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■夏の日の想い出・2年生の秋(9)

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海沿いの道を少し横浜方面に戻った所に和食の店があったのでそこに入った。
「いらっしゃいませ・・・・って、マサちゃんか。奥の柊の間を使って」
と、店内にいた中年の男性が私の方を見て言う。
「ありがとう」
「あ、どうもお邪魔します」と私はその声を掛けてくれた人に挨拶する。
 
奥の個室に入ってから尋ねる。
「もしかして、知り合いのお店?」
「うん。実は僕のおじさんなんだ」
「きゃー。そういうのは先に言っといてよ」
「ごめん、ごめん」
そのおじさんが注文を取りに来た。
「今日は新鮮なスルメイカが入ってるよ。あと富山のブリも美味しいよ」
「じゃ、そのあたり適当にお刺身盛り合わせで。あと天麩羅も」
「了解。お嬢さん、たくさん食べる方?」
「私、少食です」
「じゃ、少なめにね」
「はい」
 
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しばらく無難な会話をしている内に、お料理が出来てきた。お刺身と天麩羅、茶碗蒸しに、ひじきの煮物、高野豆腐、それに御飯と赤だしのお味噌汁だ。お刺身と天麩羅は盛り合わせの注文だったようだが、私の分と、正望の分と、それぞれのお盆に載せられている。正望のは少し多め、私のは少し少なめ。取り分けする形式ではないのが気楽だ。私達の『距離感』を読み取ってくれたのかな?とふと思った。
「御飯と味噌汁はお代わり自由だから、呼んでね」
「はい」
 
「いただきまーす」と言って食べ始める。
「わあ、イカが新鮮。甘ーい」
「近海物は生簀に入れておいて調理の直前にしめるからね」
「秋刀魚の天麩羅も凄く美味しい」
「例年だと今頃は東北方面のなんだけど、今年はどうかな」
「わー富山のブリだ。私この夏、富山には毎週のように行ってたからブリというか、その少し小さいのでフクラギって向こうでは言うんだけどね。こっちではハマチになるのかな・・・それ、随分食べたんだ。幾ら食べても美味しいね」
 
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「気に入ってもらって良かった」
「いいお店だよね。雰囲気いいし。この手のお店って、女性には入りづらいお店もけっこうあるんだけど、ここ見た瞬間、入りやすそうって思った」
「おじさん、若い頃は都内のお店で働いていたらしいから、そのあたりのセンスは鍛えられてるみたい。渋谷とか新宿とかで働いていたとか」
「個室がテーブル形式で、靴を履いたままでいいのも女性に優しいなと思った」
「うんうん、それもおじさん言ってた」
「このお店は10年くらい?」
「うん。そんなもの。僕が小学生の頃に出来たから」
 
その時であった。
「あ、みよちゃん、ちょっと待って」という、おじさんの声がする。
「あっ」と正望が困ったような顔をした。
「どうしたの?」と私が訊いた時、個室の障子が開き
「やっほー、正望、来てたの?」と言って30〜40代くらいの女性が入ってきた。そして「あら?」と言って私の方を見る。
 
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「こんばんは、お邪魔しております」と私は訳が分からないまま営業スマイルで挨拶した。
 
「あ・・・えっと、こちら、高校の時の同級生で、唐本冬子さん」
一瞬の沈黙の後、正望が紹介する。
 
「初めまして。唐本冬子と申します。△△△の文学部に在籍しております」
「で、こちら僕の母です」
「いや、あの、その・・・、初めまして。正望の母でございます」
なんか、お母さんの方が焦っているようだ。しかし若い感じのお母さんだ。正望の母であれば40代なのだろうが、30歳と言われても信じられる感じである。
 
「いや、ちょっとこっちの方に用事があって、今日は正望遅くなると言ってたからと思って、ここで御飯食べてこうと思って・・・私ったら、やだ、こんな格好で・・・・」
 
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ああ、気持ち分かる、と思う。こういう時に限って、適当な格好をしているものである。お母さんはノーメイクである。私もこれまではかなり普通の格好で正望とは会っていたのが、こないだからみんなに言われたおかげで、今日は一応のメイクはしてるし、まあおしゃれかな?という感じの服を着ている。一応スカートだし、柄ストッキングも履いてるし!!
 
取り敢えずお母さんも料理を注文し、私達も少し摘む感じのものを注文して、3人で食卓を囲んだ。
 
「いやあ、正望ったら、こんな方がいるなんて、私に一言も言ってなかったんですよ」
とお母さん。このシチュエーションだと、恋人と思われるよね?でも、私達は恋人なんだろうか・・・・
「いや、その内紹介するつもりではいたんだけど・・・」
と正望は困ったような顔をしている。
「ごめんなさい。高校卒業以来全然会う機会が無かったのが、8月に再会したばかりでしたので。ご挨拶もせずに失礼致しました」
と私も可能な範囲でフォローする。
 
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「そうだ、よかったらこの後、うちに来て、お茶でも飲んでいきませんか?」
とお母さん。私は心の中で『えー!?』と思いながら正望の顔を見る。
 
「母さん、急に言われても彼女も戸惑うだろうし、また改めてということでは」
「あら、そんな改まった話じゃないんですよ〜。単にお茶飲みながらのんびりとおしゃべりしようということで」
 
こう言われると、どうも断りにくい。そこで私は
「分かりました。それじゃ、おしゃべりだけということで」と笑顔で答えた。
 
食事が終わり、正望の車で3人で家まで移動した。私は食事代を払おうとしたのだが、お母さんが「いいから、いいから」と言って受け取ってくれなかった。正望の家は古い住宅街にあり、かなりの年期を感じる家であった。大きな家がけっこう並んでいるが、正望の家も建坪50坪くらいあるだろうか。
 
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「どうぞ、汚い所ですが、上がってください」
「お邪魔します。大きなおうちですね」
「でも古くてねぇ」
「わあ、柱が太い。最近の家は柱がほんとに細いですから」
 
などと言いながら、勧められるままに居間の食卓の前に座る。正座をしたら速攻でお母さんから
「あら、楽にしてくださいね」と言われた。
「ありがとうございます」と言って足を崩す。
 
「あなた、凄く行儀がいいわね」
「あ、いえ。子供の頃にいろいろ厳しく仕付けられたからかな」
「最近、なかなかそういうのが身についてる子、いないわよ」
 
「でも母さん、冬子さんが凄く気に入ったみたい」
「うんうん。可愛いし、上品な雰囲気持ってるし。あんたにはもったいない感じだわ」
「彼女、大学に行きながら歌手としても活動しているんだ」
「あら、それでそんなにセンスいいのね」
「いえ、売れない歌手ですから」
 
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「フーコ、ミリオンセラー2本も出した歌手が売れないと言っちゃいけないよ」
「えー!?ミリオン!2本も!?じゃ、もしかしてセレブじゃないの?
正望、あんたよくそんな人と親しくなったわね」
「あ、いえ、高校の時からの知り合いですから」と私。
「でも当時、既に歌手をしていたんだよ」
「へー。やっぱり、あんたにはもったいないわ」
 
ちょっとお母さんに気に入られすぎな感じで、私としては少しブレーキを掛けておきたかったのだが、こういう言われ方をすると、かえってそれもしにくい。セレブだから相手にしてもらえないのだと思われるのは不本意だ。
 
「これ、まだ彼女本人にも言ってなかったんだけど、僕としては将来、彼女と結婚できたらと思ってる。冬子さんのこと、凄く好きだから」
「正望さん・・・・・」
まともに好きと言われたのが初めてなので、私は顔を赤らめてしまった。
 
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「僕も弁護士目指してるから、法学部出たあと2年間法科大学院に行って、司法試験に合格して1年間は司法修習生やってだから、最短で弁護士になれるのが、6年後。でも駆け出し弁護士じゃ結婚できないから、せめて1年くらいは実績積んでから結婚したいから7年後くらいまで、待ってもらえたらだけど」
 
もしかして、これってプロポーズ!?きゃー、うそー?そんな心の準備が・・・だけど・・・・正望は承知の上だろうけど、お母さんには「あの事」を言っておく必要がある。
 
「あ・・・えっと、私も正望さんのこと好きですけど、歌手活動がけっこう忙しいので、当面結婚とか考えられないと思います。もっとも歌手って売れてる時が花で売れなくなる時は、明日からもう売れなくなっちゃうかも知れませんけど。ただ、もしかして、ずーっと売れ続けていたら、7年後も私、忙しいままかも知れません」
 
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「それは構わないよ。僕は君に主婦してくれと言うつもりないし。君は凄い才能持っているんだから、結婚してからでも、素敵な歌を世の中にどんどん出していけばいいと思う。それにアイドルみたいなタイプじゃないしね」
 
「うん。契約上は結婚は禁止はされていない。でも取り敢えず今は歌手辞められないし。実際、私が今辞めたら、会社潰れちゃうから」
「だよね。会社の売り上げの多分99%くらい、フーコが稼いでるでしょ」
「私はユニットの一部だから、貢献度としては40%くらいだよ」
「でも、フーコがいないと成立しないユニットだから」
「なんか凄い話だね。いや、そういう状況なら結婚しても、家庭になんかいなくてもいいよ。ばりばり仕事してもらって。食事なんて外食でもいいんだから」
 
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さて、困った。歌手活動の多忙さを理由にブレーキを掛ける作戦は無理っぽい。となると、やはり「あの事」を言わざるを得ない。
 
「正望さん、タイミングを見て話してくれるつもりだったのかも知れないけど、これ、今言わないといけないみたい。あの。お母さん。私、歌手活動のことは置いておいても、普通には結婚できない身分だと思ってるんです」
「あらま、どうして?」
「実は私、生まれた時は女の子ではなかったんです。今年の春に手術して女性に生まれ変わって、今月初めに戸籍も女性に変更したばかりで」
「えー!?」
とお母さんは絶句した。
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