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■春春(32)

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5月7日(土).
 
9月に行われる予定の、女子バスケットボール・ワールドカップ(男子は来年)に向けての日本代表の合宿が始まった。
 
千里(千里3)は五輪後で若手を使いたいかも知れないし、招集は微妙かな〜?と思っていたのだが、招集されたので、5月6日の夕方、NTCに出て行き、選手村の、千里と青葉の指定部屋になっている部屋に入った。ここに入るのは2月のワールドカップ予選(大阪)前の合宿以来3ヶ月ぶりである。
 
今回招集されたのは27名で、千里と佐藤玲央美が最年長であった。
 
「本番まで残してもらえるかどうかは分からないけど、若手から後ろ指差されるようなプレイだけはしないようにしようね」
と言い合った。
 
なお今回、フランスに行った奈々美は招集されていない。奈々美は国内でそう目立った成績はあげていなかったので、このまま追加招集などはされない可能性が高い。奈々美は代表に呼ばれるチャンスよりも海外で鍛える道を選んだ。
 
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5月6日夕方にグラナダに到着した水泳の日本代表遠征チームだが、チャーター機は一部のメンバーを乗せて、更にパリのル・ブルジェ空港(*47)に向かった。パリ近郊のプールで分離合宿になるということだった。降機せずに残るよう名前を呼ばれた選手たちが「え?」と声をあげていたので、恐らくこちらまで飛んでくる最中に決まったんだろうなと南野は思った。
 
グラナダに到着したのは現地時間の 5/6 17:00だが、日本時間では翌日深夜1:00になる。みんな結構眠い。スタッフは「忘れ物に気をつけて」と呼びかけていた。
 
グラナダの空港で、多くの選手がシャラネバダの高地トレーニング施設に向かうバスに乗るが、長距離陣の下記は別途マイクロバスに案内された。
 
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川上青葉、金堂多江、竹下リル、筒石君康、山先龍男、星田英市、南野里美
 
山先さんと星田さんは全く話を聞いていなかったようで
「え?え?」
と戸惑いの声を挙げていた。
 
(*47) パリの空港というと、シャルルドゴール空港(CDG) が有名だが、そちらは主としてヨーロッパ外からの国際便が使用する。また、オルリー空港(ORY) は国内便やヨーロッパ内の短距離便が使用する。今回チャーター機が使用したル・ブルジェ空港(LBG)は、パリで最も古い空港だが、現在は定期便は飛んでおらず、主にプライベート機が離着陸に使用している。パリには他に、もうひとつ、ボーヴェ空港(BVA) もあり、そちらは、格安航空会社のライアンエアーなどが使用している。
 
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マイクロバスは空港から15分ほど走り、一軒の邸宅の庭に停まる。全員降りるが、何だろう?と思う。
 
その邸宅から出て来た人物を見て、青葉は脱力した。
 
「日本代表の皆さん、お疲れ様でした。ここで1ヶ月ほど世界水泳に向けて集中して練習して下さい」
 
「ちー姉、ここは?」
と青葉は尋ねた。
 
「私の家だけど、地下1階にバスケットコートと、地下2階にはプールがあるから」
 
やはりバスケットコート作りたい病だ!
 
「代表の皆さんにはそこで練習してもらうということで、百万石スイミングクラブの宮崎会長と水連の話し合いで決まった。シェラネバダのプールなんて世界中から選手が集まってくるから、長距離選手はまともに練習できないからね」
と千里は答えた。
 
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「なるほどねー」
 
しかし千里の言葉で、分離合宿になった事情をみんなある程度想像したようである。
 

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千里は全員を取り敢えず家の中に案内。うがいと手洗いを勧めたので交替でやってきた。応接間の広いテーブルに距離を空けて座る。かなり換気が良いようである。空気の流れがある。スペイン人?のメイドさん??2名が全員に食事を運んできた。
 
「こちら、ポーラちゃんと、クリスティーナちゃん。日本語は分からないけど英語は通じるから、用事があったらいつでも呼んでね」
と千里は2人を紹介した。
 
「エスパニアでは夕食の時間ですが、日本時間ではもう寝ている時間ですね。ちょっと辛いかも知れませんが、お休み前に説明だけさせて下さい」
 
「日欧間を移動すると、最初はそれで感覚がおかしくなるんですよね」
 
「千里さん、こちらへはいつ来たの?」
と南野が訊く。
 
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「Wリーグが17日で終わったから、しばらくこちらで骨休め中」
 
Wリーグとか言ってるから、3番なのだろう(←毎度甘い!!)。2番さんはまだフランスのLFBをやっているはずである。つまり今、日本には1番さんだけが残っているのか、と青葉は思った。
 

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「この家って、いつ頃からあるんだっけ?」
と青葉は訊いた。
 
「2013年春に、私、日本バスケット協会から、スペイン教育リーグのレオパルダ・デ・グラナダに派遣されたんだよ」
「へー」
 
「それで教育リーグからトップリーグに昇格して、2年ほどここで活動したんだけど、チームが解散になって。それで日本に戻って40 minutesを作ったんだよね」
「それは初耳だ」
 
その時期は千里姉は、ローキューツで活動していたばずだ。ということは2017年の3分裂以前から千里姉って、複数存在していたのだろうか。やはり丸山アイさんが言うように、ちー姉って7人くらい居る??
 
「でもヨーロッパにはすぐ戻る気がしたから、グラナダのアパートに置いてた荷物をどこか小さな家でも買ってそこに移しておこうと思ってさ、不動産屋さんで尋ねたらここを勧められたのよね」
 
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「小さな家に見えないんだけど」
「グラナダじゃ、このくらいが最小単位みたい」
「ああ」
という声があがる。
 
「だから2016年春以来、6年ここを維持してる」
 

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食事も済んで一息ついたところで、千里は、まずは選手たちを邸宅の裏手にある別棟に案内した。
 
「こちらに皆さんのお部屋を用意しました。お名前を書いておりますので、各々そのお部屋をお使い下さい」
と言って、千里は手前の“Tsutsuishi”と書かれた部屋のドアを開ける。
 
広い部屋である。日本式に言うと20畳くらいだ。
 
「筒石さんのお部屋をサンプルに一応部屋の仕様を説明させていただきます。お部屋にはベッドがありますので、特に床で寝たい方以外はベッドでお休みになった方が良いかと思います。各部屋にはお風呂とトイレが付属しています」
 
「ヨーロッパに来たことがある方はご存じと思いますが、基本的に水道の水は飲めませんのでご注意下さい。水を飲んだり、お茶を入れたりする場合は、こちらに用意しておりますミネラルウォーターを使って下さい。ST社さんからご提供を頂いております。感謝です」
 
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「部屋ではWi-fiが使えます。暗号化キーは今お配りします」
と千里は言って、全員にキーをプリントした紙し各々の部屋の鍵(電子キー)を配った。
 
「暗号化キーは設定したら、紙は破って捨てて下さい」
「分かりました」
 
「部屋には、湯沸かしケトル、電子レンジ、オーブントースター、などを用意していますので、お茶を入れたり、パンをトーストするのにお使い下さい。テレビ、パソコン、冷蔵庫、洗濯機もご自由にお使い下さい。日本の雑誌も適当に揃えましたが、特に読みたい雑誌があったらリクエスト下さい。テレビはエスパニヤの放送局のほか、日本のアベマTV・あけぼのTVなども映りますが、時差にご注意下さい」
 
「むしろ日本時間を忘れなくて済むかも」
 
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「食事は一応朝昼晩、お部屋にデリバーしますが、お腹が空いたり、おやつが欲しい時は、いつでもそちらにある呼び鈴でお呼び下さい。スタッフがお届けします。欲しい食べ物などがありましたら、可能な範囲で調達します。トリケラトプスの刺身とかはさすがに調達不能ですが」
 
と千里が言うと、笑い声があがる。
 

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「あと、水連さんの要請でお酒は合宿が終わるまで禁止にさせて頂きます」
「まあそれは我慢するしか無い」
「あと、大変申し訳ないのですが、感染リスク軽減のため、外出も禁止させて頂きます」
「それ、女を買ったりするの防止もあるよね」
と山先さん。
 
「まあ他競技でトラブルがありましたね。一応、男子選手のお部屋にはテンガもご用意しました」
「あはは」
「女子選手の方でもテンガが欲しい方はお申し付け下さい」
 
「どんなものか見てみたい」
なとと、リルが言ってるので
「これあげるね」
と言って、千里がバッグから出して渡す。
 
「おぉ!!」
「千里さん、私にも頂戴」
と金堂が言うので、彼女にも渡した。
 

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「一応、1階に男子の筒石さん、山先さん、星田さんのお部屋、2階に女子の金堂さん、竹下さん、南野さんのお部屋を設定しました。青葉は本棟の部屋を使って」
 
「分かった」
「音楽制作環境をインストールしたパソコンと、MIDIキーボードも用意してるから」
「合宿中も私はそれから逃れられないのか!」
と青葉が嘆くように言うと
「お気の毒」
と南野がほんとに同情するような声で言った。
 
1階2階の往復は階段またはエレベータを使うが、エレベータは2階の部屋の鍵でタッチしないと2階のボタンは押せないし、階段途中のゲートも2階の部屋の鍵でタッチしないと開かないと説明された。要するに男子は2階には行けない。
 
「どうしても2階に行きたい男子の方は、簡単な手術を受けて頂くと行けるようになります」
「それあまり簡単ではない気がするけど」
と青葉。
「ある部分の水の抵抗が減ってスピードアップするかも」
と千里。
「別の部分の抵抗が増える気がします」
と星田さん。
 
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全員部屋に荷物を置いてきてから再度集まる。
 
「ではプールにご案内します」
と言って千里は全員を連れて階段を降りる。むろんエレベータでも行けるが、全員で乗ると密になる。
 
「ここ地下1階のフロアはバスケットコートが作られています。ウォーミングアップでジョギングとか筋力トレーニングとかするのにもいいですよ。エアロバイクとかも置いています」
 
「ジョギングには使わせてもらおうかな」
 
そして地下2階まで降りる。
 
「凄い」
という声があがった。
 
50mプールが8レーン作られている。
 

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「プールの水深は3mです。一応カメラの人工知能が24時間監視していますが、溺れないようご注意下さい。各レーンは透明のプラスチック板で区切られており、水もレーンごとに循環するようになっています。一応2〜4レーンを男子、5〜7レーンを女子に割り当てて、青いシールと赤いシールを貼っています。南野さん自身が泳ぎたい時は第8レーンを使って」
 
「了解」
 
実際は男子3人、女子3人で各々話し合い、各自固定のレーンを使うようにしてマジックでシールの上に名前を書いていた。
 
「循環装置のスイッチはこちらで入れて下さい」
と言って、千里はパネルを示す。
 
「練習を始める時だけスイッチを入れて下さいましたら、レーンに誰も居なくなった後、15分後にスイッチは自動的にオフになります」
 
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「津幡や郷愁のプールと同じ仕様ですね」
と金堂が言う。
「そうそう。同じシステムを導入している」
と千里も答える。
 
「万一足がつったりした場合は、背泳の姿勢に変えて、手を振ったりして下さい。人工知能が判定して救助を呼びます」
 
「分かりました」
 

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各自の部屋に戻ったのは、スペイン時間の20時頃だが、日本時間では午前4時である。みんな仮眠してから泳ぎに行くようだ。
 
青葉は目が覚めて、コーヒーを1杯飲んでからプールに行こうとしたところで、千里に呼び止められた。これはスペイン時刻で24時、日本時間で午前8時頃だった。
 
「これを見ておいてもらおうと思って」
と言って、“千里の部屋の中にあるエレベータ”で地下に降りる。降りた距離が短かったので地下1階とみた。ここはどうもバスケットコートの隣になるようである。
 
「これは・・・」
 
「ここに松本花子のデータとプログラムのセーブが一式置かれている。青葉の高岡の新居・地下1階にあるものと同じセット」
「高岡にそんなものがあるんだっけ?」
「家に戻ったら見てみるといいよ」
「私、いつになったら高岡に戻れるんだろう?」
 
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「世界水泳が終わって、『ミュージシャン・アルバム』の取材をして、その後、アクアのアルバムを作って、まあアジア大会が無くなったから、8-9月は高岡にいられるんじゃない?」
 
「アジア大会があってたら、今年1度も高岡に戻れなかったかも」
 
「逃げたくなったら、いつでもここに来て。この家の青葉の部屋はそのまま維持しておくから、いつでも自由に利用してね。プールも使いたい放題だし。ここまでの足は、若葉に頼めば何とでもしてくれるよ」
 
「あの人は口が硬いから安心だ」
 
青葉は、若葉さんなら安心だけど、千里姉に頼んだら、どこに連れ行かれるか分からないよなと思った。
 
 
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