクたちは店に戻る。レモンはまだ仕事をするようであったが、ボクたちは今日はそのまま上がりということになった。
 
店長がボクたちの実績をチェックして
「じゃ、今日の報酬。ふたりで分けてね」
といって、現金を渡してくれた。寺元がお金を数えて半分をボクに渡してくれる。
 
「10000円!?そんなに返信したっけ?」とボクが驚いて言うと
「今日は32通に返信して、内8通が個人宛だったから、4000円。これと
デートの監視役が特別手当5000円。あと800円はファミレスのコーヒー代。残り200円は今日は初日だしおまけでサービス。ふたりで分けやすいように全部1000円札ね」と店長が説明する。
 
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「わあ、デートの監視でそんなにもらえるんですか!またやりたいなあ」
などとボクが言うと、
「OK。OK。また頼むことにするよ」
と店長は笑いながら言っていた。
「ちなみにデートした本人は1万円だね」と寺元が言い添えた。
 
バイトは2回目まで寺元が一緒に付き合ってくれたが、ボクがだいたいうまい返事を書くので、これならもうひとりで出来るなと言い、店長にも確認した上でその次からはボク1人でやることになった。
 
「でもこれ向こうからの返信をあまり長く放置できないから、毎日出てきたほうがいいんですね」
とボクは店長に言った。
「あまり気にすることはないよ。間があいたら、誰かが適当に代わりに返事するから2〜3日に1度出てくる子も多いし、土日は休む子も多い。まあ、毎日出てきて、自分宛の分に返信だけして帰ってく子もいるね。話のつながりがいいからといって。その辺りは自分のペースで無理しない範囲でしてくれればいい」
と店長は答えた。
 
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その後ボクは自主ゼミの前日をのぞいてほぼ毎日出勤し、忙しい日は返信だけし、時間のある時は、Anyのメールボックスからどんどん取り出しては返事を書いていった。また寺元に言われたように、よくマクドナルドとかロッテリアに行っては、若い女の子たちの会話を聞き、話し方の雰囲気を感じ取るようにしていた。また彼女たちの話題を理解できるようにするため、セブンティーンとかnonnoとかを買って読んだり、嵐などのCDを買って聴いたりもした。
 
ボクの部屋の本棚には若い女の子が読むような雑誌が並び、CD棚にもジャニーズとかエグザイルとかのCDが並んだ。これ他人が見たら、ここに女の子が住んでると思うかもね、などとボクは思ったりした。
 
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返信の文章は店長が時々斜め読みしてチェックしているようであったが
「君、ほんとにいい感じの文章書くね。ほんとに17-18の女の子が書いたみたいな文章だよ」と褒められるようになった。
 
デートは週に2〜3回発生し、レモンがいる時はたいていレモン、いない時は、他の女の子でこういうのに慣れている子がデートをしにいき、ボクが監視役をさせてもらった。デートで実際にトラブルが起きることはなかったが、ボクはレモンや他の子の話術を聞いていて、ほんとにうまいなあと感心していた。
 
そして、それはここでバイトを始めてから2ヶ月ほどがたった頃であった。7月の初旬で、あと少ししたら学校は夏休みである。
 
会いたいというのを断れないような客が発生したのだが、あいにくその日はレモンが来ていなかった。
「うーん。誰か、男性とデートできそうな人?」
などといって店長が店内を見渡すも、今日は出てきている女性スタッフが、たまたま比較的最近ここに入った人や年齢の高い人ばかりで、対応できそうな子がいない。
 
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「明日以降とかに延ばせないかな」と店長。
「今日、実は設定上のこちらの誕生日なもので、プレゼントあげたいから15分でもいいから会ってくれと」
とオペレータのルーシーさん(一応男性)。
 
「うーん。参ったなあ・・・・・・こういうのに慣れてる子でないと
対処できないし・・・・・」
 
どうも大変そうなので、ボクも心配してそのオペレータの席に行き、メールのやりとりの履歴を見せてもらう。
「ああ、かなり熱を上げてますね」
とボクは言った。
 
その時突然、店長はこんなことを言い出した。
「ね、ミュウミュウ、君、デートできない?」
 
ボクは目をパチクリした。
「は?男のボクが行っていいんですか?」
「違う。女の君が行く」
「へ?」
「女装ですか!」とルーシーさん。
「そうそう」
「そんな。バレますよー」
「いや、行ける気がする」とルーシーさん。
 
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「だろ?俺もそんな気がするんだよ。最初から思ってたんだけど、顔立ちが優しいし、色白だし。背もそんなに高くないし。お化粧したら女の子で通りそうな気がするんだ。それにミュウミュウはいつも監視役してるから、どんな会話すればいいかとか、相手からのアタックのかわし方も、だいたい分かっているはずなんだ」と店長。
 
「あ、そうですよね」とルーシーさん。
「ミュウミュウ、ちょっと更衣室に行って女の子の服を着てみて・・・・って俺が衣装選んでやるよ」
 
そういうと店長はボクを女子更衣室に連れていき、ボクの顔を見ながらクローゼットの中から、青いカットソーと長い丈のマーメイドスカートを取り出し、「ちょっと着てみて」と言った。
 
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ボクはなぜだ〜、と思いながらも、とりあえず着ていたポロシャツとズボンを脱ぎ、カットソーを着、スカートを履いてみる。
「君、ウェスト細いね。ちゃんとホックが締められる」
「あ、はい」
 
外に連れ出され、ルーシーさんや、他の数人のスタッフも集まってきたが
「充分、女の子に見えそうですね」
と言われた。
 
「ジャワティーちゃん」と店長はボクと同い年くらいの女の子を呼ぶ。
「はい」
「ミュウミュウにお化粧したいから、ファンデとかアイカラーとかルージュとか、お化粧品をワンセット、急いでコンビニで買ってきてくれない?」
「分かりました」
と言って、店長から1万円札をもらい飛び出して行く。
 
彼女が帰ってくるまでの間にボクは足の毛を剃られた。そして彼女が戻ってくると、彼女の手でお化粧をしてもらった。眉も細く削られた。指にはマニキュアもされた。
 
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「なんか、凄い美人になっちゃったんですけど」とジャワティーが言う。「可愛いね」とルーシー。
「女子大生に見える」
 
「でも胸が・・・・・」
「あ、そうか。待ち合わせは何時にしたっけ?」
「19時から15分です」
「まだ少し時間あるな。ジャワティー、大急ぎで、四越まで行って、この子に合うブラジャー買ってきてくれない?」
「下着買うなら四越まで行かなくても、地下街にランジェリーショップがあります」
「じゃ、そこで頼むよ」
「バストパッドとかも買いましょうか?」
「うん、よろしく」
ジャワティーがまた飛び出していく。
 
「どうせならと思って、パンティーも買ってきました」
と言ってジャワティーはすぐに戻って来た。
「あ、そうだね。スカート履くのに下が男物のパンツではね」
「じゃ、これ身につけてくれる?」といって袋を渡される。
 
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「ブラジャーの付け方がたぶん分かりません」
「そうか。ジャワティー、手伝ってあげられる?」
「いいですよ」
 
といって、ボクはジャワティーと一緒に更衣室に入ると、まず穿いていたパンツを脱ぎ、女の子用のパンティーを穿こうとして・・・・悩む。
 
「そのリボンが付いてるほうが前よ」
「あ、ありがとう」
 
そのあと、一度上半身を全部脱ぎ、ブラジャーを付けるが、ホックを締めきれない。これをジャワティーが留めてくれた。ブラのカップの中に、バストパッドを入れた。その上にTシャツを着ようとしたが
 
「待って。こちらのほうがいい」
と言って、ジャワティーはクローゼットの中にあったブラウスを取り出した。それを着る。。。。ボタンの付き方が逆だから留めにくい。でも何とか留めることができた。その上にさきほどの青いカットソーを着る。
 
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「ぐっど。女の子1丁あがり」
と楽しそうにジャワティーは言って、ボクを更衣室の外に連れ出した。
 
「ほんとに可愛いなあ」と店長。
「ボクがデートしたいくらいです」とルーシー。
 
店長といくつか確認した。
「できるだけ女の子っぽい声の出し方、話し方をして」
「はい」
「でも男とバレてしまった時は『ごめんなさい。私、性同一性障害なんです』とでも言うしかない」
「分かりました」
「ただ、君の場合、バレないような気がするけどね」
「そうですか?」
 
「15分だけだしね。このあと家族で誕生祝いやることになってるから、ということで時間になったら逃げだそう」
「はい」
「その他の相手のかわし方は、レモンがいつもやってるのを聞いているだろうから、それを参考にして」
「やってみます」
 
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「ルーシー、付き添い頼む」
「行ってきます」
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