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■夏の日の想い出・アイドルを探せ(12)

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東京でのKARIONライブをした翌日、私は政子に誘われて書道部の女子で集まり安い洋服屋さんなどをのぞいたりして、ひとときの休暇をむさぼっていた。ハンバーガー屋さんで100円のドリンクを頼んでおしゃべりしていたのだが、その内、1人帰り2人帰りして、政子と2人だけになった。それで図書館でも行こうかなどと言っていた時、政子の携帯に花見さんから電話がある。
 
デートするなら先に帰るね、と私は言ったのだが、政子は私に居て欲しいと言った。
 
花見さんはイベントの設営などをする会社(△△社)のバイトに政子を誘った。関東一円で様々なイベントを企画実施している会社らしく、近くなら電車などで行くが、遠い所には自分の車で行くらしい。それでどうも花見さんはその車の中で政子とふたりきりになりたい雰囲気だった。
 
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それを政子が渋る。そして、車であちこち行く時は私に同行してもらいたいなどと言い出した。恋人同士が乗っている車に同乗するなんて、さすがの私も嫌だと思ったが、政子がどうしてもというので受諾する。
 
それで結局、私は政子と一緒にそこの会社のバイトをすることになってしまったのである。実際には、私は政子が花見さんと一緒に車であちこち行く時だけ出て行くことにさせてもらい、基本的には麻布先生のスタジオの方の仕事を優先してさせてもらっていた。
 
実際にその週、△△社に出て行ったのは、火曜日(顔出しを兼ねて都内の設営)、木曜日に横浜での設営の2回だけである。
 
この横浜で設営をしたイベントの出演者はリリーフラワーズという22-23歳くらいの女の子2人組で、ハイソプラノのデュエットがとても美しいペアだった。
 
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インディーズのアーティストということで雀レコードという所からCDが1枚出ているというので、会場に持ち込まれたCDを1枚個人的に購入した。政子も美しい!と言って聞き惚れていた。
 

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7月26日土曜日は大宮で設営の仕事があるということだったが、電車での移動なので、政子1人に任せて、私は朝から名古屋に移動する。KARIONの初ホールライブツアー3日目最終日の名古屋に参加する。チケットは2週間前に突然発表して発売したにも関わらず、この木曜日にソールドアウトしていた。
 
名古屋公演も先週の大阪・東京公演と基本的に同じ構成である。伴奏者は先週参加した、相沢・木月・鐘崎・黒木・児玉は同じだが、グロッケン・フルート・ヴァイオリン奏者は別の人である。
 
この公演が始まる前にちょっとした事故があった。
 
私たちは4人でおしゃべりしながら楽屋で着替えていたのだが、その時、小風が身振り付きで話していた時、バッグを倒してしまう。そしてそのバッグの中から赤い瓶が転げだしてきて、テーブルから落ち、回転椅子の脚にぶつかって瓶が割れてしまった。その瓶の液体がまともに私の足に掛かる。
 
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「ごめーん」
「何?これ?美容液か何か?」
 
「実はこれ・・・」
「育毛剤なんだよねー」
と美空が楽しそうに言う。
「私ちょっと髪が薄いの、結構ファンサイトとかにも書かれてるもんだから」
 
小風は髪質が細いので、確かに薄いように見えるかも知れない。髪の色も自然な茶色で軽く天然のカールも掛かっている。
 
「取り敢えず、掃除掃除」
 
というので、ビニール袋を手に手袋代わりにハメて、私の足に付いた分と床に流れている液体を全部ティッシュに吸わせ、割れた瓶も別の袋に入れた。
 
「これ高いの?」
「ちょっと買った後で後悔した」
「おぉ」
 
「でも冬、足にまともに掛かっちゃったね」
「たくさん毛が生えてきたりして」
「うむむむ」
 
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名古屋公演の後で、私たち4人と畠山さん・三島さんとで打ち上げをした。名古屋市内の喫茶店を貸し切った。軽食と紅茶・コーヒーだったが、ここの紅茶がとても美味しかった。なお相沢さんたちは(資金だけ畠山さんがポケットマネーから提供して)別途アルコール入りの打ち上げをしていた。
 
「次のツアーは多分11月になると思う。次のシングルが恐らく10月リリースだから、それを受けての今度は本格的な全国ツアーをしたい所だね」
 
「『夏の砂浜』『サダメ』の売れ行きと、9月のアルバムの売行き次第ですね」
「まあ、そういうこと。その3つ合わせて20万枚越えたら全国10箇所くらいのツアーやりましょうよ、とレコード会社とは話しているんだけどね」
 
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「20万枚って結構厳しい気が」
「アルバムは1枚を3枚分で換算ね」
「つまり売上で2億円程度ということですか」
「うん、そうなる」
 
「きゃー、億?」
と小風が言うが
「1000円のCDが10万枚売れたら1億だもん」
と美空に言われている。
 
「デビューCDの『幸せな鐘の調べ』は4.8万枚、2ndCDの『風の色』は3.6万枚だったけど、今度の『夏の砂浜』は既に3.5万枚を越えていて、このまま行くと5万枚を越える可能性もある。『サダメ』は初日に2万枚売れたからね」
 
「ファンが少しずつ熱くなって来てますよね」
 

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「売上が2億なら、歌唱印税は180万円で、1人あたり45万円ですね」
と和泉。
 
「おっ、バイク欲しいなあ」
と小風が言うが
「バイクは禁止」
と畠山さん。
 
「ちぇっ」
 
契約書ではバイク(の運転)は禁止だが乗用車なら誓約書を提出した上で運転しても良いことにしているらしい。ちなみに和泉は高1の内に小特と原付の免許を取得していた(要するにフルビッター狙いらしい)。
 
「私は思いっきり焼肉が食べたい」
と美空。
 
「45万円なら5000円の食べ放題に90回行ける」
「わぁ、幸せ!」
 
「美空は御飯食べてる時、ほんとに幸せそうな顔してるからなあ」
「でもスリムだよね」
「うん。私、太らない体質みたい」
 
「美空たち、契約書に体重のことは書かれてるの?」
と私は訊いたが
 
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「今美空ちゃんの話聞いてて、契約書に書いておくべきだったと後悔した」
と畠山さんが言っていた。
 

KARION名古屋公演の翌日は、政子は千葉で設営作業と言っていたので、電車で行くだろうから私は不要だろうと思っていたら、花見さんが休みなので手伝ってと言われて、結局電車で政子とふたりで千葉まで行き、作業をした。
 
この千葉でまた私たちはリリーフラワーズの歌を聴き、その美しい声に酔いしれていた。ただ私はリリーフラワーズとKARIONを比較した時、何かリリーフラワーズに足りないものがある気がしてならなかった。
 
どちらもハーモニーが美しい歌唱なのだが、KARIONにはヒット性があり、リリーフラワーズには、ハッキリ言ってヒット性が無い。現場責任者の須藤さんは、リリーフラワーズを年内か年明けくらいにメジャーデビューさせたいと言っていたが、私は無理じゃないかという気がした。
 
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私はどうにも気になるので、その日の夕方、予定外に∴∴ミュージックを訪問した。たぶん和泉はいるんじゃないかと思ったら、居たので、声を掛けて、リリーフラワーズのCDを一緒に聴いてみる。
 
「低音が足りない」
とあっさり和泉は言った。
 
「あっそーか」
 
「昔の聖歌隊とかなら、通奏低音があるでしょ。KARIONの場合もピアノとかヴァイオリンが低い音を出しているから、それで音が安定するんだよ。KARIONだと美空が結構低い音を歌ってくれるのも大きい。でも、このペアの場合は、ふたりともハイ・ソプラノだし、アカペラが多くて、伴奏楽器を使っている場合も電子キーボードのチェンバロとかフルートとか、高い音ばかり使っている。天使の歌声みたいな雰囲気にはなるけど、落ち着かないよ、これ聴いていたら」
 
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「なるほど」
 
「ま、言っちゃなんだけど、冬と赤いボールペンの子が代わりに歌った方がずっと聴きやすい歌になる」
 
「ああ。一度観客の前で歌わせてみたいね」
「その子、ステージの経験は全然無いの?」
 
「バックダンサーは、結構やってたんだよ。中2くらいの頃から」
「だったらステージ度胸は結構あるかもね」
「そうだね。ストリートライブとか持ちかけてみるかなあ」
 
「それ、私も一度やってみたいな」
「ふふふ」
 

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次に私が設営に駆り出されたのは次の週末、8月2日土曜日であった。この一週間はずっとサウザンズの音源製作をやっていた。今回のアルバムでは半分くらいの曲を事実上私が編曲することになり、CDのクレジットにもmusic arranged by Southands and Yoko.と書かれることになる。
 
土曜日は甲府での設営で、この日は早朝花見さんの車に拾ってもらい甲府まで行って作業をして、夕方また花見さんの車で帰って来た。車内で結構政子が花見さんとイチャイチャしていたので、何とかうまく行っているのかなと思い私は微笑ましい気分だった。
 
翌日8月3日は宇都宮と聞いたのでまた花見さんの車で行くのかなと思ったら花見さんが休みだという。それで電車で来てくれということだったので先日の千葉同様、政子とふたりで電車で出かける。この日もリリーフラワーズの出演ということであった。この時期、リリーフラワーズは△△社の中核アーティストっぽくなっていた感もある。
 
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ただこの時期、私は先日足に掛かってしまった小風の育毛剤のおかげで足の毛がどんどん生えてきて、ほんとに困っていた。KARIONの公演もドリームボーイズの公演も無くて助かった!などと思っていた。
 
そしてこの日、リリーフラワーズは来なかった。
 

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それでステージに穴を開ける訳には行かないというので、私と政子がリリーフラワーズの代役をさせられるハメになる。女の子2人のユニットの代役をさせるため須藤さんは私を「女装」させたが、「なんか可愛い女の子になる!」
と驚いていた。この時、須藤さんは私の足の毛をきれいに剃ったりしていたので、まさか私が普段から女の子の格好をしているとは夢にも思わなかったようであった。
 
その日帰宅してから私は今日のことを畠山さんに報告したら、この日は畠山さんも大笑いしていた。私もこんなのはこの日1日だけのことだろうと思っていたのであった。
 
ところが翌日私と政子を呼び出した須藤さんは、リリフラワーズのこの後9月頭までの予定が他のアーティストにどうしても振り替え切れないので、このまま取り敢えず月末まで(正確には9月にも2件あるので9月13日まで)私たちにリリーフラワーズの代役をやってくれないかと要請した。
 
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私は∴∴ミュージックさんとの関係があるので困ると思ったのだが、政子が乗り気だし須藤さんは強引だしで、結果的に私は押し切られてしまう。そしてこの日、私たちのユニット名(この時点では9月13日までの臨時ユニットの予定)としてローズ+リリーという名前が定められたのであった。
 

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この件を畠山さんに報告すると、畠山さんもさすがに困ったという表情をした。
 
「1日だけならいいけど、今月いっぱいになっちゃったのか」
「すみません。どうしても代役の都合が付かないということで、今月というか来月の13日まで入っていたリリーフラワーズの予定を代わりに消化してくれないかと言われまして」
「うーん。。。。」
 
その日、私はやっとミクシングを終えた『雪の恋人たち』『坂道』の音源を畠山さんと和泉に聞かせた。録音は6月に終わっていたのだが、その後KARIONのアルバム制作にキャンペーンとライブ、晃子とのライブ、サウザンズの音源製作、蔵田さんとの創作活動(芹菜リセおよび松原珠妃のアルバム用楽曲)などがこの時期は目白押しで、ずれにずれ込んだのである。
 
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「ともかくも、その代役出演が終わったら、あらためてこの自主制作音源を持って営業して回ろうかなとも思っているのですが」
 
「いや、営業して回らなくても、うちと契約してよ。その子とふたりまるごとでもいいよ。相手はどんな子なの?」
などと笑って言いながら、畠山さんは音源を聴いてくれた。
 
しかし、その音源を聴いて、畠山さんの表情が変わる。和泉も表情が変わる。何だかふたりとも、凄くマジな顔になる。
 
「このユニット、凄く人気が出ると思う」
と和泉が言った。
 
「相手の子、下手ではあるけど、不思議な魅力を感じる。それに曲のアレンジとミクシングが素晴らしい。普通の人が編曲して、普通の技術者にミックスを任せたら、まあ自主制作音源だね、という感じになったろうけど、これはプロの手だもん」
と畠山さんは言うが
 
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「そりゃ、冬はプロだからね」
と和泉。
 
「だから、この仕事、絶対9月13日では終わらないよ」
「えーー!?」
 
 
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