広告:マイラ-―むかし、マイラは男だった―-DVD-マイケル・サーン
[携帯Top] [文字サイズ]

■夏の日の想い出・2年生の秋(10)

[*前p 0目次 8時間索引 #次p]
1  2  3  4  5  6  7  8  9 10 11 12 13 14 
前頁 次頁 時間索引目次

↓ ↑ Bottom Top

しばらく何を言っていいか分からない感じであったが、やがて
「でも、あなたそんな風には見えない。声だって女の子だし。見た感じもどう見ても女の子にしか見えないわ」
「ええ、でもそういう訳で、私子供も産めませんし」と言う。
 
「正望、あんたはそれを承知で、この方と付き合ってるの?」
「うん。彼女、高校時代は学生服着て男の子の格好はしていたけど、実際には当時から話をしていても、女の子と話している感覚しかなかったよ。当時もよく話が合ってたし、再会してからも凄くいい感じで、彼女とはずっと仲良くしていけると思うから、性別のことは気にしてない。子供ができないことも承知の上」
 
「うーん。。。。戸籍上の性別は女性なのね」
「はい」
「その・・・身体も女の子なの?」
「ええ」
「じゃ、正望とふつうの形で結婚可能なんだ」
「うん。だから、僕は彼女と結婚したいと思っている」
「正望さん・・・・」
 
↓ ↑ Bottom Top

お母さんは私を見つめながら少し考えている風であった。
 
「えっと、冬子さんでしたよね?」
「はい」
「冬子さん、見た感じも声も、そして雰囲気も、完璧に女の子だもんね。ここまで完璧で、身体も戸籍も女性になってるのなら、私は正望の気持ち次第だと思うよ」
「じゃ、結婚してもいい?」
「私は反対しない」
 
ちょっと待てぇ・・・なんか話が凄い方向に進んでるぞ!しかし、こういう場合、親としては普通反対しないか?なんて物わかりの良すぎるお母さんなんだ!?えーん、どうしよう?このままだとマジで正望と結婚することになってしまいそうだ。
 
「でも、私さっきも言ったように、子供も産めないので、お母様に孫の顔を見せてあげることができませんし」
「子供は養子とか取ればいいんじゃない?私も養子でこの家に来たのよ」
 
↓ ↑ Bottom Top

きゃー、反論するネタが尽きてきたぞ。マジどうしよう?
 
と思った時であった。私の携帯に着信があった。政子からだ。
「ちょっと済みません」
と言って電話に出る。
 
「あ、冬。あんたエリゼと交換アルバム作ろうとかいう話、したんだっけ?」
「うん。あれ?その時、政子もいたけど、聞いてなかった?」
「いつだっけ?」
「フェスの打ち上げの時」
「うーん。全然覚えてない」
「その時、そういう話をしたのよ」
「そうか。酔ってたからなあ。それで具体的に話を進めようよ、という話がさっき向こうから来てさ」
「あああ」
「みっちゃんが寝耳に水だといって、とりあえず打ち合わせに飛んでいった」
「きゃー、そういえば、みっちゃんに言ってなかった」
 
↓ ↑ Bottom Top

「取り敢えずこちらに戻って来れる?」
「分かった。戻る」
といって電話を切る。
 
「あの、正望さん、お母さん。済みません。急に仕事が入ったので、事務所に戻らないといけなくなりまして」
「あらら、夜なのに大変ね」
「また、この件はあらためて」
「はいはい。正望、送ってあげなさい」
「あ、えっと、急ぐので車より電車で戻った方が速いと思うので」
「じゃ電車の駅まで送るよ」
「ありがとう」
 
そういう訳で、私はとりあえずその場から逃げ出し、正望の車で最寄りの駅まで送ってもらったのであった。駅での別れ際に正望は
「今日は急に話が展開しちゃって御免。でも僕はフーコのこと好きだし、ほんとに結婚したいと思っているから」と言った。
「ありがとう。でも、この件はまた改めて話合うということにしておいてもらえる?」
「分かった」
正望は私にキスしたそうな顔をしていたが、結局、握手して別れた。
 
↓ ↑ Bottom Top

私は電車の駅を「通り抜ける」と、反対側の出入口でタクシーに乗り、高速を使って都内の事務所の所まで行ってくれるように言った。電車では電話ができないからである。すぐに美智子に掛ける。
 
「ごめーん。話してなくて。今いい?」
「今電車降りて歩いてる所。あと5分でスイートヴァニラズの事務所に着く」
「じゃ5分で手短に」と言って、私はフェスの打ち上げの時にEliseと話した内容を語った。ただ向こうはかなり酔ってたので、本当に話が進むとは思っていなかったということも付け加えた。
 
「なるほどね。でもそれ、面白い企画だよ。ローズクォーツはスイートヴァニラズの曲をスイートヴァニラズ風に演奏して、スイートヴァニラズはローズクォーツの曲をローズクォーツ風に演奏するという訳だ」
「うん。それでこちらはボーカルが1人しかいないから、重唱になるような所が難しいねと言ってたら、Eliseさんが政子見て、マリちゃんも歌えばいいと言って、政子も自分から『乗った!歌います』と言ってたんだけどなあ・・・」
 
↓ ↑ Bottom Top

「政子は酔ってて覚えてないのね」
「たぶん」
「でもEliseさんは覚えてたんだ」
「そうみたい」
「了解。じゃその辺の線で今日のところは話して、あとでスイートヴァニラズとローズクォーツのメンバー全部集めて、企画会議になるかも」
「はい」
 
電話を切った後、首都高から夜景を見ながら、私は正望とのこと、どうしようかと悩んだ。しかしどうにも頭の中が混乱して、結論が出ない。
 
事務所には9時頃到着し、政子と少し話したが、政子はほんとに交換アルバムの件を全然覚えていないようであった。ふたりで待っていると11時頃に美智子から「今から帰る」という連絡が入り、12時前に美智子は事務所に戻ってきた。
 
「一応企画内容ね。スイートヴァニラズとローズクォーツで、各々7曲の新曲を『自分達で演奏するつもりで』作って、お互いのヒット曲1曲とともに交換して演奏する。この時、スイートヴァニラズはローズクォーツ風に演奏するし、ローズクォーツはスイートヴァニラズ風に演奏する。楽曲を今月中に作って、編曲をお互いに確認して、12月に音源制作。1月に同時発売を目指す」
「わあ」
「これはほんと、面白い企画だと思うよ。奈津子もノリノリだった」
「へー」
「スイートヴァニラズは、秋口からコンサートツアーやってたからね。それで時間が取れなくて、今まで企画がのびのびになってたみたい。ツアーが一段落して何とか時間が取れる状態になったので、こちらの方の都合はどうか?と照会してきたみたい」
「なるほど」
 
↓ ↑ Bottom Top

「ということで、冬、来週までに7曲『ローズクォーツ風の曲』を書いて」
「分かりました」
「ということで今日はこれで解散」
 
私は美智子に「ちゃんと言ってなくて済みませんでした」とあらためて謝ってから、政子と一緒に事務所を出た。
 
「マーサ、ちょっと相談したいことあるんだけど」
「いいよ。うちに来る?」
「うん」
 
一緒にタクシーで政子の家に戻り、まずはシャワーを浴びてからお茶を入れた。
 
「ね。私が電話した時、もしかして正望君とのデート中だった?」
「うん」
「じゃ、デートの邪魔しちゃったのね」
「いや、邪魔してもらって助かった」
「なんで?」
 
というので、私は今日正望のお母さんと偶然会ってしまい、話がどんどん進んで、もう婚約しようかみたいな雰囲気になってしまったことを語った。政子は大笑いしている。
 
↓ ↑ Bottom Top

「笑い事じゃないよお。私どうしよう?」
「結婚しちゃえば?」
「でも・・・・」
「正望君のこと、好きじゃないの?」
「好き」
「じゃ、結婚していいじゃん。冬が性転換したことを本人もお母さんも承知の上で結婚したいというなら、こんないい話、めったに無いよ」
「うん。それは分かるんだけど」
 
「それに結婚するのって実際には7年後なんでしょ、最速でも。それまでには喧嘩して別れちゃうかも知れないし、どちらかが浮気して壊れちゃうかも知れないし、こちらも歌手活動やめちゃってるかもしれないし。取り敢えず婚約だけしておくのは別に問題無いんじゃない?」
 
「うん。だから正式な結納とかは7年後に考えることにして、今は口約束だけという線で妥協するしかないかな、とあの場では思った。とにかくあそこでマーサから電話があって話が中断したのが、もう天の助けかと思ったよ」
 
↓ ↑ Bottom Top

「じゃ核心に迫るけど、冬は正望君と結婚したくないの?」
「あ、えーっと・・・・・結婚できない気がしてる」
「それはなぜ?性別問題は理由にならないよ」
「うん」
「こら、正直に言え」
 
「ひとつはね・・・・私、恋をするのはいいけど、今はまだ『誰かのもの』にはなりたくないの。フリーでいたいの」
「わがままだねえ」
「もうひとつは・・・・・その・・・・」
 
「私と冬の間だけの話だよ、これ」
 
「分かった。正直に言う。私、マーサのことが好きだから」
「・・・・」
 
「御免。そういう感情持っちゃいけないこと分かってるつもりなんだけど」
 
「はあ・・・・」と政子はため息を付く。そして無言で新しい紅茶を入れてくるとふたりのカップに注いだ。私達はゆっくりとお茶を飲んだ。
 
↓ ↑ Bottom Top

「私さあ。。。」
「うん」
「直哉とのこと、みっちゃんに言ってなかったことで叱られた後でさ」
「うん」
「その場ではそういう話無かったんだけど、翌朝またみっちゃんが来てね」
「え?それは知らなかった」
「再度聞くけど、私は本気で直哉のことが好きなのかって聞かれたの」
「なんで?」
 
「私もなんで?って訊いたんだけど、みっちゃんが言うにはね」
「うん」
「私と直哉、冬と正望君って、ほとんど同時にふたりが男の子の恋人を作ったのが出来すぎてるというのよ」
「あはは」
「それで実はふたりともそれはカムフラージュじゃないのかって」
「えーっと」
「実は、私と冬が愛しあってるんじゃないかって」
 
「私もそれ言われたけど否定したよ」
「私も否定した。でも、みっちゃんは信じてない感じだった」
「うーん」
 
↓ ↑ Bottom Top

「でさ、冬」
「うん」
「私も冬のこと、好きだよ」
 
その言葉を聞いた後、私と政子はそのまま5分くらい、何も言葉を発さずにお互いの顔を見つめ合っていた。
 
 
↓ ↑ Bottom Top

前頁 次頁 時間索引目次

[*前p 0目次 8時間索引 #次p]
1  2  3  4  5  6  7  8  9 10 11 12 13 14 
夏の日の想い出・2年生の秋(10)

広告:プリティフェイス 3 (ジャンプコミックス)