広告:ここはグリーン・ウッド (第2巻) (白泉社文庫)
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■夏の日の想い出・天使の歌(2)

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私は青葉に電話してみた。
 
「そちら就職戦線はどう?」
「名古屋もお祈りメールが来ました」
「ああ。ダメだったか」
「その件で金沢〒〒テレビの石崎部長がちょっと話したいと言っているので、ひょっとしたら採用してくれるのかもという気がしています」
「採用してもらえたらいいね!」
「ええ。私も東京・大阪・名古屋でダメだったら北陸のどこかの放送局に入れないかなと思っていたので」
 
「ところで3月9-10日とか時間取れないよね?」
「震災イベントでしょ?すみません。3月11日に和実の帝王切開をする予定なので、3月2日以降、私ずっと仙台の病院に詰めているので」
「あっそうか!」
 
「千里姉もです。2人で交代で24時間傍に付きっきりです。ここまで無事来たのが奇跡なので、最後の詰めは慎重にいきます」
「分かった」
 
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「ですから私も千里姉もずっと仙台ですね」
「なるほどー」
 
まあ千里は3人いるから、能力をまだ回復させていない1番は置いといて、千里2か千里3のどちらかが仙台の病院にいて、どちらかが福島のイベントに来てくれるのだろう。
 
「そうだ。田中(世梨奈)さんと上野(美津穂)さんは都合付かないかな?」
「行けると思いますよ。彼女たちの交通費・宿泊費・食費は私が出しますから」
「ほんと?じゃ申し訳無いけどよろしく」
 
それでその2人が参加してくれることになった。
 

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私は最後にコスモスに電話した。
 
「3月10日のローズ+リリーの演奏に、そちらのレイアちゃんと葉月ちゃんを貸してくれない?ノーギャラだけど」
「いいですよ。葉月は本当にノーギャラになるけど、レイアは給料制だから、あまり関係無いですね」
「うん。じゃよろしく」
「ちなみに演奏楽器は?」
「葉月ちゃんには、キーボードとヴァイオリン、レイアちゃんにはヴァイオリンと、トロンボーンとサンバ・ホイッスル」
「サンバ・ホイッスルですか!」
「やってくれるなら、事前に楽器はあげるから」
「じゃそれお願いします。練習させておきますよ」
 
そういう訳で今年の演奏者は揃ったのである。
 
今回はできるだけコンパクトにまとめようということで、和楽器を多数フィーチャーした曲は外した。
 
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2019年2月24日(日・友引)。
 
年内で引退した桜野みちると、Wooden Fourの森原准太の結婚式が行われた。
 
政子はこの日で床上げとしたので、私と一緒に祝賀会に出席した。会場は都内のホテルだが、披露宴方式ではなく基本的に御祝儀無しで参加費だけを支払う“祝賀会”方式にしたので、比較的質素な祝賀会となった。
 
これは本人たちが「あまり派手なことはしたくない」という意向だったので、§§ミュージックの秋風コスモス社長と、Wooden Fourの事務所の池原さんとで話し合い、芸能人の結婚式にありがちな大量の招待客を招いた豪華結婚式のようなものはしないことにした。
 
それで祝賀会は下記の6名の発起人によって主催されたのである。
 
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森原側 大林亮平・木取道雄・本騨真樹(Wooden Fourの残り3人)
桜野側 川崎ゆりこ・山下ルンバ・桜木ワルツ
 
案内状も250通ほどしか発送していない。関わった全員に出したら1000通、ひょっとすると2000通を越えて費用も億を超すところだが、それでは“豪華結婚式”になってしまうので、主として川崎ゆりこと大林亮平で話し合って、200人まで人数を絞った。しかし向こうから「ぜひ出席したいので」と連絡してきた人には送ったので結果的には250通送ることになった。それで費用は2000万円程度で抑えられることになった。会費3万円なので差額1250万円を新郎新婦が負担することになるが、会費と別途で、私・紅川・コスモス・WoodenFour一同が少し包んだのでそれでだいたいトントンくらいになるはずである。
 
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芸能人の結婚披露宴というと大人数になりがちなので立食パーティー方式の場合が多い。しかし発起人たちは着席方式を採用した。250人であれば、この人数を着席させられる会場はけっこう存在する。
 
会場は新宿Kプラザホテルのディグニティホールを使用する。正餐形式で最大450名入るが、ここに余裕でテーブルを並べる。祝賀会は3時間ほどで、最初の1時間はオーケストラの生演奏を入れて、ゆっくりと食事を楽しんでもらい、残り2時間は参加者の余興の時間とする。
 

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祝賀会のドレスコードは「平服でおいでください」と案内状に記載した。
 
それで私と政子もごく普通のワンピース(シャネル)で参加した。他の参加者もだいたい女性はワンピースか明るい色のスカートスーツ、男性はやや上品な背広スーツで参加している。ロックバンドの人でふだんステージなどに出ているようなツナギとかジーンズなどで来ている人たちもいるが、この業界ではそれが“ロックバンドの正装”のようなものなので問題無い。
 
お祭りの法被が正装とみなされるのと同じである。
 
アクアと顔を合わせた時、政子が異様に喜んだ。
 
「アクアちゃん、可愛い!」
 
「結婚式だから振袖だよと副社長(川崎ゆりこ)から言われてこれ着せられちゃったんですけど、他に振袖着てる人を見ないんですけど」
と不安そうに言っている。
 
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そういう訳でアクアは豪華な加賀友禅っぽい青系の振袖を着ているのである。たぶん300万はすると私は見て取った。ちなみに新婦は3000万円の大振袖を着ていて、それよりは格下の服である。ゆりこは新婦が着る服を知っていたので安心してこの豪華な振袖を着せたのだろう。
 
「向こうで松原珠妃がやはり加賀友禅の振袖着てたよ」
と私は言う。
 
「良かった!他にも振袖着てる人がいるなら、いいですよね」
と“彼女”は安心したふうで言った。
 
今日来ているのはどうもアクアFのようなのである。
 
ちなみにこの日、振袖で来ていたのは、アクア、松原珠妃、青葉の3人だった。珠妃の振袖は700-800万円クラスとみた。
 
青葉は「千里姉に欺された!」と言っていたが、青葉の振袖を見てアクアは大いに安心したようであった。
 
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(千里本人はショップブランドっぽいロリータのドレスを着ていた。尋ねると Innocent World だよと言っていた)
 

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最初の1時間オーケストラの演奏が続くというのは、うまいなと思った。この手の披露宴とかでは、しばしばすぐ余興が始まり、運営に関わる人が料理を食べる暇がない時もある。なお、挨拶の類いは、池原社長、紅川会長の2人だけであった。挨拶が延々と続くと疲れるからこれも絞ろうということでこの2人になった。乾杯の音頭は∞∞プロの鈴木社長にお願いした。
 
オーケストラの演奏が終わった後は参加者が多数歌を歌ったりバンド演奏をしたりしたし、マジックを披露している人もあったが、歌の伴奏は今井葉月がしていた。彼女、もとい、彼はピアノが上手いし、またよく色々な曲を知っている。即興や初見にも強いようである。ちなみに葉月は刺繍の入った可愛いペールピンクのドレス(ストロベリーフィールズ)を着ていた。
 
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「そのドレスはレンタル?」
と訊くと
「パーティーとかに出る機会はたくさんあるから少し買っておきなさいと言われて、ワルツさんと一緒に行って買ってきました」
と言っていた。
 
「葉月ちゃん、女物の服が増殖してない?」
「少なくとも高校卒業するまでは女物の服しか着ません」
 
しかしむしろ彼は男性であることをほとんどの人に忘れられているのではという気がしている。明確に意識しているのはアクアとワルツにゆりこくらいかも知れない。コスモスもかなり怪しい。そのワルツはローラアシュレイのビロード風シックなドレスを着ていた。
 
私と政子もタイミングを見て出ていき、葉月に「伴奏不要」と言って私自身がエレクトーンを弾いて『花園の君』を歌った。千里はゴールデンシックスと一緒に『愛は続くよどこまでも』を歌っていた。青葉は自分でエレクトーンを弾きながら北里ナナの『ナナの海』を歌った。この3組が続くので、その間に葉月にはトイレに行っておいでよと言った。この3組の後は、今度はアクアがピアノを弾いて、桜木ワルツ、トイレから戻ってきた葉月と一緒に『三毛猫のワルツ』を歌った。
 
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「葉月ちゃん、トイレはやはり女子トイレ?」
と私は後で訊いた。
 
「私、男子トイレとか使えません」
「ああ。その服では男子トイレには入れないよね」
「私、高校卒業するまでは身も心も女の子ですから」
 
「ひょっとして、女の子になりたくなってきた?」
「むしろ男の子に戻らなくてもいいかなという気分になってきました」
「ああ。丸一年女の子として生活していたらそうかもね」
 
「じゃ性転換手術して本当の女の子になる?」
と政子が訊いたが
「父からは20歳までに去勢するよう言われていますし」
などと本人は言っていた!
「いいの?」
 
「母には麻酔打たれてあやうく去勢されそうになりました」
「嘘!?」
 
「山村さんが訪ねてきたんで未遂で済んだんですよ。母は看護師の資格持ってるけど、実は盲腸の手術くらいはできるって言ってるし。離島で台風が来て病院のある所まで行けないという状態で、盲腸になった人を手術してあげたらしいです。看護学生時代に」
 
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「それは緊急避難かな」
「麻酔の打ち方は若い麻酔科医より上手いと本人は言ってます。去勢手術の経験もあるそうです」
「マジ?」
 
「女の子になりたいけど手術受けるお金が無いと言っていた子の去勢をしてあげたことあるらしいです。無料で。こちらは完全に違法ですけど」
「危ない人かも知れない」
 
「ボクの場合、精液は保存してあるし。ちんちんは別としてタマタマは別に無くてもいい気がするし。母は別途病院にも去勢手術の予約をしてお金も払い込んでいて、いつでもそこの病院に行ったら手術受けられるらしいから、お医者さんにやってもらった方がいいなら、そちらに行きなよと言われています」
 
「うーん・・・」
 
やはり彼はもう男の子には戻れないのかも知れないという気がしてきた。
 
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2月25日(月).
 
★★レコードが近い内に(子会社である)TKRを吸収する見込みという記事が一部の新聞に掲載され、株式市場で★★ホールディング株が急騰する騒ぎがあった。
 
ここ数年★★レコード本体が業績を悪化させているのに対して、アクア、ステラジオ、などを抱えていて、また配信事業でも利益を出しているTKRは右肩上がりの成長を遂げている。★★レコードが3年ほど前の280億円から毎年売上を落として2018年度は推定180億円の売上に留まったのに対して、TKRは2018年度推定60億円の売上をあげており、いづれはTKRが★★レコードより大きくなるのでは?と考える人も出始めていた。
 
2月25日の株式市場では先週末終値1160円から気配値がいきなりストップ高の1460円まで上がり、買い注文が殺到していた所に、大量の売りが出て全部取引成立してしまった。
 
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東京証券取引所は吸収合併の情報の真偽を確認するため、いったん取引を停めた。
 
12時すぎに、★★レコードの村上社長、TKRの松前社長が共同で記者会見し、会社合併の話などは無いと言明した。
 
すると今度は取引再開後、★★ホールディング株は急落し、ストップ安の860円まで落ち込んだ。売り注文が多数あって売買が成立せずにいた所、引け際に大量の買い注文があり、ストップ安での売り注文は全て成立してしまった。
 
しかしあまりにも安くなったことから、翌日は朝から買い注文が殺到する。
 
結局この後、市場は憶測を含めて不確かな情報が飛び交い、株価は何度もストップ安とストップ高を繰り返し、一週間後には期待値から1800円付近という、以前よりかなり高い価格帯で安定した。
 
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株価が落ち着き始めた所でアメリカのファンドLion Pairsが★★ホールディング株を8%も所有しているという大量保有報告書を提出して、株主の間に驚きの声があがった。
 
どうもここ一週間ほどの激しい取引の間に大量資金を投入して買い集めたようなのである。そして、その保有率を背景に取締役を送り込んでくるのではという憶測が広がり、株価は更に上昇することになる!
 
実際にLion Pairsの代表が来日して都内で記者会見をし、同ファンドとしては★★レコードがTKRと一体になって経営の効率化を進めてもらいたいと思っていると発言。これでやはりTKRは★★レコードに吸収されることになる、と考える人が増え、株価は更に上昇気味で移行していくことになる。
 
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Lion Pairsは★★ホールディングに4月中に臨時株主総会を開催することを要請したが、★★ホールディングは拒否した。株主が株主総会の開催を求めるには「3%以上の株式を6ヶ月以上保持している」ことが必要で、現時点ではLion Pairsはこの要件を満たしていない。しかしどっちみち6月下旬には定例の株主総会が開かれる予定である。
 

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夏の日の想い出・天使の歌(2)

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