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■夏の日の想い出・星遮りし恋人(4)
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ところで事務所が倒産してしまったことから、事実上の活動停止に追い込まれたFlower Lightsであるが、8人のメンバーの内、リーダーの川中光梨はWind Fly20, サブリーダーの山本洋子はファレノプシスに転出、またダンスの上手い菅野ハルナはVictoian Roses のバックダンサーに採用された。
(WindFly20は坂出モナが脱退したことでメインボーカルが居なくなり、音源制作ができなくて困っていた。川中光梨はモナの後任のメインボーカルになる)
そして残りの5人はどこからも声を掛けてもらえなかった。
紀子は年末のボーナスも出なかったし、12月分の給料はかろうじて1月12日になってもらえたものの、1月以降のお給料をもらっていない。それで紀子は実は、受験した大学の校納金に困っていた。親に頼み込んで銀行から借金したものの、4月中に返さなければならないのに、あてがない。
それで結局クラスメイトで仲の良い聖子(天月西湖=今井葉月)が貸してあげた。それで何とか紀子は銀行に返済することができた。また入学辞退した大学の前期授業料が返還になったものをそのまま西湖に渡した。
が・・・
「返してもらうのはいいけど、のりちゃん、所得税払える?」
「あ、確定申告か。どうしよ?去年までは事務所の税理士さんにしてもらってたんだけど」
「コロナで納付期限は延期されてるけど、4月15日までには納付しないと」
「どうしよう?自分で計算なんてできないし」
それで取り敢えず§§ミュージックの税理士さんに頼んで彼女の所得税を計算してもらったが、源泉徴収票の類が無いので、そもそもいくら報酬をもらったのかも分からない。銀行振込の記録から昨年1年間に振り込まれた“給料”が6,214,530円あったことが分かる。そこから推定で税金を計算する。
6214530 ÷ 0.8976 = 6923496 (推定報酬総額)
これから、国民健康保険、生命保険料控除を引くと、課税対象額は5443000円となる。これに掛かる税金は674900円である。源泉徴収されたはずの金額が708966円なので、本来は34000円ほど還付になるはずである。
税理士さんが事務所に連絡を取ろうとしたが電話がつながらない、わざわざ現地まで行ってみてくれたが、閉鎖されて入れないようになってるようで誰も居ない感じだった。
「立花さん、給料明細は保管してます?」
「そんなのもらったことないです」
「うーん・・・」
こうなると源泉徴収により税金を納めていることを証明できないので、最悪674900円を本人があらためて納付しなければならない可能性もある。
税理士さんは税務署に相談した。
その結果、事業所の倒産という特殊事情を鑑みて、税理士さんが給与振込みの金額から推定した税金計算の金額を認めてくれたのである。
それで紀子は還付金の34000円を受け取ることができた!
「良かったね」
「助かった。69万円払えと言われてもお金無いし」
「税理士さんの報酬は私が立て替えておくから」
「それもごめーん。ところでさ」
「うん?」
「他の子の分もしてもらえないかな」
「あはは」
§§ミュージックの税理士さんは、他の事務所に移籍した3人とも連絡を取ったが、3人とも確定申告とか“なーんにも考えてなかった”と言っていた。それで結局、各々の現在の所属先の税理士さんとも話し合い、税務署とも相談の上、彼女たちも紀子と同様の計算方法で税務申告することになった。また紀子以外の所属の決まらない4人の確定申告も§§ミュージックの税理士さんが申告作業をしてくれた。
1人通帳を更新し、前の通帳を持ってないという子もいたので、税理士さんは銀行に依頼して過去の入出金明細を出してもらい、それを元に金額を計算した。結局、リーダーの川中光梨のみが10万円ほどの追納になり、他の7人は僅かながら還付金をもらえた。
税金の計算ではこのようにして苦労したのだが、紀子と残りの4人は結局、まとめて、♪♪ハウスに引き受けてもらうことになった。
そして白河社長の命名で“フラワー・サンシャイン”(Flower Sunshine)を名乗ることになる。
それで移籍記念にCD作ろうよと白河社長が言い、松本花子に依頼して楽曲を用意してもらった。
『花のある生活』
『お日様がいっぱい』
という2曲である。
“歌唱力のないアイドル御用達”の松本花子だから難しくない曲だ。音域は1オクターブちょっとしか無い。それで音源制作を始めたものの・・・
プロデューサーさんが頭を抱えた。
「すみません。せめて幼稚園の合唱団程度には歌える子を最低1人は入れてください」
と社長に訴える。
(ひどい言われようである)
白河社長は§§ミュージックのコスモス社長に相談した。
コスモスはなかなかデビューできずにいるガールズの子をこの機会に売り出そうと考えた。そこでコスモスは信濃町ミューズの、安原祥子と桜井真理子を呼んだ。この2人を呼んだのは、フラワー・サンシャインのメンバーが16-18歳なので、それと同程度か上の子を選んだからである。
「それは移籍になるんですか?」
と桜井真理子は尋ねた。
「出向する形になる。だから君たちはこれまで通り§§ミュージックから報酬をもらう。でも仕事上の指示は♪♪ハウスから受けてもらう。松梨詩恩と同じ形式」
「あれ?詩恩ちゃんって、うちに所属しているんですか?」
「そうだよ。高崎ひろかと姉妹を一緒に同じ事務所から売り出すと、どうしても片方に力(りき)を入れるようになっちゃうでしょ?だから事務所を分けたけど、詩恩の給料はうちから払っている」
「知らなかった!」
「槇原愛と篠崎マイ、北野裕子と北野天子とかも同じ方式」
「なるほどー」
「どうする?」
「行きます」
「今年は既に4人もデビューしちゃったから、このままでは今年はどう考えても、デビューの機会が無いし」
それで、安原祥子と桜井真理子は、♪♪ハウスに出向する形で、フラワー・サンシャインに加入したのである。
安原祥子は、昨年春に本部メンバーに昇格した時、本来は高校生だからミューズだけど最初の年だから1年間ガールズでと言われ、この4月からミューズに昇格(左遷だったりして)する予定だったのをミューズを経ずにデビューすることになった。
しかし地方メンバーから本部メンバーに昇格して1年後にデビューというのは全国の信濃町ガールズに希望を与えることになる。
フラワー・サンシャインの音源制作では、この2人にメインとサブのボーカルを取らせる。安原祥子の方がうまいので安原をメインボーカルにし、桜井真理子にサブになって欲しいと言ったが、桜井真理子は「祥子ちゃんうまいもん。その方がいいと思います」と答えた。安原祥子がキャラの立つ性格であるのに対して、桜井真理子は人をまとめるのが上手い、協調的な性格であることも、プロデューサーは見抜いていた。それで桜井真理子をフラワー・サンシャインのリーダーに指名した。
コーラスもこの2人に入れさせる(2回ずつ歌わせて4声のコーラス)。
つまりフラワー・サンシャインの音源はこの2人だけで作ってしまった。紀子も含め、他の5人は一緒にジャケ写に写っただけである。
「フラワーライツの時も、ピカちゃん(川中光梨)とヨッちゃん(山本洋子)だけで音源作ってたし」
「いや、マイクの前に立って、どうすればいいんだろうと悩んだ」
「私たちライブの時もダミーマイクだもんね」
ということで、他の5人は“本来の立ち位置”に戻れて安心したようであった!
桜井真理子が抜けたので、信濃町ミューズのリーダーはひとつ年下の三田雪代が引き継ぐことになった。
桜井真理子のひとつ下の学年の子には、安原も抜けたので、木下宏紀と三田雪代の2人が残っていた。雪代は
「ヒロちゃん、じゃんけんしようよ」
と言ったが、宏紀は
「ボク譲るから、雪ちゃんやって」
と言った。
「だって、男の子のガールズはあくまで例外的なものだから、男の子がリーダーというのはまずいよ」
と宏紀は言った。
「ヒロちゃんは既に性転換手術を終えて女の子になっているという噂もあるんだけど」
「ボクは男の子だよー。性転換とかするつもり無いし」
「怪しいなあ」
などと言いながらも、三田雪代は信濃町ミューズの2代目リーダーを引き受けたのである。
3月上旬に発売した常滑舞音のCDが思いもよらずゴールドディスクになり、私たちは話し合って、常滑舞音は契約を研修生契約(B契約)からアーティスト契約(A契約)に切り替えることにした。彼女の両親をホンダジェットでセントレアから東京に連れてきて、私・コスモス・舞音・両親の5人で会い、契約書に調印した。彼女のマネージングは取り敢えずリセエンヌ・ドオと大崎志乃舞を担当している村上麗子が担当することにした。
3月末、舞音のアーティスト昇格に刺激されたYe-Yo(甲斐絵代子)のファンたちが彼女が歌ったCM曲のCDを大量買いしたことから、彼女のCDもゴールドディスクになってしまった。
私たちは(かなり不本意だったが)Ye-Yoの契約もB契約からA契約に切り替えることにした。山梨から彼女の両親を車で連れて来て、私・コスモス・甲斐絵代子・両親、ついでにお姉さんの甲斐波津子も同席させて新たな契約の調印をした。
ちなみにこの姉妹の名前だが、時々「漫画家の花郁悠紀子(かいゆきこ)・波津彬子(はつあきこ)姉妹から取ったんですか?」と質問してくる人があるが(この漫画家姉妹の本名の苗字は“開発”(富山には“開発”という地名もある)で、その苗字を1字分ずつ姉妹で分け合っている)、実は甲斐波津子・甲斐絵代子の名前は、戦国末期から江戸時代初期に活躍した“浅井三姉妹”(浅井茶々=淀殿、初、江与、から採ったものである。
不幸なことになった淀殿(豊臣秀頼の母)を外した2人の名前を使った。初は京極高次に嫁ぎ、江戸時代初期に豊臣方と徳川方の調停に尽力した。江与は2代将軍・徳川秀忠に嫁ぎ、多数の子供を産んでいる。
・長丸(秀忠の長男で早世 *3)
・3代将軍・徳川家光
・“駿河大納言”徳川忠長(松平長七郎の父)
・和子(後水尾天皇女御で明正天皇の母)
・千姫(徳川秀頼の妻で大坂夏の陣では死ぬつもりだった所を坂崎直盛に救出され本多忠刻と再婚)
・珠姫(加賀藩主・前田利常に嫁ぎ、江戸文化を金沢の町に持ち込んだ)
・勝姫(松平忠直に嫁ぐ:大正天皇皇后の貞明皇后の先祖。つまり今上のご先祖!)
初には子供が無かったが、江与は子供を少なくとも9人は産んでいる。年子が物凄く多いが、恐らく当時の高貴な女性は乳母に授乳させ、自分では授乳しないので、早く生理が再開していたためか?
(*3)長丸は、家光(竹千代)の出生直後に亡くなった。そのため両親は竹千代が生まれたために長丸が死んだような気がして、竹千代をあまり可愛がらなかった。その後、忠長(国松)が生まれたので、両親は国松が長丸の生まれ変わりのような気がして、とても可愛がった。このままでは国松が跡継ぎになりそうと危機感を抱いた、竹千代の乳母・春日局(かすがのつぼね:明智光秀の重臣・斎藤利三の娘)は、お伊勢参りと称して江戸を脱出、駿河に引退していた家康に訴えた。家康は江戸城に乗り込み、長幼の順の大事さを説いた上で「竹千代殿はよき跡継ぎになるだろう」と発言して、竹千代が後継者になることを確定させた。
コスモス、私、川崎ゆりこ、デスクの沢村朋代の4人は緊急会談をして、常滑舞音・甲斐絵代子のマネージングについて話し合った。
「手が足りません。誰かマネージングのできる人を雇うしかないと思います」
「あまり変な人には任せられないし、新卒では辛いよね」
「経験者をツテを辿って至急探しましょう。結婚して専業主婦とかしている人などなら、事務所で家政婦を雇ったりしてでも復帰してもらえないか打診する」
「私も心当たりを当ってみるけど、みんなもお願い」
「小野さんたちにも声掛けてみよう」
「雪月花の3人は人脈ありそうだなあ」
「ただ個人的な人脈はあまり大きくしたくないんだけどね」
個人的なつながりのある人を採用していくと、結果的に社内に派閥を作り出すことになりかねないので、なかなか難しい所である。
七尾ロマンと恋珠ルビーに関しては、ベテランマネージャーを新規採用している。七尾ロマンのマネージャーは星野遙香(1987年度生)といって、以前∴∴ミュージックにいて、KARIONや篠崎マイを担当していた人である。当時は旧姓の望月遙香の名前で活動している。私のコネで採用した。彼女は∴∴ミュージックを、結婚するのに退職した後、少し育児の手が離れたようだったので、家政夫(遙香が“浮気防止のため”男性にしてくれと言った)を事務所の費用で雇った上に子連れ出勤を認めて復帰してもらった。
恋珠ルビーのマネージャーは城沼咲子さん(1984年度生)といって、以前アフラ・ムジカに居た人である。実は弘田ルキアの初代マネージャーだったらしい。ちなみにアフラムジカで現在ルキアを担当しているのは、若林歌織さんといって、以前§§プロ(当時)にいて、アクアの副担当だった人である。城沼さんは玉雪マネージャーのコネで採用し、約5年ぶりに芸能界に復帰することになった。私はアフラムジカの松田電球社長に電話して、退職時にトラブルなどが無かったことを確認の上で採用している。ルキアの2代目マネージャーは少年タレントに声変わり防止のため女性ホルモンを飲ませていたことが発覚し、保護者の抗議で解雇されている。
大曽根部長はその日、§§ミュージックに来訪すると言った。
「アクア君でロミオとジュリエットを撮ろう」
コスモスが思わず頭を抱えた。
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