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■夏の日の想い出・辞める時(10)

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医師団はこれらの結果を丁寧に本人と母親に説明した。そして信子は精神科の鞠村医師から尋ねられた。
 
「あなた自身は男に戻りたいの?このまま女として生きたいの?」
 
「私は小さい頃から、女の子だったらよかったのにと思っていました。ですから今は天国に来たような気分です。このまま女の子として生きて行きたいです」
と信子はしっかりと言った。
 
たぶん突然女の子になってしまった時は随分戸惑ったろうが、この1ヶ月半の間に、そういう気持ちに固まったのだろう。
 
信子の母も、病気であれば仕方ないし、本人が女として生きていきたいというのであれば、それをできるだけ支援したいと、信子の考え方に理解を示してくれた。
 
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「でしたら、半陰陽で本来の性別は女であるという診断書を書きますよ」
「お願いします」
 
そこで医師の診断書をもとに性別の訂正(+名前の変更)を申告することにし、その作業を千里のツテで弁護士に依頼することにした。
 
信子と母は、その結果を父にも説明するため、いったん実家に向かうことにした。鞠村医師は、もしお父さんが納得しないなら自分たちからも説明するから、こちらに連れてきてと言ってくれた。
 

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病院を出た後、千里は信子と母を近くの日本料理店に誘った。
 
「お魚が美味しい!」
と信子も母も言う。
「ここは富山湾の海の幸がたっぷりですから」
と千里は笑顔で答えながら、料理を味わった。
 
信子が少ししんみりとした感じで言う。
 
「ヒッチハイクの旅行に出る前に、この旅行で自分の運命が大きく変わるような予感があったのですが、こんなに劇的に変わるとは思ってもいませんでした」
 
「私たちのグループと遭遇したことから、バンドのデビューの話に進展しちゃうしね」
「あれもびっくりです。でもローズ+リリーのおふたりに、ラッキーブロッサムの鮎川さんとは全然気付かなかったです」
「まあポップスに興味無ければローズ+リリーには気付かないだろうし。そもそもローズ+リリーって露出が少ないからね。テレビには出ないし」
 
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「流行歌手でテレビに出ないって珍しいですよね」
 
「マリちゃんが精神的に脆いから、長時間のリハーサルに耐えられないし、テレビ番組にありがちな、おふざけみたいな演出も苦手だし、ディレクターとかから、あれこれ指示されても、納得がいかないことはしたがらないというのもあるみたいだよ」
 
「ああ、確かに精神的なもろさは感じました」
 
「だからこそ、詩が書けるんだろうけどね。音楽業界に身を置いている人って、どこか精神的に問題点を抱えている人が多いよ。健全な精神を持っている人はわざわざこんな世界に来る必要は無い。ふつうに会社勤めすればいい」
 
「だったら、私もその業界に入っていいのかも知れないなあ」
と信子は言った。
 
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「そういえば千里さんは、冬子さんたちの高校の同級生か何かですか?」
「クロスロードという集まりがあるんだよ。信子ちゃんも興味あったら、今度集まる時に声を掛けるよ。参加条件は《女湯に入れること》」
 
「へー!」
「実際は女湯を貸し切って入るから、おっぱいが無くても、女湯に入る勇気のある人なら入れる」
「あぁ。。。」
「ただし、他の女性の裸を見て、おちんちんが立っちゃうような人は困る」
「なるほど」
 
「MTFの人が多いけど、その友人の天然女性で、こういうのに興味があって集まりに参加している人もある。実は2011年6月に東北地方のある避難所で偶然遭遇したんだよ。みんな様々なボランティアとして、そこに来合わせていた。そこで意気投合しちゃったんだよね」
 
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「そういう人達が偶然遭遇するというのも凄いですね」
「まあ人の出会いは面白いよ」
 
「今は学生さんですか?」
とお母さんが尋ねる。
 
「ああ、私の名刺、差し上げてなかったですね」
と言って、千里は2人に名刺を出したが
 
「うっそー!?」
とふたりは声を挙げた。
 

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信子は1月から大学にも女装で出て行くようにした。
 
「えー!?鹿島君なの?」
「どうして女装?」
 
「ぼく女の子になっちゃった」
「性転換したの?」
「いや、それが朝起きたら女の子になってたんだよ」
「そんな馬鹿な」
 
などという話はしたものの、友人たちは信子が女の子になったことをそのまま受け入れてくれた。
 
「女の子の声だね」
「実はまだ短時間しか出せない。凄く疲れる」
「でもちゃんと女の子の声に聞こえる」
 
「じゃこれからはずっと女装で出てくるの?」
「うん。このまま女の子として生きて行く」
「すごーい」
 
「トイレとかどうすんの?」
「女子トイレを使わせて〜」
「そうだね。鹿島君なら、まあいいかな」
「私、鹿島君と経済学部の女子トイレで遭遇したことある」
「なんだ。以前から女子トイレ使っていたのか」
「実は法学部で行くのが恥ずかしいから隣まで行ってた」
「へー」
「じゃ、私たちと一緒に行こうよ」
「うん。助かるかも」
 
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「おっぱいはこれ本物?」
「本物〜。Dカップのブラ着けてる」
「おちんちんは?」
「もう無いよ」
「取っちゃったんだ!」
「戸籍上の性別も変更予定。病院で医学的に女であるという診断書もらった。法律上の手続きは弁護士さんにお願いしてる。それが変更できたら大学にも届けを出すつもり」
 
「すごーい」
「だったら、もう普通に女の子でいいね」
 

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講義の際に出席を取られた時、
「鹿島信一君」
と呼ばれて、信子が
「はい」
と返事をすると、教官がこちらを見て言った。
 
「君ふざけないで。代返?」
「本人です。性転換したんです」
「ああ。そういうこと。了解」
 
数人の教官とこういうやりとりをしたものの、どの教官も簡単に了解してくれた。
 
信子はどんどん「後戻り」ができない状況になっていっているなというのを感じていた。
 
でもなんで世の中、みんな男と女に分けられるんだろ。自分の場合、唐突に女になっちゃったから、もう女として生きていくしかないけど、無理に男女に分けなくてもいいのに。
 
信子はそんなことをふと考えた。
 

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信子は大学には地下鉄東西線で通っているのだが、女子として通学し始めて数日目のことだった。帰りの電車でつり革に掴まって立っていると突然お尻に他人の手の感触を感じた。
 
え!?
 
最初は電車が揺れた勢いでぶつかったのかなと思ったのだが、その手は明らかに自分のお尻を撫でている。
 
まさかこれが痴漢ってやつ?
 
信子は怒りがこみあげた。
 
こんにゃろう!
 
ガシッとその手を掴まえると同時に
「きゃー!痴漢!」
と叫んだ。
 
振り返って睨む。50歳くらいの男だ。信子が叫んだので周囲の客もこちらを見ている。
 
「次の駅で降りて駅員さんとこに行きましょう」
「ごめーん。勘弁して。二度としないから」
とその男は言っている。
 
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「常習犯じゃないの?」
 
「そんなことない。ほんの出来心なんだよ。徹夜で疲れていた所にあまりにも可愛い女の子がいて、ついふらふらとしてしまった。絶対にこんなことはもうしないと誓う。だからお願い、許して。女房と大学生の娘もいるんだ」
 
信子は迷った。ここで自分が見逃せば、また被害が出るかも知れない。しかしその大学生の娘さんというのは父親が痴漢で捕まったら経済的に困窮して、将来を断たれるかも知れない。
 
「だったら、その娘さんに免じて今日だけは見逃してやるよ。本当に1度だけだからね」
 
「ありがとう。助かる」
 
その男は次の駅で降りていったが、近くの50代くらいの女性から言われた。
 
「ああいう女の敵は、ちゃんと駅員さんに突き出すべきだったと思う」
「私も迷ったんですけどねぇ」
「きっと今までも何度もやってるよ」
「そうですねぇ」
 
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信子は別のことを考えていた。女になったということは、男から襲われる可能性のある立場になったということなんだ。今まで自分は無防備すぎたかも知れない。できるだけひとりでは夜道歩かないようにして、防犯ベルとかも買っておかなくちゃ。男の子の友だちともふたりきりにはならないようにした方がいいよな。
 
そこまで考えてから、ちょっとだけ修正する。
 
もっとも正隆とか三郎とか清志が相手なら、そうなっちゃったら、恋人になってしまってもいいけどね。
 
ユーさんとのホテルでの甘い数時間が思い起こされて信子はちょっと頬を赤らめた。
 
あの時はまだ心の準備できてなかったけど、今なら男の子と恋愛してみてもいいかなという気分になれそう。
 
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2014年1月11日(土)。
 
ベージュスカ+ホーン女子の契約に向けての会議がζζプロで開かれ、私と政子も成り行き上、これに参加した。
 
今日の参加者は 
ベージュスカ Gt.(Leader)中村正隆 Dr.織田三郎 B1.鳴川清史 B2,Vo.鹿島信子 
ホーン女子 Tb.(Leader)葛城詩葉 Tp.織田小枝 ASax.霧島花純 Euph.春日菊代 
 
といった面々である。
 
これに先日から関わっている4人、私と政子、ゆま、千里が来ている。
 
年内の話し合いで、ふたつのバンドを一体化してプロバンドとして売り出すこと、音楽的にはスカを中心とすること、バンドのリーダーはベージュスカの中村さん、サブリーダーはホーン女子の葛城さんにすること、などが固まっている。また、未成年であるベージュスカの4人はいづれも親との話し合いで、口頭では芸能活動に関する同意をもらっている。
 
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「学生のうちは色々やってもいいんじゃないか。卒業するまでに目が出なかったらその時点で考え直せばいいと言われました」
 
と鳴川さんなどは言っていたが、他のメンバーも親との話し合いでは、だいたいそういう線になったようである。信子の場合は性別問題で大騒動になったので、信子が「スカウトされてるんだけど」と言ったのを父が「そんなことはどうでもいい」と言ったのを同意の言葉と解釈させてもらったらしい。母はそちらにも理解を示してくれたという。
 

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この場で鹿島信子から報告があり、性別変更の審判の手続きをしたことが報告され、私たちは大いに驚いた。
 
「だいたい1ヶ月くらいで結果が出るそうですが、特に問題は無いはずという弁護士さんのお話でした」
と信子。
 
「性別の変更って20歳すぎないとできないのでは?」
「性同一性障害の場合はそうですが、半陰陽の場合は何歳でもできるんです」
「半陰陽なの!?」
「半陰陽だけど、女性と判定されました。その診断書を添えて変更を申請しました」
 
「女性半陰陽ってやつ?」
「染色体的にはXYで男性だそうです。だからむしろ男性半陰陽になります。でも卵巣・子宮・膣と女性生殖器が完全に存在していて、ちゃんと機能しているので医学的には女性という診断でした」
 
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「そういう話であれば、ファンの心理的抵抗は少ないだろうから、こちらもやりやすいよ」
と青嶋さんは言った。
 
「XYの女性、XXの男性ってわりと居るんだよね。ただ、普通は不妊治療とかで染色体を検査しないかぎり分からない」
と私が言う。
 
「そんな話も聞きました。でもXYの女性、XXの男性はそういう場で見つかった場合は、生殖器がきちんと機能していなくて不妊である場合が多いそうです。ただそれは元々不妊治療の時に見つかるからで、本当はちゃんと機能している生殖器を持つ、XY女性・XX男性も存在するのではと先生は言ってました」
 
「確かにそれは異常を感じないから病院も受診しないんで死ぬまで発覚しないだろうね」
 
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「スポーツ関係にもXY女性は時々いるよ」
と千里が言う。
 
「それ昔はオリンピックで金メダル取った後で、あんたは男だって言われて大騒動になったりしたよね」
「今は怪しい選手は事前に検査受けてるから問題のある選手は早々に引退したりしてるのよね」
と千里は言う。
 
「でないと、金メダル取った後で性別問題を世界に報道されるって、あまりにも可哀相だよね」
 
「昔は染色体だけで性別判定してたから、結果的に性転換した選手はオリンピックに出られなかったんだけど、2003年にIOCは性転換してから2年以上経っているMTFの選手は参加してもいいと見解を出したんだよね。それ以前から半陰陽の選手については、睾丸の除去手術を受けている場合は女子選手として認めていたんだけど。柔道のエディナンシ・シルバなどはそれで女子としてオリンピックに出ている」
 
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「そういう見解になっていたのか」
とゆまが感心したように言う。
 
「それで私もXY女性ということなんですが、ただ、突然男の形から数時間で女の形に変わってしまったのは謎だと先生たちも言ってました」
と信子が言う。
 
「まあ世の中には不思議なこともあるよ」
と政子が言い、この件は何となくそれで納まってしまった。
 

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