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■夏の日の想い出・3年生の新年(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2012-11-24
 
2013年の1月。
 
その年、私は東京での年越しライブの後、お正月の新年ライブをし、そのままローズ+リリーとローズクォーツの新曲キャンペーンで全国を駆け巡ったのでお正月の挨拶回りは、15日の火曜日からになった。私は政子と一緒に新しい振袖を着て、あちこちの放送局、親交の深いアーティストを巡った。午前中は放送局を回ったので、私と政子、美智子にローズクォーツの他の4人と7人でぞろぞろと行動したのだが、午後は親交のあるアーティストの所を巡るというので、私と政子の2人だけになり、一方ローズクォーツの他の4人と美智子はライブハウス関係に挨拶回りと別行動になった。
 
スカイヤーズ、スイート・ヴァニラズ、スリファーズなどと訪問していく。本当ならスリファーズは向こうから私たちの所に挨拶に来る所なのだが、まだ春奈の体調が完全では無いので「無理しない方がいい。私たちには遠慮しないで」などと言って、こちらから春奈の家を訪問してそこに来ている彩夏・千秋とあわせて新年の挨拶を交わしたのである。
 
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その後、AYA, スリーピーマイス, を各々の事務所に訪問して短時間の挨拶というより交歓をした後、私たちは KARION の事務所に行った。
 
私がKARIONのいづみとハグすると、政子が「ん?」と言って嫉妬に似た視線を投げかけるが、ボクは「はい。握手」と言って、ふたりに握手をさせた。
 
「なんか火花が散ってる〜」とKARIONの小風。
「なんか、冬ちゃんの愛人同士の対決って感じ」と同じくKARIONの美空。
 
「森之和泉 vs マリ。天才詩人同士の対決だね」と畠山さん。
「天才詩人は私だけです」とマリ。
「私は超天才詩人です」と和泉。
 
またふたりが笑顔のまま睨み合っているのを、まあまあと言って座らせる。そこに三島さんがケーキを持ってきてみんなに配ると、マリは笑顔になった。
 
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そのままみんなで雑談から、最近の音楽界のことなどで、比較的なごやかに会話が進む。
 

「そういえばKARIONの曲をいつも書いている水沢歌月さんはここの専属作曲家なんですか? 他では曲書いてないですよね?」
と政子が訊くが、畠山さんは
 
「専属作曲家ではないですし、契約とかも無いですよ。印税とかの処理も独自でなさっていて、うちの事務所は関わっていませんし。でも和泉ちゃんの古いお友だちなんですよ」
と説明する。
 
「へー」
 
やはり最近CDがほんとに売れないという話にもなる。その中でも KARION はプラチナディスクを毎年出していて、ここの事務所の看板アーティストにもなっているし、★★レコードの「VIPクラス・アーティスト」にもなっている。
 
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「でも、私たち、高校時代には畠山社長にも、三島さん(KARIONのマネージャー)にもたくさん勧誘して頂きました」
と政子。
 
高校3年の頃、「自由契約」状態になったローズ+リリーの獲得を目指して、多数のプロダクションから勧誘があったのだが(最初はマジで整理券を配った)、最後まで頑張ったのが、甲斐さんの△△社、長谷川さんの##プロ(SPSの事務所)、そしてこの畠山社長の∴∴ミュージックの3社だったのである。
 
「正直、あの時期にうちの父が私の音楽活動に理解を示してくれるようになったのは、畠山さんが何度もわざわざバンコクまで行って、父と話してくださったことも大きかったと思うんです。勧誘していた3社の中でバンコクまで来てくださったのは、畠山さんだけでしたから」
と政子。
 
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「やはり元々ケイちゃんとの縁があったからね」と畠山さん。
「当時はその付近のことって、話せないことになってるからとおっしゃってましたね」と政子。
 
それについては私が説明する。
「うん。私、和泉とふたりで組んで活動していた時期があったから。先着という意味ではこちらが△△社より古かったし。だから私はここの事務所に義理があるんだよ。それもあって畠山さん、色々してくださって」
 
「へー。そういえば、こないだそんなこと言ってたね。そもそもKARION結成の時に、ケイも誘われたんだっけ?」
と政子が言う。
 
「そうそう。だから私がKARIONの4人目のメンバーになる可能性はあったんだけど、実際には私が辞退した後も、何人か勧誘してましたよね?」
「うん。4人くらいに声を掛けたんだけど、結局全員辞退されちゃって、今の3人でスタートすることになったんだよね」
と畠山さん。
 
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「特に、ハワイ出身のハーフの子でラムって子がいたんだけど、この子はかなり参加に傾いてたんだけどね」と和泉。
「惜しかったね」と小風。
「お父さんの転勤でインドに行っちゃったからね」
と私が言うと
 
「よくそういう事情まで知ってるね?」と政子に言われる。
「うん。辞退はしても、こちらの事務所にはずっと出入りしてたからね」
「へー」
 
「でもラムちゃんが入ってくれると、愛称をらむこにして、いづみ・みそら・らむこ・こかぜ、って尻取りが完成するね、なんて言ってたね」
と美空。
 
「ああ!ネットで《らいこ》って人がいたんじゃないかって噂があってたけど、本当は《らむこ》だったんですか?」と政子。
「そうそう」
 
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「でも私が女装を唆したりする前に、ケイったら、既に女子高生としていづみちゃんと付き合ってたのね」
「なんか、マリが言うと、凄くいやらしく聞こえるんだけど?」
「いやらしいことはしてないの?」
 
「そんなのしてないよー。それに和泉と友だちになったのはマリから女装させられたのより前だけど、女子高生したり、和泉と一緒に音楽活動したのは、あのキャンプより後だよ」
 
「でもケイって、友だちだと言いつつ、女の子とおっぱい揉みあったりしてるから」
「それは女の子の友だち同士で普通にやるじゃん。ってか、なぜそういやらしく聞こえるような言い方をする?」
 
「ケイは嘘つきだからなあ。それにそのあたりのこと、こないだからたくさん拷問しているのに全然自白しないんだから」
 
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和泉が笑っている。
 

「でも、当時はまだ和泉ちゃんともケイちゃんとも芸能契約を交わしてなかったんだよね」と畠山さん。
 
「報酬を受け取る事務の代行をこちらでしてもらっていただけでしたからね。マージンとかも口約束だけで。私も芸能契約書を交わしたのは、KARIONでデビューする時でしたから」
と和泉。
 
「△△社とローズ+リリーが法的に有効な契約書を交わしていなかったことを盾にローズ+リリーは『どこの事務所とも契約したことのない、フリーのアーティスト』ってことにされちゃったから、僕もケイちゃんとの過去のつながりを主張する訳にはいかなくなったんだよ」
と畠山さん。
 
「でも、その時の連盟の会議で△△社と須藤を弁護してくださったのが畠山さんだったんだよ」
と私が政子に説明すると
「へー! そうだったんだ。それは初耳だ」
と政子。畠山さんは少し照れるようにしている。
 
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「でもあれこれ紆余曲折の末、今 KARION, XANFUS, そしてローズ+リリーがお互いに良きライバルって感じで競いあってるから、なるようになったんだろうね」
と和泉は遠くを見るような目で言う。
 
ローズ+リリー、KARION、XANFUSは同い年の女性歌唱ユニットであり、また同じ年にデビューしたこともあり、よく比較されている。この3組はしばしばデビューした年から『08年組』と呼ばれることもある。傾向的にはアイドル的な路線の XANFUS, コーラス部的なノリの KARION, フォークデュオ的雰囲気の ローズ+リリー と特徴的にも分かれているが、ファン層はかなり重なっている。しかし、各々の「専」ファンの間には微妙な対抗心があるようである。ネットのアンケートでも、この3組を比較する設問がよく作られている。
 
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そんな話をしていた時、ちょうどそこにXANFUSのふたりがマネージャーと一緒にやってきた。私と政子、XANFUSの2人とで、いつものようにハグし合って、友情の儀式をする。
 
「あんたたちいつもそれやってるね」と和泉。
「うん。仲良しだからね〜」とXANFUSの音羽がにこやかに言う。
 
「『08年組』がそろい踏みしたね」
「記念写真でも撮る?」
 
などということになり、3組が並んだ所の写真を、各々を中心にして3枚撮った。
 
「これ各々のプログにアップしましょうよ」
「いいですね」
 
「でもあと『08年組』というとスリーピーマイスだよね」
「うん。年齢的には私たちよりお姉さんだけどね」
「でもあの人たち格好いいね」
「同い年の『08年組』といえば、あとひとつ AYA だよね」
「うんうん。ひとりになっちゃったからユニットって気がしないけどね」
 
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「そういえば、AYAとローズ+リリー、去年はコラボをやってたね」
 
などと言っていたら、畠山さんがふと思いついたように
 
「ね、ね、去年がAYAとローズ+リリーのコラボなら、今年はこの3組でコラボCDとか作らない?」
と言った。
 
「あ、面白そう」とXANFUSの光帆。
「いいかも知れませんね」とKARIONの和泉。
「あ、私たちはおっけーです」と政子。
 
「当然、和泉・歌月作品と、マリ&ケイ作品も歌うよね?」
とXANFUSの音羽が言うと、またまた和泉とマリは意味ありげな笑顔で視線をぶつけていた。
 
「まあ、各々のソングライトペアから1曲ずつ提供してもらって、各々をこの7人で歌えばいいんじゃない?」と私。
 
「なるほど、マリ&ケイ作詞作曲、森之和泉作詞・水沢歌月作曲、神崎美恩作詞・浜名麻梨奈作曲で1曲ずつ3曲入りのCDを作ればいいのね?」
と光帆が言い、それでだいたいの方向性が固まった感じであった。
 
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ということで、この3組のコラボCDの制作が決まったのである。
 

 
翌16日。私たちはまたローズクォーツと一緒に7人で、午前中に△△社と○○プロ、午後から★★レコードに行き、その後、夕方から上島先生のお宅を訪問した。ここに来る以上は基本的に徹夜覚悟である。
 
この日、上島先生のお宅にはその日、下川先生と雨宮先生も来ておられた。
 
「いや、むしろ僕の方が、君たちの家を訪問しなきゃいけないんじゃ
ないかとも思ったんだけどね」
と上島先生が言う。昨年の私と政子の実質的な合計年収は上島先生の実質的な年収とほぼ同じくらいで、わずかにこちらが上回っていた。もっともこちらはふたりだから、ひとり単位の収入はその半分になる。
 
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「そんな、私たちと先生では格が違いますよ。私たちが楽曲を提供しているアーティストはせいぜい10組くらい、先生は100組を越えてますでしょう」
「いや、節操無く仕事を受けているだけという気がするよ」
 
「でも気軽に楽曲を提供してくださったからこそ、今のローズ+リリー、そしてローズクォーツがありますからね」
と美智子。
 
「○○プロの浦中部長が偶然上島先生と廊下で遭遇して『今度女子高生デュオを売り出すんですが、良い曲無いですかね』と浦中部長が言って、上島先生が『じゃ何か書きましょう』とか、おっしゃったのが、ローズ+リリーに曲を頂けたきっかけ、ということでしたね」とタカ。
 
「それでその日たまたま予定がキャンセルになったので、作って下さったとか」
とサト。
 
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「ああ、あの時ね」と先生も懐かしむような顔をする。
 
すると雨宮先生が
「そのキャンセルさせたのは私だけどね」と言った。
 
「え?そうだったんですか?」
「うんうん。あの日、ボクは山折大二郎君のコンサートに招待されていて、そちらに行くつもりだったんだけど、偶然ローズ+リリーの『明るい水』のCDジャケット(初版)を見た雨宮が『この子たち売れるわよ』とか言うもんだからね」
「えー?」
 
「それで山折君の方には、急用で行けなくなったと連絡して、ローズ+リリーに渡す楽曲を作ることにしたんだよね。CDジャケットのふたりの写真を見ている内に、凄くいいメロディーが浮かんできて、それをベースに『その時』
を書いたんだ」
「わあ」
 
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