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■夏の日の想い出・星遮りし恋人(19)

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「冗談、冗談、四屋が女だよ」
と因幡さんは言い直す。
 
「済みません。私も言い間違いました!」
と質問した記者さんも焦って言う。
 
「四屋さんはいつ女性になられたのでしょうか。あるいは最初から女性だったとか?」
 
「昨年コロナで音楽活動がままならなかった間に、国内の病院で性転換手術を受けまして、戸籍も変更しました」
 
とおなじみのハイトーンの声で答えて、四屋さんは“性別:女”と記されたマイナンバーカードを提示した。
 
「性別だけ変更なさって、名前は変更なさらなかったんですね?」
「そうです。晃という名前は女でも通用するので」
「俺は昔から“晃子(あきこ)”と呼んでたけどね」
 
「おふたりはいつ頃から交際なさっていたのでしょうか?」
 
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「こいつが女になったって言うからさ、だったらやらせろよと言ったら、してもいいよと言うので、やってみたら気持ち良かったから、結婚する?と聞いたら結婚したいと言うから結婚することにした」
と因幡さん。
 
「それはいつ頃でしょうか?」
「昨日かな」
 
「え〜〜〜?」
 
「指輪を受け取ったのは本当に昨日です。でも私は彼のこと、最初から好きでした」
と四屋さんが言う。
 
簡単な補足説明で、宝石店に行ったのは先月で式場もその時予約していたが、指輪の刻印入れとサイズ調整が終わって宝石店で受け取ったのが昨日の午前中らしい。四屋さんはわざわざCCDカメラで指輪の内側の刻印を映したが "ameris, ama" というラテン語の刻印が入っている。“愛し愛され”くらいの意味か。
 
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「まあ学生時代は同じアパートに住んでたしな」
と因幡。
 
「当時も一緒に寝てたし」
 
「貧乏でふとんがひとつしか無かったから一緒に寝てただけだけどな。でも可愛いかっこしてるし、おっぱいもあるから、ついフラフラとやっちまった」
 
「あのまま結婚したかったんだけど、因幡さん、他の女の子と付き合い始めたし」
「まあそれがラビット4が分裂した主因でもある」
と因幡さんは初めて分裂の原因について語った。
 
実際ふたりは元々ホモなのでは?という噂は昔からあったが、同性愛というより四屋さんが女性指向があったということのようである。だから2人は恋愛としては同性愛ではなく異性愛(ストレート)である。
 
因幡さんが付き合っていた女性というのは一時期ラビット4の付き人をしていた人で、その女性との交際は過去に何度か報道されたこともあるし、彼女と因幡さんの関係が破綻したことも、この1月に報道されていた。それで、きっと四屋さんとの仲が復活したのだろうと推測する人も多かった。結果的に四屋さんは因幡さんのことをずっと待っていたことになり、「凄い純情!」と感激する人も、女子のファンの中には多かった。
 
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「お前、学生時代に既にタマは取ってたもんな」
「うん。早く完全な女になりたかったけど、当時は手術代も無かったし」
「だけど俺はお前を男だと思ったことは一度も無かったよ」
「私は一緒に暮らし始めた時から、ずっと因幡さんの奥さんのつもりでいたよ」
 
ふたりは同じアパートに住んでいたが、デビューする時にレコード会社から“誤解を招かないように”と言われて別々のマンションで暮らすようになったらしい。でも実際はほとんど四屋さんのマンションで夜を過ごしていたという。因幡さんに“彼女”ができるまでは。
 
四屋さんは元々中性的な格好をしていることが多く、ステージではスカートを穿いていることもあったが、男性ロッカーのスカートは珍しくないので、単なるファッションなのだろうと思われていた。またバラエティ番組で女装を披露したことは何度もあるが、どうも元々、そちらが本来の姿だったようである。
 
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そういう訳で“Rabbit4 Super”は夫婦バンドとして再スタートしたのであった。過去に分裂してきた多数のRabbit4のメンバーからも一様に祝福のメッセージが送られた。
 
ファンたちも大半はおめでとうムードであった。
 

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『星遮りし恋人』の撮影は続く。物語は悲劇へと突き進んでいく。
 
第3幕第2場(ジュリエットの居室)
ジュリエット(アクア)が、侍女(坂出モナ)から事件のことを報され嘆き悲しむ。侍女は何とかしてロミオの落ち着き先を探すから変なことは考えないようにと言う。
 
第3幕第3場(修道院)
ジュリエットの居るヴェローナから退去するなんて死にたいくらいだと言うロミオ(アクア)をローレンス(大林亮平)が叱る。そこにジュリエットの侍女(坂出モナ)が来て、連絡手段についても話し合う。ロミオは取り敢えずマントバ(ヴェローナ南方50kmほどの所にある三方を湖に囲まれた町)に行くことになる。
 
第3幕第四場(キャプレット家)
キャプレット夫妻とパリス(白鳥リズム)が、パリスとジュリエットの結婚式について話し合い、3日後の木曜日に結婚式を挙げるが、こんな事件の後なので、式は身内5-6人だけでしようと話す。キャプレット夫人がそのことを告げにジュリエットの部屋へ向かう。
 
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第3幕第5場(ジュリエットの居室の窓際)
これも橘ハイツの“ヴィラ”の窓辺で早朝撮影した、ロミオ(アクアF)とジュリエット(アクアM)の朝の別れの場面である。侍女の手引きでロミオは密かにジュリエットの居室に忍び込み、一緒に一夜を過ごしていたのである。そこに侍女の声がして「今奥様がこちらにいらっしゃいます」と告げる。ロミオはジュリエットに口づけして、窓に掛けた縄ばしごを下りて退場する。
 
ロミオを演じるアクアFは本当に縄ばしごで下に降りて行く。ここでモナは声だけの出演なのでアフレコで加えている。つまりモナは撮影現場には行っていない。
 
(場としては続いているがジュリエットの居室:オープンセット内)
キャプレット夫人、更にはキャプレット卿まで来て、木曜日にパリスと結婚式を挙げるように言うが、ジュリエットは拒否して言い争いになる。キャプレット卿は怒って、ジュリエットにお前が何と言おうとも結婚式は木曜日だと通告して部屋を出る。
 
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第4幕第1場(修道院)
ローレンス(大林亮平)とパリス(白鳥リズム)が登場し、パリスが木曜日にジュリエットとの結婚式を挙げたいと言うが、ローレンスはそれは困ると言って、何とか延期させようとする。そこにジュリエット(アクア)が登場する。パリスはジュリエットに自分の気持ちを言うがジュリエットは答えをはぐらかせる。ジュリエットはローレンスに懺悔があると言うので、パリスは退場する。
 
パリスと結婚式を挙げるくらいなら自殺したいと言うジュリエットにローレンスは策を授ける。まるで死んだかのような状態になる薬があるので、それを飲んで死んだふりを装う。その薬を飲んでから42時間ほどで蘇生する。その間にジュリエットの葬式が行われ、墓地に埋葬されるだろう。それでジュリエットは死んだことにして、ロミオと一緒にマントバに行って暮らせばよいと。そしてそのことを報せる手紙を書いて、ジョン修道士に持たせロミオの所に遣ることにする。
 
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第4幕第2場(キャプレット家)
キャプレット夫妻のいる所にジュリエットが来て、パリスとの結婚を承知すると言う。
 
第4幕第3場(ジュリエットの居室)
ジュリエットは自分の衣装の準備はできているから、侍女にはお母様の準備を手伝ってあげてと言い、侍女を下がらせる。ジュリエットはベッドに入り、ローレンスからもらった薬の瓶を飲み干す。
 
第4幕第四場(キャプレット家)
キャプレット夫妻や使用人たちが結婚式の準備をしている。
 
第4幕第5場(ジュリエットの居室)
ジュリエットを起こしに来た侍女(坂出モナ)が、ジュリエット(アクア)が花嫁衣装:ロミオとの結婚式で着た純白のドレス:を着たまま死んでいるのを発見する。キャプレット夫妻もやってきて大騒ぎになる。ローレンスとパリスも来るが、ジュリエットの死を聞いて嘆き悲しむ。
 
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第5幕第1場(マントバの路上)
オープンセットの石畳の道路だが、ヴェローナの路上を撮影したのとは別の部分を使用して撮影される。背景に湖が見えるが、これは借景で本当にこのセットの背後に広い池(周囲300m:直径約100m)がある。
 
ロミオの従者バルササール(栗原リア)が登場して、ロミオ(アクア)にジュリエットが亡くなったことを報せる。ロミオはショックを受け自分も死のうと思い、薬屋から毒薬を買って、ヴェローナに向かう。
 
第5幕第2場(ヴェローナの町外れ)
ジョン修道士が、ロミオに手紙を渡せなかったことをローレンスに報告する。ローレンスは狼狽し、取り敢えずジュリエットを保護するため墓地に向かう。
 
第5幕第三場(墓地)
深夜、パリス(白鳥リズム)は、自分に嫁ぐ前に死んでしまった花嫁に花を捧げようと墓地に来る。そこにジュリエットを墓から掘り出してその死体の傍で自分も死のうと思っていたロミオ(アクア)が来て、墓を掘ろうとする。2人が言い争いになり、ついにふたりは剣を抜いて戦う。
 
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アクアもリズムも剣の使い方が上手いので、これがなかなか見応えのある戦いになった(リズムはあけぼのテレビ夕方の帯バラエティでしばしば王子様役をして町田朱美などと剣技を披露している)。やがてロミオ(アクア)の剣がパリス(白鳥リズム)の身体を貫き、パリスは倒れた(*3)。パリスは息絶え際に「願わくば自分をジュリエットの傍に葬ってくれ」とロミオに言い遺す。
 
(*3)時代劇や騎士物語などではおなじみの、胸に当てると刀身が引っ込み、背中にセットされた“剣の先”が飛び出す仕組みの服を使用している。リズムは万一の場合の安全のため、鉄板でできた胸当てを着けている。「重たいブラジャーだ」などと言っていた。“刺される”と身体の前後ともに血糊が広がるので再利用できない服だが、2人はこのシーンを1発OKにして、予備の服は使用せずに済んだ。ここもノーカットの長回しである。
 
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ロミオはパリスを丁寧に葬ってから、ジュリエットの“遺体”を掘り出し、口づけをしてから、その傍で毒薬を飲んでしまう。
 
ローレンスが到着するが、パリス(白鳥リズム)の遺体、そして明らかに死んでいるロミオ(アクア)を見て嘆き悲しむ。
 
その時、ジュリエット(アクア)が蘇生する。ローレンスはあまり状況を説明しないままジュリエットを保護しようとするが、ロミオが死んでいるのを見て絶望したジュリエットは、ローレンスが目を離した隙にロミオの短剣で自分の胸を刺して自殺してしまう。
 

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「ローレンスが到着するのがあと5分早かったら誰も死ななくて済んだのに」
と撮影終了後、涙を浮かべているアクアMは言ったが
 
「それだとお話として成立しないからね」
と冷静なアクアFは言う。
 
「でも『冬物語』では悲劇が全てキャンセルされますよね?」
とアクアMが私に尋ねる。
 
「たぶんシェイクスピアも晩年になると、ハッピーエンドにしたくなったんだろうね。でも『冬物語』の幸福な結末は、多数の悲劇を書いて来たゆえに生まれた境地だと思うよ」
と私は2人に言った。
 
なおラストシーンでは、ジュリエットの死体人形、ロミオの死体人形を使用して撮影しており、ボディダブルの葉月は使用していない。ボディダブルを使っても死んでいる様子を演技するだけなので、それなら人形を使用した方が、撮影が簡単であった。
 
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「今回、ボクの出番は結局舞踏会の場面だけだった」
などと葉月は言っていた。
 
「まあたくさん人のいる前で2人のアクアを見せる訳にはいかないしね」
とアクアFは葉月に言っていた。
 

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