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■夏の日の想い出・星遮りし恋人(8)

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4月上旬。
 
ある週刊誌が「アクア苗字の謎」という記事を掲載した。
 
一般にアクアの本名は“田代龍虎”とされているのだが、実は苗字は田代ではなく“長野”なのでは?というものである。
 
アクアに親しい匿名人物の話として、アクアのパスポートが長野龍虎名義てあったとか、彼の高校の卒業証書も長野龍虎名義だったという話が出ていた。そして、また彼の古くからの知り合いという人物に取材した所、彼は本名は長野龍虎だが、田代夫妻に里子として育てられたので、通常田代龍虎を名乗っているという話を聞いたことがあるというものである。
 
別に放置してもいいのだが、龍虎は後見人の醍醐春海(千里)および弁護士と3人でリモート記者会見を開いた。基本リモートではあるが、◇◇テレビの原田三貴アナウンサーが取材側の代表として臨席した。
 
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アクアは丁寧に説明した。
 
「私の本名が長野龍虎であるのは事実です。ただ私は小さい頃に両親を失いまして、それで田代の両親に育てられたんですよ。ですから通常は田代龍虎を名乗っていますが、法的な手続きなどは戸籍上の名前である長野龍虎を使用しています。ですからパスポートも長野龍虎ですし、学校も教室では普通に田代龍虎と呼ばれていましたが、卒業証書などは長野龍虎名義でした。銀行口座も長野龍虎名義ですね」
 
とアクアは、週刊誌の報道内容をほぼそのまま認めた。
 
「これが私のパスポートです」
と言ってカメラに向ける。
 
パスポート番号・本籍地・発行番号などには、マスキングテープが貼られているが、
 
Surname Nagano
Given name Ryuko
Nationality JAPAN
Date of Birth 20 AUG 2001
Sex M
Date of issue 11 SEP 2019
Date of expiry 11 SEP 2024
 
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という表示がカメラに映った。“長野龍虎”という本人署名も入っている。
 

このパスポートがネット会見で公開された時の最大の反応は
 
「なんでアクアの性別がMなの〜?」
というものであった!!
 
「性別はFになっていると思ってた」
「もしかして20歳になるまでは法的な性別は変更できないとか?」
「アクアは半陰陽のケースに準じるから性別訂正可能だと思うけどなあ」
 

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「君のパスポート見せてよ」
と“彼”は言った。
 
「いいけど」
と言って龍虎Fは自分のパスポートを見せる。
 
Surname Nagano
Given name Ryuko
Nationality JAPAN
Date of Birth 20 AUG 2001
Sex F
Registered Domicile TOKYO
Date of issue 9 OCT 2019
Date of expiry 9 OCT 2024
 
「発行日が違うんだなあ」
 
“彼”は実は“アクア”と“マクラ”のパスポートはどちらかが原本で片方はコピー(性別だけ書き換えた)なのでは(マクラの本名は龍虎ではないのでは)と疑っていたのだが、発行日まで違うのなら、やはり別々のものなのだろう。こちらは署名も向こうと同じ“長野龍虎”だが、筆跡が違うと認識した。こちらの方が女性的な筆跡である。
 
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「別に一緒に更新したりはしないし。ちなみにカメラに映ってなかったけど、アクアの本籍地は埼玉県だよ」
 
「へー!じゃ、名前と誕生日が同じで、性別と本籍地と発行日が違うわけか」
 
「ボクの性別は知ってるくせに」
とFが言うと、“彼”はじっとFを見詰めた。
 

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記者会見は続いている。
 
「本来の御両親はどうして亡くなられたのかお聞きしてもいいですか?」
と原田アナウンサーが尋ねる。
 
「交通事故だったそうです。私はたまたま両親の友人の家に預けられていたので、助かったんですよ」
とアクアは答える。
 
「小さい頃のことだったんですか?」
「そうなんですよ。だから私は母の記憶というと、母が青い振袖を着ていてそれが凄くきれいだなあと思った記憶があるだけで」
 
「お母さんは結婚していたのに振袖を着ておられたんでしょうか?」
「若い内はいいんじゃないですかね」
「ああ、そうかも知れないですね」
「その振袖は両親が亡くなった後、親戚筋の所に預けられていたのを、中学生の時に『お前のお母さんの形見だから』と言って頂きました。私の宝物です」
 
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「そういえば、アクアさん、青い振袖がお好きですよね?」
「はい、その記憶があるので。母の遺品そのものではないですけど、同系統の色の振袖をよく愛用しています」
 
ここではアクアは男の子なのに(?)振袖を着るのかという問題は完全にスルーされている。
 
「醍醐春海先生は、アクアさんとはどういう関係でしたっけ?」
 
「映画にもなりましたけど、この子が腫瘍の手術をする前日に、私はこの子と偶然遭遇しまして」
「あ、そうか。その縁なんですね」
 
「私たちも明日の試合勝つから、龍虎も明日の手術頑張れと約束したんです」
「そういう話でしたね」
 
「そして、私たちも強豪の優勝候補のチームに勝ったし、アクアも困難な手術に耐え抜きました」
 
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「いいお話ですね」
 
「それ以来、私も、当時のチームメイトも。ずっと彼女とは縁が続いているんですよ」
「彼女?」
「あ、ごめんなさい。“彼”の間違いです」
 

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ネットでは「いや“彼女”で正しい」という意見が圧倒的であった。
 

「でもそれで、私は、醍醐先生からも、妹の大宮万葉先生からも、たくさん曲を頂いているんですよね」
とアクアは発言した。
 
「今後は、アクアさんの本名は“長野龍虎”でいいのでしょうか?」
 
「いえ。田代の両親にここまで育ててもらった恩を私は忘れません。ですから、私のプロフィール上の本名は田代龍虎ということにさせておいてください」
 
と言ってアクアは会見を締めくくった。
 

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この会見をネットで見て、田代夫妻は泣いていたらしい。
 
田代夫妻(41歳)は龍虎が高校に入学して独立した後は、毎日は会えなくなったものの(むしろ月に1度も会えなくなったものの)、毎週1度は御飯を作って持ってきてくれたりしているし、何か必要なものがないか尋ねて、龍虎が家具や家電などが欲しいと言うと、買ってマンションに置いていってくれたりしている。一度冷蔵庫が壊れた時も新しいのを買って持って来て、古い冷蔵庫から中身を移し替えてくれた。
 
私はいよいよ“アクアの父親”の名前を発表するための地ならしを雨宮先生あたりが始めたのだろうと感じた。アクアの父親の名前は20歳になってから公表するという約束であった。アクアの父親が誰なのかについては、実は親族である白河夜船社長でさえ知らない。
 
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(白河社長と高岡猛獅は又従兄弟で、その縁があり、白河が関わっていたライブハウスでワンバンはよく演奏していた。そのライブハウスの看板娘?だったのが羽鳥セシルの母である−当時既に結婚していたけど:高岡猛獅に子供がいたことは、当時上島先生や雨宮先生でさえ知らなかった。夕香さんの実の妹である支香さんでさえ知らなかったのだから)
 

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その日マリはS3丁目駅の近くにある“サワークリーム食パン”まで来て1階のマリベーカリーでパンを買ってから、4階の事務所で少しおしゃべりしていた。
 
それで帰ろうとしたら、自分の車に駐車監視員さんが紙を貼っている!
 
「すみませーん。すぐ動かしますから」
「違法駐車ですから、この紙の通り、警察署に出頭して反則金を納めてください」
「そんなぁ。今すぐ動かすから勘弁してくださいよぉ」
「私には、そういう融通を利かせるような権限はありません」
 
とマリは駐車監視員さんと押し問答をしていた。
 
(ステッカーを印刷していても、貼るまでなら、車を動かしてしまえばキャンセルになるが、貼られてしまったらアウト。取り消しはできない。なお貼られた場合に警察に出頭してしまうと反則切符まで切られて点数が付く。放置して納付書が(車の所有者宛に)送られてくるのを待ち、来たらすみやかに納付すると点数は付かない。この対処法はわりと知られている。“正直者は馬鹿を見る”システム)
 
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ところがその時である。
 
「ああ、よく寝た」
という声がして、“後部座席”から男が起き上がった。
 
「誰?」
とマリはギョッとして訊いた。
 
「あ、マリちゃん?ごめーん。物凄く眠くてさ。フラフラと歩いていたら、目の前にドアの開いた車があったから、ついそこに入って寝ちゃった」
 
「百道大輔さん!?」
「どもども」
「いつから乗ってたの?」
「放送局までしか記憶が無いんだけど」
「確かに私、放送局からここに来た」
 
「あのぉ、お知り合いですか?」
と駐車監視員さんが訊く。
 
「まあ知り合いかな」
とマリ。
 
女性の車に見知らぬ男が寝ていたとなったら、警官を呼ばなければならないのでは?と監視員さんも一瞬思ったものの、知り合いならいいかと思い直したようである。
 
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「あれ?マリちゃんどうしたの?」
とその時、百道は初めて駐車監視員さんに気付いたようである。
 
「ちょっとと思ってここに車駐めてパンを買ってたら、駐車違反のステッカー貼られちゃって」
 
「ありゃ」
と百道は言ったが、少し考えてから、駐車監視員さんに言った。
 
「駐車監視員さんって、放置車両にステッカー貼るのが仕事ですよね?」
「はい」
「車内に人がいたら放置車両ではないよね?」
「・・・・そうです」
「俺が車内に居たから、この車は放置車両じゃないよ」
と百道。
 
「確かにそうです。すみません。間違いでした。取り消します」
と言って、駐車監視員さんは自分でステッカーを剥がした。
 
「じゃ、マリちゃん帰ろ帰ろ」
「あ、うん」
 
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それでマリは運転席に座り、後部座席に百道を乗せたまま、車を発車させたのであった
 

“信濃町シスターズ”と称して、品川ありさ・高崎ひろか・大崎志乃舞の3人が出演していた“3×3大作戦”であるが、4月から出演者を交替することにした。
 
品川ありさ・高崎ひろかが“体力的に辛い”と訴えたので、もっと若い子と交替させることにしたのである。この番組はロードレースを走らされたり、登山したり、冬はクロスカントリースキー、夏はオープンウォーターでの水泳など、かなりハードな内容である。
 
それでありさ・ひろかの後任に、コスモスは、恋珠ルビーとYe-Yoを入れたのである。ふたりとも若くて体力があるので
「ランニングとかも頑張ります」
と張り切っていた。それにルビーは宮古島にいた時はテニス部に入っていたし、Ye-Yoは元男の子なので2人とも一般的な女子よりは体力と運動神経がある。
 
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なお、この番組は始まった2016年10月には、三つ葉(15-17歳)、スリファーズ(20歳)、信濃町シスターズ(品川ありさ17 高崎ひろか17 桜野みちる22)という構成だったが、2018年一杯でみちるが引退したので、大崎志乃舞(当時15歳)が入っている。そして2019年春にはスリファーズが「体力の限界」と言って降板し、UFO(当時12歳)が入っている。
 
つまり現在の出演者は下記である。
 
三つ葉(八島19 優羽20 波歌21)
信濃町シスターズ(大崎志乃舞17 恋珠ルビー14 Ye-Yo 13)
UFO (宇良々14 房枝14 奥奈14)
 
本来三つ葉のための番組だったはずが、最近は若いUFOにかなり“食われて”いる感じもある。しかしUFOも自分たちより1つ下の学年のYe-Yoの参加には結構警戒しているようであった。ルビーも自分たちと同学年である。彼女たちは初めて“追われる”立場に立つ。
 
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司会は当初デンチューの2人だったが、2017年に解散してしまったので、アシスタントであった金墨円香(実際には最初から彼女が仕切っていた)が司会者に昇格し、新たに森風夕子(2000生)をアシスタントに迎えている。森風夕子も一緒に走ったり泳いだりさせられて鍛えられている。
「アイドルは体力ですね」
 
などと夕子は言っている。
 
 
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夏の日の想い出・星遮りし恋人(8)

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