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■春春(1)

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(C) Eriko Kawaguchi 2022-10-29
 
3月31日(木・さだん).
 
夏樹は、その日、もう帰ろうとしていた時に、社長から呼ばれて社長室に行った。すると直接の上司である課長も居るので緊張する。まさか首とか?性別変更していることに、イチャモンでも付けられるとか?などと変なことを考える。
 
(夏樹は2020年3月に裁判所が夏樹の性別訂正を認めた通知書を提示して、正式に女子社員になっているが、それ以前(千葉水害後の2018.11)から、女子更衣室で女子制服に着替えて実質的に女子社員として勤務していた:水害で男物の服が無くなったので開き直って女物の服で通勤し始めたら受け入れられちゃった!)
 
「古庄君、急で申し訳無いのだけど、転勤してくれない?」
「はい。どこに?」
 
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どこか辺境の地にでも飛ばされて自主的に辞めるよう仕向けるとか??南鳥島支店とか?(*1)
 
(*1) 南鳥島は自衛隊と気象庁の職員以外は立入禁止である!
 
昔サトウサンペイの『夕日くん』という漫画で、上司と喧嘩したら、男女群島の女島支店に左遷される、などというネタがあったが、女島に支店を持つ企業って凄いと思った。
 

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「行き先は金沢支店なんだけどね」
「行きます!」
と夏樹は即答した。でも金沢に支店があったんだっけ?まさか横浜の金沢とかと思って確認する。
 
「それ石川県の金沢ですか?」
「もちろんそうだよ。秋田県の金沢町ではない」
 
秋田にも金沢があったのか・・・
 
「良かった。嬉しいです。私のパートナーと娘が今高岡市に住んでいるので近くだし」
 
高岡からは金沢市に通勤可能なはずと頭の中で考える。
 
「うん。それを聞いてたから、君が最適ではないかということになった」
と課長が言う。
 
「何かあったんですか」
「実は金沢支店長が先週急死して」
「え〜〜!?」
「どうも過労死みたいなんだよ。労災は出すつもり」
「はあ」
 
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「それで悪いけど、君、その後任の金沢支店長に赴任してくれない?」
「支店長ですか!」
 
しかし過労死した人の後任というのは、なかなか恐い。私死なないよね?
 
「もちろん給料は今より上がる。だいたい課長待遇。引越の費用、こちらで余分に払わなければならない家賃とかも出すから」
 
一般に賃貸住宅では、退去の前月までに告知が必要で、その月に退去したいと言うと翌月分の家賃まで払う必要がある。しかしその分まで出してもらえるなら全く問題無い(契約内容によっては半年分くらいの支払いが必要なケースもある)。
 
「分かりました」
と夏樹は答えた。
 
「突然で申し訳無いけど、何日くらいで移動できる?」
「ひとり暮らしで大した荷物もないから、2〜3日でまとまると思います」
「だったら、4月7日くらいからの向こうでの勤務とかでもいい?」
「そのくらいなら、何とかなると思います」
「ほんとに急で申し訳無いけどよろしく」
「いえ」
 
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でも金沢支店の勤務になったら、あまり海外出張とかしなくてもいいんじゃないかなあ、などと夏樹は考えた。
 

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「なんか同じ言葉を繰り返す系ってあるよね」
とその日、美由紀が勤めているデザイン事務所、北陸造形の社長は言った。
 
「ああ、花*花とか、ケラケラとか、まふまふとか」
「プリンセス・プリンセスとか、デュラン・デュランとかバンバンとか」
「ドムドムとか、珉珉とか、きときと寿し(*2)とか」
「アイアイ(猿)、タムタム(楽器)、ウィリーウィリー(台風)」
 
「リンリン・ランラン」
「その系統ならシャオシャオとかレイレイとか」
「パンダの名前は大抵その系統だね!」
 
「ミュウミュウ(ファッションブランド)とか、アンアン(雑誌)とか、kyon2(小泉今日子)とか、ルリルリ(永田ルリ子)とか、ジュンジュン(久保純子)とか」
「BB(ベベ(*4))、カンカン(*6)、キンキン(愛川欽也)」
「キタキタおやじ」
「それは勘弁して」
「でも魔法陣グルグルもだ」
「ちんちん、たまたま」
「こらこら」
 
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「ほくほくフィナンシャルグループ(*3)」
「おお!そんなお堅い所にもあったか!」
 
「微妙に違う言葉を重ねる場合もあるよね」
と美由紀は言う。
 
「フリップ・フラップとか、ORANGE RANGEとか」
「ダウン・タウンとか、ジャスティ・ナスティとか、アンドレ・カンドレ(*5)とか」
「コージー・コーナー」
「ガリレオ・ガリレイとか、ロマン・ロランとか」
「ハンプティ・ダンプティとか、フニクリ・フニクラとか」
 
「イヴァン・イヴァノヴィッチ・イヴァノフ」
「誰それ?」
「絶対そういう名前の人居るって。性転換したら、イヴァンナ・イヴァノヴナ・イヴァノヴァかな?(←筆者も自信無い)」
 
「甲斐海斗(かい・かいと)みたいな人だな」
「甲斐花糸と書けば女の子」
 
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(*2) きときと寿しは富山県氷見市を中心とするお寿司チェーン。筆者としては、金沢を中心とする海天すしと並ぶお気に入りの寿司チェーン。元々“きときと”は新鮮であることを表す北陸方言。スーパーのお魚パックに“きときと”というシールが貼ってあったりする。
 
(*3) ほくほくフィナンシャルグループは、富山石川を基盤とする北陸銀行と、北海道を基盤とする北海道銀行の共同持ち株会社。こんな遠隔地の銀行同士が協力し合うのは異例と言われた。しかし北陸銀行はこの提携前から北海道に多数の店舗を持っていた。江戸時代の北前船による交易で、北陸と北海道は元々経済的な繋がりがあった。
 
(*4) BB(ベベ)はブリジット・バルドーの愛称。彼女の頭文字でもあるが、フランス語で“ベベ”は赤ちゃんを意味し、頭文字と赤ちゃんの掛け言葉になっている。
 
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(*5) アンドレ・カンドレは、井上陽水の初期の頃のペンネーム。
 
(*6) カンカンは19世紀に流行した踊りで、フレンチ・カンカンとも呼ばれる。ダンサーが横一列に並び、足を高く振り上げる動きが有名(初期の頃は2人組で踊った)。元々は、募金活動の代わりに、ダンスを見せてお金や食べ物などをもらい、貧しい人たちに渡すというチャリティーが発祥とされる。現在では女性の踊りと思われているが最初の頃は男性の踊り手が曲芸的な振付で踊っていた。(ブレイクダンスのルーツだったりして!?)
 
『地獄のオルフェ』(日本ではなぜか『天国と地獄』という邦題が広まっている)の序曲第3部はそのまま“カンカン”というタイトルで、実際カンカンのリズムで作られている。運動会には必須の曲である!『文明堂のカステラ』のCM(長崎県外版)では、この曲に合わせて「カステラ1番・電話は2番・3時のおやつは文明堂」と歌いながら人形がカンカンを踊る様子が取り込まれている。
 
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「まあそういう訳で」
と社長は言った。
 
「うちの会社の名前、春春(はるはる)クリエイティブに改名するから」
 
「え〜〜〜!?」
 
「だって“北陸造形”という会社名は5秒で忘れられる」
「確かにうちに掛かってくる電話って『北国造形さんですか』とか『北陸創建さんですか』とか『金沢形成さんですか』とか色々」
 
「春春クリエイティブなら、インパクトがある」
「確かにインパクトはあるかも」
「建物の表にボッティチェルリの『プリマヴェーラ』(イタリア語で“春”という意味)を描こう」

 
「インパクトあるかも」
 
翡翠が尋ねた。
「それ誰が描くんですか?」
「もちろんみんなで描こう」
「え〜〜!?」
「特別ボーナス付きなら」
「まあ薄謝はするよ」
「拍手だけじゃなかったら、やってもいいです」
 
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「登場人物の顔は社員の顔を描いたりして」
「それ辞めた時はどうすんのさ?」
「在籍している他の人の顔に描き直す」
「人数足りなかったら?」
「複数回登場で」
「その内、全員社長の顔になったりして」
と、専務(社長の奥さん!)が言っている。
 
「それ僕1人になるということ?」
 
「どっちみち、真ん中のヴィーナスは社長だな」
「俺がヴィーナスなの!?」
「お化粧してモデルになって下さいね」
 
(結局、ヴィーナスには専務が起用された。でも社長はやはりお化粧させられて、クロリス(画面右手でゼビュロスにレイプされそうになっている女神)の顔に描かれた!)
 
美由紀は左端のメルクリウス(マーキュリー)の顔に描かれた。翡翠は花のドレスを着たフローラ(中央のヴィーナスと襲われているクロノスの間にいる人物)の顔に描かれた。ルリがキューピッドの顔になった。
 
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奥村春貴は4月1日付けで、氷見市のH南高校に数学教師として赴任することになったが、事前に赴任校に呼ばれ、簡単な打合せなどをした。
 
「では1年生と2年生の数学と情報学の授業をお願いします」
「はい」
「それと1年3組の副担任をお願いできますか」
「分かりました。頑張ります」
 
初年度から副担任になるとは思っていなかったが、もう体当たりで頑張るしかない。
 
「3組は主担任が男性の広多先生ですが、職業訓練コースで女子が多いので、副担任には女性の先生を配したいんですよ」
「なるほどですね。分かりました」
 
そうだよね。私、女子だもん、と改めて春貴は思った(*7).
 
(*7) 春貴は女になって3年半ほどたつのに、まだ女性として扱われることに今一慣れていない。彼女がこうちゃんに“勝手に”性転換手術されてしまったのは、2018年10月13日である。彼女の身体に入っている卵巣が元々は誰の物なのかは、こうちゃんしか知らない。彼女が子供を産む時のことを考えれば、無関係の人の卵巣は使ってないはずである。
 
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「そういえば、奥村先生は金沢のE高校のご出身だそうですね」
と教頭先生が笑顔で言う。
「はい。出身は高岡で伏木の◎◎中学に通っていたのですが、県立高校の入試当日に風邪を引いてしまって」
「ありゃぁ」
 
「それで落としてしまい、楽勝のつもりだったから、滑り止めも受けてなくて、結局、越県してE高校の二次募集で入ったんですよ」
「大変でしたね」
 
「でもそこからK大に入ったって凄いね」
と教務主任の先生が言っていた。
 
「努力の人だね」
と数学主任の先生が言う。
 
「E高校って、男子の野球部が有名だけど、女子でもサッカーとか陸上とか強いですよね。先生は運動はなさらないんですか」
「高校時代はひたすら勉強してて、部活はしてなかったんですよ。中学時代と大学時代は水泳部に入ってました」
「おお、水泳部ですか!」
「大会とか出ました?」
「インカレの400mで5位になったのが最高かなぁ。メダルには届きませんでした」
「全国の5位って凄いじゃないですか!」
 
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もっとも400mで5位になったのは男子時代で、女子に移籍になってからは800mで8位になったのが最高である。やはり、女子になってから、物凄く筋力が落ちてスピードが出なくなった。男性ホルモンの影響って凄いと思う。
 

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「うちの高校は水泳部は無いのですが、実は女子バスケット部の顧問の先生が転出してしまってですね。先生、見てあげてもらえません?」
 
水泳とバスケットじゃ全然違うしゃん!
 
「いいですよ。どの程度指導できるかは分かりませんけど、持久力を使うという点では水泳と共通する所もありますし、頑張ります」
「じゃお願いします」
 
バスケットは40分間ひたすら走り回るスポーツである。陸上や水泳の長距離とある程度共通する面もある気はした。
 

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春貴は学校を出てから、奈々美に電話してみた。奈々美は現在女子バスケットのWリーグに所属しているが来シーズン(2022秋〜2023春)からはフランスのプロリーグLFB に参戦する予定である。
 
「寺島さん、いつフランスに行くの?」
「今ビザが降りるのを待っている所なのよね。たぶん大丈夫だろうと千里さんは言っているんだけど。たぶん5月頭くらいの渡航になるんじゃないかなあ」
「それなら準備とかで忙しそうだね、誰か後輩とかでバスケットについて短期間で私に教えてくれる人居ないかなあと思って」
 
「だったら、最適の子がいるよ。私の大学(東京のW大学)の時の後輩で、ハルちゃんって子が居るんだけどね」
「なんか自分の名前を呼ばれているみたいだ」
 
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春貴も女子の友人たちからは“ハルちゃん”と呼ばれている。
 
「富山B高校の出身だよ」
「へー」
「今W大学で4月から4年生。女子バスケ部のキャプテン」
「凄いね」
「そのハルちゃんの飼いネコがアキちゃんと言ってね」
「ネコ?」
「ハルちゃんは今の時期、新入生迎える準備とかで忙しいから無理だけど、アキちゃんは大学行ってないし(*8) 、そちらに指導に行かせるよ」
 
「ネコがバスケットするの〜〜〜!?」
 
(*8) アキは本当は佐藤玲央美の影武者をしている(玲央美が日本に居る間、代役を務める。つまり秋から春に掛けては、日本が昼の間はフランスに居る)。フランスでチームの練習に出ることもあり、フランスの女子プロリーグの選手として遜色ないバスケの実力を持っている。アキは元々ハルより運動神経が良い。でも今の時期、まだフランスはリーグをやっているので実は忙しい。この代役については後述。
 
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アキは、若い女の子(?)が仕事もせずに学校にも行ってないと何か言われそうなので「名も無い大学の女子大生」を主張していたが、どうも面倒くさくなって、女子大生を名乗るのは、やめたようである。そもそもネコを入学させてくれる大学は無いだろう(最近、駅長さんになるネコは居るようだが)。
 

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