広告:ここはグリーン・ウッド (第5巻) (白泉社文庫)
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■夏の日の想い出・アイドルを探せ(10)

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名古屋のキャンペーンが終わった後、東京に帰る新幹線の中で、畠山さんは先行シングルに『サダメ』『Snow Squall in Summer』の2曲を入れることは決めているが、もう1曲、過去に発表した曲のどれかのリミックス版を入れたいと思っているが、どれがいいと思うか?と私たちに訊いた。
 
「18日金曜日発売ということは16日水曜日に発送ということでしょう?既にプレスが終わっているのでは?」
 
「それが急遽発売が決まったので、明日の朝データを持ち込んで明日中にプレスして火曜日レコード会社に納品、即、宛先仕分けして水曜日発送らしい」
「自主制作CD並みだ」
 
「あ、それからKARIONの担当が決まったから。山村美喜さんという人。むろんKARION専任ではなくてアイドル系の歌手ユニットをたくさん担当している人だけど。集団対応から固定担当にランクアップ」
「おぉ」
 
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「火曜日にでも会いに行って挨拶しよう」
「はい」
「蘭子も来るよね?」
「パスで」
 
「で、明日入れる曲だけど、どれにしよう? 曲が決まればサウンド技術者の人と一緒に今夜データをまとめる」
 
「相変わらずハードな仕事ですね〜」
 

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「社長、この曲を入れてもらえませんか? 新曲ですけど。昨夜こんなのできたってゆってメールしてきたんですよ」
 
と言って和泉は昨日私とふたりで作ったばかりの『空を飛びたい』の譜面を出した。手書きではなく、私が昨夜の内に打ち込んでホテルのサービスを使ってプリントしておいた譜面である。
 
「おっ、また少女A,少女Bの作品か。今度その子たちに1度会わせてよ。僕も一度挨拶しておきたいし」
 
「じゃ2学期になってからでも」
「うん」
 
「これまでの曲とは少し雰囲気が違ってて、凄くポップな作品だね」
「ちょっとたまには違うこともしてみようかというのでタイトルも日本語にしてみたらしいです」
「なるほどねー」
 
と畠山さんは感心しているが、小風が心配したように言う。
 
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「でも、CDのデータは明日の朝、持ち込まないといけないんでしょ? その新曲の音源はいつ作るの?」
 
「当然今夜」と和泉。
「つまり、この新幹線が東京に着いてから?」
「スタジオ直行かな」
「ひゃー」
 
「伴奏はどうしますか?」
「訊いてみよう」
 
と言って、畠山さんは相沢さん、木月さん、鐘崎さん、黒木さんにメールしていた。ほどなく返事が返ってくる。
 
「相沢さんは他のアーティストのサポートで岩手に行っているらしい。木月さんはプライベートな旅行で高知らしい」
「ちょっと無理ですね」
 
「鐘崎さんはOKの返事。黒木さんはもう仕事終わりと思ってビール飲んじゃったけどいいですか?というので構わないから来てと頼んだ」
 
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「アルコールが入った方が名演になったりして」
「ああ、そういうアーティストは結構居る」
 
「ギターとベースはどうしましょうか? キーボードは私でも蘭子でも弾けるし、ヴァイオリンは当然蘭子に弾いてもらって」
「グロッケンは当然和泉が弾く」
 
「みーちゃんはベースをかなり弾くはず」と小風。
「こーちゃんはギターを結構弾くはず」と美空。
「ほほぉ」
 
「美空がみーちゃんで、小風がこーちゃんなんだっけ。じゃ和泉はいーちゃん?」
「和泉はいっちゃんだな」と小風。
「蘭子はらっちゃんだよ」と美空。
 
「らっちゃん・・・・・」
 

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そういう訳で、私たちは東京駅から青山の★★スタジオに直行し、5階紅鶴の部屋に入った。30分ほどで黒木さん、少しして鐘崎さんが来た。私が急遽新幹線の中とこのスタジオに来てからも書き続けていたアレンジ譜を、ふたりに見てもらって多少の調整をする。
 
なお三島さんには何かの時のためにということで、仮眠しておいてもらうことにした。また雑用係として、事務所の若い人で望月さんという女性を急遽呼び出した。専門学校を出たてでProtoolsの操作も分かるのでそちらの補助の他、彼女にコーヒーをいれたり、夜食の買い出しなどをしてもらった。私は初対面だったが、長身で明るい感じの女性だった。
 
スタジオの楽器を借りて、小風のギター、美空のベース、私のキーボード、鐘崎さんのドラムス、黒木さんのサックス、というので演奏し、和泉に全体を見てもらう。再度多少の譜面調整をして、演奏の収録をした。
 
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「小風ちゃん、美空ちゃん、ギター・ベース上手いじゃん」
と黒木さんが褒める。
「みーちゃん、お姉さんが組んでるバンドのベーシストだもんね」
と小風。
 
「へー、KARIONやる前に、そんなことしてたんだ?」
「今でもやってたりして」
「何!?」
「ちょっと、こーちゃん!」
 
「僕、そういう話聞いてないけど」
と畠山さんが厳しい顔をする。
 
「済みません。基本的に断っているんですけど、今年に入ってからも何度かアマチュアの大会に出ました」
と美空が謝る。
 
「それって、美空がアマチュアの大会に出られるもの?」
と和泉が疑問を呈する。
 
「美空は歌手のプロだけど、ベースのプロではないかもね」
と私は言ってみた。
 
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「でも専属契約に反しませんか?」
 
「ちょっと待って」
と言って畠山さんは自分のパソコンを開いて、どうも契約書の書面を呼び出しているようだ。
 
「・・・・・乙は本契約期間中、甲の専属実演家として、甲のためにのみ実演を行うものとする。乙は甲の事前の承諾無しに下記のような行為をしてはならないものとする・・・・」
 
「美空・・・」
「ごめんなさい」
「何回くらい出たの?」
「えっと。。。2月と5月に1回ずつです」
「アマチュアの大会?」
「はい。全然入賞とかできませんでしたけど」
 
「じゃ、その2件に関しては目を瞑る」
と畠山さんは言う。
「でも今後、そういう話があった時は事前に僕に相談して。夜中でも構わないから電話入れて」
「はい。申し訳ありませんでした」
 
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「でもKARIONのスケジュールとぶつからない限りは、そういうのたまにやるのも悪くないかもですね」
と和泉は言う。
 
「KARIONって普通のアイドルとは少し違うから。芸術的な能力が高いことを示唆するのは、イメージ戦略としても悪くない気がします。積極的にそういう情報を流す必要はないですけど。知る人ぞ知るみたいな感じで」
 
「そうだなあ。まあ、とにかく事前に連絡してよ」
「はい、必ず連絡します」
 

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「よし!次、歌の収録!」
 
ということで、気を取り直して、和泉・私・小風・美空の4人で歌う。私も和泉も歌唱に参加しているので、黒木さんにチェックしてもらい、多少の調整をした上で収録した。
 
最後はこれに付加的な音を加える。和泉のグロッケン、私のヴァイオリン、更に小風がタンバリン、美空がオカリナを吹いて、音の彩りを増やした。
 
これで仮ミックスして聴いてみると良さそうな感じだったので、黒木さんと鐘崎さん、それに美空と小風はお疲れ様でしたということにした。
 
時刻は23時を回っていたが、私と和泉、それにスタジオの技術者さんとで、大急ぎで正式なミックスダウンを行う。これに1時間ちょっと掛かり、その後既にできている『サダメ』『Snow Squall in Summer』と音量のレベルを揃え、曲間も定めて、夜中1時頃にマスター音源が完成した。
 
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「徹夜しなくて済んだね」
「さすがに今日は徹夜したくなかったから良かった」
 
「君たち、帰宅する?」
「しないと叱られます」と私。
「同じく」と和泉。
 
ということで、仮眠というより熟睡していた三島さんを起こし、望月さんが車を出して運転し、三島さんが助手席に乗り、私と和泉が後部座席に乗って、各々の自宅まで送り届けてもらった。一応電話連絡はしておいたのだが、三島さんが各々の自宅で親に、遅くまで掛かってしまったことを謝ってくれた。
 

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私が帰宅した時、遅く帰って来た父が母とふたりで夜食を食べていた所だった。
 
「お前、凄い時間まで部活やってるな」
と父。
 
「ごめーん。明日の朝までにどうしても作り上げないといけない作品があったもんだから」
「頑張るのはいいが、身体壊さないようにしろよ」
「うん。疲れたら寝てるから」
 
「ところで、お前なんでスカートなんて穿いてるの?」
「最近じゃ、男の子でスカート穿く子も珍しくないよ」
「そうだっけ。そういえば SHAZNA とかもいたなあ」
「ああ。IZAM 以来、男の子のスカートはタブーじゃなくなったね」
 
後から母に「カムアウトの絶好の機会だったのに」と言われたが、さすがにこの日は私も疲れ切っていて、多大なエネルギーが必要な自分の性別のカムアウトまではする気力が無かった。
 
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7月2日に発売されたKARIONの3rdシングル『夏の砂浜』は好調に売れていて、最初の2週で3万枚を突破。デビューシングルの4.8万枚に迫る売上になりそうな勢いだった(2枚目のシングル『風の色』は3.6万枚しか売れていない)。そして18日に発売されたアルバムからの先行カット『サダメ』も初日に2万枚売れて好調だった。
 
そして19日、KARION初の公式ホールライブが大阪ビッグキューブで行われた。(ローズ+リリーが誕生するわずか2週間前である)
 
伴奏は、相沢(Gt), 木月(B), 鐘崎(Dr), 黒木(Sax), 児玉(Tp) が揃っていて、他にサポートミュージシャンとして、グロッケンシュピール・ヴァイオリン・フルートの人を頼んでいた。そしてキーボードは私が弾くことになっていた。
 
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相沢さんたち5人は今日・明日、そして急遽追加された名古屋公演にも付き合ってくれることになっている。他の人は名古屋は別の予定が入っていたので、別の人を手配してもらうことになっている。
 
「このバンドの名前を決めちゃわない?」
と黒木さんが提案する。
 
「何か案がある?」と相沢さん。
 
「トラベリングベルズ」
と言ったのは木月さんである。
 
「ほほぉ」
「やはりライブでの伴奏というのが一番大きな役割だろうから、KARIONと一緒にあちこち旅して行って演奏する。旅する鐘だから、travelling bells」
 
「トラベリングベルって、ベルリラのことでもありますよね?」
「そうそう。そのあたりは掛け言葉」
 
「でも僕、これ専任という訳にもいかなくて、いくつかのバンド掛け持ちだけど」
と鐘崎さんは言うが
 
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「専任にして給料払うほどの予算は無いはずだから、そのあたりは適当に」
「そうそう。たまたま出られない時は誰か頼めばいいし」
 
「わりとドラマーって、そういう仕事の仕方になりがち」
 
「正キーボード奏者の蘭子と、正グロッケンシュピール奏者の和泉もトラベリングベルズのメンバーだよな?」
「当然」
 
「そのふたりがトラベリングベルズの最古参メンバー」
「なるほどー」
 
「そうだ。ついでにニックネームも決めない? GLAYなら TERU, JIRO みたいな感じでさ」
と黒木さんが言い
 
「ああ、アルファベットがいいよね」
 
などと木月さんも言っていたら、小風が手を挙げて
 
「私が決めてあげる」
と言い
 
「相沢孝郎さんは TAKAO, 黒木信司さんは SHIN, 木月春孝さんは HARU, 鐘崎大地さんは DAI, 児玉実さんは MINO」
と言い、更に今日明日だけのサポートミュージシャンさんたちの名前まで勝手に決めてしまう。
 
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「でもよく今日来たばかりの私たちの名前を下の名前まで覚えてますね」
とフルートの人が感心したように言う。
 
「小風はそういうのが割と得意だよね」
「うん。得意」
と本人も自信がある感じ。
 
「じゃ、小風ちゃんに敬意を表して今言われたニックネームで」
「OKOK」
 
そういう訳で「トラベリングベルズ」というバンド名と、各自のニックネームが定まったのであった。
 

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