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■お気に召すまま2022(8)

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説明板係(広瀬みづほ)が「ここからこの劇の見せ場のひとつ」と書かれた板を持っている。
 
ジェイクズが立ち去った後、ギャニミード(ロザリンド)とエイリーナ(シーリア)が岩陰から出てくる。
 
「こんにちは、旦那(*38)」
とギャニミード(ロザリンド)はオーランドに声を掛けた(男声)。
 
(*38) 原文は"Do you hear, forester?" forester フォレスターは“森の住人”という意味。日本語訳本には“狩人さん”とか“森番さん”と訳しているものもあるが、オーランドは町から逃げ出してきた時のままの服だと思われ、狩人とかの田舎の人の服装ではないのではと思われる。ここは単に《旦那》と訳した。
 

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「こんにちは。どうかなされたか?」
とオーランドは答える。
 
「どうもどうも。ところで今は何時何分でしょうか?」
とギャニミード(ロザリンド)が訊く。
 
この映画ではこの場面、ギャニミードを演じるアクアは男声で話している。
 
「1日の内のどのあたりか。朝か昼か夕方かくらいでお聞きなさい。森に時計は無い」
とオーランドは答える。
 
「そうですか。どうもこの森には恋をする人は居ないようだ。1分ごとに溜息をつき、1時間ごとにうめいていれば、のろまな時の歩みと同じになり、今何時何分かが分かるというものだが」
 
「普通は速い時の流れと言いませんか?」
「そうとは限りませんな。時の歩みは人によって異なるものです。“ゆっくり歩き”、それより遅い“かたつむり歩き”、“駆け足”、“停止”(*39)」
とギャニミード(ロザリンド)。
 
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「ゆっくり歩きというのはどんな場合です?」
「若い娘が婚約してから式をあげるまでの時間。それがわずか7日であったとしても7年くらいあるように待ち遠しく感じるものです」
 
「だったらかたつむり歩きというのは?」
「たとえばラテン語を知らない司祭。勉強のしようが無いので眠ってばかりで時間が経たない。痛風を患ってない金持ち。何の苦しみも無いから全てに無頓着。こういう人たちに時はかたつむり歩きする」
 
「駆け足は?」
「絞首台に引き立てられていく死刑囚。どんなにゆっくり歩こうとも絞首台はあっという間に目の前に来てしまう」
 
「停止というと?」
「休暇中の弁護士。法廷と法廷の間は寝て過ごすから時の流れというものを全く感じない」
 
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(*39) 原文は "I'll tell you who Time ambles withal, who Time trots withal, who Time gallops withal and who he stands still withal".
 
直訳すると、「並足(ambles) を使ったり、速歩(trots) を使ったり、疾走(gallops) したり、立ち止まる(stands still) こともある」となり、各々の実例が
 
並足(ambles) ラテン語の分からない司祭
速歩(trots) 結婚式を待つ花嫁
疾走(gallops) 絞首台に行く死刑囚
停止(stands still) 休暇中の弁護士
 
となっている。馬の速度に関する用語で説明されているが、日本語の文字感覚と合わないので、この部分は超訳して言葉を調整し“かたつむり歩き”“ゆっくり歩き”“駆け足”“停止”とした。また言葉の順序も入れ換えた、
 
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「あなたはどこに住んでいるんですか?」
「この妹の羊飼い娘と一緒に森の端(skirt)に。ペチコートの裾のような感じ(*40)」
 
(*40) わざと女の服に関する単語を出して性欲を刺激しようとしている。
 
「この付近にずっと住んでおられるんですか?」
「そこに顔を出している穴ウサギと同様に、生まれた所に住んでいますね」
「あなたは田舎育ちにしては言葉の発音がきれいだ」
 
「よく言われます。実は優しくしてくれた近所のおじさんが若い頃都会に住んでいたんです。彼が私に正しい発音から様々な教養、修辞、学問、礼儀作法、更には女の口説き方まで教えてくれたんですよ。でも恋なんてするもんじゃないよ、女って欠点だらけだからと言ってました。まあ僕が男だからそこまで色々と教えてくれたしグチもこぼしたんでしょうけどね。女に女の口説き方教えても意味ないし」
 
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「その女の欠点というのをいくつか聞きたい」
「いくつかも無いけどね。一番の問題点は女なんて500円玉(*41)みたいなもので、手にした時は凄く良いものに思えるけど、次の500円玉を見たら、そっちのほうが素晴らしいものに思えるってことだね」
 
「他には何かある?」
「普通の人には教えられない。ぼくの薬は病気に罹っている人にしか処方しない。どうもこの森にはそういう患者がひとり居るみたいなのだが。多数の木の枝に“ロザリンド”と書いた紙を取り付け(*42)、山査子(さんざし hawthorn)の木に叙情詩の紙をぶらさげ、木苺(きいちご bramble)の木に哀愁詩をぶらさげている奴がいる。そいつは完全な病気だから、薬が必要だな」
 

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(*41) 原文は half-pence.
 
ここでこの単語は単数形がペニー penny で複数形がペンス pence である。ちなみに読み方が特殊であり、この読み方を知らないと恥を掻くことになる。
 
twopence タッペンス
halfpenny ヘイペニー
halfpence ヘイペンス
 
halfpennyとhalfpenceの使い分けは現代では、硬貨を表す時はhalfpenny (単数形)、金額を表す時は halfpence (複数形)と言われるが、この物語では明らかに half pence で半ペンス硬貨の意味で使用されている。現代とは使い分けが違ったのかも。
 
イギリスの貨幣単位は12ペンスが1シリングで、20シリングで1ポンドである。これは8世紀頃から1971年までこの方式であった。つまり240ペンスで1ポンドである。
 
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シェイクスピアは1597年に住宅を60ポンドで購入している。これを仮に3000万円くらいと考えると1ポンドは現代の50万円。すると半ペンスは1000円くらいになる。そこでここでは500円玉と訳した。
 

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(*42) 原作では詩は紙に書いて枝にぶらさげたり結び付けたりしているが、“ロザリンド”という名前はナイフで樹皮に刻んでいる。しかし木に刻むのは良くないし、アクア映画の影響力を考えると、絶対模倣者が大量に出る。そこでこの映画では名前も紙に書いて枝に付ける設定に変更した。
 

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オーランドは言った。
 
「実はその病気の男というのが僕なんです。処方箋を出してもらえませんか?(*43)」
 
「そうですか?あなたには恋の病に罹っている患者の症状が全く見られないのだが」
とギャニミード(ロザリンド)は言う。
 
「その症状というのはどんなものですか?」
 
「恋の病に罹った男はまず頬が痩せこける。あなたは元気そうだ。目も黒ずんであちらの方向を見ている。あなたにはそんな様子もない。それから口をほとんど利けなくなる。あなたはちゃんとしゃべっている。それからひげは伸び放題。これもあなたは違う。最後に帽子の紐は取れ、袖のボタンは外れ、靴の紐もほどけて、服はボロボロ。しかしあなたはきちんとした身なりをしている。どう考えてもあなたは恋の病ではないね。むしろ自分に恋しているのではないか?」
 
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「ああ、せめて君にだけは信じてもらいたい。僕が恋していることを(*44)」
 

(*43) この場面でオーランドは、ギャニミードが実はロザリンドだということに気付いているのか気付いていないのかは、古くから議論がある。しかしこの付近のセリフを見ると、このあたりで気付いたのでは?とも思える。
 
(*44) 原文 Fair youth, I would I could make thee believe I love.
 
ずっとギャニミードに対して you で話していたオーランドがここからは thee で話す。だからこれはギャニミードに対する言葉ではなくロザリンドへの言葉なのである。
 
このあとオーランドは、この頭の回転の速い思い人と“仮面の会話”を楽しむ。だからジェイクズが言ったようにオーランドは意外に頭が良い。
 
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「ぼくに信じてくれって?そんなのより、あなたが好きな女性に信じてもらうほうがずっと易しいと思うよ。女ってさ、自分が思われていると信じたがるものなんだよ。だから彼女に愛の告白をしてみなよ。しかしあなただったのか。木々に詩とか名前を書いた紙を取り付けていたのは?」
とギャニミード(ロザリンド)はあくまで男を装って話す。
 
(ギャニミードはオーランドに you で話している。アクアは男声で話している)
 
「ロザリンドの白い手に掛けて誓う。詩を書いていたのは僕だと」
「しかし本当にあなたはあの詩に書いているように恋しているのですか?」
「どんな詩も僕の思いの一部しか表現できてない」
 
「恋というのは心の病なのですよ。だから心の病の治すような治療が必要なのだが、ぼくは恋の病はカウンセリングで治すようにしている」
 
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「それで誰かを治したことがあるんですか?」
 
「うん。ひとり治したよ。まずぼくをその彼女であるかのように想像させるんです。そしてぼくに毎日愛の告白をさせるのです。それに対してぼくは気まぐれな女を演じます。時には好きで好きでたまらない様子、時には高圧的に、時には不実に、涙も笑いも使い分けて、喜怒哀楽の情を見せます」
 
「相手の愛を受け入れるかと思わせては拒否し、男のことを褒めたかと思えばけなし、涙を流したかと思えば無視する。そのようなことを続けていたら、やがて恋に絶望して、彼は山の中に引き籠もってしまいました。かくして彼は恋の病から逃れることができたのです。あなたにも同じ治療をしてあげましょう」
 
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とギャニミード(ロザリンド)は言う。
 
「いやそこまでして治してもらいたくはない」
とオーランド。
 
「いや、ぜひ治療してあげたい。たから毎日ぼくの小屋に来て、ぼくのことを“ロザリンド”と呼んで、ぼくを口説いてみない?」
とギャニミード(ロザリンド)。
 
「それはぜひそうしたい。君の住まいを教えてよ」
とオーランド。
 
「じゃ今からそこに案内しましょう。あなたのお住まいも教えてください。取り敢えず来ます?」
「行く」
「あなたはぼくのことをロザリンドと呼ばないといけませんよ」
 
と言って3人は立ち去っていく。
 
 
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