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■夏の日の想い出・2年生の秋(8)

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その日、学校が終わってから私が事務所に出て行くと、美智子が頭を抱えていた。
「どうしたの、みっちゃん」
「あ。冬、おはよう。あのさ・・・・・」
「うん」
「政子に彼氏とかいるんだっけ?」
「ああ、先週聞いた」
「はあ」
「あ、ごめん、みっちゃんも聞いてなかったのね」
 
「今日○○プロの人から連絡があってさ。向こうのバイトの人が、政子が土曜日に男の子と歩いている所を見て、なんか恋人っぽかったと」
「あああ。3回くらいデートしたみたい」
美智子はため息を付くと政子の携帯に電話を入れた。
「おはよう。ちょっと話があって。今どこ?あ、家にいるのね。じゃ今からそちらに行っていい?。。。。うん。。。。じゃ4時半頃には着くと思うから。うん。じゃ」
 
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美智子は電話を切ると
「私、ちょっと政子の家に行ってくる。愛知の松本君が5時頃新曲を持って来るはずなんだけど、私間に合わないと思うから、ちょっと見てあげてて」
と言った。
「了解。音源作るの?」
「うん。なんなら、冬が編曲してあげてもいいよ」
「おっけー」
 
「6時くらいまでには戻るつもりだけど、戻らなかったら、晩ご飯、天麩羅にでも連れてってあげてて。その前でも区切りよかったら連れてってて」
「はーい」
 
美智子は頭を振ると出かけていった。結局政子は半月ほど前に私が美智子から言われたのと同様のことを言われることになったようであった。
 
5時5分前に愛知の松本君はやってきた。まだ高校生ということであるが、彼の歌は私も以前何度か聴いていて、才能を感じていた。美智子が急用で出かけたので、私が見てあげるように言われたというと、彼はむしろ喜んでいるようであった。取り敢えず歌ってもらうことにした。彼は持参のギターを弾きながら作ってきた曲3曲を歌った。
「いい曲だね。特に最初の『僕のサリー』が凄くいい。じゃ、編曲まで私がしておこうかな。そのうち社長も戻るだろうし。取り敢えず御飯行こう」
と言って、天麩羅屋さんに連れ出す。
 
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私は彼の曲の譜面のコピーと五線紙を持ち、天麩羅屋さんに入ると彼といろいろ話をしながら、編曲したスコア譜を書いていった。揚げたての天麩羅を都度テーブルに持ってきてくれるシステムのお店は初めてのようで、おもしろがっていた。
 
「でも松本君、ほんと歌が上手いよね。音感もリズム感もすごくいい」
「ありがとうございます」
「ただ、どうかなあ。。。さっきは緊張していたせいかも知れないけど、ギターの演奏技術はまだまだ改善の余地があるかもね」
「はい、自分でもそれ自覚してるので頑張ります」
「うん。たくさん練習すればうまくなるから、頑張ってね」
「はい。でもケイさんがデビューしたの、僕と同い年ですよね」
「うん。でもシンガーソングライターと歌唱ユニットじゃ事情が違うからね。焦らずに、今の内にしっかり実力を育てようね」
「はい」
などといった会話を交わす。
 
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「ケイさん、楽器とか使わずに楽譜書けるんですね、すごい。絶対音感をお持ちなんですか?」
私がスイスイとスコア譜を書いているのを見て、そんなことを言う。
「ううん。私、絶対音感無いのよ。私のは相対音感」
「へー」
「でも頭の中にオーケストラが入っているの。ここのヴァイオリンのパートにソの音を書けば、頭の中のヴァイオリンからソの音が響く。相対音感でだけど」
 
「わあ。でもだからあの速度で曲が書けるんですね。7月にローズクォーツのシングル2枚、アルバム1枚、ローズ+リリーのアルバム1枚出たのに、10月にローズ+リリーのアルバム更に1枚に、今月シングル2枚でしょ。タイトル曲こそ上島雷太だけど、実際問題として中身の曲のほとんどがケイさんの作曲じゃないですか。凄い多作だなと思って」
「まあ、7月に出したローズ+リリーのアルバムは実は昨年音源制作したものなんだけどね。諸事情でリリースが1年遅れたのよ」
「そうだったんですか。でも、御飯食べながら、僕とお話しながら、ペンが停まらないのも凄いです」
 
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「これがうちの社長なら、食事しながら打ち合わせしながらノートパソコンでいきなり打ち込んでいくんだけどね。私は打ち込みする場合でも、いったん先に紙のスコア譜に書いてからのほうがうまくいくんだ」
「すごーい・・・・あと、こんなこと聞いていいのかな」
「なあに?」
「ケイさんの声って、こうやって生で聞いていても女性の声にしか聞こえないんですね」
「あはは。もう男の子の声はずっと出してないから、出し方忘れちゃったかも」
「へー。でもごめんなさい、失礼なこと聞いて」
「うーん。遠慮のない子は私わりと好きよ」
「ありがとうございます」
 
私はそうやって彼といろいろな話をしながら、食事中に3曲分のスコア譜を完成させてしまった。事務所に帰ると美智子が戻っていたので、書き上げたスコア譜を渡して引き継いだ。美智子はスコア譜を斜め読みすると
「ああ、いい感じに仕上がってるね。ケイっぽいアレンジだ」
「ローズクォーツ風です」
「だね。よし、松本君のギターと歌だけ録音しよう。君、信号音に合わせて歌ったことあったっけ?」
「はい、こないだもそれでやりました」
「そうだ。ケイも折角アレンジしてくれたから演奏も手伝って」
「OK」
「わあ、感激」
美智子は彼をスタジオに連れて行き、歌とギター演奏を収録した。、私もキーボードでいくつかのパートを演奏し、それも収録した。これに後で打ち込みでいくつかのパートを作り重ねれば、完成音源になる。
 
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「ミクシングができたらデータ送るから」と言われて、松本君は最終の新幹線で愛知に帰っていった。
「彼、凄くセンスがいいですね」
「うん。歌も上手いしね。ギターはもう少し練習したほうがいいな」
「ギターの件は私も言いました」
「そうか。でも冬のアレンジは彼の歌の良さをよく引き出してる。うまいね」
「ありがとう」
 
「政子どうでした?」
「ごめんなさいと言ってた。でも冬と政子ってほんとに息があってるというか。彼氏まで一緒に作ることない・・・・」
といって美智子は、はっとした表情で口を押さえた。
 
「あんたたちさ・・・・・これカムフラージュじゃないよね?」
「え?」
「ほんとは冬と政子で愛し合ってるのを隠すのにお互い男の子の彼氏をって」
「もう、美智子までそんなこと言い出す」
「私までって、誰かに言われた?」
「友達から言われた」
 
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「だって、あんたたち、凄く仲がいいんだもん」
と美智子は笑ってMIDI編集ツールを立ち上げた。私のキーボード演奏で編曲したパートの半分くらいはもう収録終わっているのだが、あとドラムスなど幾つかのパートを打ち込みで作成するのである。
「今夜の所は、あんたたちの主張を信じておくことにするかな」
 

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翌々日からローズクォーツの音源制作作業が始まった。上島先生から提供された曲『起承転決』はオーソドックスな8ビートの曲だが、覚えやすいメロディーが多く繰り返される、分かりやすい曲であった。
「『夏の日の想い出』が難しい曲だったから、逆にシンプルに揺り戻したね」とマキ。
 
これと並べる私と政子の曲は『いけない花嫁』である。ややきわどい歌詞が、軽快なボサノバのリズムに乗せて、流れていく。私が作った参考演奏を聴いたマキは「ケイって、こんな色っぽい歌い方ができるんだ」と驚いていた。「この歌は、この歌い方あっての曲だね」と美智子も笑いながら言っていた。
 
カップリング曲は、マキの書いた『ボトルメール』、私と政子の書いた『夜窓にノック』、初めてのバロック曲『パッヘルベルのカノン』(政子・詞)、そしていつもの民謡から『黒田節』と決まった。
 
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今回は技巧的に難しい曲が無いことから、レコーディング作業はスムーズに行った。『起承転決』と『いけない花嫁』が各1日半、民謡以外の3曲が各1日。『黒田節』については、博多に長く住んでいる美智子の友人のお母さんに指導してもらって、ローズクォーツの4人だけで今回は演奏した。この歌の歌われ方は時代によってけっこう微妙に変わっているらしく、指導してくれた人は、自分は昭和40年代頃こう歌っていた、というのを披露してくれたので、それを再現する形にした。
「最近の若い人の調子(音階)にはどうも違和感があって」と彼女は言っていた。40年ほど中州の飲食店に勤めていた人らしい。
 
なお、政子は今回は黒田節以外の5曲でコーラスを担当した。今回の歌は基本的には私のメゾソプラノボイスで歌っており、『いけない花嫁』の一部に合いの手的にアルトボイスを使用している。また『夜窓にノック』の一部に男声パートかあり、この部分はサトが歌った。
 
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ジャケット写真は、『起承転決』にあわせて、画面を四分割し、大きな四面体のサイコロを持っているローズクォーツ4人の写真を撮った。起が私、承がタカ、転がサト、決がマキである。またそれに重ねて『いけない花嫁』用に、ウェディングドレスに見えなくもない、かなりセクシーな赤いエナメルの衣装を付け、ウェディングティアラを付けた私の写真を中央に配置した。この中央の写真のメイクはいつもお願いしているメイクアップアーティストの人の手で、かなり妖艶な雰囲気にしてもらったが、この写真は公開後、ネットでかなり話題にされていた。『起承転決』の方は、むしろ対照的に清楚な少女っぽいメイクである。
 
ローズクォーツのシングルのレコーディングが終わった翌日はオフの日だったので、そんなことを正望にメールしたら、学校が終わったあと、ドライブして食事しない?と言われたので、いったん家に戻り、少しだけおめかしして出かけた。
 
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待ち合わせ場所に行き、彼の愛車アクセラ(2004年式の中古だが)で拾ってもらう。首都高速を走って、横浜方面に抜け、ベイブリッジを渡り、横須賀方面までドライブをしながら会話を楽しんだ。
 
彼との関係は自分ではただの友達のつもりだったのだが、みんなから彼氏でしょ、とか交際中なのね?とか言われると、確かにこれは既に交際になっているような気もしてきていた。今日はこないだもらったイヤリングを付けている。景色のいい場所があったので、車を降りて一緒に少し散歩する。
 
「僕って、間が抜けてるなあ、どうせなら夕日が見える場所に連れてけばロマンティックだったのに」
「ううん、ここもきれいだよ。静かだし」
「そうだね」
目の端で彼がこちらに手を伸ばそうかどうしようか迷ってる風なのを感じる。あんまりデートとかしたことないんだろうなと思い、彼のことが可愛く感じてしまった。私の方から手を伸ばして、がっちり手を握り合う。あ、照れてる。ほんと可愛い!ちょっと見つめ合う。いい雰囲気だ。周囲には人がいない。行っちゃうかな?
「あ、えっと・・・・」
「うん?」
 
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「あの・・・・僕たち、苗字で呼び合うのも何だからさ」
「名前の呼び捨てでいいよ、私達充分仲良しだし」
「あ、えっと、ニックネームとかでもいいかな?」もう彼は真っ赤になっている。
「うん。正望のこと、何て呼べばいい?」
「えっと、子供の頃はモッチーと呼ばれてた」
「じゃ、モッチー、よろしく」
「冬子のことは」と名前を呼び捨てしただけで照れてる。ちょっとうつむいてそれから態勢を整え直した上で「フーコとかでもいいかな?」
「うん。わりといい感じ」
「じゃ、フーコ」
「なぁに?モッチー」
「えっと、そろそろ食事に行こうか」
「うん」
 
さっきの雰囲気はもう完璧にキスされる感じだったのだが・・・これも彼がこういうのに慣れてないからなのだろう。ま、いっか。と思い、私は彼と一緒に車に戻った。
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夏の日の想い出・2年生の秋(8)

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