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■夏の日の想い出・2年生の秋(2)

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その後、「虹色のバイヨン」「Hits me like a rock」「シューベルトの鱒」
「山中節」「能登空港」とリクエストをこなした。
 
「『山中節』もよく歌えたなと思いましたが『能登空港』を歌えるとは思いませんでした。ローカルな歌なのに」とDJさん。「絶対、第1回目から1万円が出たなと思ったんですけどね」
最後の3曲はデータベース(これは実は番組の提供元である★★レコードが管理用に構築していたものを特別に使わせてもらっている)になく、歌詞が端末に表示できなかったのである。
 
「山中節は昨年の山中温泉・道の駅での公演の時に現地で採取して覚えていました。能登空港の方ですが、今日は時間の関係で羽田から能登空港に飛んできたんですよ。それで空港に降りた時にこの曲が流れていたのを聴いたので。ロス・インディオスのシルビアさんの声だったから、あら?と思って1回分まるごと聴いていたんです」
「なるほど。でも1度聴いたら歌えるんですか?」
「はい。私の特技です」
「ケイが最初のフレーズをキーボードで弾いてくれたので、僕らも何とか演奏することができました。僕らも一緒に聴いてましたし。ケイはだいたい半年以内に聴いたことのある曲なら、弾き語りで歌えるみたいです」とマキ。
 
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最後に最初にリクエストをくれた人の「聖少女」を演奏して1回目の放送を終了した。
 
「あれ?悠子(桜川さん)、残るんですか?」
と私達は空港で美智子に尋ねた。
「特別指令を申し渡した」と美智子。
「CIAみたい」
「まさにCIA。今回『能登空港』は偶然にも歌えたけど、ご当地ソングのリクエスト、来週からもかなり来ると思うのよね」
「確かに」
「それで今夜ホテルでネット使って北陸三県のご当地ソングを調べられるだけ調べ上げて、そのCDあるいは音源を調達してもらおうというわけ」
「なるほど」
「中にはどこかの役場とか漁協とかまで行かないと買えないCDもありそうだからそれを来週までに可能な限り集めてもらう」
「わあ、一週間居残り」
「あと北陸のコミュニティFMを一週間録音してもらう。それで聴いたことのない曲があったら即切り出して送ってもらう。ひとりでは無理だから、悠子のお友達10人くらいに動員を掛けてもらって、一応5ヶ所で受信することにした。私達と入れ替わりでその子たちがこちらに来るよ」
「かなりハードな指令ですね」
「ははは」
 
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この作戦が功を奏して、2回目の放送以降もかなりのご当地ソングが毎回寄せられたものの、事前準備が効いて、ローズクォーツは無難に演奏することができたのであった。悠子は友人達と一緒に、翌週は周辺の新潟・長野・山梨・岐阜・愛知のご当地ソングの収集、その翌週は大阪・京都・滋賀・兵庫のご当地ソングを収集してくれた。
 
リクエストしてくれる人の中には、ごくふつうのリクエストをする人、ふつうのリクエストではなかなか掛けてもらえない、唱歌とか少し古めの洋楽とかを指定する人、そして明らかに1万円狙いの人がいたが、11月まで終わっても1万円は1度も出なかった。何度か「分かりません」と私が答えた曲もあったが、制作側の5人のスタッフ(DJさんを含む)の誰も知らないということでパスになった。しかしリクエストの数は好調で、リクエスト以外のお便りもたくさん寄せられるので、番組は取り敢えず3月までの延長が決まった。
 
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また1月からは群馬と栃木でも放送されることが決まり、悠子はまたその地域のご当地ソングを調べて回った。一応放送は北陸限定ではあるものの、リスモがあるので他の地域で聴いている人もいる。そういう地域からその地のご当地ソングをリクエストされることもあったが、それも5人のスタッフの誰も知らないということでパスになっていた。ただ私達は分からなかったご当地ソングは、一応パスにはなるものの、番組終了後に調べて次からは演奏できるようにしておいた。
 
少し時を戻して、9月下旬、ローズ+リリーの『甘い蜜』がとうとう累計売上100万枚を突破した。ローズクォーツの『夏の日の想い出』もその時点で90万枚近く売れており、同時タイトル曲の『聖少女』が10月から始まるドラマの主題歌に採用されているので、ドラマが始まったら売り上げが上がることが予想され、こちらも100万枚突破はほぼ確実と思われた。
 
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その報道に合わせるかのように、★★レコードはローズ+リリーの2回目のメモリアル・アルバム「Rose+Lily After 3 years, Long Vacation」を10月下旬に発売することを発表した。その予約が最初の一週間で20万枚も入り、これには「ローズ+リリー制作委員会」と私が個人的に呼んでいる、美智子・津田社長・浦中部長・町添部長・上島先生の5人も驚いたようであった。ローズ+リリーは年に1回くらいのアルバム制作だけをしていくつもりでいたのだが、この5人で集まって打ち合わせをして、11月に3年ぶりのシングルリリースをすることが決定された。
 
例によって、上島先生の作品と、私と政子との作品とをカップリングすることになり、私は美智子から「ローズ+リリーっぽいのを2〜3曲書いてね」と言われた。政子はずっと詩のノートを付けていて、その詩に私は時々曲を付けていたが、そのストックの大半は、アルバム制作で使ってしまっていた。まだ曲を付けてないものや、アルバム制作以降に政子が書いた詩の中で、シングルに使えるようなものがないかなと思って再度見てみたのだが、これ行けるかな?と思うものが2曲あったが、3年ぶりのシングルとなるともう少し欲しい感じがあった。
 
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それにローズクォーツでやった『キュピパラ・ペポリカ』『聖少女』がひじょうに高いクォリティだったので、それに負けない曲を作りたいという思いがあった。
 
私は何かいいもの思いつかないかな・・・と、ふらりと旅に出ることにした。土曜日の仕事がお昼で終わってしまい、翌日も予定が無かったので、車を出して、取り敢えず関越に乗った。
 
思いつきで進行するのでけっこう経路が迷走した。藤岡JCTから上信越道に入るが、更埴JCTで長野道に乗って南下する。岡谷JCTから中央道の名古屋方面に進行し、土岐JCTで東海環状道の内回りに乗って美濃関JCTから東海北陸道を北上。小矢部砺波JCTから北陸自動車道の新潟方面に進行し、有磯海SAで長めの休憩を取った。
 
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ここまでの間に、軽井沢付近で1曲思いつき、東部湯の丸SAで譜面を書いた。(今回はさすがにちゃんと五線譜と筆記具を持参した)それから安曇野付近で1曲思いついて梓川SAで書き留める。それから伊那付近で1曲、美濃加茂付近で1曲、ひるがの高原で1曲思いついて書いた。有磯海での仮眠から覚める際に夢の中で聴いたモチーフをベースに書いた『渚の思い』という曲は、自分でも結構気に入った。これは使えるかも知れないなという気がしたので帰ることにする。
 
北陸道をそのまま北上し、長岡JCTから関越に乗る。魚沼まで来た時に美智子から電話が入った。前橋にいるというので、合流することにし、私は前橋ICで降りることにした。料金所を通る時、このくらい走ったら2万円くらいかな?あ、0-4時帯に掛かってるから深夜割引でその半額か、と思ったのに、1400円と表示される。へ?と思いながらETCで通過する。
 
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美智子たちに合流してから、その話をしたら花枝から「どういうコースで走ったの?」と訊かれた。私がコースを説明すると「ああ、そういう場合は最短距離の料金で計算されるのよ」と花枝は笑いながら言った。つまり練馬から前橋に直行した料金で済んでしまうらしい。それに深夜割引が掛かって半額である。
 
ただ、最短距離の料金が適用されるにはいくつか条件があるらしい。「24時間以内に走り切ることと、コースが重なってないことが条件。これ前橋で降りずに、藤岡より南まで行ってたら普通に900km分の料金が必要だった」「わあ」
「そして24時間たってしまうとバーが上がらないのよね」「なるほど」
 
「ただ、どちらも条件が結構曖昧で、コースが重なっていたのに最短料金で通れたとか24時間超えてもちゃんとバーは上がったという報告もあるけど、確実ではない。そのあたり高速会社も明確な基準は公表してないの。あくまでもこれ裏技だから」
「へー」
「でもよく、こんな長い距離をひとりで1日以内に走破したよね。ふつうは、こういうお遊びする時は3人くらいで交替で運転するのよ」
「あはは」
 
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「いい作品できた?」
「全部で7曲書いた。1日でこんなに書いたの初めて。詩が付いてないのもあるから、政子に見せて書いてもらう」
最後の1曲は前橋で降りる間際に浮かんで、ICを降りてすぐの所で車を脇に寄せて大急ぎで書いたものであった。
「いちばんの出来はこれかな」といって有磯海SAで書いた『渚の思い』の譜面を美智子に見せる。
「うん、これはいい曲だね。こないだ見せてもらった2曲よりぐっとレベルが高い」
と美智子は言う。ただ私は美智子の言葉の中に微妙な不満足を感じ取った。
 
10月8日は誕生日であった。私は前日に実家に行って両親や姉から祝福を受け、また週明けに書類提出予定の性別変更申立てのことを話して、母からも姉からも、そして父からも快諾を得た。ずっとこの問題でまともに話をしていなかった父が許してくれたことが、私は嬉しかった。
 
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翌朝、事務所に行くと、ローズクォーツのメンバーや、スタッフらから誕生日おめでとうと言われた。そしてその場で、マキが12月に長年の恋人である葵さんと結婚式をあげることを発表、お昼は私の誕生祝い兼マキの婚約祝いということになった。政子に葵さんも合流しての食事会となった。
「じゃ、水曜日からローズ+リリーの制作やるから、みんなよろしくね」
と美智子が言う。明日の日曜日は臨時の休みの予定である(月火はふつうに休み)。
 
食事会が終わったあと、私は政子とふたりで私のマンションに行く。マンション近くのミスドに、礼美・仁恵・博美・小春・琴絵といういつものメンバーが集まっていた。私達2人もまずはそこに合流して1時間ほどおしゃべりした。
 
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「でもファンクラブ主催の誕生パーティーとかはしないの?」
「しない、しない。アイドルじゃあるまいし」
「彼氏とふたりで誕生祝いなんてのは?」
「彼氏いないもん」
「M君とはどうなの?」と政子。
「何何?そのイニシャルだけの表現は?」
「あ、えーっと・・・」
 
「冬、最近男の子と何度かデートしてるのよね」
「いや。。。そのデートというほどのものじゃなくて、ちょっと何度か一緒に食事したりドライブしただけだよ」
「充分デートじゃん」
「でもただの友達だよ−、礼美たちとも食事したりドライブしたりするじゃん」
「セックスしたの?」
「まだしてないって、いやそういう関係じゃないし」
私はかなり焦っていた。
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夏の日の想い出・2年生の秋(2)

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