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■春春(18)

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「だから例えば、谷口愛佳ちゃんなら“愛”で“ラブ”とか」
「おっ可愛い」
と高田舞花が言っている。
 
「高田舞花ちゃんなら“舞”から“ワルツ”とか」
「ダンスじゃないんですか?」
という質問があるが
 
「ダンスはむしろ“踊り”ですよね?」
と舞花本人が言っている。
 
「そうそう。西洋の一般的なダンスは“踊り”であって、舞とは動きが違う。ワルツの方が比較的近い」
 
「あるいは英語式に“ウォールツ”とか」
「確かに。“ワルツ”はむしろ和製英語だもんね」
 
「ドイツ語かと思った」
「ドイツ語ではヴァルツァーかな」
「フランス語では?」
「ヴァルス」
「滅びの言葉だ!」
 
「それ長いから、もう“ルツ”とかでは」
「あ。ルツは格好良いかもしれない」
 
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ということで、舞花のコートネームは“ルツ”になった。
 
「ルツって男名前ですかね?」
「聖書に出てくる女性の名前だから女名前だと思う」
「へー」
「確か、昔、本田ルツ子(*28) って歌手がいたはず。『風がはこぶもの』って曲をヒットさせた。『街を歩く時に〜、風に耳をすませ〜てね』という曲」
 
「聴いたことがある気がする」
 
(*28) 漢字は本田路津子と書く。これで「るつこ」と読む。聖書『ルツ記』から採ったもの。“ルツ(Ruth)”は、言語によっては“ルース”“ルフィ”などになる。基本的には女性名だが、苗字にもなっている(ベイブ・ルースなど)。
 

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「山口夏生ちゃんは“夏”からサマーとか」
「3文字だけど」
「でも2音節」
「竹田松夜ちゃんは“松”からパインとか」
「3文字だけど」
「でも2音節」
 
「松のことパインと言うんですか?」
「そうだよ。イエローパインはアメリカ産の松」
「パインってパイナップルのことかと思った」
 
「パイナップルという言葉は元々“松かさ”の意味なんだよ。松の果実でしょ。パイナップルは松かさに似ているからパイナップルと呼ばれた」
 
「アップルって元々果実一般の意味ですよね?」
 
「そうなんだよ。だからオレンジは golden apple 黄金のアップル、バナナは apple paradis 天国のアップル、ジャガイモは pomme de terre 土のアップル、トマトは love apple 愛のアップル、曼陀羅華(まんだらげ)は thorn apple トゲのあるアップルなどと呼ばれた。ただしキュウリも eorth-aeppla 土のアップルと呼ばれている」
 
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「アダムとイブの“アップル”もきっとリンゴじゃないですよね」
「あれは色々な説があるよね。ブドウ説とか、小麦説とか、ベニテングダケ説とか」
 
「へー」
 

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「先生のコートネームは?」
と部員たちから質問がある。
 
「そうだな。春貴(はるき)の“春”からスプリング。では長いから“プリ”で」
「プリマヴェーラの“プリ”ですね」
「うん。それでもいいよ」
 
ということで、この5人のコートネームは、ラブ・ルツ・サマー・パイン、そしてプリと決まったのであった。
 

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「ま、取り敢えず1年生を何とか勧誘したいね」
「うちの弟が入ってくるけど、女装させて出す訳にはいかないしなあ」
「晃(あきら)ちゃんは充分女子で通るよ。女子制服着せたら」
「でも違反だし」
 
そういう問題か?
 
そういう感じで30分くらいお話をした後で、彼女たちの普段の練習を少し見せてもらった。30分くらい見たところで止める。
 
「コンクリートの上でドリブルするとボールが弾み過ぎるよね」
「それで実際の試合の時に感覚が違って困るんです。力の入れ具合がかなり違うし」
「シュート練習はだいたいレイアップシュートだね」
「ええ」
「遠くから撃ってもあまり入らないし」
「でも君たち、中に進入できる?」
「それができないんですー」
 
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それで春貴は頷くようにして言った。
 
「練習見てて思ったんだけど、取り敢えず今月末の大会までは、ひたすらミドルシュートの練習をするというのはどうだろう」
 
「ミドルシュートですか!」
「制限エリアに進入して行くのって、体格とかがよくないとできないでしょ。こうやって見ていると、あまり背の高い子とか体格のいい子がいないし」
 
「そうなんですよねー。いつもまず身長で負けちゃうんです」
「160cm代が居ないもんね〜」
「舞花ちゃんの159cmが最高」
「体重もみんな40kg代。50kgの子が居ない」
 
「だからミドルシュートをどれだけ決められるかが重要になると思うんだよ。それでひたすら練習する。ここは部活時間はどのくらいだっけ?」
「6時間目は15:00に終わるんですけど、それから掃除と帰りの会があるから終わるのは15:30くらいなんですよね。そして下校時間が18:00だから実質2時間くらいです」
「2時間あればウォーミングアップとクールダウンを除いて1時間半くらいかな。それだけあればだいたいミドルシュート150本くらい撃てると思う。10日やれぱ1500本だよ」
「1500!」
「それだけ撃てば上手くなる気がしない?」
「上手くなるかもー」
 
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「でもゴールが1個しか無いんですが」
「うーん・・・」
 

それで春貴は横田先生に訊いてみた。
 
「リングだけなら2〜3個あるんだけどね」
「それを何かの支柱に取り付ければいいですかね」
「むしろ壁に付けちゃいましょう。取り敢えず1個取り付けてあげますよ」
 
と言うと、横田先生は、リング(ネットは無い!)を1個持って来て、校舎の壁に電動ドリルで穴を開け(いいのか?)、針金とボルトで留めてくれた!
 
「壁にぶつけて叱られません?」
「平気平気」
 
どうも割とアバウトな先生のようである。
 
しかしお陰で、ゴール2個になったので、1人がシュートして、1人が返球係をすれば4人で練習できるようになった。
 
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雨が降ってなければ!
 
1年生の新入りについては、また考える!
 

邦生の豊畑さんへの説明は続いていた(結局丸一日掛かった)
 
「ここでさっきもちょっと出て来たけど、夢紗蒼依(むさあおい)・松本花子というのを説明する必要がある」
 
と邦生は言った(そろそろ疲れてきている)。
 
「今、4大作曲家集団と言われてますよね」
「うん。東郷誠一、夢紗蒼依、松本花子、望坂拓美」
 
(もはや“東郷誠一”は作曲家集団ということにされている!)
 
「その中で、東郷誠一と望坂拓美は確かに作曲家集団なんだけど、夢紗蒼依と松本花子は、実はAIなのではという説が最近浮上している」
「へー!」
 
「夢紗蒼依の中心人物はシンガーソングライターの丸山アイで、これにローズ+リリーのケイ=唐本冬子、醍醐春海=村山千里、そして資金提供源だと思うけど、ムーランの山吹若葉が加わっている。この本拠地が小浜市のミューズセンターだよ」
 
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「あぁ」
 
「どうもそこに巨大なスーパーコンピュータが多分4台動いていて、そのコンピュータのAIで作曲をしているのではという噂がある」
 
「凄いですね」
「そのコンピュータを動かすのに必要な電気代が1日に100万円かかるらしいよ」
「恐ろしい」
 
「これはコンピュータ自体の電気代だから、照明やエアコンの電気代、スタッフの給料まで入れると1日300万円くらい掛かるけど、AIが作れる楽曲は、駄作すぎて出せないのもあるから、商業的に使えるものは、4台合計でも1日に3-4曲で、実際は赤字を垂れ流しているという説もある」
 
「ひゃー」
 
「だからお金が減ることが大好きな山吹さんが絡んでる」
「なるほどー!」
 

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「松本花子は川上青葉さんと村山千里さんの姉妹でやっている。こちらもやはりスーパーコンピュータのAIで作曲をしているのではと言われているけど、拠点が分からない。ひょっとしたら、クラウド型で、全国の多数の拠点に置かれた Linuxサーバーか何かをネットで結んでやっているのではという説もある」
 
(不正解! Windows PCである!しかもクラウドではなくスタンドアローンで動いている。Windows上のPerlなので素人でもプログラムをいじれる)
 
「アプローチが違うんですね!」
「そうみたい。だから生産量に差がある。夢紗蒼依は年間1000曲くらいしか生産してないけど、松本花子は年間4000曲くらい作曲している」
 
「確かにクラウドの方が生産能力を上げやすい気がします」
 
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「たぶん需要が増えたらサーバーを増設して、減ったら休ませているんだよ」
「スーパーコンピューターだとそのあたりの融通が利きませんね」
「普通の Linuxサーバーを全国に分散して置いていたら、ひとつひとつの消費電力は小さいから、電力会社と電気の供給とかの交渉とかする必要も無いしね。だから場所を選ばない。災害にも強い(*29)」
 

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(*29) 2022年春現在、松本花子が動いている“パソコン”は、小樽・館林・奄美に3分の1ずつあり、各々に他センターの予備機も用意されているので、万一どれかが災害・戦乱に遭っても他で稼働を続けられる。つまりトリプレックスの体制になっている。
 
プログラムやデータのバックアップは、この3ヶ所のほか、青葉の自宅(高岡市)、スペイン・グラナダの千里の自宅(*30) にも定期的に運ばれている。全て地下の保管庫に入れられている。北海道・群馬・奄美・富山・グラナダの5ヶ所の地下保管庫か同時に全滅するというのは、確率的に極めて小さい。
 
(*30) 細かい話だが、ヨーロッパにある2つの千里の自宅の内、グラナダの邸宅は千里3、マルセイユ郊外の邸宅は千里2(2B)が主として使用している。松本花子のデータは千里3が使用しているグラナダの方にある。
 
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マルセイユの邸宅にも、グラナダの邸宅にも、地下1階にバスケットコート、地下2階には50mプールが作られている。わざわざプールを作ったのはその内、青葉を拉致してくるつもりだからである!
 

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その時、豊畑さんは
「あれ?」
と言った。
 
「村山千里さんが両方に関わっていません」
「だから、夢紗蒼依に関わっている村山千里さんと、松本花子に関わっている村山千里さんは多分別人なんだよ」
 
「なるほどー!」
 
「これはムーラン社長の山吹若葉さんの説で、千里さんは3人ではないかと山吹さんは推測している」
と言って、邦生はホワイトボードに書き出すが
「これはメモしないでね」
と注意した。
 
1=高園千里:醍醐春海の中心
2=細川千里:琴沢幸穂の中心:夢紗蒼依の常務
3=村山千里:鴨乃清見の中心:松本花子の社長
 
「ペンネームが3つあるのも、3人居るからなのか!」
 
「そもそもね。これも山吹さんから教えてもらったんだけど、琴沢幸穂 kotosawa sachiho は、細川千里 hosokawa chisato のアナグラムなんだよ」
 
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邦生がホワイトボードに書いたローマ字を見て
「ちょっとすみません」
と言って、豊畑さんは見比べながら赤いホワイトボードマーカーでアンダーラインを引いていった。そして完全に文字が対応していることを確認すると
 
「すごーい!だったら2番さんが琴沢幸穂というのは間違い無いですね」
「うん。ただし2番さんも3番さんも“量産品”は醍醐春海の名前で出す」
「あぁ」
 
「村山千里さんは5年くらい前に落雷に撃たれて、それで一時期バスケットの日本代表からも外れたんだよ(*31)」
「きゃあ」
 
「でも半月くらい後に代表に復帰した」
「凄い」
 
「だから山吹さんの推測では、雷に打たれて調子を崩したのが1番さんで、その半月後に代表に復帰したのが3番さんではないかと」
「ああ!」
 
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「1番さんは一時は生死の境を彷徨う状態だったから、バスケットも作曲も調子を落としていたのが、やっと最近復活してきたのでは山吹さんは言っていた」
 
「落雷で死にかけたら、回復にそのくらい掛かるかも知れないですね」
 
しかしこれで豊畑さんも“千里3人説”を信じたなと邦生は思った。実際、結婚式の問題にしても、あの落雷問題にしても、千里さんが3人くらい居ると考えないと、合理的な説明ができない、と邦生は思う。
 

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(*31) “落雷”に遭ったのは2017年4月16日で、代表落ちは羽衣とクロガーの戦闘に巻き込まれて“死亡”した7月4日だが、邦生は両者を混同している。他にもこの付近がごっちゃになっている人は多い。桃香や若葉は完全にごっちゃだし、青葉やケイの記憶もかなり怪しい。
 
分かっているのは、丸山アイ、京平、青葉の心に居候している《姫様》、またP大神・A大神など少数。
 
羽衣や美鳳に千里7(魔女っ子千里ちゃん)などはそもそも事態を理解していない!
 

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