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■夏の日の想い出・辞める時(9)

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(C)Eriko Kawaguchi 2017-02-10
 
2014年正月。
 
千里は年末から三ヶ日に掛けて千葉市内のL神社で巫女として奉仕していたが、2日の午前中、鹿島信子から連絡があったので、その日の夕方、神社の仕事が終わった後で会うことにする。実際には信子は千里の奉仕時間の終わり頃にやってきて、昇殿して祈祷を受けていた。
 
「でも巫女さんしておられたんですね。それで神社のことにも詳しかったのかな」
「まあ出雲にも研修で行っているよ」
「なるほどー。ちょっと神秘的な雰囲気あるなとは思ってました」
「私たちはただの神様の使いっ走りだけどね」
と千里が言った言葉を信子は受け止めるような表情をしていた。
 

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「正月に実家に帰省してきたのですが、凄い騒動でした」
「ああ。女の子になったことカムアウトしたんだ?」
「父は私が性転換手術を受けたと思ったようで、でも少しは冷静になってくれた母が、ある朝起きてみたら女の子になっていたという話を少しは理解してくれて、それが本当なら、何かの病気かも知れないから、病院の診察を受けてみなさいと言って」
 
「朝起きてみたら女の子になっていたの?」
と千里は訊く。
 
「実は出雲で松江の旅館に泊まった日、起きたら女の子になっていて仰天したんですよ」
と信子は簡単に状況を説明した上で、あの夜見た夢(?)を千里に語った。
 

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「それって、やはり身体に異変が起きたのを、そういう夢という形で信子ちゃんが見たんだろうね。そこに私が出てきたのは、直前に私と冬子が性転換者だというのを聞いていたから、その象徴として夢の中に現れたんだと思う」
と千里は言った。
 
「ああ、そういうことなら何となく納得できます」
 
「それに私の造形って真似しやすいんだよね。このくらい髪が長いと、みんな私に見えちゃうみたい」
 
「確かに!」
 
「でもそれ一度病院に掛かって診てもらった方がいいよ」
「こういうのどこを受診したらいいんでしょう?何科に掛かればいいのか、考えたけど分からなかったんですよ」
 
すると千里はしばらく考えていたが言った。
 
「富山県の射水市(いみずし)って所にね、性別に関する専門のクリニックがあるんだよ。精神科の先生と外科の先生で共同運営していて。どちらも女医さんだから、話しやすいと思うよ。婦人科や泌尿器科の先生もいるよ。そこ行ってみない?」
 
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「あ、はい」
「実は私の妹がそこで性転換手術を受けたんだよ」
「妹さんって、妹から弟になったんですか?弟から妹になったんですか?」
「弟から妹になった」
「じゃ兄弟から姉妹になっちゃったんですか!」
「そうそう」
 
「それは凄いなあ」
「私も高校1年で性転換手術したけど、妹は中学3年で性転換手術した」
「おふたりとも凄い若い年齢で手術してますね!」
 

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千里は1月5日に自分も高岡に帰省するので、その時に良かったら一緒にその病院に行かないかと提案。それで1月6日に受診してみることにし、鞠村先生に連絡した。
 
すると途中で婦人科医の増田先生に代わり、こちらも信子が直接電話に出て詳しい状況を説明した。
 
「それと似た事例が10年ほど前に1度ドイツの方で報告されたことがありますよ」
と増田医師は言った。
 
「ほんとにあるんですか!」
と信子は電話口で驚いて言った。
 
「基本的に一種の半陰陽だと思います。思春期になってからそれまで女性の外見だったのが男性の外見に変わるのはわりとあるんですが」
 
「割とあるんですか!?」
 
「男性の外見から女性の外見に変わるのもひじょうに稀ですが、あるんですよ。過去の文書研究をした人が、その事例が過去300年ほどの間に50件ほどあったと思われるという論文を書いていました」
 
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「300年に50件ですか!」
「昔だと魔女だとか言われて殺されてしまった例などもあって、そういうのは文献に残ってないんですよ。現代でも本人が恥ずかしがって受診しない場合や、悩んで自殺してしまう場合もあると思うんです。ですから実際には年に数件程度は発生しているのではと私は推測しているんですよね」
と増田は言う。
 
「それにしても稀な例なんですね」
 
「ええ。男から女に変わるのはひじょうに稀です。でもぜひ一度こちらに来院してくださいませんか? この手の変化では、場合によっては急激に発達した乳房に乳癌が発生したりする場合もあるようなので」
 
「分かりました。一度そちらにお伺いします」
 

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「でも自然に性別が変わっちゃうことってあるんですね」
と信子は電話を切った後で、半ば独り言のように言った。
 
「有名な事例として5α還元酵素欠損症 5α-reductase deficiency, 5ARD というケースがある。たぶん増田先生が最初に言っていたよくある事例というのはこれだと思うんだけど、そのケースでは生まれた時は女の子なんだけど、10歳くらいになって第二次性徴が始まると、クリトリスに見えていたものが大きくなって、おちんちんになってしまい、男の子に変わってしまう」
と千里は言う。
 
「女の子で時々言う人がいる、大きくなったらおちんちんが生えてくるってやつですか!」
と信子。
 
「まさにそれ。以前テレビの番組で紹介されていたけど、ある島にこの現象が多発していて、家系を調べてみると、その全員が数世代前のある女性に辿り着いたらしい。彼らは性自認は男の子らしいよ」
 
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「そういうのが起こりやすい遺伝子があるということですね」
 
「うん。5ARDは割とポピュラーで、世界的に結構多くの事例が報告されている。5ARDは本人の性自認も曖昧で、このまま男になってしまうのを受け入れるか、それとも手術を受けて女の形に戻すか、自分で決めてと言われて悩んでしまうケースもあるみたい」
 
「それ起きるのが10歳とか11歳でしょ?決めきれませんよ」
 
「だよね〜。親も本人も悩んじゃう。選択を間違うと一生後悔するし」
「ですよね〜」
「逆に男の子だったのが女の子に変わってしまう事例としては、アロマターゼ過剰症 Aromatase excess syndrome, AES というのがある」
と千里は言う。
 
「それが少ない方の事例ですか」
 
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「こちらは事例が少なくてよく分からない。アロマターゼというのはテストステロン(男性ホルモン)をエストラジオール(卵胞ホルモン E2 *1)に体内で転換する酵素。男性はこの酵素の働きで、睾丸で生成されたテストステロンがエストラジオールに転換されて、微量の女性ホルモンが体内に存在する。ところがこのアロマターゼが過剰に分泌されていると、男性ホルモンの女性ホルモンへの転換が促進されて、男性ホルモンが減り、女性ホルモンが大量に存在するようになり、身体が女性化するんだよ」
 
「へー!」
 
(*1)卵胞ホルモン(Estrogen エストロゲン)には E1 estrone エストロン、E2 estradiol エストラジオール、E3 estriol エストリオールの3種類があり、これを卵胞ホルモンの三姉妹と言う。
 
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「それで男の子だったはずが、思春期になるとおっぱいが膨らんで来て、おちんちんは縮んでしまうという事例がごく少数報告されている。でも消滅してしまって女性器のような形になるところまで進行する事例というのは、たぶん報告がほとんど無いと思う」
 
「うーん。やはりそういうのはあまり無いのかなあ」
 

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「でも信子ちゃん、生理が来たんだって?」
「そうなんですよ。びっくりしました。数えてみると、女の子になってしまった晩からちょうど28日目だったんです」
 
「まあ多分次の28日後にもまた生理は来るだろうね」
「生まれて初めてナプキンなんて使って、凄くドキドキしました」
「嬉しかったでしょ?」
「えへへ」
 
「ナプキン買う時、ドキドキしなかった?」
「しました。恥ずかしくて恥ずかしくて」
「すぐ買えた?」
 
「それがなかなかナプキン売場の前で立ち止まれないんですよ」
「分かる分かる」
 
「うろうろしてたら、お店のお姉さんが声を掛けてきて」
「焦ったでしょ?」
「焦ったけど開き直るしかないから、女子高生のふりして、今までお母さんが買ってくれていたからよく分からないとか言って」
「あはは」
 
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「ソフィのボディフィット・普通の日昼用を選びました」
「まあ最初買う時はドキドキするよね」
 
「あれ?千里さん、生理あるんですか?」
「あるけど」
「そういえば出雲でナプキン買ってましたね」
「よく観察してるね」
「すみませーん」
「いや、観察力はクリエイターとして大事。普通の人が見過ごすようなものをちゃんと捉えることができるから、創作者になれるんだよ」
 
信子は頷いていた。
 
「肝に銘じます。でもどうして生理あるんですか?」
「うん。そのあたりが私もよく分からない(ことにしとこう)」
と千里は答えた。
 

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信子は実は居酒屋のバイトで学費稼ぎをしていたのだが、年末まではそこに男装で行っていた。しかし正月明け、信子は女装で勤務先に行った。
 
「えっと、どなたでしたっけ?」
「すみません。鹿島です。実は私、女の子になってしまって」
 
「え〜〜!?」
 
店長は信子の話を素直に聞いてくれた。
 
「じゃ性転換手術とか受けたんじゃなくて、病気の一種なんだ?」
「それで今度専門医の所に行って精密検査してもらいますが、電話でお医者さんと話したのではおそらく半陰陽の一種なのではないかと」
 
「なるほど」
「実は女の子の身体になってしまったのは11月中旬なのですが」
「もしかしてあの1週間ほど休んだ時?」
「そうなんです。あの時、身体が変化してしまったんです」
 
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「それで休んでいたのか」
 
そういう訳ではないのだが、そういうことにしておくと話に矛盾が少ない気がした。
 
「なんかおっぱいあるように見えるけど、それ本物?」
「Dカップのブラを着けてます」
「凄い。ちんちんはどうなったの?」
「消滅しました。割れ目ちゃんも、ヴァギナもあるんですよ」
「それはまた画期的だな」
 
「それでも年内は男装していたのですが、男装がもう限界になってきて。お正月も男装していたのに、男子トイレに入ると『お姉ちゃんこっちは男子トイレ』とか言われたんですよ」
 
これは半分嘘だ。スカートを穿いたままうっかり男子トイレに入って注意されたのである。
 
「それと私、トイレは個室しか使えないから、男子トイレの個室がふさがっていると、ずっと待っていなければならないという問題もありまして」
「ああ、それは辛いね」
「スタッフの制服着ているのをいいことに、トイレ掃除するような顔して女子トイレ使っちゃったこともありました」
「あはは」
 
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「でも女子トイレにも列ができているような時は困りますし」
「ああ、その列に並んだら変だよね」
「はい」
 
「じゃこれからは女子として働く?」
「もし可能ならそうさせてください。ただ」
「ただ?」
 
「実は友人と一緒にやってるバンドが芸能事務所にスカウトされちゃって」
「へー!」
 
「もしかしたらデビューということになるかも知れません。そしたら、その時点で退職させて頂きたいのですが」
 
「それ女の子としてデビューするの?」
「まだ交渉中ですが、たぶんそういうことになりそうです」
 
「それはおめでとう」
「でもこないだまで男をしてたのに、女の子ボーカルとしてデビューということになったら、なんか恥ずかしいんですけど」
 
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「俺だったら、喜んで女の子歌手になるなあ。あ、ごめんね。君自身は性別のことで凄く悩んでいるだろうに」
 
「いえ。私も実はけっこう不純な動機で女の子歌手やってみたい気もしてて」
 
「やってみたい気はするよね〜」
 
店長さんは信子の気持ちにかなり理解を示してくれた。それで結局、信子は今月からこの居酒屋に女性スタッフとしてバイトすることになった。ただし、デビューが決まったら、その時点で退職することになる。
 

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千里は桃香および正月中千葉に来ていた青葉・朋子と一緒に1月5日夕方の新幹線で高岡に移動した。そして6日(月)、早朝から新幹線・はくたかで移動してきた信子および北越で移動してきた信子の母と一緒に鞠村医師のクリニックを訪れた。泌尿器科医の前川先生と婦人科医の増田先生の診察を受けるが
 
「ほんとにあなた、11月中旬まで男の子だったの?」
と言われる。
 
「はい。そのことならいくらでも証人が居ます。一緒に銭湯とか行ってましたし、賭け麻雀でみんなの前で自慰するなんてのもやらされて、みんな私の男性器を目撃しているんですよ。みんなにそれ見せたのが11月3日の夜で、私自身、実は12日にも男性器で自慰しています。13日の夜11時半頃寝る前にトイレに行った時は女装していたので女子トイレを使いましたけど、ちゃんと男性器はありました。でも夜中3時頃に起きてトイレに行った時は全部無くなっていて女の子の形になっていたんです」
 
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「うーん。。。。そんな急激に変化するという話は聞いたこと無い」
と行って前川先生は悩んでいた。
 
ともかくも精密検査しようというので、提携している大学病院(というよりこの病院がその大学病院の分院扱いになっている)に連れて行き、血液や尿の検査、MRI検査などをした。
 
「性染色体はXYですね。でも生殖器は完全に女性で、卵巣・子宮・膣、ちゃんとありますよ。生理があって当然ですね」
と検査結果を見て増田医師(婦人科)は言った。
 
「これだけ見たらアンドロゲン不応症(Androgen Insensitivity Syndrome AIS)の一種かと思っちゃうよね」
と前川先生(泌尿器科)。
 
「うん。でもAISの場合も、こんなにしっかり女性生殖器が発達することはあり得ない」
 
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「そう。ここまでしっかり女性生殖器が発達するのは物凄く珍しい例だと思う。ところが生まれた時から、女の子の形だったのならまだAISかも知れないけど、ごく最近まで男の子の形だったのが、ほんの数時間で女の子の形に変わってしまったというのがね・・・」
 
信子はその後、心理的な性別をチェックする検査も受けたが、そちらでも女性的な傾向が強いという結果が出た。
 

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■夏の日の想い出・辞める時(9)

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