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■春春(5)
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(C) Eriko Kawaguchi 2022-11-02
3/29 に熊谷に到着した千里や真珠たちだが、4人が乗るカートは1軒のコテージに到着する。
8023という数字が入っている。
千里さんがQRコードをかざすと、ドアは開いた。
「今夜はここで泊まるよ」
「結構広いですね」
「中央のラウンジの周囲にベッドルームが5つ、バス・トイレがあるから、個室は赤△青◇黄☆緑○菫♪、好きな所を使って」
「はーい」
入口のドアが色分けされているのは宿泊者自身が間違えないようにするためである。“さくら”が出来た当初は間違って開けてしまう事故が多発した。色だけでなく記号も大きく書かれているのは色弱の人への配慮である。実は点字のテープも貼り付けてある。
「自由な意志に基づいてセックスするのは構わないけど、大きな音を立てて他人の安眠を妨害しないようにね」
「この中でビアンの子居る?」
「まこは怪しい」
「浮気はしないから大丈夫」
夕食はデリバリーされてきたが、美味しかった。ここ宿賃、高いんだろうなと真珠は思った。(年間予約制である!食事代は900食(例えば5人で90日間朝夕を頼むと900食になる。5人で3食なら60日間)までは無料。それを越える場合は通常の2割引)
交替でお風呂に入った後、この日は早めに寝る。
そして3月30日(水).
朝御飯後、午前中は待機していたが、お昼は千里さんが時間指定して11時頃持って来てもらった。そして食事が終わった後、千里さんは全員に黒づくめの身体にフィットする衣裳と、首から上を完全に覆う黒いマスクを渡した。これを防弾チョッキの上!に着る。
「防弾チョッキ着けてると、おっぱいの大小が分かりにくくて良い」
「女装しててもバレにくいよ」
「ああそれはいいかも」
「でもなんか仮面ライダーの戦闘員みたい」
「それそれ。私たちはショッカーだよ」
「面白そう」
「このマスク、かぶってもちゃんと前が見える」
「見えなきゃ困るよね」
12:50
「行くよ」
「はい」
千里・明恵・初海の3人でカートに乗り込む。真珠はカートから少し離れた位置から3人を撮影している。カートは8023を出たが、隣の隣のコテージ8021のそばに付けた。3人が降りるが、足音を出来るだけ立てないようにしてコテージの入口まで行く。千里さんがポケットから出したQRコードをかざしてドアを開けた。
が!
千里さんは自分でドアを開けておいて、真珠を手招きして近寄らせてから
「あ、ドアが開いてるよ。好都合」
と発言した。
勝手にドアを開けられたら“つばめ”の信用問題になり、さすがの若葉も激怒するので、不注意でドアが閉まっていなかったことにするためである!だから千里が勝手にドアを開けた所は編集でカットする。放送時には多くの視聴者が、双方でしめし合わせておいた台本だろうと思ったようである。
3人がコテージ内に入る。真珠はそれを外から撮していたが、3人が入ると真珠も入った。
青葉が驚いている。一緒に居る2人の女性の内1人は「きゃっ」と悲鳴を挙げたが、もう一人は呆れたような顔をしている。
「ショッカーだ。お前を拉致して改造人間にする」
と千里さんが青葉さんに言う。
青葉さんは脱力したように
「ちー姉、何の冗談?」
と言った。
ともかくも、千里さんは、青葉さんに目隠しと猿ぐつわ!を付け、拉致していく。初海と明恵が青葉さんの両脇に付く。真珠もその様子を撮影しながら出ようとしたら、さっき呆れたような顔をしていた女性(立花紀子)が、カメラを持っている真珠に
「これ大宮先生のバッグです」
と言って渡してくれた。
「ありがとう」
と真珠は言って受け取り、カメラを持ったままコテージを出た。
誰が撮影したのか分からないが!?紀子が真珠にバッグを渡す映像も放送時には流れた。それで、このやり取りで、いかにも茶番劇であるという雰囲気が出た。バラエティ経験の長い立花紀子が、結果的にとても良い味を出してくれた。
千里・青葉・明恵・初海がカートで移動する。真珠はその横を歩きながら撮影した(カートは6km/h)。ゲートを通り、白雪城のそばを通る。人がたくさん並んでいるが、真珠がテレビカメラで撮影しているので、誰も何も言わない。こちらを見ているだけである。
カートを降りて郷愁ライナーの白雪駅に入る。そして列車が来るのを待ち、ライナーに乗り込む。そして郷愁飛行場まで行き、空港の施設を通って、昨日真珠たちが乗ってきた、黒いホンダジェットに乗った。ライナーの客は何も騒がず、空港関係者も、ごく普通に一行を通した。
そして飛行機が離陸してから、真珠たちは覆面を脱いだ。
「青葉さん、済みません。どうしてもこれ以上は青葉さんが居ないと制作が進まない状況なので」
と真珠が謝る。
「だから私が青葉を拉致しようと言った」
と千里が笑いながら言う。
「全くもう」
と青葉。
「事件が解決したら、すぐ熊谷でも浦和でも八王子でも、どこでも好きな所に連れてってあげるから」
「で、どういう事件なの?」
と青葉は尋ねた。
千里たちが青葉を拉致して行ってから30分ほどして、ケイがコテージに来た。ベルを鳴らして中に入れてもらう。
「青葉はプールに行った?」
とケイが南田容子に訊く。
「ショッカーに扮した醍醐春海先生に拉致されて行きました」
と立花紀子が答える。
「先を越されたか!」
とケイは天を仰いだ。
ケイが来たのは青葉に『ミュージシャンアルバム』の取材依頼をするためである。現在『ミュージシャンアルバム』の放送予定は↓のようになっている。
4.10 アクア
4.24 長沼清恵
5.15 XETIMA
5.29 富士川32
6.12 UFO (未収録)
長沼さんを先頭にする予定だったが、番組制作を支援している◇◇テレビの社長から「先頭はアクアにして」という要求があった。それでケイとコスモス、更には◇◇テレビの響原常務まで一緒に、お師匠さんの吉野鉄心さんと長沼さん本人の所に、レミーマルタンと、ボルドーのシャトーワインを持って謝罪に行った。しかしどちらも
「アクアちゃんなら構わないよ」
と言って笑って快諾してくれた。
ついでに、長沼さんをホステスとする番組を◇◇テレビが制作する話までまとまった!演歌世界では今注目の歌手なので、実はかなり視聴率が期待できるのである。
(しかし各々多忙なケイ・コスモス・響原の3人が揃うのも実はかなりレア。響原もコスモスもかなり無理してこのスケジュールを入れた)
そして、このことを知ってアクアも驚いて、長沼さんの所にコスモスと一緒に再度謝罪に行ったが、長沼さんは
「きゃー、リアルのアクアちゃん!」
と言って、握手してサイン色紙を交換して、大喜びだった!
青葉を千里に先取りされて、ケイは考えた。
青葉は6月18-25日にブダペストで行われる世界水泳に行ってくることになっている(派遣選手として確定済)。恐らくは6月15日くらいには渡航するだろう。その直前には合宿とかもあるかも知れないし、そもそも4月28日〜5月1日には日本選手権がある。
日本選手権直前の4月の中旬〜下旬に青葉の日程を確保するのは無理だろうから、4月前半に捉まえられなかったら、日本選手権の直後くらいに拉致!する必要がある。こういう場合に普段は頼りになる山村マネージャーは、千里が天敵のようだから使えない。場合によっては6月12日放送分は、超多忙なUFOではなく、もっとスケジュール調整のしやすい歌手(*13)に入れ替える必要があるかも知れないとケイは考えた。(6月26日の放送予定は番組入れ換り時期の特別番組のためとかいって飛ばすことが可能)
大宮万葉、ラピスラズリ、UFO と、極めて多忙な3組が顔を合わせるというのは、物凄く大変なことなのである(だから番組として価値があるのだが)。
↑ケイも超多忙な筈である!
(*13) 入れ替える場合、誰にするかもケイとコスモスで検討した、UFO(2019 debut) より後から出て来た歌手を使うとUFO側が怒る。だから常滑舞音(2021 debut) も使えない。2人で色々検討した結果、使えそうなのは三つ葉(2016 debut) かボニアート・アサド(2017 debut) という結論に達した。町添社長お気に入りのトラインバブル(2018 debut) だと最近売れてないし!
ケイは青葉が居ないのでは仕方ないと言って、帰って行った。
それで南田容子と立花紀子は自分たちも退去しようと部屋を片づけ始める。するとそこに千里がまた来るので、びっくりする。今度は覆面とかはしてないし、ちゃんとドアベルを鳴らした。
「何か忘れ物ですか?」
「いや、青葉の着替えを持って行ってあげないとと思って」
「ああ、はいはい」
それで南田容子と立花紀子も手伝ってくれて、青葉の着替えが整理された。千里は持参の旅行バッグ3つに着替えをまとめた。
「ありがとう。じゃ、またね」
「はい、お疲れ様です」
ということで、千里は15時頃出て行った。南田容子と立花紀子は結局早めの夕食を持って来てもらい、それを食べてから、紀子のミライースに乗り、一緒に五反野の女子寮に戻った。
このコテージは§§ミュージック専用なので、楽器は残しておいてよいが、青葉が使用していたパソコンとSSDは、南田容子が持ち帰り花ちゃんに渡した。
むろんここで青葉の着替えを取りにきた千里は、青葉を拉致して行った千里とは別の千里である。ここに出て来たのは、きっと6番。目立たない所での裏工作はこの6番がしていることが多い。
一方、3月30日に青葉を拉致して行った『北陸霊界探訪』取材班は、3/30, 31, 4/1, 2 と4日かけて、美事にS市の“白い虎徘徊事件”を解決した。
結果的には「いしかわ・いこかな」の前担当プロデューサー桜坂さんがお父さんかしていた店を継いで4月中に再開リニューアル・オープンさせる予定の料理店・琥珀(こはく)の看板を直すことで事件は解決する。
↓再掲
結局この看板の文字の左側の王偏が地震で崩落し“琥珀”が“虎白”と読める状態になっていたことから、白い虎が出没していた、というのが金沢ドイル(青葉)の指摘だった。
この件は、何と言ってもこれまでのドイルの数々の実績を見てきた桜坂さんだから、青葉の話を信じてくれたという面も強かった。普通の人なら
「言いがかりだ!」
とか怒ったりして否定する所であったろう。
しかし桜坂さんが信じてくれたお陰で、すみやかにこの事件を解決することができた。
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