広告:チェンジH green (TSコミックス)
[携帯Top] [文字サイズ]

■夏の日の想い出・アイドルを探せ(2)

[*前p 0目次 8時間順 #次p]
1  2  3  4  5  6  7  8  9 10 11 12 
前頁 次頁 時間順目次

↓ ↑ Bottom Top

12時すぎに∴∴ミュージックのスタッフさんがヴァイオリンを持って私の所まで来てくれたので、御礼を言って受け取り、中を開けて調弦を確認しようと思ったら・・・
 
「この弓、新品じゃん!」
「へー、すごい」
と日南ちゃんは言うものの、
 
「いや、それでは音が出ない」
と言って私は焦る。
 
しかもヴァイオリンケースの中に松脂が見当たらない。新品のヴァイオリンの弓は、松脂を塗らないと音が出ないのである。最初は弓全体に400〜500回くらい塗る必要がある。
 
私は焦った。そして焦って視線を泳がせた時、旧知のヴァイオリニスト三谷さんと目が合った。
 
「三谷さーん!」
と声を掛けて近寄る。
 
「おお、ピコちゃん。久しぶり〜」
と三谷さん。
 
↓ ↑ Bottom Top

なんて懐かしい名前を呼ばれるんだろうと思ったが私は
「松脂貸してください!」
と頼んだ。
 
三谷さんが持っていた松脂を大急ぎで弓に塗る。(実際には左手に松脂を持ち、右手で弓を激しくボーイングするように動かす:以前アスカの同級生の男子がオナニーするように動かすなどと発言してアスカに殴られていた)。必死で塗っているが、12時15分になる。貝瀬日南ちゃんがもうスタンバイしなければならない時刻だ。
 
「その子の伴奏で使うの?」
と三谷さんが訊く。
 
「いえ、その後の、13時からのKARIONの伴奏で使います」
と私が言うと
 
「じゃ僕が塗っておくから、君はもう行って」
と言うので、私は三谷さんにお願いして、舞台袖に行くことにした。三谷さんはもう自分の出番は終わって、居残りでイベントを見たり、知り合いのミュージシャンたちと話したりしていたらしい。
 
↓ ↑ Bottom Top


舞台袖で日南ちゃんとおしゃべりしながら、演奏予定の譜面を読む。
 
「わあ、日南さん、凄く可愛い曲を歌っているんですね」
「私はもっと大人っぽい曲を歌いたいんだけどね〜。もう可愛く可愛くしてなさい、と言われて」
 
「まあ、アイドルですから。音源製作で関わっている別の事務所のアイドルさんも似たグチをこぼしてましたよ」
「あはは」
 
やがて前歌っていた男の子4人のユニットが下がり、日南ちゃんが出て行く。何だか物凄い歓声があがる。
 
実は私はこの時まで、貝瀬日南という名前を知らなかったのだが、結構コアなファンがいるのかな?と思った。
 
譜面を持って少し遅れて出て行き、キーボードの譜面立てに置いて、アイコンタクトで伴奏を開始する。そして彼女が歌い出す。
 
↓ ↑ Bottom Top

なるほど〜。と私は思った。私が気付かなかったはずである。
 
下手だ!
 
秋風コスモスよりは遥かに上手いけど、まあアイドルの歌唱力としては並の下というところかなと内心思う。でもコスモスちゃんにしても、この日南ちゃんにしても、とても楽しそうに歌っている感じがいい。どちらの事務所も口パク禁止なので、下手でもちゃんと歌う。それも本当に頑張って歌っているのが気持ち良く感じられる。
 
好きだから歌を歌う。
 
きっと彼女たちは、人前で思いっきり歌を歌えること自体が嬉しいのだろう。
 
保坂早穂、芹菜リセ、松浦紗雪、松原珠妃、...そういう日本の歌姫の座を争うような「頂点の戦い」の場もあるけど、こういう楽しんで歌うという世界もまた大事だよな。
 
↓ ↑ Bottom Top

私はそう思いながら、笑顔でキーボード伴奏を続けた。
 

15分間で短いMCを交えて4曲歌い、私たちは観客の歓声の中、上手袖に下がった。入れ替わりに、下手袖から、女子中学生7人のユニットが走り込んできた。
 
私は日南ちゃんと握手をしてから、
「着替える時間がないから、この衣装このままお借りしておきます」
と日南ちゃんのマネージャーさんに言って、さっき三谷さんと別れた場所に走って行く。
 
「ピコちゃん、塗り終わったよ。快調に音が出るよ」
と三谷さん。
「ありがとうございます! 大感謝です」
と言って受け取る。
 
「調弦もしといたけど、念のため確認して」
「はい」
と言って、私はGDAEの各弦を弾いてみて正しい音が出るのを確認する。
 
↓ ↑ Bottom Top

「きれいに合ってますね。ありがとうございます」
「あ?君って、絶対音感持ち?」
「いえ。私のは相対音感です。今キーボードで伴奏してきて、音階が頭に残っているので」
「おお、それは凄い!」
と言って三谷さんは微笑んでいた。
 
「この御礼はまた改めて。あ、良かったら携帯のアドレス交換しません?」
「おお。しとこうしとこう」
 
と言って、携帯の番号とアドレスを交換し、再度御礼を言ってから下手舞台袖に走って行く。
 

↓ ↑ Bottom Top

舞台袖では既に和泉・美空・小風と、伴奏陣、コーラス隊がスタンパイしている。
 
「すみませーん。遅くなりました」
「逃げたかと思ったぞ」と美空。
「逃げたら、蘭子の恥ずかしい写真を公式サイトにアップしようかと思ったのに」
と小風。
 
「そんな写真あったっけ?」
「寝顔の写真ならあるな」
「うーん・・・」
「博多に行った時の下着写真もある」
「嘘!?いつの間にそんなものが」
「ついでに性別を明かすぞ」
「あはは」
 
伴奏陣の相沢さん(Gt), 木月さん(B), 黒木さん(Sax)と再度握手。更に今回が2回目の参加というドラムスの鐘崎さん、そして初めてというキーボードの人とフルートの人、グロッケンの人とトランペットの人にも挨拶をして握手した。鐘崎さんは先週の都内でのキャンペーンライブにも参加したということで今回が2度目のKARIONの伴奏ということであったが、結局このままこの伴奏陣に定着してしまう。
 
↓ ↑ Bottom Top

コーラス隊は女子中生っぽい4人組で、彼女たちとも握手した。
 
「蘭子さんも伴奏の常連さんなんですか?」
とひとりから訊かれたが、その時、小風が横から
 
「蘭子はKARIONのひとり。KARIONは実は4人なんだよ」
と言い
「えー!? そうだったんですか!」
と驚かれてしまった。
 
「小風さん、そういうの、彼女たち本気にしちゃいますよぉ」
と私は言っておいた。
 

↓ ↑ Bottom Top

やがて歌っていた(正確には口パクで踊っていた)女子中学生7人組が下がり、KARIONの出番である。
 
まずは和泉・美空・小風の3人が走って出て行き
「こんにちは!KARIONです!」
と挨拶する。
 
それから私たち伴奏陣とコーラス隊が出て行くのだが、その時唐突に相沢さんが
「あ、これ今日の譜面」
と言って渡す。
 
「はい」
と言って受け取ったが、5分前に見たかったよぉ、と思った。
 
楽譜を譜面立てに置き、鐘崎さんのドラムスに合わせて伴奏を開始する。最初は『トライアングル』。五重唱の曲なので、コーラス隊の内の2人が前に出て行き、和泉・美空・小風と並んで5人で歌う。私は渡された譜面を見ながら弾く。完璧な初見演奏だが、曲自体は頭にしっかり入っているのでそう大きな問題は無かった。
 
↓ ↑ Bottom Top


和泉が短いMCをして2曲目来月発売予定のCDから『夏の砂浜』を演奏する。この曲は4重唱なので、今前で歌っていた子のひとりが後ろに下がり、4人で歌う。確かに言われてみると、KARIONって、前面で歌う人数が曲によって違うし多人数のグループと思われているのかも知れないなという気もした。
 
更に3曲目は『幸せな鐘の調べ』を歌う。この曲は4人で歌う譜面と3人で歌う譜面があるのだが、今日は3人で歌う譜面のようで、前面で歌っていたコーラスの子も後ろに下がり、和泉・美空・小風の3人だけで歌った。
 
そして次は最後の曲だ。曲目はKARIONの初アルバムに入れる予定で和泉とふたりで書き上げたばかりの『Snow Squall in Summer』と指定されていた。私は伴奏譜を見るのにページをめくる。
 
↓ ↑ Bottom Top

ギョッとした。
 
そこには五線譜は無く、マジックでこう書かれていた。
 
「楽器をその場に置いて前に出よ」
 
私は思わず相沢さんを見た。「早く!」と言われる。
 
こんな所でモタモタする訳には行かない。ヴァイオリンをその場に置くと、急いで前面に走り出た。美空が楽しそうに私にマイクをひとつ(『夏の砂浜』
を前で歌った子が使っていたもの)渡す。鐘崎さんのドラムスが打たれる。私は開き直った。
 
私自身が和泉と相談しながら書いた4声アレンジの譜面を思い出しながら、この曲を歌う。和泉のメロディーや、小風と美空のハーモニーに加えて私の歌うパートは、時には和音を補充して安定させ、時にはカウンターを入れて彩りを豊かにする役割である。
 
↓ ↑ Bottom Top

3人だけなら合唱部のノリなのだが、私のパートが入ることで、安定感も高まりまたとてもポップな音になる。ゆきみすず先生が試行錯誤の末に確立した KARIONサウンドの世界観である。
 
そのゆき先生は5月に病気で倒れて、現在退院はしたものの療養中だ。私はゆき先生にこの歌声が届くようにと思いながら、熱唱した。
 
やがて終曲。大きな拍手に4人で手をつなぎ、それぞれの手を斜めに挙げて歓声に応えて、私たちは上手袖に下がった。ヴァイオリンはキーボードの人が回収して持って下がってくれた。
 

↓ ↑ Bottom Top

「やられた」
と私は笑いながら言った。
 
「蘭子に行動させるには、それしかない所に追い込むのが一番いいから」
と和泉。
 
「去年の11月以来だね。人前で4人で歌ったのは」
と小風は楽しそう。
 
「でもKARIONはやはり4人だったのかと言われそう」
 
KARIONのファンサイトに行くとどこにも「KARION4人説」に関するコーナーが出来ている。
 
「コーラス隊の子が前に出たりしていたから、ヴァイオリン弾きが前に出てきて歌っても、特に何とも思わなかったと思うよ」
などと相沢さんは言っていた。
 

↓ ↑ Bottom Top

「まあ、そういう訳でさ、蘭子ちゃん。来月の7月19日,20日のライブにも出てよ」
と畠山さんから言われる。
 
「大阪ビッグキューブと、東京スターホールですか?」
「ちゃんとフォローしてるじゃん」
「私もKARIONの一員ですから」
と言っちゃうと
 
「よしよし」
と和泉が私の頭を撫でる。
 
「KARION初の3000人クラスのライブだよ」
「初ライブは観客5人だったからねー」
「KARIONも進歩したねー」
 
「チケットも今8割くらい売れてるから、最終的にはソールドアウトすると思う」
 
「蘭子はちゃんと前面で歌ってよね」
「伴奏なら」
私も今日はちょっと昂揚していたので、あっさり出演を同意してしまう。
 
「じゃ今回と同じ方式で」
「最初はヴァイオリンでもいいけど、途中から歌唱参加ね」
「最後まで伴奏だけにさせてください」
 
↓ ↑ Bottom Top

「いいよ。また『前に出ろ』と譜面に書いておくから」
「はははは」
 

みんなはそのまま食事に行くと言うことであったが、私は13:45からドリームボーイズの練習があるので、ヴァイオリンを畠山さんに返し、みんなと別れて一度更衣室に行く。結局今日はお昼は抜きになるようだが、仕方無い。
 
更衣室で黄色いドレスを脱ぎ、家から着て来た学校の女子制服に戻る。衣装を返すのに日南のマネージャーさんに連絡を取ったら、玄関付近にいるはずの大宮さんに返してと言われたので、そちらに行き、大宮さんを見つけて衣装を返して外に出た。
 
少し早いけど、このままドリームボーイズの練習に行こうかな、などと思いながら庭の花壇など見ていた時、駅の方からこちらに、うちの高校の女子制服を着た子が来るのに気付く。同じ高校の人にはこの姿見られたくないし、知り合いじゃなければいいけどなあと思って少し見ていると、なんと政子だった。
 
↓ ↑ Bottom Top

ひゃー、よりによってと思い、見つかりませんように、と思って思わず近くの売店の陰に隠れる。
 
すると、その政子に大宮さんが声を掛ける。
 
「中田さん」
と呼び止めている。
 
「こんにちは。今日は出場者?」と大宮さん。
「いえ。観客です」
「チケット持ってる?」
「当日券で入ろうかと思ってました」
「バックステージパスをあげようか?」
「えー!?」
 
「またダンサーやってよ。中田さん即戦力だからさあ。中田さんって上手な人の傍で踊ると、凄く上手に踊るんだよね」
と大宮さんは言った。
 
ほほぉ、と私は意外な発見をした思いだった。確かに彼女はそういうタイプなのかも知れない。下手な人と一緒なら下手になるけど、上手な人と一緒なら上手になるタイプか。これまでの政子の「不思議」の一部がそれで説明できるような気がした。音楽の時間は周囲も下手だから音痴になるけど、私と一緒に歌うと結構上手く歌うんだ。後は慣れと練習量だ。
 
↓ ↑ Bottom Top

「誰のバックなんですか?」
「16時から出る湘南トリコロール」
 
でも政子って時々ダンサーしてたのかと思う。原野妃登美のバックで踊ったのを以前見たが、話の雰囲気だと結構している感じだ。
 
「でも飛び入りでいいんですか?」
 
「大丈夫大丈夫。難しいアクションは無いから君ならすぐ出来る。今日はリーダーとサブリーダー以外は初めての子ばかりでちょっと不安があったんだけど、中田さんに入ってもらうと、引き締まると思う。一応14時から少し練習ね」
 
「それで入場料5000円がタダになるなら、いいかなあ」
「14時から17時まで3時間拘束になるから時給777.7円で源泉徴収してギャラ2100円+東京駅からの交通費で3200円、現金で払うよ」
「わっ、それは美味しい」
 
↓ ↑ Bottom Top

「じゃ、ちょっとこっち来て」
と言って、政子を連れて行く。
 
私は微笑んでその姿を見送った。
 

↓ ↑ Bottom Top

前頁 次頁 時間順目次

[*前p 0目次 8時間順 #次p]
1  2  3  4  5  6  7  8  9 10 11 12 
■夏の日の想い出・アイドルを探せ(2)

広告:ここはグリーン・ウッド ~青春男子寮日誌~ DVD BOX 1 【完全生産限定】