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■夏の日の想い出・3年生の新年(6)

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「それで妊娠維持できるのは、多分青葉くらいだよ」
と私は言ったが、青葉は一瞬考え込むような表情をした。
 
「しかしお掃除大変ですか」
と気を取り直したように青葉が訊く。
 
「うん。親に見られたら呆れられそうなものはだいたい発掘し終わったと思う」
「後は行方不明になってる譜面を発掘しなきゃね」
「譜面が行方不明になってるんですか?」
 
「うん。何枚か行方の分からないのがあって、その大半がこちらの家にあるんじゃないかとは思っているんだけどね」
「特に私と冬が最初に作った作品は何とか見つけたいんだけどね」
 
「探すの手伝いましょうか?」
「ん?」
 

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青葉は私たちの手書きの譜面がないかというので、最近書いたものを1つ渡した。「ありがとうございます」と言って返してくれる。
 
それでまだ物が散乱している部屋に行く。
 
「あ、ここにひとつある」
と言って、地図が並んでいる棚から1枚、薄い譜面を取り出す。地図と地図の間にはさまっていた。
「わっ。これもこちらにあったのか!」
 
「それからこれ」
と言って旅先でもらったパンフレット類を積み重ねているところから1枚引き出した。
「すごっ。これは絶対見つけきれなかった」
 
「あと・・・ここもかな?」
と言って、青葉は処分しようと思ってベランダに積み重ねていた雑誌の束の中から1枚の譜面を取り出した。
 
「うっそー!! これがいちばん欲しかった譜面」
「あぶなーい。これは完璧に捨てるところだった」
「よかったですね。ちょっと反応が弱かったからどうかなと思ったのですが」
 
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「これが、私と政子が最初に作った作品なんだよ」
「へー!」
「古いから反応が弱かったのかな?」
「多分。おふたりの気の付着具合が弱かったんです」
 
「青葉が今日来てくれてなかったら、これ捨ててしまって永久に見つからないところだった」
 
「良かったですね」
と青葉は笑顔で言った。
 
その後青葉は更に4枚の譜面を発見してくれた。
 
「料金は1枚10万円でいいです」
「ぶっ」
「捜し物も料金取るの?」
「捜し物は本職みたいなものです」
「ああ、そういえばそうだった」
 
「お金持ちからはたくさん取る主義ですから」
「了解。振り込んでおくね」
「よろしく」
 
こうして私と政子の最初の作品『あの夏の日』(高1の夏にキャンプで書いたもの)は発見されたのであった。
 
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しかし野犬が結界を破ったりしなかったら・・・そして私たちが偶然青葉に遭遇していなかったら・・・一緒にゲリラライブなどやって遅くなっていなかったら・・・それで、うちに泊まりなよと言ってなかったら・・・・青葉の彼氏が千葉にいて、ついでにデートしようという気分になってなかったら・・・そして青葉が探しましょうかと言ってくれなかったら・・・
 
物凄い偶然の重なりであった。
 

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ということを青葉に言ったら「そんなの思考の罠」と言って笑う。
 
そしてテーブルの上にあるキャンディポットからチロルチョコを1個取って食べる。
 
「今、私が《生チョコいちご》を食べた確率だって、物凄いレアな確率ですよ。もしチロルチョコを買ってきてなかったら。もしその買ってきた中に《生チョコいちご》が入ってなかったら。私がここに来た確率はさっき冬さんが言った通り。そして私が冬さんから確率の話を聞いてなかったら。もしキャンディポットを開ける気になってなかったら。そしてたまたま《生チョコいちご》を取ってなかったら・・・・」
 
「うーん。。。言われてみれば確かにそうだ」
 
「この楽譜だって、隣んちの猫がベランダの荷物をがさがさと悪戯して、冬さんとこに持って来て落としたかも知れないよ。それだって、私が見つけたのと同程度の確率で起きたかも」
 
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「うーん。。。」
 
「ひとつひとつの確率は小さくても、何かはいつも起きてるんですよ。確率ってけっこう思考の上の産物ですよね。素粒子の世界に行くとボース粒子なんてのもある。私たちがふつう考えてる確率ってフェルミ粒子の動きだから、ボース粒子の動きって、確率の仕組みそのものが違いますよね」
と青葉が言うと
 
「ボース粒子の動きを小学生がもしレポートに書いたら、きっと多くの先生は考え方が間違ってると言って×を付けるでしょうね。ふつうの確率を考える時の初歩的な間違いと同じだから」
と彪志が言う。
 
「確かにね。もしかしたら、確率を考える時にもともとフェルミ的な考え方もボース的な考え方もあったのが、フェルミ的な確率で起きるものがマクロの世界では多いからそちらだけが正しいとされたのかもね。ボース的な考え方も自然な考え方なんだろうに。フェルミ的確率だけを正しいとするのは井の中の蛙的な偏見なのかも」と私は言ってみる。
 
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「マクロの世界では同じ場所に2つの物が同時に存在できませんからね」
と彪志。
 
「でも『偶然の確率』とか『奇跡』みたいなこと考える時って、わりとボースっぽい思考にハマってますよね。実際には思ったのより確率は高いと思う」
と青葉。
 

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そんな話を聞き私が頷いていると、政子が何かを考えるような表情になる。
 
青葉がさっと近くにあったFAXのトレイから1枚紙を取って政子に渡す。
「メルシ」
と言って、政子は詩を書き始めた。私たちはそっとそれを見守る。私はみんなにコーヒーを入れ、ファンからの頂き物の「長崎物語」を出してきて開けた。政子はそれを摘まみながらボールペンを走らせる。
 
15分ほどで政子は詩を書き上げたが、ひとこと言う。
 
「ところで、ファミマ的とか、パオズ的って、どんなの? 私、塩豚カルビ饅食べたい」
 
「はいはい。買ってくるよ」
と言って私が席を立とうとしたら、青葉が
 
「あ、私が買ってきますよ。冬さん、曲をこれから付けるんでしょ? ここに来る時に角にあったファミマですよね?」
と言って席を立つ。さすがよく観察している。
 
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「あ、じゃお願い」と私。
「何個くらい?」と青葉が訊くと
「私5個食べる」と政子は言う。
 
私は笑って青葉に4000円渡して
「中華まん15個と、あと適当におやつや飲み物買ってきて」
と言った。
「あ、じゃ俺も一緒に行きます」と彪志。
「彪志さんも一緒に行くなら、ビールとかも買っていいよ」
「あ、じゃ、そうします!」
 

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ところでこの2月8日、ローズ+リリーの5月5日・仙台公演チケットの申込が開始になった。このチケットは2月8日から17日までの間に申し込んでもらい、抽選になる。なお転売防止のため入場には予約の時に登録した携帯電話・スマホもしくは写真付き身分証明書が必要となっている。
 
一般発売するチケットは6000枚だが、8日だけで申し込みが2万枚分来た。その数字を氷川さんから聞いて、私は思わずキャーと叫んでしまった。
 

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翌日9日、私と政子に青葉の3人で朝から花村唯香の実家を訪問した。唯香が先月末に富山の病院で性転換手術を受け、昨日退院して東京に戻ってきていたので、そのお見舞いに行ったのである。唯香はふだんは中野区のアパートに住んでいるのだが、体力が回復するまでしばらく実家暮らしということだった。(なお彪志は「男の人は遠慮して。女装するなら連れていくけど」と言われて、女装を遠慮してひとりで新宿の町で待機になった)
 
「いろいろお世話になっております」
とお母さんが恐縮したように言う。
「特に青葉さんにヒーリングして頂いたので、凄く楽になったみたいで」
 
青葉は唯香の手術直後に病院に行ってヒーリングをしてあげたのである。
 
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「私も病院までお見舞いに行きたかったけど、音源制作の真っ最中で時間が取れなかったのよ。ごめんね」
と私は言うが、唯香は
「とんでもないです。お忙しいのに、今日も来て頂いて済みません」
と答える。
 
「でもかなり顔色がいいね」
「青葉さんのお陰です」
 
青葉はまた唯香に横になるように行って、手術跡のヒーリングをしてあげている。
 
「でもこれ他人には言わないことが条件なんですね」と唯香。
「そうそう。希望者が殺到したら、私パンクしちゃうから」と青葉。
「特に今受験の最中だからね。でもそろそろ内定通知だよね?」
「ええ。今度の水曜に通知が来る予定です。それまでは表向きは私は休養中で」
 
「でも、私みたいな無茶言う人に頼まれてこうして仕事してる」と私。「だから特に内緒で」と青葉は笑う。
「まあ冬さんたちが高3の頃の『ローズ+リリーの活動休止中』みたいなものです」
 
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「・・・青葉・・・何知ってるの?」
「だから私は何も言いませんよ」と言って青葉は笑っている。
 
「でも、手術受けた感想は?唯香ちゃん」
「夢みたいです。凄い感動。傷が治ったらビキニの水着を着たり、女湯に入ったりしてみたい」
「今までだってしてるじゃん!」
 

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「ところで《タッチ・サービス》された?」
「されました」と言って、唯香が笑っている。
 
「何?タッチサービスって」と政子。
「手術して取っちゃう前のおちんちんを『立っち』させてくれるサービス」
「何それ?」
「廃止になる前の列車に乗ってくるみたいなことね」
「葬式鉄?」
「おちんちんの葬式だよね」
「なるほどー」
 
「で、唯香ちゃん立ったの?」
「立っちゃいました。びっくりした。小学6年生の時以来1度も立ったことなかったから、立つ機能は消失してると思ってたのに。だいたい玉も無いのに」
「あの人、立たせる神経を直接刺激するから。手術直前にあれやって立たなかったのは、今まで150人ほどの手術をして、3人だけだとか言ってたね」
 
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「その内の1人が私だけどね」と青葉。
 
「もう機能が無くなってるおちんちんを切り落とすより、まだ使えるおちんちんを切り落とす方が楽しいとか言ってたから、私のは楽しくなかったかも」
 
「青葉の手術は別の意味で凄く楽しかったみたいだけどね」
 
「あの先生、立たせてみせてから『男のままでいたいと思ったりしない?』
なんて訊くんですよね。悪趣味〜!」
「それで躊躇したりしたらどうするんだろう?」
 
「有無を言わさず麻酔打って手術室に運び込むって言ってた」
「ひっどーい!」
「やめてやめて、と泣いた子もいたらしい」
「きゃー」
「やめてやめて、なんて言われたら、それを無理矢理手術して女の子に変えちゃうのがとっても楽しくなるとか」
「ほんとに危ない先生だ」
 
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「でも、そんなこと言ってた子もみんな手術が終わったら感謝してたらしいから」
「それその内、訴訟起こされそう!」
 
「冬のおちんちんも、その先生の手にかかれば立ったのかな?手術しちゃう直前くらい」
「立ったかもね」
「悔しいなあ。私どう頑張っても立たせることできなかった」と政子。
 
「冬さんは、いつ頃から立たなくなってたの?日常的には」と青葉が訊く。
「青葉には嘘ついてもバレそうだなあ」
「オフレコで」
「中学3年の時が最後だよ。なぜか政子の前では立っちゃったことが何度かあるんだけど、とっても例外的なもの」
「やはりね〜」
 
それを聞いて政子は「ふーん」と言って楽しそうな顔をした。
 

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夏の日の想い出・3年生の新年(6)

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