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■夏の日の想い出・辞める時(7)

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ギターの人が後ろを向いて頷くようにする。
 
演奏が始まる。
 
ホーンセクションの強烈なファンファーレに続いてドラムスのフィルインが入り、ギターと2台のベースも軽快な音を奏で始める。そして信子が歌い出す。
 
きれいな女声だ!
 
ほんの1ヶ月ちょっと前に、彼女は女声が出せないと言っていた。もらったCDでも男声で歌っていた。しかし、今日の信子はきれいな女声で歌っており、サンタガールの衣装を着ているので、知らない人には普通の女性ボーカルと思われるだろう。
 
この一ヶ月の間に、多分しっかりしたボイストレーナーに付いてかなりの練習をして女声の出し方をマスターしたのか。
 
演奏は信子のベースが根音を弾き、ギターの人もバッキング中心である。もうひとりのベースの人が、ウォーキングベース・・・というより、むしろ低い音の出るギターという感じで、独自のメロディ進行をしている。要するにフロントに立っている3人の楽器の音だけで行くと、信子の言う第1ベースがメロディ担当で、ギターと第2ベースが伴奏という感じなのである。こういう演奏スタイルはちょっと珍しいかも知れない。
 
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声に関しては、恐らく信子は元々の歌のオクターブ上で歌っている。それで他の男性たちがコーラスを入れるので、メロディの女声とコーラスの男声で、とても安定した歌にまとまっている。この男声コーラスが無いと、女性歌手の歌にありがちな「もろさ」を感じさせる歌になりやすい。
 
青嶋さんはかなり聴いてから
「あら?ギター2人とベース1人と思い込んでいたけど、ベース2人とギター1人なんだ?」
と言う。
 
「そうなんです。珍しい構成でしょ?」
「うん。ベースが複数いるバンドって初めて見た」
「昔、椎名林檎さんがベース3人の《発育ステータス》というバンドを作ったことあるんですよ」
「3人!?」
「短期間で活動を終えましたけどね。私もビデオでしか見てないです」
「それはまた不思議なバンドだね」
 
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私たちは手拍子を打ちながら聴いていて、特に政子は「きゃー!信子ちゃーん!」と叫んだりしていたが、他の客は数人手拍子をしている程度で、大半はドリンクを飲みながらおしゃべりしているようだ。恐らく2番目か3番目のバンドが目的なのだろう。
 
やがて最初の曲の演奏が終わる。
 
私たちは熱烈な拍手をしているのだが、他の客はまばらにお義理程度の拍手で、それもすぐやめてしまう。
 
ところが拍手が納まって、信子がMCを始めた瞬間、ライブハウスの中がザワッとした。青嶋さんも「え!?」と声を挙げた。
 
信子が“男声”で
「こんばんは。ベージュスカ+ホーン女子です」
と挨拶し、そのまま
「今日は雪が降ってホワイトクリスマスになりましたね」
などとトークを続ける。
 
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会場がざわついている。それで1分も話したところで、隣に立っているギターの人が言う。
 
「ところで君の性別は?信(のぶ)ちゃん」
「え?私の性別ですか?私は見ての通りですが」
「お客さんたちが、君が男なのか女なのか悩んでいるようだよ」
「私、夏頃までは男だったみたいですが、ちょっと西の方へ旅行に行ってきたらいつの間にか女になっていたみたいで」
 
お客さんたちが更にざわめいている。
 
「女になっちゃったら仕方ないから女でやっていこうかと思っているんですけど、歌うのはちゃんと女っぽい声で歌えるようになったんですけど、話すのは・・・ごく短時間しか女らしい声では話せないんですよ」
 
と信子は途中から女声に切り返して話した。
 
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「おっぱいあるの?」
「普通にあるよ」
「ちんちんは?」
「そんなの無いよ」
「たまたまは?」
「ある訳無い」
 
「じゃ、やはり女の身体なんだ?」
「私、女湯に入れるよ」
「俺も女湯に入ったことあるよ。お客さんが居なくなった後の掃除のバイトだけど」
と右隣のベースの人が言うと、観客がドッと沸いた。
 
「じゃ次の曲行きましょう」
 

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それで2曲目に行くが、このトークで観客がみな信子に強い関心を持ったようである。1曲目の時は私たち以外はまばらな手拍子だったのが、2曲目ではかなり多くの人が手拍子をしてくれる。
 
何と言っても信子の歌がうまいし、曲自体も乗りやすい曲である。また信子は自ら性別を明かしたものの、見た目は女の子にしか見えないし、女の子としてはかなりの美人の部類になるので「こんなに可愛ければ元男でもいいか」みたいな雰囲気が出来てしまったような気がした。
 
青嶋さんが私たちに訊く。
「あの子、男の娘だったの〜?」
「1ヶ月半前に会った時は、女装も初めてなんて言っていたし女の子の声も出ていなかったんですよ。女の子の声はこの1ヶ月ちょっとで物凄い努力して身につけたんでしょうね」
 
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「その1ヶ月半の間に性転換もしちゃった?」
「そのあたりは不明ですね。性転換手術して1ヶ月半でステージに立って歌える訳が無いから、先月会った時に身体は男って言っていたのが嘘なのか、今女の身体になっていると言ったのが嘘なのか」
と私が言うと
 
「ケイは性転換手術のあと1週間で歌ったはず」
と政子が茶々を入れる。
 
「それは青葉だよ。私は1ヶ月後だよ」
と私は言う。
 
「ケイちゃん、本当に性転換手術のあと1ヶ月で歌ったの?」
「ふらふらでしたけどね」
 
「でもやはりあの時、私が言ったように、信子ちゃんは、あの時点で既に女の子の身体になっていたんじゃないのかなあ」
と政子が言う。
 
「もし今女の子の身体であるのなら、マリが正解かも知れない」
と私は言った。
 
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「あ、そうそう。ちなみにあのトロンボーン吹いている子は女の子ですから」
と私は言っておく。
 
「あの子も女の子になった男の子?」
「いえ。最初から女の子ですよ」
「うっそー!?」
 
「ですから、このユニットはリズムセクションの“ベージュスカ”は男の子4人、ホーンセクションの“ホーン女子”は女の子4人なんです。もっともベージュスカの男4人の内1人は女の子になってしまったみたいですが」
 
「うーん・・・」
と言って青嶋さんは腕を組んで考えている。
 
たぶんそんなバンドを商業的に売り出すことが可能かどうか悩んでいるのだろう。
 
「CD出してみればいいんですよ。そしたら、一般の人はその“音”で判断してくれますよ」
と千里が言う。
 
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「確かにそうかも知れないね」
と青嶋さんは頷きながら言った。
 

やがて30分間の演奏が終わり、大きな拍手の中お辞儀する。全員で協力してドラムスを持って、1分ほどで撤収を終えた。彼らが撤収作業をしている間にもう次のバンドのドラムスのセッティングを始めている。今日の対バンでは転換時間は10分間なので、手間の掛かるドラムスのセッティングは本当に大変なはずである。
 
次のバンドはシュールロマンティックというバンドだったが、そのバンドでギターを弾いている人に私は見覚えがあった。向こうも私に気付いたようで会釈してくる。私も会釈を返す。
 
「ん?知ってる人?」
と青嶋さんが訊く。
「東郷Bというのでネット検索してみるといいですよ」
と私はニコッとして言った。
 
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「ああ、野潟四朗さんか」
と千里が言う。
「知ってた?」
「名前は知ってるけど、顔は見たことなかった。バンドしてたのか」
 
「でもこのバンドもいいね」
などと言っていたら、私たちのテーブルに1人の男性が近づいてくる。
 
「あら、おはようございます、山片さん」
と青嶋さんが挨拶する。
 
「おはようおはよう、ケイちゃん・マリちゃん、鮎川ちゃん、青嶋ちゃん」
と向こうも挨拶する。
 
彼は@@エージェンシーという中堅事務所のマネージャーさんである。ここはスリーピーマイスが所属している事務所である。彼はスリーピーマイスの担当ではないものの、私も何度かお話ししたことがある。
 
「青嶋ちゃん、このバンドが目的じゃないよね?」
「いいえ。先頭で演奏したベージュスカですよ」
「だったらいいか」
「山片さんは、このえっと、シュールロマンティックですか?」
「そうそう。でも先頭のバンドも最後の5分くらいしか聴かなかったけど、なかなかいいね。原石って感じだよ」
「こちらのバンドは結構磨いてますね」
「うん。ここ数ヶ月、通い詰めて口説いている所なんだよ」
「まるで女の子を口説くような言い方をなさる」
 
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「いや、バンドを口説くのも女の子を口説くのも基本は同じ」
などと山片さん。
 
「でもそちらがシュールロマンティックで、私たちがベージュスカなら、お互い不可侵ということで、いいですよね?」
「うん、そうしよう」
 
と言って山片さんは青嶋さんと握手をしていた。
 

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シュールロマンティックの演奏が半分くらいまで行った所で、ベージュスカ・ホーン女子の面々が客席に戻って来た。おそらく機材を車に積んだりしていたのだろう。
 
「お疲れ様。魅力的なステージだったね」
「ありがとうございます」
と信子。
 
「いや、あんなに熱烈な声援が掛かったのも、あんなに凄い手拍子もらったのも初めてでびっりした」
と先ほどギターを弾いていた人が言う。
 
「みなさん、今日のライブが終わった後、もし良かったら付き合ってもらえませんか。こちらのおごりで。遅くなったら交通費とか宿泊費も出しますよ」
と私は言う。
 
「いいですけど何か?」
と彼が言う。
 
「済みません。私こういうものです」
と言って、青嶋さんが8人全員に名刺を配った。
 
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「まさかスカウト?」
「はい。みなさんのCDをメジャーレーベルから発売してみませんか?」
「うそ〜〜!?」
 
その時、信子の右側で《メロディベース》を弾いていた男性が言った。
 
「あのぉ、ステージに立っていた時から考えていたんですが、もしかして、あなた方、ローズ+リリーさんでは?」
「はい、そうです」
 
「うっそ〜〜〜〜!?」
と彼らはみな驚いていた。
 

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終電近くまで私たちとベージュスカ・ホーン女子の話し合いは続き、あらためて年明けにまた打合せをしようということになったが、メンバーはおおむねプロになることに前向きであった。
 
ホーン女子の4人は全員会社勤めやパートで生活をしているので、最低限生活できる程度の給料がもらえるなら、ぜひやりたいと言った。ベージュスカの4人は全員が△△△大学の学生だが、在学中は学業に支障が出ない範囲の週末と夕方以降中心の活動でよいと青嶋さんが言ったことから、それでもいいのであれば、基本的にやりたいということであった。ただ各々身近な人に相談してから、最終的には決めたいと言った。
 
この日の打合せが終わってから、私たちがいったん私のマンションに引き上げようとしていたら、地下鉄駅の改札前で
 
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「千里!」
と声を掛けてくる人がいる。
 
「暢子!」
と千里が嬉しそうな顔をして返事をする。
 
「東京に出てきたの?」
「うん。ちょっと込み入った話があるんだけど。実は千里の住んでいる千葉まで行こうとしたのだけど、迷子になって数時間、都内をぐるぐる回っている気がして」
 
「ご飯は食べた?」
「新幹線の中でお昼を食べたっきり」
「じゃ、何か食べながら話そうか。冬、青嶋さん、すみません。私はここで離脱しますので、何かあったら、ご連絡頂けますか」
 
「うん。じゃまた」
と私。
 
それで千里と別れて、残りの4人でマンションに行った。
 

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■夏の日の想い出・辞める時(7)

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