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■夏の日の想い出・まつりの夜(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2014-11-24  
2006年の夏。中学3年生の私は「夏休みなら時間あるだろ?」と言われて蔵田さんの音楽制作によく付き合わされていた。この時期、制作は私が来やすいようにと配慮してもらって、私の自宅からそう遠くない場所にある風光明媚?な公園のレストハウス2階を6月から8月まで3ヶ月借り切ってやっていた。
 
私が住んでいた地域は一応東京都内ではあっても、かなりの田舎である。郊外ならまだいいが、市内には豊かな水田が広がる地域などもある。写真を撮るとふつうに田園風景になる。そういう場所なので深夜まで音楽制作をしていると周囲には人も車も居なくなったりする。
 
そこで大守さんは私に「車の運転」を教えてくれた。
 
「私、中学生ですよ。運転しちゃいけないのでは?」
「うん。道路は運転しちゃいけないけど、構内で練習するのはいいんだよ」
「そうなんですか?」
 
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要するに蔵田さんが詰まってしまった場合、他のメンツは何もすることがないので、その間の暇つぶしなのである。私が運転席に座り、大守さんが助手席に座って指示に従って車を動かす。最初はいきなり
 
「右がブレーキ、左がアクセルだから、それとハンドル操作だけ覚えておけば何とかなる」
などと大守さんが言って、後部座席に乗っている樹梨菜さんから
「清志君、それ右と左が逆!」
と言われたりしていた。
 

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「だけど最近、洋子ってセーラー服なんだね」
と樹梨菜さんから指摘される。
 
「実は男子制服を友人に取り上げられてしまって、これで学校に通えと言われちゃったので」
「その格好で学校にも行っているんだ! 先生に何か言われなかった?」
「授業中はワイシャツ姿になってます。でも登下校はセーラー服なんです」
 
「洋子、友人に恵まれているみたいね」
と言って樹梨菜さんは可笑しそうにしていた。
 

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7月8日(土)の夕方。その日は来週が合唱部の大会なので朝から夕方近くまで練習があり(当然私はセーラー服で学校に出かけていって練習をしている)、その後、自宅には寄らずにまっすぐ制作をしている公園に来る。すると唐突に蔵田さんが
 
「あばれ祭りを見に行くぞ」
と言った。
 
「何ですか?それ」
「能登のキリコ祭りって知らない?」
「知りません」
「巨大な燈籠で、とにかく暴れるんだよ」
 
さっぱり分からない! 燈籠って青森のねぶたみたいなものかな?と想像する。それでとにかく、私と蔵田さん、大守さん、樹梨菜さんといういつもの制作メンバーで蔵田さんのマツダ・プレマシーに乗り込み、高速道路に乗った。
 
「そのお祭りって明日やるんですか?」
「ううん。昨日と今日」
「もう終わってしまうんでは?」
「今夜の12時くらいがクライマックスなんだよ」
「能登ってどのくらい掛かるんです?」
「今カーナビには午前1時到着と書いてあるからたぶん11時すぎには着く」
「安全運転しましょうよ!」
 
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車は大守さん、樹梨菜さん、蔵田さんが交代で運転してノンストップで関越道、上信越道、北陸道、能登有料道路、珠洲道路と走り続けた。
 
「あれ?樹梨菜さん、自動車学校は卒業したんでしたっけ?」
「私、こないだ第一段階終わったから、今は仮免」
「いいんですか〜!?」
「助手席に免許取って3年以上の人が座っていればいいんだよ」
 

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あばれ祭りが行われている能登町の宇出津(うしつ)に到着したのは大守さんが言っていた通り、23時過ぎであった。東京から6時間で着いてしまったが、そんなにスピードを出している感は無かった(蔵田さん以外は!)。
 
漁協?の駐車場に車を駐め、歩いて行く。6時間ぶっ通しで走ってきたので歩くことで結構疲れが取れて身体が地球に定着するような感覚である。町の中心部?と思われる通りに多数の「キリコ」が並んでいる様は壮観であった。
 
キリコは能登地方に広く見られるもので地域によって形も様々であるが、ここ宇出津(うしつ)のものは巨大な縦長長方形の燈籠である。それを4本の丸太を横にしたものの上に立て、多人数でかついで練り歩くのだが、この地域のものは「あばれ」の名の通り、ゆっさゆっさ縦に揺らして「暴れる」。ひじょうに勇壮な祭りで、都会だと危険だとか何とか言う人が出そうだが、田舎ならではの原始的なエネルギーを感じる祭りだった。
 
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「洋子、今創作意欲が湧いてるだろ?」
「凄く湧いてます」
「書き留めておけ。俺も書いとく」
と言って、私も蔵田さんも紙にイメージの塊のようなものを書き留める。私は五線紙を使うが、蔵田さんの場合はだいたい広告の裏にABC譜である。広告の裏というのが想像を掻き立てるし、ABC譜が自分には合っていると蔵田さんは言う。
 
この時、私が書いたのは『光る情熱』という曲である。
 

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宇出津駅(廃駅)の裏手に細い道があり、そこに並ぶキリコの脇を通り抜けて、私たちは八坂神社に向かう。そういえばここ、のと鉄道能登線が廃止される直前に、篠田その歌『ポーラー』のPV撮影をしたんだったな、と私は昨年春のことを思い出していた。
 
八坂神社はとても小さな神社だった。昼間ここを通っても見落としてしまうだろう。その神社の前にキャンプファイヤーのような、たき火(?)が焚かれている。そこにやがて、神輿(みこし)をかついだ人たちが来る。この祭りは数十台のキリコの他に2個の神輿があるのだそうだ。私は外人さんの観光客が多いなと思って見ていた。周囲で英語だけでなく、ロシア語やスペイン語も飛び交っている。そして私は神輿が凄く新しいなと思った。今年新調したのだろうか?
 
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神輿をかついでいる人たちが、焚き火の周りを回る。熱そうと思って見ていたのだが、その内、神輿をその焚き火の中に放り込んでしまう。
 
あれ?御神輿って燃やしてしまうものだったのか、などと思って見ている。
 
ところが、しばらく見ていたら、今度はその焚き火の中に放り込まれた神輿の上に人が飛び乗って揺する。えーーー!? 
 
近くで外人さんの観光客が「Crazy!」と叫んでいたが、ほんとに私も同じことを叫びたい気分だ。
 
熱いよね?大丈夫なの?と心配になった。だって遠巻きに見ている私たちだって結構熱いのに。おそらく祭りのクライマックスで精神が高揚しているので、熱さもそう感じないのだろうが、これ絶対やけどしてない?などと思う。
 
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でも神輿が新品な訳が分かった。これ翌年再利用できないじゃん!
 
かなり長時間、焚き火の上で乱舞した後、神輿は焚き火から取り出されて、神社の神殿に運び込まれる。おもわず観光客が写真を撮るが、神職らしき人が「写真は撮らないでください!」と叫んでいた。大守さんが写真を撮っているので「いいんですか?」と尋ねたのだが、あとから
 
「カメラ壊れてる!」
 
と言っていた。
 
CCDが完璧に壊れていて修理に5万円もかかったらしい。むろん写真はこの場面は1枚も撮れていなくて、赤い線とかがむなしく写っているだけであった。
 
あそこは祭りの最高潮で、物凄い「気」の流れがあったから、カメラのような電子機器は異常動作してしまうのだろう。プラズマの塊でもできていたのではと私は思った。そのくらいあの場の雰囲気は特殊だった。
 
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私は帰り道、興奮の余韻の中で『炎の恋』という曲を書いた。
 

蔵田さんの楽曲制作はその後も続いていたが、8月になると今度は「能登半島でPVを撮るぞ」と言い出す。この時期楽曲制作していたのは、松原珠妃や芹菜リセの楽曲だったのだが、このPVはドリームボーイズのアルバム用である。
 
「あのぉ、楽曲は?」
「PVを作った後で作る」
「無茶な!」
 
今度は多人数だし、3日掛けてのものだというので飛行機か列車での移動かと思ったら、またまた車だと言う。
 
「だって能登半島って公共交通機関が絶望的だから」
「やはり、鉄道が無くなっちゃったの痛いですよね」
「バスは日に数本だし。そもそも小さな車体のバスだから、俺たちがどーんと乗り込んだら迷惑だよ」
 
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参加したのは、ドリームボーイズの6人、マネージャーの前橋さん、その助手の大島さん、ダンスチームが樹梨菜さん、私、凛子さん、アランさん、レイナさん、ゆまさんの6人。合計14人がマイクロバスに乗って東京から能登半島まで走っていったが、行き当たりばったりの旅になるからと言われて、ホテルも取らずに全行程車中泊の旅であった。なお、マイクロバス以外に蔵田さんのプレマシーも一緒に持って行っている。これは小さめの車があるとロケハンに便利なのと、着替える時に男女分ける必要があるからというのもあった。
 
むろん女子がマイクロバス内で着替え、男性たちがプレマシーの中で着替える!
 
「普通は正規メンバーが楽な所で着替えて、ダンサーは少しランク落とした所で我慢してもらわない?」
などという声もあったが
 
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「女の子は大事にしてもらわなくちゃ」
とデビュー以来のダンサーである樹梨菜さんの「鶴の一声」でそういう場所分けになったようであった。
 
実際には男性たちの中には、田舎で人目がないのをいいことに車の外で「青天プレイ?」で着替えている人も多かった。
 

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そのお着替えをしている時に、ゆまが言った。
 
「それで樹梨菜さん、申し訳ないのですが、ダンスチームは今回のお仕事を最後に辞めさせて欲しいのですが」
 
「結婚でもするの?」
などと訊かれる。
 
「えー!?私、彼女居ないですよ」
という、ゆまの発言は聞かなかったことにして
 
「実は、スカウトされたんです」
と言って、ゆまは自分がやっている Red Blossom というバンドがライブステージをしていた所で、∞∞プロダクションの人にスカウトされたことを話す。
 
「当日、Lucky Tripperというバンドとセッションしている時に、まとめて声を掛けられて」
 
「∞∞プロさんなら、$$アーツとは特に遺恨とかもないし構わないと思う。そもそも私たちは$$アーツと契約している訳じゃないから自由だしね。孝治とか前橋さんには言った?」
「まだです」
「じゃ、一緒に言いに行こう」
「はい、済みません」
 
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「だけど、それバンドまるごと使ってくれるの?」
と凛子さんが心配そうに言う。
「それなんですよ。合体演奏した時にスカウトされてるけど、ひとつのバンドとして売り出すつもりのようなんですよね。だからパートがダブるんですよ」
 
「ドラムスとかベースはどちらか片方だけでいいなんて話になるかもね」
という声も出る。
 
「一応Red Blossomの4人全員でなければ応じられないと申し入れはしているのですが」
「一本釣りされる場合もある」
「まあ、その時はその時ですけどね。どうも向こうさんはLucky Tripperの方をメインに考えていて、こちらはついでっぽい雰囲気なので警戒しています」
 
「Red Blossomって、男性2人・女性2人だったよね?」
と凛子さんが訊く。
 
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「そうなんですけどね。向こうさん、ドラムスの咲子を見て、ドラムスの人が紅一点なんだねと言うんですよ」
 
私たちはしばらく考えた。そして状況の想像が付いて吹き出した。
 
ゆまはドリームボーイズのダンサーをする時はセミロングのウィッグを付けているが、ふだんはベリーショートで、服装も男っぽいので充分男子に見える。FTMである樹梨菜さんよりかえって男っぽく見える。宝塚の男役のような雰囲気の「格好良い女」である。
 

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この旅では、美しい場所でPVを撮りながら、やはりそういう場所では創作意欲も掻き立てられるので、蔵田さんも私もけっこう曲を書いた。だいたい私と蔵田さん・樹梨菜さんの3人でプレマシーで走り回り、良い場所があったら他の人たちを呼ぶということをしたが、蔵田さんは運転中に着想が得られると、
 
「洋子。俺楽譜書きたいから、ちょっと運転代われ」
などと言った。
 
「私、無免許です。樹梨菜さん運転してくださいよ。免許もらったんですよね?」
「うん。取ったよ。私が代わるよ」
「いや、樹梨菜の運転は怖くて安心して楽譜を書いてられん」
「じゃ駐めておきましょうよ」
「走りながらでないとイメージが膨らまないんだよ」
などと言って、私は結構プレマシーを運転することになった。蔵田さんは過去に結構能登半島を走っているらしく、裏道を随分教えてもらった。裏道は交通量が少なく、すいすい走れるので書きやすいらしい。
 
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「見付かったら弁明してくださいよ」
「大丈夫だよ。無免許運転くらい、少年院に数ヶ月行ってくるだけで済む」
「それ嫌です!」
 
「おまえ戸籍は男だから丸刈りにされるだろうけどな」
と蔵田さん。
「男の入所者に絶対レイプされそう。あんた性転換済みだからね」
と樹梨菜さん。
「勘弁して〜。次からは大守さんも連れてきましょうよ」
「この3人だけの方が集中できるんだよ。だからおまえ16歳になったらすぐ免許取れ」
「普通免許は18歳からです!」
 

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