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■夏の日の想い出・高2の秋(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2011-10-28/改訂 2012-11-11
 
それはまだ私が「ボク」という一人称を使っていた頃の物語である。
 
ボクは高校2年の夏休みにイベント会社の設営のアルバイトをしていた時、出演する予定の女性デュオがトンズラした穴埋めに、たまたま一緒に行っていた友人の政子と組んで「女性デュオ」として歌を歌った。
 
トンズラしたのが女性デュオだったので、そのデュオであるかのように装うため、ボクは女装して歌うことになってしまったのだが、このイベントが物凄く盛り上がってしまったため、ボクは政子とのペアで、そのままあちこちで歌うハメになり「ローズ+リリー」という独自のユニット名も付いてしまった。むろんその度にボクは女装することにもなってしまった。
 
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しかし頻繁に女装していると、いろいろ問題もあったのであった。
 
最初に困ったのがトイレだった。初めて女装で歌った日も、この格好で男子トイレにも入れないし、かといって女子トイレに入るのは・・・と思って我慢していたらちょっとやばくなってきた。
「気分悪いの?」と須藤さんに聞かれて
「いやトイレが・・・」と言ったら
「何やってんの。早く行ってらっしゃい」と女子トイレの方を指さされる。
 
それで、やはり女子トイレに入らなきゃいけないのか、と諦めて潔く?女子トイレに入って、女子トイレ名物の行列に並ぶことになる。
 
やれやれと思っていたら、すぐ後ろに並んでいた女の子から「あ、さっき歌っていた方ですね!次のステージには友達連れて来ますから」などと声を掛けられてしまった。ボクは営業スマイルで「はい、ありがとうございます」と返事して握手などしたが、そういう訳で、ボクの初めてのファンとの「交流」は女子トイレの中で行われたのであった。
 
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結局この後ボクは「ローズ+リリー」として歌う時も、ふつうにイベントの設営の仕事をする時も、女の子の格好をしているようになった。政子は女装に慣れた方がいいといって、ボクを連れて商店街やショッピングモールなどに付き合わせていた。また、トイレは「一緒に行こう」などといって女子トイレにどんどん連れ込まれた。
 
「そういえば女の子って、友達同士で一緒にトイレに行きたがるよね」
「実はあれ私やや苦手」
「そうなんだ!」
「でもここは冬を女子トイレに慣れさせたいから一緒に行くよ」
「あはは」
 
政子は女子トイレ以外でも、サンリオショップなどのファンシーショップ、女性用の洋服屋さん、ランジェリーショップ、甘味処、などに連れて行って「女の子ライフ」の一端をボクに経験させた。
 
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「でも、ボクとこんな感じで出歩いてて、花見先輩に嫉妬されないかなあ」
「問題無し。女の子同士で出歩いているのに嫉妬される訳ないじゃん」
「そっか」
 
もっとも、ボクがそういうことを心配していたのは最初の頃だけで、政子は「ちょっとした事件」のあと、花見先輩と別れてしまったのであるが。それにそもそも政子は女装のボクを「女の子の友達」という位置づけで見ている感じだった。
 
「最初に会った頃から冬のことは、女の子の友達に近い感覚で見てたよ」
「ボクの方も、どちらかというとマーサのこと、あまり性別関係無く、普通に友達的感覚だったよ」
「男の子の友達と同じような感じということ?」
「ううん。ボク、そもそも男の子の友達あまりいないし」
「あ、そんな感じだよね。私も女の子の友達あまりいないけどね」
 
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「ボクは元々女の子の友達のほうが多かった」
「ああ、冬が男の子と話している所を見る方が少ないよね」
 
「私に恋人がいなかったら、私自身、これが恋なのか友情なのかって悩んでいたかもね」
「おかげでこちらも変に心配せずに、まるで女の子同士の友達感覚しか無かったから」
「まるでというか、冬が女の子だから、女の子同士でいいんでしょ?」
「うん、そうだね」
 
この頃のボクの性別認識というのはまだ微妙に曖昧だったし、自分でもあまり深くは考えていなかった気もする。
 
甘味処とかドーナツ屋さんとかで、政子とこんな感じの会話をする時、ボクは女の子っぽい声で話していた。口調もだいたい女の子的な口調になっていた。それで政子には
 
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「冬って、ステージでのMCとかラジオに出てる時とかは『私』って自分のこと言ってるけど、私や須藤さんと話す時は『ボク』と言ってるよね。でも口調自体は女の子の口調だし、声も女の子の声にしてるし、いっそ『私』に統一しちゃったら?」などと言われたりしていた。
 
「うーん。そのあたりはまだ微妙なところで・・・」
「まあ。《ボク少女》もけっこういるけどね」
 
9月になっても、ボクたちの「ローズ+リリー」の活動は、放課後と土日限定で続けられた。最初は夏休み頃と同様に、土日にデパートの屋上や遊園地などでミニコンサートをするくらいだったのだが、何度かコミュニティFMに出たのをきっかけに、ラジオ局、主としてFM局によく出るようになった。そういう時は放課後、須藤さんが学校のそばまで車で迎えに来てくれて、ボクは車の中で学生服を脱ぎ、女の子の服に着替えていた。政子も一緒に同じ車の中で私服に着替えているのだが、この頃、ボクたちはかなり仲良くなっていたので、一緒に着替えることには全然抵抗を感じなかった。
 
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政子も「だって女の子同士なんだから問題ないでしょ」などと言っていたし、ボクとしても、性別問題は置いておいて、仲のいい友達同士だからそんなに気にしなくていいかなという感覚だった。
 
着替えは別に車の中だけではなかった。イベントなどに出演する際、ボクは政子と一緒に女性用の楽屋に入るのだが、共演者がいると、他の女性歌手などもいる場所で着換えることになる。その頃、ボクは当然胸も無かったし、まだタックという技法を知らなかったので、パンツに盛り上がりができていた。その状況で着換えて、他の出演者にボクが女の子ではないことに気付かれては、と当時はかなり冷や冷やだったのだが、いつも政子がうまく自分の身体などでボクを隠してくれたり、他の出演者がこちらを向いてないタイミングを教えてくれたりしていたので、バレたりすることなく、着換えることができていた。
 
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楽屋では女性ばかりの気安さで、人によっては下着姿のまま長時間しゃべっている子や、中には出演後に汗かいたなどといってブラジャーまで外してバストを露出させていたりする子もいた。ボクは最初の頃、目のやり場に困る感じで、ボクが視線を外したりすると、向こうは「純情なんだ!」と笑ったりしていたが、ボクはそういうのを見て変に男性部分が反応することは無かった。
 
その点については政子が、ふたりだけの時に「あそこ反応しないの?」などと聞いたりしたが、ボクは「大丈夫みたい」と答えた。実際問題として、ボクは女装している最中に、あそこが大きくなったりすることは全く無かった。
 
「冬、もしかして恋愛対象は男の子?」
などとも政子には聞かれた。
「一応恋愛対象は女の子だと思うけど。中学の時、女の子と半年くらい付き合ったこともあるよ。でも、女装している時は自分自身が女の子って感じの意識になっているから、楽屋で他の女の子の下着姿や裸を見ても、何も感じないのよね、実際問題として。おっぱい露出させてる人から目をそらしちゃうのは、女同士といっても見ちゃってもいいのかな?という遠慮みたいな感覚」
「まあ、じろじろ見るものでもないよね」
 
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なお、この当時、下着姿や裸を見ちゃった歌手やタレントさんなどには、後にボクが自分の性別を明確にした上で芸能界に復帰した後、会う機会のあった人にはみんな謝ったのだが、相手はみな「心が女の子だったら問題無し」と言ってくれた。特にボクの「ファーストキス」を奪った、パラコンズのくっくなどとは復帰後楽屋で会った時に、おっぱいの触りっこもしたし、携帯のアドレスを交換して個人的な交流(むろん女の子同士として)も深めた。
 
9月第2週の土曜日、ボクたちは栃木県の温泉で行われたイベントに出演した。イベントのメインは15人構成の女子中高生のアイドルユニット「リュークガールズ」
で、ボクらはその前座としての出演。イベント自体の設営スタッフも兼ねての仕事であった。(設営スタッフとして仕事をしたのはこの日が結局最後になった)
 
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同世代の女の子たちなので、控え室ですぐに仲良くなってしまった。ただ政子はこういうわいわい騒がしい集団が苦手なので、途中でプイといなくなってしまい、本番の直前に戻って来た。
 
「マーサ、どこ行ってたのさ。戻って来なかったらどうしようって気が気じゃなかったよ」
「ごめーん。そのあたりを散歩してた」
「政子ちゃん、場を離れる時はちゃんと私に言って」と須藤さんも少し怒っていた。
「ごめんなさい」
 
とにかくも本番となり、ボクたちが「ふたりの愛ランド」を歌う。本当は「明るい水」
を歌いたかったのだが、場を盛り上げるのにはこちらがいいでしょうと言われて、そちらの選曲になった。しかしこれはけっこう会場全体の雰囲気を盛り上げるのに役だった感じであった。
 
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「それでは本日のメインゲスト、リュークガールズです」とボクは歌い終わったままのマイクで言うと、政子と一緒にステージ中央の階段から客席に降り、入れ替わりにリュークガールズが登場し、彼女らのヒット曲を歌う。
 
「なんか・・・・・」と政子。
「盛り上がってないね」とボクは小声で答えた。
「でも、人気があるんだよね?」
「この世界、実力と人気はあまり関係無いよね。私ちょっと自信付いた」と政子。
 
ボクたちはステージの袖で、背景を上げたり、ミラーボールを回したりといった作業をしながら彼女らの歌を聴いていたのだが、曲が適当、歌が下手、で観客もしらけてしまった状態で6曲からなるステージは終了してしまった。
 
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しかし歌っていた彼女たちはステージの反応などどうでも良かったような感じであった。引き上げてくるとまた控え室でおしゃべりで盛り上がっている。ボクは心の中で苦笑いしながら、彼女たちに「お疲れ様〜」といって飲み物を配った。政子はステージのほうの片付けの作業をしている。ボクもそちらを手伝いに行こうかなと思っていた時、温泉協会のスタッフの女性が控え室に入ってきて
「皆様、今日はありがとうございました」
と挨拶する。
 
ボクは何となく出て行きそびれて部屋の中にいた。
「もし良かったら温泉に入って行かれてくださいね」といってチケットを配る。「あ、前座の方もどうぞ」と言って、ボクは(政子の分まで)2枚もらってしまった。
 
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「わあ、温泉入りたーい」と言って騒いでいる。「じゃ、折角だから入ってから帰ろうか」などとリュークガールズの女性マネージャーさんも言っている。ボクは微笑んでそのまま出て行こうとしたら、ひとりの子に「あ、ケイさんも一緒に行きましょうよ、温泉」などと言われて呼び止められた。えー?『一緒に』と言われても・・・とボクは困ってしまったが、あまり断るような理由がない。
 
「いや、設営の撤去のほうの仕事が・・・」と言ったが、
「だって撤去とか、力仕事でしょ?男性のスタッフに任せておけばいいですよ」
などとマネージャーさんに言われてしまう。いや男性スタッフがメインの仕事だから自分は行かないといけないのだけどね、とは思うものの、まさかそれは言えないし、今日のメインゲストのマネージャーさんから言われたのでは益々断りにくい。
 
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で、結局ボクは彼女らに連れられるようにして、温泉の方へ行くことになってしまった。温泉の受付を通り、長い廊下をおしゃべりしながら歩いて行く。突き当たり、右が姫様、左が殿様と書かれている。ここでひとりだけ殿様の方に・・・行ける訳がない! 当然、みんなに連れられて姫様の方に入っていく。きゃー、こっちに入っちゃうの!?
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