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■夏の日の想い出・2年生の秋(7)
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少し時を戻して、私の性別変更の申立ての結果が出た翌日、礼美から
「冬が女の子になったお祝いするよ」と電話が掛かってきた。
私は申立ての結果については、母・政子・美智子・マキ・正望の5人にしか第一報しなかったのだが、政子から友人関係に広められたのだろう。
「お祝い?ありがとう。どこでやるの?」
「冬の家」
「了解。いつ?」
「今夜。政子から今日明日は冬は予定入ってないはずと聞いたから」
「確かに入ってない。珍しいことに」
と私は答えた。私は今日明日ゆっくりとした雰囲気の中でキーボードでも触りながら新曲を考えようと思っていたのだが、少なくとも今夜はそれはできなくなったようであった。
「誕生日の時に飲み残したお酒がかなりあるよね」
「うん。たっぷり。お菓子も大量に残ってるよ。その後のファンからの贈り物でむしろ増えてる」
「じゃ、飲み物・食べ物は持って行かなくてもいいな」
「うん。でもお肉類は歓迎」
「それはお金かかりそうだから政子に言おう」
そういう訳で、その夜、私の家に、政子・礼美・博美・小春・仁恵・琴絵という、いつものメンバーが集まってきたのであった。
「セキュリティ付きのマンションでも合鍵と暗証番号があれば楽々通過なんだな」と仁恵が言っている。政子はうちの合鍵を持っているのである。ここの鍵は複製が困難なタイプだが、そのため予め5本発行してもらっていた。その5本の内の1本を政子に預けている。
「まあ、冬も私の家の合鍵持ってるしね」と政子。
「お互いの合鍵持ってるって、やはりふたりは恋人感覚」と礼美。
礼美は正望のことも知っているが、わざとこういうことを言っている感じだ。
「お肉持ってこいと言ってたというから、牛肉どかっと買ってきたよ」と政子。
「何kg?」
「4kg。ああ、重たかった。冷却剤もだから」
「お疲れ様」
「おお、福島産牛肉だ」
「検査済みだから放射能は大丈夫」
「焼肉にしよう。ホットプレート持ってくるね」
政子が音頭を取り「正式に女の子になった冬の前途を祝して乾杯」と言い、みんなでワイングラスを重ね合った。ホットプレートを囲み、どんどんお肉を焼き、どんどん食べながら、おしゃべりを楽しむ。
「ところで、みんな成人式はどうするの?」
「私は振袖。9月に注文した」と私。
「私も9月に注文した」と政子。
「あれ?冬は振袖持ってたんじゃ?」
「お正月の挨拶回りにさぁ、去年と同じ振袖着ていく訳にはいかないのよ」
「ああ、大変だね、それ」
「成人式には新しい振袖と去年買った振袖とどちら着ていくか少し迷ってる」
「私も今年は冬と一緒に挨拶回り行かないといけないから一緒に買ったんだ」
「ふたりの振袖、高そう」
「安いのはダメ、と言われたのよね」と私と政子。
「私は8月に振袖注文したよ、冬たちのよりはぐっと安物だと思うけど」と仁恵。「私はレンタルだよ。予約済み」と礼美。
「よかったぁ、仲間がいて。私もレンタル」と小春。
「私もレンタルの予定。まだ予約してないけど」と琴絵。
「私は既製品の振袖買っちゃった」と博美。
「でもさあ」と仁恵。
「面倒だよね、こういうの」
「うんうん」
「そんなに何度も着るものでもないのに」
「でも、やはり振袖着た時って、なんか気分いいよ」
「女の子の特権だよね」
「その代わり、お金掛かるけどね。レンタルだっていいお値段取られるもん」
「『花鳥風月』って、冬が初めて振袖着た時の感動で書いた曲なんだよね」と政子。
「えー?そうだったんだ」
「鏡に映った自分の振袖姿見て、可愛いって思ったの」と私。
「あの振袖、実際可愛いよね」
「うんうん」
「でも、振袖も可愛いけど、その可愛い振袖を着ている自分にも感動したのよね」
「ま、確かに男の子だったら体験できなかったことだよね」
「うん。女の子になってよかったなあ、という気持ちもまた新たになった」
「で、例の彼氏とはその後どう?」
「なんでその話になるの〜?」
「セックスした?」
「してないよー」
「なんか、中学生かって感じの清い交際してるみたいね。まだ手もつないでないんでしょ」
「うん。でも政子の方は?N君との展開」と私は逆襲する。
「え?政子にも彼氏が?」
「あ、えーっと」
「既に3回くらいはデーとしてる筈」
「こないだのデートの別れ際にキスした」
「じゃ、次はセックスだ」と礼美。
「うーん。今の段階ではまだセックス許すつもりはない」
「えー、一度してみればいいのに」
「その言葉、そっくり冬に返す」
「でもふたりともいいなあ。私も彼氏欲しい」と礼美が言うが、私は
「このメンツの中で、レミがいちばん最初に結婚しちゃう気がする」
と言った。
「同意」と仁恵。
「私も同意」と琴絵。
「え〜?私今まで一度も恋愛経験無いよ」と礼美。
「でも何となくねー」と私。
「レミ、たぶん出会いから一気に結婚まで行きそう。男の子にとっては、レミみたいなタイプって、すごくそそられるのよね」と政子。
「そうかなあ」
「結婚と妊娠の順序が少し怪しいかも知れないけど」と琴絵。
「ああ、たぶん私、できちゃった婚になりそう」
「でも卒業するまでは、ちゃんと避妊させろよ」
「うん」
「入学の時にたくさん親にお金使わせたんだから、それを出産・育児で退学とかしたら、両親泣くからね」
「肝に銘じます」
「うーん、でも、私もできちゃった婚したい」と私。
「それはさすがになかなか厳しいな」と政子は笑いながら言った。
「あ・・・」
「はい、どうぞ」
と政子は私が言う前にバッグからさっと五線紙とボールペンを出して渡してくれた。
「ありがとう」
というと、私は今思いついた曲を急いで五線紙に書き始めた。
「すごーい。以心伝心だ」と仁恵。
「何も言わなくても、分かっちゃうのね」と琴絵。
「やはり冬と政子の関係って、恋人以上のような気がする」と礼美。
「同意」と博美。
「ねえ、まさか、それぞれ男の子の恋人作ってるのはカモフラージュで実はふたりはできてる・・・なんてことは?」と小春。
「やめてー、ほんとに私達そういう関係じゃないから」と言いながら私はボールペンを走らせた。タイトルの所には「baddie bride」と記入した。
5分ほどで書き上げたが、歌詞に若干の不満が残った。それを言うと
「じゃ、私が少し過激に書き直してあげる」と政子がいい、加筆修正していく。「えー?」と博美。
「きゃー」と仁恵。
「だいたーん」と琴絵。
「いいのかなあ」と私は頭を掻く。
「ダメだったら、みっちゃんから直しが入るでしょ」と政子は平然としている。この政子が修正した歌詞は、美智子も少し驚いたようだが「このくらいまではまあ、いいんじゃない?」と笑いながら言った。「今時10代のアイドルの方がとんでもなく過激な歌詞の歌を歌ってるよ」「PVも凄いのあるよね」
「最近のアイドルって下着姿を晒すの平気みたいね」
その夜は結局みんなで朝まで飲みあかし、私達は全員二日酔い状態で学校に出て行くことになった。ただ、仁恵は千葉まで戻る体力が無かったようで、「今日はもう学校パス」と言って夕方まで私の家で寝ていたらしい。
(私も放置して学校に行った)
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