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■夏の日の想い出・辞める時(2)
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「こういう傾向のバンド、どこの事務所が合うかなあ」
と私が迷うように言うと、千里が
「占ってあげようか?」
と言う。
「うん。じゃお願い」
「選択肢は?」
「○○プロ、∴∴ミュージック、$$アーツ、ζζプロ。まあ千里だから言うけど、私はこの4社と長い関わりがあって、実はこの4社はサマーガールズ出版の株主でもあるんだよ。その他∞∞プロ、&&エージェンシー、@@エージェンシー、##プロ、ともパイプがある」
と言いながら、私は8つのプロダクションの名前を紙に並べて書いた。
千里はバッグの中からタロットを取り出すと1枚ずつ8枚のカードを並べた。
「○○プロ死神、∴∴ミュージック女司祭、$$アーツ棒A、ζζプロ太陽、∞∞プロ聖杯3・感謝の祈り、&&エージェンシー棒5・行き詰まり、@@エージェンシー魔術師、##プロ聖杯2・ロマンス、」
「死神って凄いね」
「○○プロは流行歌手には強いけど、多分こういう細く長く売っていきたいバンドには合わないのかも」
と千里。
「確かに言える」
と私。
「ポップロックやれとか言われたりしてね」
「ありそう!」
「私は&&エージェンシーの棒の5が気になる。ひょっとしてあそこ経営危機とか無いよね?」
と千里が訊く。
「どうだろう? ここしばらくの看板だったParking Serviceは昨年解散したものの、代わって看板になったXANFUSは絶好調だし、問題があるとは思えないけどなあ」
と私は答える。
「不動産投資の失敗とか?」
「あそこの社長の斉藤さんは、そういう危ないことを一切しない経営者なんだよ。あの人は着実すぎて、逆に得られる利益も得てない気もするんだけど、経営で博打をしてはいけないというポリシーなんだよね」
「そういう経営者は良いと思うよ。むしろこの業界では貴重な存在」
と千里。
「だと思う。でも多分ベージュスカには合わないんだろうね」
「そうかもね」
「いいカードが出ているのは、∴∴ミュージック女司祭、ζζプロ太陽、∞∞プロ聖杯3、@@エージェンシー魔術師、の4社か。千里、補助カードとか出してみない?」
と私は言った。
「うん」
それでその4つの上に補助カードを置く。
「∴∴ミュージック剣A、ζζプロ運命の輪、∞∞プロ剣2、@@エージェンシー剣8」
「なるほど〜。ζζプロで決まりだな」
と言って私はζζプロの兼岩会長に電話を掛けた。
信一は、クリスマスライブのチケットを正隆に言って5枚もらい、ライブハウスの案内の紙と自分たちのライブの案内(Photoshopで作ってプリントしたもの)を5枚ずつ同封してから、宛先に《千葉市**区**町**-**-** 村山千里様》と書き、裏の差出人の所には《江戸川区**#丁目**-**》という所まで書いてから少しドキドキしながら《鹿島信子》という差出人名を書いた。
大学構内のポストに投函しようとしてから、この名前を見られたら恥ずかしいな、などと考えてしまった(実際にはそんなの誰も見ないし見ても気にしない)。それでキャンパスを出て、通りに面した郵便局まで行って投函した。
『郵便局で投函した方が早く着くかも知れないし』
などと自分に言い訳する。
それで大学に戻ろうとして校門のそばまで来た時。
プヮン。
という感じの車のクラクションが聞こえる。
振り返えると大きなレクサスが停まっている。運転席から男性が飛び出してくる。
「あっ」
と言って信子は口を押さえた。
「やあ、また会ったね」
と言って男性が笑顔で信子に声を掛けた。
それは先日のヒッチハイクで、静岡から東京まで乗せてくれた人であった。
「先日は大変お世話になりました」
と言って信子はあらためて頭を下げてから
「やだ、私、こんな格好で」
と言って真っ赤になってしまう。
女装で会ってたくさんお話しした人に、男装している所を見られるのは物凄く恥ずかしい。
「君は可愛いから、ラフな格好していても分かるよ」
と男性は言う。
「そ、そうですか?」
と言いながら、信子は焦って頭に血が上ってしまった。
そして3時間後。
あれ〜〜!?何でぼく、こういうことになっちゃったの!???
と信子は訳が分からない思いでホテルの天井を眺めていた。
男性に上に乗られるのって結構重いなとか考える。
むろん強引なことは何もされていない。ごく自然な流れでこういう場所に来てしまった。確か呼び止められて「こんな格好で恥ずかしい」なんて言ったら、「じゃ洋服プレゼントしてあげるよ」とか言われて、「こんな高い服買ってもらって済みません」と言ったら「じゃお礼代りに食事に付き合わない?」とか言われて・・・・あれれれ?なんでぼく、この人と一緒にホテルに来ちゃったのかなあ。。。。
でもでも・・・ぼく、女の子ともこんなこと体験したことないのに、男の人と体験してしまった・・・。ぼく、やはりこのまま女の子になっちゃうんだろうか。もう今更男の子には戻れないんだろうな、とは思ってたけど。
そんなことを考えていたら、涙が一粒流れた。
その涙に気付いたようで、彼は、動作を中断して信子に声を掛けた。
「もしかして初めてだった?」
コクリと信子は頷く。
「でも、その内体験することだし、私、凄く気持ち良かったし」
実際それはまさに天にも昇る心地だったのである。それに乳首舐められるのもあそこを指で刺激されるのも凄く気持ちいい。でもなぜ付け乳の乳首舐められてこんなに気持ちいいの????
「そう。気持ち良かったのなら良かった」
と彼は笑顔である。
「奥さんいるんですよね?」
と信子は訊きつつ、自分は何を聴いてるんだ?と思う。自分はこの人の彼女になりたいの???
「いるよー。だから、こんなおじさんの彼女になってとかは言わないから安心して」
と彼は言う。
それはちょっとホッとした。正直こんなことになってしまっても、やはり男性と恋愛関係を結ぶのは、まだちょっと心の準備ができない感覚だ。
「でも君、自分に自信を持ってないね?」
と彼は鋭い指摘をする。
「私あまり可愛くないし」
「そんなことない。凄く可愛いよ。ミスコンとかに出ても良いくらい」
それはさすがに褒めすぎ、と思う。
「それに可愛い声出せないし」
と信子が言うと、彼は何か考えているようだった。
「ボイストレーナー紹介してあげようか?」
「え?でも」
「女の子の声で歌える?」
「それも出ません。女の子の声で話すのより歌う方が難易度は低いと聞いたので、女声歌唱法の本とか買って練習してるんですけど、うまく出せなくて」
「ああ、歌の練習してるんだ?」
「ええ。私、バンドやってるんですけど、女の子の声で歌えたら面白いから、習得してみろよとバンド仲間には唆されてるんですけどね」
「バンドやってるんだ!」
「アマチュアですけど」
「何か歌ってみてよ」
「あ、はい」
それで信子は先日出雲の日御碕で夕日を見た時に書いた『Hesper』という歌を歌ってみせた。
「君、上手いじゃん」
と彼は驚いたように言う。
「ありがとうございます」
「君の声質ならわりと簡単に女声がマスターできると思う」
「ほんとですか?」
「知り合いのボイストレーナーを紹介するから、レッスン受けてごらんよ。レッスン代は僕が出してあげるから」
「え〜〜〜!?」
「気にしないで。僕は経済的にゆとりがあるから、若い人が伸びる手助けができたら嬉しいんだよ」
それで彼はその場でそのボイストレーナーさんに電話していた。
「あ、君、名前は何だったっけ?」
「鹿島信子です」
と言って枕元にあるメモパッドに漢字で書き渡す。
それで彼はその名前を向こうに伝えている。
「じゃ取り敢えず1ヶ月の集中レッスン受けてみない?今の時期は大学は試験とか関係無いよね?」
「はい。期末試験は1月下旬です」
「ところで今のは君のオリジナル曲?」
「はい」
「楽譜見れる?」
「あ。プリントしたものは・・・・データならあるんですが」
「Cubase?」
「はい」
「僕の持ち歩いているパソコンにCubaseが入っているから見てみよう」
「Cubaseって、もしかして作曲家さんですか?」
「うん。無名作曲家というやつだよ。下請けで稼ぐ」
などと言って彼はバッグからノートパソコンを取り出した。
信子はいつも持ち歩いているバッグの中からUSBメモリーを取り出して渡した。
彼の言い方から、信子はこの人ゴーストライターとかで稼いでいるのかな、とふと思った。
「君、あまり和声法とか勉強してないでしょ?」
と彼は信子の作った曲をCubaseで見ながら言った。
「あ、それは他のバンドの人にも指摘されたことあります」
「ちゃんと勉強した方がいいよ。和音が間違っている所がある」
と言って彼はその間違っている箇所を全部指摘してくれた。
「わぁ。勉強になります」
「あとね。ここの展開の入り方が安易すぎると思う」
「あ、そこは自分でも違和感あったのですが、いいのが思いつかなくて」
「ここは例えばラから入るんじゃなくて、ファから入った方がうまくいく。ひとつの例だけど、ファソララ〜ソとかね」
と言って彼は歌ってみせる。わあ、この人、歌も上手いと思った。もしかしてこの人もバンドとかしているのだろうか?
彼はその場で30分くらいこの楽曲について色々アドバイスしてくれた。
「何だか今日は凄く勉強になりました」
「そう。それは良かった。ところでさ」
「はい?」
「今から、もう1回だけできない?」
と彼は言った。
「あはははは」
と信子は笑う。
「これ以上は誘ったりしないから。正直あまり何度も会ってたら女房にバレて離婚だとか言われかねないし」
と彼は言っている。ああ、こういう浮気性の夫を持つと奥さんも大変なんだろうな、と信子は思った。
「いいですよ。でもお名前教えてください」
「名乗るほどのものでもないけど、君の名前を教えてもらったから、ユーということで」
「ユーさんですか」
と信子は笑顔で彼のことばを復唱した上で、優しく彼に口づけをした。
彼は自分で新しい《帽子》を装着した上で、信子の身体の上にのしかかった来た。
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