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■春春(4)
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バスケットの指導は29日のお昼に終了した。
「この後はまず指導者ライセンスの一番下のE級ライセンスを取ろう。オンラインでレッスンは受けられるから。手続きしとくよ」
「すみません。お願いします」
春貴はアキ・アイ親子、千里さんと一緒に春貴のパッソで能登空港に向かった。ただし空港までは「練習で疲れただろうから寝てなよ」と言って千里さんが運転した。
空港で20歳くらいの女子3人と合流し、千里さんとアキ・アイ親子はその3人と一緒に黒いホンダジェットに乗り込んだ。
15時頃、見学者デッキで彼女たちを見送った後、春貴は車内でジャージからビジネススーツ(スカート型)に着替えた。そしてパッソを今度は自分で運転し、能越道を走って氷見に出た。氷見南ICを降りてH南高校に行く。実は、授業で使う教科書を取りに来て下さいと言われていたのである。
「こんにちは」
と挨拶して職員室に入っていき、教頭先生に声を掛けた。
「ああ、奥村先生。よろしくお願いしますね」
と言って、教頭は笑顔で教科書と教師用指導書、それに時間割を渡した。
春貴はふと気になった。
「そういえば、女子バスケットボール部ですが、学校のホームページで見ても戦績とかが分からなかったのですが、どのくらい強いんですか」
「ああ。女子バスケット部ですね。うちは男子の方は2回戦か3回戦まで行くのですが、女子バスケット部は少なくとも過去5年くらいは、ひたすら1回戦負けなんですよ」
あはは。
「弱いチームで申し訳ないのですが」
「いえ。常勝チームを任せられたらどうしようと思っていたので、そのくらいのほうが気楽です」
と春貴は答えた。
その程度なら自分でも何とかなるかな。
「まずは1回戦に勝つことが目標かな」
「はい、それを目指して頑張ります」
真珠たちは3月22-23日にS市に取材に行き、桜坂さんに会った。その後、放送局に戻り、これ以上は、金沢ドイルさんが居ないと取材の進めようが無いと主張した。すると編集部に居合わせた千里さんが
「よし。拉致して来よう」
と言った。
千里さんによると、現在青葉さんは誰かのアルバムの編曲作業をしている最中で、現在の進捗状況では、3月30日くらいに作業は終わりそうだという。しかしその後、ケイさんが、別の仕事で青葉さんを拉致?しようと待ち構えているので、それを出し抜いて先に青葉を拉致しようと千里さんは言った。
「どっちみち拉致されるのか」
拉致作戦は、〒〒テレビの職員ではない(万一の時は放送局は「知らない」と言える!)真珠・明恵・初海と、千里さんで実行することになった。(真珠はADの名刺はもらったが、本当に雇用されるのは4月1日からである!)
「“君もしくは君のメンバーが捕らえられあるいは殺されても当局は一切関知しない”(should you or any of your team be caught or killed, the company will disavow any knowledge of your actions) という奴ね(*11)」
「何でしたっけ?」
「防弾チョッキ着けといてね」
「ひぇー」
と初海が声を挙げる。
「初美ちゃんは今回のミッションから外れる?」
「いえ。やります」
と初海は言った。
(*11) アメリカのシチュエーション・ドラマ『スパイ大作戦 (Mission Impossible)』の指令の声。オリジナルのメッセージは "As always, should you or any of your I.M. Force be caught or killed, the Secretary will disavow any knowledge of your actions." である 。
(IM Force = Impossible Mission Force 不可能指令実行チーム)
その後、"This tape will self-destruct in 5(10) seconds. Good luck, Jim."このテープは6(10)秒後に自分で壊れる。
と続く。日本語吹き替えでは秒数は訳さずに「自動的に消滅する」と訳されていた。ちなみに、オリジナルの“当局”は政府の情報局だが、千里が言った“当局”は“当放送局”の意味である!
日本のシチュエーション・ドラマ『大江戸捜査網』では「死して屍拾う者無し」と意訳されていた。
千里さんは、何らかの方法で、部外秘のはずの、青葉さんの作業進行状況をほぼ完全に把握しているようだった。
「青葉の作業は今日中には終わる。先方からの返事を待って、明日の午前中か遅くとも昼頃には青葉はフリーになる。でも多分午後にはケイが青葉を拉致しにくる。タイミングは一瞬だな」
などと千里さんは言っていた。
「よし。現地に向かうよ」
と言って、千里さんは、真珠・明恵・初海(本当に全員に防弾チョッキを着せた)をmazda CX-5 に乗せ、能登空港に向かった。空港ロビーで千里さんは
「ちょっとここで待ってて」
と3人に言うとどこかに行った。
少しして、千里さんは、青葉さんと同年代くらいの女性、真珠たちと同年齢くらいの女性、そしてセーラー服の少女を連れてきた。
「熊谷まで一緒するけど、別々のミッションだから、お互い特に名乗りや詮索は無しで」
「了解でーす」
青葉さんと同年齢くらいの女性は離脱し、見学者デッキに行ったようである。見送るのであろう。つまり飛行機に乗るのは真珠たちと同年代の女性とセーラー服の少女である。顔かたちも雰囲気も似ているので、少し年の離れた姉妹かな?と真珠は思った。お姉さん?の方は白いフリースジャケットに、ロングスカートを穿いている。
やがて、女性の外人さんのパイロットが来て、流暢な日本語で案内してくれる。一緒に小型の飛行機が駐まっている所に行く。ほんの3段ほどのタラップを登って乗り込む。機内は向かい合わせのサロン風に4席、それに補助席がある。
「君はコーパイ席に」
と千里さんはセーラー服の少女に言う。少女が操縦席の隣の席に行く。
「お父さんは補助席でいい?」
「いいよ」
と言って、真珠たちと同世代くらいの女性はもサロン席と操縦席の間にある補助席に座った。
「あきちゃんと初海ちゃんが前向きの席で、私とまこちゃんがそれに向い合う席で」
「了解〜」
体力を考えたらそれがいいだろうなと真珠は思った。明恵の前に真珠、初海の前に千里さんが座った。
「定員6人ですか?」
と初海が訊く。
「もう1人トイレに座れるから、パイロット以外に7人」
「そこも席なんですか〜〜?」
「誰かがトイレに行く時はどうするんです?」
「その人と席を交替。トイレに入った人は次誰かがトイレを使うまではそこに座って居る」
「どこかで聞いた怪談みたいな話だ」
すぐに飛行機は離陸許可をもらって離陸した。
「お互い詮索しないということでしたけど、千里さんがさっきそちらの女性に“お父さん”と言った気がして」
と初海が言う。
「うん。そちらの2人はお父さんと息子だよ」
「え〜〜!?」
すると補助席に座っているアキ本人が
「ぼく男ですけど、男に見えません?」
などと言っている。
「いや、最近そういう人多いから気にしませんよ」
「今回はぼくと息子の2人で出張だったからね」
「・・・・・」
「どうしたの?」
「あのぉ、セーラー服着てる人は、妹さんか何かですよね?」
「ぼくの息子だけど」
「うーん・・・」
と明恵・初海。真珠は考え込んだものの、気にしないことにした!!
「ついでにこの2人、ネコだから」
と千里が言うので
「レスビアンの女役?」
と小さな声で質問があるが
「違うよ。動物の猫だよ」
と千里。
「うっそー!?」
「ぼくたち、猫なんですけどね。どうも人間に見える人もあるみたい」
などと補助席に座っているスカート姿の人物は言っていた。
1時間ほどのフライトでホンダジェットは着陸する。
「ここはどこの空港ですか」
「熊谷の郷愁飛行場」
「熊谷って群馬県でしたっけ?」
「埼玉県」
「あ、ごめんなさい」
「でもこんな所に空港があったのか」
「空港じゃなくて飛行場だけどね」
「・・・・・」
「空港と飛行場って違うんでしたっけ?」
「空港 airport というのは一般に大規模で公共性の高いものを言う。そこまでの規模が無いものや、企業などがプライベートで使っているのが飛行場 airfield. 軍隊が使うものも飛行場。飛行場よりもっと小さいのは、離着陸場 airstrip という。日本全国に多数ある農道離着陸場はこの類い」
「更に小さくてライトプレーンやグライダーみたいなのしか離着陸しないのは滑空場 gliding field を名乗ることもある。ヘリコプター専用はヘリポート heliport。これら全ての総称がairdrome (aerodrome)。日本語には適当な対応する言葉が無い。この言葉には飛行艇・水陸両用機の滑空水域なども含まれる」
「色々あるんですね」
「ここの郷愁飛行場と、小浜(おばま)市のミューズ飛行場は、ムーラン・エアーがプライベートに使っているから飛行場を名乗る」
「へー」
「小浜(おばま)って長崎県だっけ?」
「長崎県にあるのは小浜温泉。小浜市は福井県」
「あれ?沖縄にも何か似た地名ありませんでした?」
「沖縄のは漢字は同じだけど“こはまじま”(小浜島)と読む」
「へー」
「はいむるぶしのある所ね」
「それで有名ですよね」
「同じ場所が複数の呼び名を持つ場合もある。徳島空港は、民間機用としては徳島空港と通称されるけど、本来は自衛隊の飛行場なので正式名は徳島飛行場」
「あ、それは知ってた」
と真珠。
「茨城空港は本当は千里(せんり)飛行場ですよね?」
と初海が言うが
「百里飛行場!」
と明恵が訂正した。
「あ、間違った」
着陸してから、千里さんは
「まこちゃんたちは少しここで待ってて」
と言って、ネコ?の親子を連れてどこかに行った。
でも千里さんはすぐ戻って来て(*12)
「じゃ行こうか」
と言う。
「今から拉致ですか」
と初海がワクワクして言う。
「拉致は多分明日になる。今夜は近くに泊まるよ」
と言って、千里さんは真珠たちを連れて飛行場から新交通システムに乗り、白雪駅で降りた。
「すごーい。白雪城だ」
「でも待ち行列あまりできてないですね」
「時間指定の予約制だからね」
「なるほどー」
駅からはカートのようなものに乗る。
「自動運転ですか」
「そうそう。この郷愁村の敷地内だけで、運行が特別許可されている」
「へー」
カートはゆっくりとした速度で走って行く。途中ゲートのような所を通るが、ゲートは自動的に開いた。
「無線方式ですか」
「そそ。高速のETCと同じ」
(*12) 読者はお気づきのこととは思うが、アキ・アイの親子を東京から連れて行き、春貴にバスケの指導をし、29日に津幡から春貴たちと一緒に能登空港に行った千里(A)と真珠たちを連れて金沢から能登空港に行った千里(B)は別人。
郷愁飛行場に着いてから(A)は、アキ・アイを連れて、ハルの家(板橋区)に戻った。一方、(B)は飛行機が飛んでいる間に位置変更(事実上のテレポーテーション)で郷愁飛行場に移動して、真珠たちをコテージ“つばめ”に案内した。
(A)は多分1番(アメリカのWBDAはまだ始まってないので時間が取れる)。
(B)は恐らく4番(バスケットとは無関係だし霊的能力は5番の次に高い)だが(A)の千里は(B)が2番だと思い込んでいる。3番はこの時期まだWリーグをしているので。
でも今2番はフランスのLFBに参戦している!
LFBには佐藤玲央美も参戦しており、玲央美は日本のWリーグとフランスのLFBを時差を利用して兼任している。玲央美が日本に居る間、普段はアキを身代わりにオルレアンに置いておくのだが、アキが千里に徴用されているため、この3週間は、半分は玲央美の眷属のようになっている、すーちゃんを代役として使用した。それで、すーちゃん(朱雀)は
「鳥に猫の代役させるなんて」
と文句を言っていたとか!?
なお、アキ・アイたちの移動と真珠たちの移動が重なったのは、千里お得意の予定調和である。うまく重なりそうだなと思った“司令室”の千里5が最終的に微調整を掛けて誘導した。(4番は常に5番と連絡を取り合っている)
なおblackの機体は千里のプライベート機なので、3週間能登空港に駐めていた。
エリッサは待機中、輪島市郊外の“小さな宿舎”で、のんびりと海の幸・山の幸を楽しんでいた。千里が中学生の頃、彼女は“生魚”を気味悪がっていたが、日本での仕事が長くなり、今ではすっかりお刺し身・お寿司大好きである。「寒鰤(かんぶり)美味しい、鯨美味しい」と喜んでいた。
(能登では秋から冬にかけて、沿岸ものの鯨が穫れる。「朝獲れ」シールが貼られた鯨肉がスーパーに並んでいる)
ちなみに“小さな”というのはエリッサの感覚で“小さな”であり、敷地面積は200坪、3ベッドルームの、こぢんまりとした?家である。
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春春(4)