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■お気に召すまま2022(9)

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広瀬みづほが「田園地帯のどこか」と書かれた板を持っている(原作に無い場面)
 
不安そうな顔をした16-17歳くらいの羊飼いが道を歩いている。行く先に小川がある。幅は2mくらいである。羊飼いは意を決したような顔をして、杖を使って川を飛び越そうと思い、少し後退してから、勢いよく走って杖を端に突き、ジャンプして・・・川の中に落ちた!
 
困った顔をしていたら、そこにフィービー(七浜宇菜)が通り掛かる。
 
「君何やってってるの?魚獲り?」
「川を飛び越えるの失敗して下に落ちて」
「嘘でしょ?こんな小さな川で」
と言って、フィービーはその川を杖も使わずに、ひょいと飛び越える。
 
(公開時「宇菜様かっこいー!」という声多数)
 
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「ねぇ、もし良かったら上がるの手伝ってくれない?」
「ひとりで上がれないの〜?」
「とても無理〜」
「しょうがないな。ほら手を貸してあげるから」
と言って、フィービーは川岸に横になり下に手を伸ばす。下に落ちた羊飼いはその手を掴んで登ろうとするのだが、それでも登り切れないようである。
 
「うーん。困ったなあ。君も男の子なら、頑張れよ」
「私女ですー」
と下に居る羊飼い。
 
「へ?」
とフィービーは驚いた顔をする。
 
「だったらぼく1人では厳しいかなあ」
とフィービーが言っていた所にウィリアム(花園裕紀)が通り掛かる。
 

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「ビルちょっと手伝って」
とフィービーは声を掛けた。
「どうしたの?」
 
「この子が川に落ちちゃってひとりで上がれないみたいなんだよ。ぼくも下に降りて押し上げるから、ビルは彼女を上から引っ張って」
「オーライ」
 
それでウィリアムも川を飛び越えてこちらに来る。そしてフィービーはひょいと下に飛び降りた。それでフィービーが下から押し、ウィリアムが上から引っ張ると何とか女羊飼いは岸に上がることができた。
 
その後、フィービーはひとりで簡単に岸に登る。
 
「ありがとうございます」
と羊飼いの少女はお礼を言った。
 
「君この辺りでは見かけないね」
 
「先週こちらに流れてきたんです。以前はウッドグリーンの近くに居ました。そこの土地を追い出されて(*45) 母と2人でこちらに来ました。こちらに叔父が住んでたから。でも働き手が居ないから叔父さんの知り合いの地主さんにお願いして、私が羊飼いをしようと」
 
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「なんか羊飼いするには根本的な体力が足りない気がする。名前は?」
「マーガレットです」
と少女(鞠原リア)は言った。
 
「可愛い名前だ」
とウィリアム。
 
「少し身体を鍛えたほうがいいよ。こんな川も飛び越えきれないんじゃ羊飼いの前に、そもそも田舎の道を歩けないよ」
「頑張ります」
と言いながら、マーガレットはフィービーを憧れの目で見ていた。
 
(*45) 追い出されたのはおそらく前出“囲い込み”のため。16世紀のイングランドでは、囲い込みと修道院解散(後述)のため、大量の物乞いが発生したと言われる、
 

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楽屋が映されている(撮影者:矢本かえで)。夕波もえこが声を掛ける。
 
「オードリーとタッチストーンの求婚場面行きます。モナさんお願いします」
 
「はーい」
と言って田舎娘衣裳のオードリー役・坂出モナが夕波もえこに続いて楽屋を出て行った。
 

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別の楽屋が映されている(撮影者:田崎潤也)。本田覚(*46)が声を掛ける。
 
「Naechste, die Szene von Audrey und Touchstone. Herr Grotzer, Herr Richter, Kommen Sie bitte」
 
「OK」
と言って菱模様の服装のタッチストーン役マルティン・グローツァー、ダブレット姿のジェイクズ役リヌス・リヒターが本田覚に続いて楽屋を出て行った。
 

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(*46) 本田覚は本来白鳥リズムのマネージャーで、リズム自身はこの映画には関わっていないのだが、ドイツ語のできる男性タレントが§§ミュージックには居ないので、ドイツ語ができることと男性であることから徴用された。彼は若い頃に劇団に居た経験もあり、演技はうまい。彼は奧さんとその劇団で知り合って結婚している。
 
今回楽屋係の役は§§ミュージックが出すことになっていた。但し本田はこの場面の撮影に出ただけであり、それ以外の撮影日程では大和映像のドイツ語が堪能なスタッフが楽屋係を務めている。夕波もえこと立山煌は勉強も兼ねて本当に撮影中、学校に行く時間以外、ずっと春日部で楽屋係を務めた。
 
女性でもよければ、花咲ロンドなどはドイツ語ができる(勉強はしている)が、やはり男性楽屋は男性に担当させるべきということで本田の選択になった。中高生ではドイツ語のできる子は居ない。
 
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広瀬みづほが「田園地帯の別の場所・村外れ」と書かれた板を持っている(原作に無い場面)(*47)
 
オードリー(坂出モナ)がヤギの世話をしている。タッチストーン(Martin Grotzer)が彼女とおしゃべりしていたら、近くをウィリアム(花園裕紀)が通り掛かる。実はさっきマーガレットを助けた後である。
 
「ビル!」
とオードリーが声を掛ける。
 
「どうしたの?オーディー」
とウィリアムはオードリーに声を掛けられて嬉しそうである。
 
「1〜2時間ほどヤギを見ててくれない?」
「いいけど、どこか行くの?」
「うん。ちょっと結婚してくる」
「え〜〜〜!?」
 
驚いているウィリアムを放置して、オードリーとタッチストーンは画面左手(舞台なら下手)のほうに歩いて行った。
 
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(*47) この場面も四国で先の場面と一緒に撮影された。但し花園裕紀はほぼスタッフ扱いで、レフ板を立てたり、みんなに飲み物を配ったり、お使いに行ったり、モナやリアの衣装係!(*48) をしたりしていた。
 
(*48) §§ミュージックには男の娘タレントが多いので、モナもリアも彼を男の娘だと思っていたようで、彼に服の後ろボタン(*49)の留め外しをさせたりしていた。本人は「ぼく男なのに・・・」と呟いていた!
 
でも彼は信濃町ガールズで女子のファスナー(*49) の上げ下げなどは、いつもやらされているので、今更この程度では緊張しない←女子不感症に(既に)なっている。
 

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(*49) 洋服のファスナーは19世紀中頃から原形となるいくつかの発明を経て、アメリカの企業テイロン(Talon 後の Talon Zipper; Chicago→Hoboken(New Jersey)→Meadville(Pennsylvania) ) が1913年までに開発し特許申請(1917年発効)したものが今日のファスナーの原形である。
 
この発明をしたのはテイロンの技師で、スウェーデン系アメリカ人の Gideon Sundback (1880-1954) である。彼はこの功績により1951年にスウェーデン王立工学科学アカデミーから金メダルを授与された。彼はスウェーデンのスモーランド生まれでドイツの大学を出た後、1905年にアメリカに渡りテイロンに入社した。後にアメリカに帰化している。
 
この機構は最初靴用に開発されたものであり、これをタイヤメーカーとして知られる B.F.Goodrich が1923年に自社のブーツに採用した時に"Zipper" と呼んだことから“ジッパー”という呼称が一般化した。洋服で使用されるようになったのは、1925に Schott NYC がジャケットに採用したのが最初と言われる。その後 1930年代に子供服に取り入れられるようになり、1940年前後から男性用ズボンの前開き(フライ)もジッパー使用が普及したようである。
 
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男性のズボンが腰の紐留めからボタンフライ→ジッパーフライと進化することで男性の排尿の容易性は高まり、幼い男の子にはズボンではなく排尿が容易なスカートを穿かせる習慣も消えて行ったものと思われる。但しジッパーフライは“カムチャッカ半島”の事故を引き起こすことにもなる。
 
そういう訳でシェイクスピアの時代にファスナーは無いので、洋服はボタン留めである。ボタンは13世紀頃から広く使用されている。しかし後ろボタンの服は当然ひとりでは着脱できない。
 
(筆者はフォーマルに多い後ろファスナーの服をひとりで着脱するため、ファスナーの引手に服と同色の紐を付けたことがある。着た後、紐は内側に垂らしておく。さすがに後ろボタン留めの服はひとりでは無理)
 
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広瀬みづほが「アーデンの森内の空き地」と書かれた板を持っている(原作第3幕第3場)。
 
後方の切り株にジェイクズが座っている。そこにタッチストーンが、オードリーを連れるようにして右手(舞台なら上手)から出てくる。、
 
「おいでおいでオードリー。君のヤギたちはあの男の子が見ててくれるし」
とタッチストーンは言っている。
 
「もう僕を将来の夫と思い定めたかい?やはり僕の美貌に惚れた?」
「あんたの美貌??あんたのどこに美貌が転がっているというのよ?」
とオードリー(坂出モナ)は言う。
 
「分からないかなあ。俺は詩人オウィディウス(*51) 並みの美青年なのに」
「詩とかも分からないなあ」
 
ジェイクズの独白「オウィディウスを出してくるとはおこがましい」
 
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「ああ。神様がせめて君を詩の分かる人に作ってくれてたら良かったのに」
「なんでよ?」
 
「詩というものは、それが良い出来の詩であるほど、装飾された自分を見せているものであり、本来の自分とは異なるものなんだよ。恋人たちは詩のやりとりをすることで自分を誇大に表現し、相手を酔わせる。だから詩人の言葉は本当の自分とは解離している」
 
「そういうの私の好みじゃないなあ。ストレートに言えばいいじゃん」
 
「君はいつも自分は貞淑だ(*50) と言うけど、君が詩人だったら、それは単なる修辞であって、本当は貞淑ではないかも知れないからね」
 
(解説するのも野暮だが、つまり“やらせろ”という意味。しかしオードリーは意味が分からない振りをしてタッチストーンをじらす)
 
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ジェイクズの独白「詩人も馬鹿にされたものだ」
 

(*50) 原文 honest. 現代では honest は“正直”という意味で使うが、昔は“貞淑”という意味もあった。
 
(*51) プーブリウス・オウィディウス・ナーソー(BC43-AD17?) は帝政ローマ時代の詩人。『変身物語』、『恋の技法』、『愛の治療』、『女の化粧論』などの著者。美青年だったかどうかは知らない。
 
著作で自分を表すのに使用していた第三名(事実上のペンネーム)“ナーソー”は“大きな鼻”という意味。もしかしたら鼻が高かったのかも?
 
実を言うと“タッチストーン”という名前の由来がこのオウィディウスの『変身物語(Metamorphoses)』にある。
 
メルクリウス(ヘルメス)は生まれたその日にアポロンの牛を50頭盗んだ。ところがそれをBattusという老人が見ていた。メルクリウスは彼を牛1頭で買収し、誰に訊かれても牛のことは知らないと言えといった。
 
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メルクリウスは老人が約束を守るか確かめるために別人に変身して彼のそばに寄り言った。「私の牛が行方不明なのだ。あなた知りませんか?教えてくれたら牛1頭さしあげますよ」と。老人はお礼に目がくらんで「あちらに行きましたよ」と教えた。メルクリウスは変身を解き「お前は俺に俺を売るのか?」と言って、老人を試金石(touchstone)に変えてしまった。
 

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「私は貞淑じゃないほうがいいの?」
とオードリーは訊く。
 
「全くそうだよ。君がブスでない限りね。君みたいな美人で更に貞淑だってのは砂糖に蜜を掛けるようなものだよ」
 
(甘すぎて閉口だから君みたいな美人は貞淑でない方が良いと言ってる。やはり“やらせろ”ということ)
 
ジェイクズの独白「凄いたとえをするな」
 
「そうかなあ。私あまり美人じゃないと思うけど。だから神様にせめて貞淑でありますようにとお祈りしてるの」
とオードリー。
 
「逆に不細工な淫乱女は上等の肉が汚い皿に載っているようなものだけどな」
とタッチストーン。
「私は不細工だと思うけど淫乱じゃないよ」
とオードリー。
 
「美人になるのは難しいが淫乱になるのは簡単だ。君は美人なんだから、俺の前で貞淑を捨ててほしいね。ま何にせよ。俺、隣村の副牧師(*54)オリバー・マーテクストを呼んだから。もうすぐこちらに来て、俺とお前を結婚させてくれることになっている」
 
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「神様が私たちに喜びを与えてくれますように」
とオードリーは言った。
 
(つまり結婚に同意したことを意味する。ふたりはこの場面で最初からお互いthou で呼び合っていたので、オードリーは既にタッチストーンを恋人に近い存在として扱っていた)
 

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