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■夏の日の想い出・2年生の秋(14)

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11月下旬、私は★★レコードに月明けに発売されるローズクォーツのシングル『起承転決/いけない花嫁』の発売キャンペーンに関する打ち合わせに美智子の代理で出て行った。
「すみません。うちの社長が今日は風邪でダウンしてまして、あんた専務なんだから代わりに行ってきてと言われたもので」
「須藤さんが風邪なんて珍しいですね」
「そうなんですよ。ふだんほとんど病気しない人なんですが。でも専務なんて名前だけだからと言われて引き受けたんだけどなあ」
「ははは、世の中大抵そういうものですよ」
と担当の南さんが言う。
 
「まあ、そういうわけで今回はマキがそういう事情でキャンペーンに参加困難でして。FM局などへの出演は主として私とサトでやろうかと思っています」
「今回は仕方ないですね。でもローズクォーツの例の番組、ちょっと面白いんで私もリスモで聞いてますが、ほとんどケイさんとサトさんでしゃべってますね」
「そうなんです。マキは『目立たないリーダー』なんて言ってますが」
「じゃ今回はHNSレコードの店頭ミニライブは、マイナスワン音源持って、ケイさんだけで行ってもらいましょうか」
「はい、今回はやむを得ないと思います。一応4人で演奏している場面を含むPVを店頭で流してもらうということで」
 
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実際に回る店舗とそのスケジュールについては前回のデータを元に調整の上で連絡してもらうことになった。FM局への出演スケジュールは既に決まっておりリストをもらった。それで打ち合わせが終わり、帰ろうとしていたら町添部長に呼び止められた。
「ケイちゃん、ちょっとお昼、僕とデートしない?」
「あ、はい。セクハラにならない範囲でしたら」
「それやると、君とのセクハラ裁判やる前に女房から離婚裁判起こされるから」
などと笑っている。
 
お蕎麦屋さんかどこかに行くのかと思ったら、運転手付きの社用車を使って、都内の料亭に入った。予約してあったようでスムーズに部屋に通され、料理もすぐに出てきた。
「わあ、こういう所に来るってのは何か密室謀議ですか?」
「そそ。あまり他人に聞かれたくない話をするのには便利だからね」
「何かあったんですか?」
「君たち今、北陸のFM局の番組してるでしょ」
「はい、3ヶ月の予定で始めたんですが、おかげさまで、とりあえず3ヶ月の延長が決まったようです」
「面白い企画みたいだね。ローズクォーツの魅力をいちばん見せる企画かも知れない」
「ありがとうございます」
 
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「それで今度、全国ネットの番組もちょっとやってくれないかと思ってね」
「はい。やはり週1回くらいですか?」
「月曜から木曜まで週4回。ただし録音なので、まとめ録りできる。内容的には君たちの比較的上品な感じのトークをベースにして洋楽や国内のR&Bとかを中心にした選曲で音楽を流してもらえばいいかなと思っている。このあたり、むしろそちらで企画を考えて、可能なら25分前後のデモ版を作ってくれると嬉しい。できたら週明けまでに」
 
「分かりました。25分ですね.月曜まで、と。洋楽.国内R&B...」と私はスマホにメモする。
「企画、考えます。一応、持ち帰って、お受けしていいかどうかも含めて須藤に確認しますね」
「うんうん。で、その話をなんでここでするかというとね」
「はい」
「○△◇君の番組の後番組だからなんだよ」
「えー!?あれ、終わっちゃうんですか?」
それはかなりの人気番組の筈である。聴取率が悪いとは思えない。
 
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「あれは月曜から金曜までだけど、月曜から木曜を君たちにやってもらえたら金曜は別のパーソナリティに頼もうと思っている。それで、今報道の方を取り敢えず抑えているんだけど、○△◇君が実は癌でね」
「あらあ」
「とりあえず年末から治療に専念したいらしい。でも本人の意向で今年いっぱいは伏せておきたいというんだ。発表してしまうと番組にもその関係のメッセージばかり寄せられてしまって、本来の番組の趣旨に添わないんじゃないかと本人が言うもので」
「確かに」
「一応早めの入院になった場合を想定して今、少し前倒しの収録を進めている」
「なるほど」
「この話は、君と須藤君と、まあマキ君までにしておいて欲しい」
「はい」
 
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「しかし君も完全にカムバックしたね」
「あ、はい?」
「ローズ+リリーで何十万枚も売れた歌手ではあっても、いったん休養するとこの業界、なかなか復帰できないからね。復帰した後はどうしても前ほどは売れない人がほとんどだよ」
「ええ」
「でも君はローズクォーツでミリオン達成して完全復活した。凄いよ」
 
「その件ですが、この夏に占い師さんにちょっと仕事運を観てもらって」
「ほほお」
「その占い師さんが言うには、私が復活できる活動再開のタイムリミットは2010年の7月8日だったらしいです。私が実際に芸能活動契約書にサインしたのが6月下旬だったので、ギリギリだったみたいです」
「へー。占星術?」
「はい。パソコンでホロスコープ出して色々観てましたから」
「星の動きがそうなってたんだね。凄いね」
 
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「運が良かったみたいです。でもこのあと2034年までは休養したらいけないと言われました」
「おお、でも20年も活動できたら凄いよね。そこまで活動できたら、もう松田聖子・サザンのクラスだもん。でも頑張って欲しいね」
「はい」
「でもそういう強運を掴めるというのは、君の実力だよ。この世界では運も実力の内とよく言われるから」
「ありがとうございます」
 
「でも、僕は君と初めて会った時のことが忘れられないなあ」
「あ・・・あれは忘れて下さい」
私は顔を赤らめて言った。
 
それはローズ+リリーを始めて間もない頃だった。美智子に連れられて★★レコードに政子と一緒に行った私は、待合室で待っている間にトイレに行きたくなった。美智子に断って行ったのだが・・・・・
 
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ちょっとぼんやりしてトイレに入り、個室から出てきた所でばったりと中年の男性と出くわした。私は思わず「キャー」と声を出してしまった。その男性はびっくりしたようで「あ、ごめん。間違った」と言い、慌てて外に飛び出して行ったのだが、すぐに戻って来て
「ね、君、ここ男子トイレなんだけど」と言った。
「あ?え?」と、よく見ると、小便器が並んでいる。
「ごめんなさーい、私が間違ってました」と言って、私は急いで手を洗うと外に飛び出した。
 
それが町添さんとの最初の出会いだったのであった。
 
そのあと、★★レコードの担当者に会って挨拶して、色々打ち合わせをした後「そうだ、うちの部長にも一度会っておいてください」と言われて、挨拶に行ったら
「あ、君はさっきの子!」
「あ、先程はたいへん失礼しました」
ということになってしまった。ただ、私はこの騒動のおかげで、町添さんにしっかり顔を覚えてもらったのであったが。
 
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「あの当時は男の子と女の子の二重生活していたから、ぼんやりしているとけっこうトイレ間違って入ってしまってたんですよ。学校では逆にしばしば女子トイレに入ってしまって」
「でも君は女の子にしか見えなかったね、最初から」
私は微笑みながら頷いた。
 
「あ、そうそう。君もマリちゃんも、今、彼氏いるんだっけ?」
「あ。はい」
「実際問題として、どのくらいの進行状況なの?」
私はこれが実はこの昼食での本題では?という気がした。部長としては「商品」の品質管理は気になるところであろう。
 
「一応ふたりとも相手と身体の関係はありますが、まだどちらも交際期間が短いです。マリは交際2ヶ月、私もまだ3ヶ月くらいですが、私の場合、彼のお母さんに凄く気に入られてしまって、私の性別のことも気にしないと言ってくれて。もう婚約しようみたいな話にまでなっちゃったんですけど、どっちみち彼が弁護士志望で勉強が忙しくて、学部・大学院・司法修習生としないといけないから、結婚できるのは最速でも7年後になるので、7年後まで待って気持ちが変わらなかったら改めてというお話にさせてもらって、婚約という形はとらないことにしました」
 
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「なるほどね。僕としてもできれば今はまだ君にもマリちゃんにもフリーでいて欲しい。本来は結婚とか婚約は個人の自由ではあるけど」
「はい」
「まあ今時、彼氏がいるくらいは構わない。最近はアイドルだって堂々とボーイフレンドと一緒の写真をブログに貼ったりするからね」
「でもその『彼氏のもの』になっちゃうと商品価値が落ちるから婚約はNGと」
 
「そうそう。ケイちゃんは億単位のお金を稼いでくれる大事な商品だから」
「自覚してます。でもお仕事のこと抜きにしても、まだ私『誰の物でもない』
状態でいたいんです。政子からワガママだって言われましたけど」
 
「まあ、若いしね。20歳(はたち)だよね? 7年後か・・・・27歳くらいになったら結婚・出産はやむを得ないな」
「逆にそのくらいの年齢になれば未婚でも既婚でも商品価値変わらないですよね」
「うん、その通り」
と町添さんは笑いながら答えた。
 
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交換アルパムの音源制作は11月30日から12月7日まで掛けて行われた。収録は順調に進み、1日1曲のペースでできた。一応8日を予備日にしていたのだが、ローズクォーツのメンバーは「一応」休みとした。
 
12月7日はローズクォーツの新しいシングル『起承転決/いけない花嫁』の発売日であった。交換アルバムの録音作業の追い込み中ではあったが、私とマキがスタジオを抜けだし、FM局に出演して新曲のアピールをしてきた。8日はマキが「多忙」なため、私とサトで4ヶ所のFM局に出演してきた。また、9日の金曜日は私がマイナスワン音源を持って、関東圏内8ヶ所のHNSレコードでライブとサイン会のキャンペーンをしてきた。11日には関西6ヶ所でも同様のキャンペーンをした。その後12日から18日まで、私は全国を飛び回ってキャンペーンをしてきた。
 
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12月10日は都内のホテルでマキの結婚式が行われた。私も政子も美智子もドレスで出席する。事務所のスタッフや後輩ユニット「ワランダーズ」の面々、マキの大学時代の友人達など、またお嫁さん側の友人や会社の同僚などが出席し、出席者100人くらいの華やかな披露宴になった。私は他のローズクォーツのメンバーや政子・美智子とともに式の方から出席させてもらった。式は神式であった。赤い色調の神殿の中で厳かに進む式を見て、感動した。高校時代の友人で結婚した人などもまだいないし、こういうものを見るのは初めてであった。
 
「いけない花嫁」のジャケ写を撮った時にウェディング衣装を着た時の記憶、そして正望から左手薬指にエンゲージリングを付けられた時の記憶がよみがえる。ああ私も結婚したい・・・・と、その時、物凄い衝動が心の中で沸き上がった。もう仕事放棄しちゃって、正望の所に走って行こうかと一瞬思ってしまったくらいであった。
 
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披露宴には実はその正望も出席していた。
「ケイの実質フィアンセだろ?ケイの隣の席にしようか?」
とマキから言われたが
「いや。婚約はしないということで同意してるし」
などと私がいうので
「じゃ、俺の友人のところに席入れとくから」
などと言われた。
 
披露宴で私は政子と一緒に「ふたりの愛ランド」を歌った。ローズ+リリーがこれだけの人前で歌うのは、なんと3年ぶりである。出席者の間からどよめきが起きた。かなりの数のフラッシュが焚かれる。FMラジオの関係者などもいるのであとでブログとかに写真くらいは貼られそうである。町添さんは披露宴の最初の方に出席してくれていたものの忙しい身なので途中で退席し、私達が歌ったのを見逃した。それで後からそのことを聞き、悔しがっていた。
 
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美智子もピアノを弾きながらMISIAの「Everything」を歌った。美智子の歌を生で聴いたのは、初めてである。伸びのあるしっかりした声で物凄く巧かった。ブレス無しで長い音符をきれいに歌う。凄い拍手。
「みっちゃん、巧いじゃん。充分現役で行ける」「今日は特別よ」
「みっちゃんのCD出そうよ、私、何か曲書くよ」
「だめだめ、出さない」と美智子は笑って拒否した。
 
披露宴が終わって会場の外で新郎新婦がみんなからお祝いされている時、私はさりげなく正望の隣に行って、そっと後ろ手で手を握った。これだけ人が入り乱れてたら誰も気付かないだろうと思ってたが、後から美智子と政子には「あそこで手を握ってたね」としっかり言われた。
 
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花嫁さんがブーケを投げた。それがこちらに飛んできた。私は思わずそのブーケを受け止めてしまった。
「きゃー、私なんかが受け止めてよかったのかしら?」
と焦っていると、みんなから「次の花嫁さん、頑張ってね」などと言われる。私はついいつものノリで、ブーケを右手で高く掲げると「ありがとう」と笑顔で応えた。
 
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夏の日の想い出・2年生の秋(14)

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