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■少女たちのドミノ遊び(12)

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翌日、10月1日(日)の午前中。
 
村山家に電話が掛かってくるので千里が取ると宮司さんである。
 
「あ、千里ちゃん。悪いけど、神社の境内で小さな子供たちが遊んでいるのを見ていてくれないかなと思って」
 
「いいですよ」
「できたらお母さんと一緒に」
「はい。何かあったんですか?」
 
「実は孫が乗っていたバスが事故を起こして」
「え〜〜〜!?」
「大怪我しているらしいので行ってくる。もしかしたら1週間くらい掛かるかも知れない」
 
千里はこれは大人が話を聞いた方がいいと思い、母を呼んで代わってもらった。
 
「分かりました。宮司さんが不在の間は、お母さんたちでチームを組んで、ローテーションで子供たちの見守りをしますから」
 
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「助かります!」
 

それでその日は千里と津気子が神社に行って子供たちを見守ったが、津気子は子供たちを見ながらあちこちに連絡し、留実子の母、蓮菜の母、玖美子の母など、数人の「外人の子たちに理解があり、最低限英語が話せる女性」でローテーションを組むことにした。
 
昼過ぎ、町内会長さんが来て
「宮司さん、半月くらい入院するかも」
と言った。
 
「宮司さんがですか!?」
 
「実はね」
と言って町内会長さんが、向こうの状況を説明した。
 
バスの事故は死者が4名も出る大事故で、宮司のお孫さんなど重傷者も10人いるらしい。
 
「どこを怪我なさったんですか?」
「下半身の損傷が大きくて、重傷者の中には両足切断の人が2人、片足切断の人が3人いるんですよ」
「きゃー」
 
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「宮司のお孫さんは両足骨折ですが、足自体は切断せずに済みました。ところがですね」
と言って、チラッとスカートを穿いている千里と、その向こうに座っている女子中学生っぽい風貌の小春を見る。
 
「私たちは平気ですよ」
と小春が言ったので町内会長さんはその先を話した。
 
「実は股間を強打しまして。睾丸破裂・陰茎骨折裂傷で。損傷が酷かったのでやむを得ず両方とも切除したんですよ」
 
千里はポーカーフェイスでその話を聞いたが、母は
「そんな。若いのに可哀相!」
と言った。
 
「それでですね。彼のお父さん、つまり宮司の息子さんが、まだ高校生なのにペニスと睾丸を失うのはあまりにも辛いと言って、自分のペニスと睾丸を息子さんに移植してくれとおっしゃったんですよ」
 
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「移植できるんですか?」
「血液型が同じなので可能だそうです。札幌の医大の外科の先生が移植の経験がおありだそうで、その先生が執刀して移植することになりました」
 
「でもお父さんはおちんちん無くなってもいいんですか?」
 
「それでですね。その話を聞いた宮司さんが、だったら自分のペニスと睾丸を息子に移植してくれと」
 
「え〜!?」
 
「ドミノ移植ですか?」
と小春が言った。
 
「そうです。性器のドミノ移植です」
 
「それいっそ、宮司さんのをお孫さんに移植するのではいけないんですか?」
と母が訊く。
 
「宮司さんのは実際にはもうほぼ機能を失っているのですよ」
「ああ・・・」
 
「だからそんなに衰えたものを移植しても仕方ないので、まだ充分現役の40代のお父さんのものを高校生のお孫さんに移植し、70歳の宮司さんのを40代の息子さんに移植するということで。息子さんはもう子作りは終わっているから機能を失っているものでも構わないと」
 
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「なるほどー」
 
「明日、そのドミノ移植を実施するそうです」
「そうですか」
「それで宮司さんも一週間くらいは入院しないといけないのですよ。ただ老齢なので一週間で済まない可能性もあります。そこで念のため復帰まで2週間くらい見て欲しいという話で」
 
「大変ですね」
 
「ただそうなると秋祭りができないので、どこかから代わりの神職を呼べるように連絡をしたということです」
 
「あらあ」
 

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千里は小春と顔を見合わせた。
 
2人とも考えたことは同じである。
 
せっかく、千里の父ちゃんの睾丸を移植して、そのおかげで最近宮司さんは随分体調を回復させてきていたのに、睾丸どころかおちんちんまで無くなってしまったら、宮司さんはおそらく急速に老け込むだろう。
 
小春は《心の声》で千里に言った。
 
『夜中に神社で対策を考えよう。私、呼びに来るから』
『うん。よろしく』
 

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「それでお前たちはどうしろと言うんだ?」
と大神様は、小春と千里の話に、機嫌が悪そうに答えた。
 
「このままだと、宮司さんは急速に衰えてしまい、それでは大神様もお困りになられるのではないかと」
 
「うーん。。。こんなことなら元の宮司の睾丸は廃棄せずに、どこか豚の体内にでも保存しておくべきだったか」
などと大神様はおっしゃる。
 
「豚ですか?」
と千里は驚くが
 
「いや。豚の組織は人間の組織と親和性がある。豚の体内で人間の臓器を育てることが可能」
と小春が言うので、へー!と思う。
 
しかしその人間の臓器を育てた豚は、食べないよね?と千里はちょっとこの話に抵抗感を感じた。
 
小春が言う。
「それで私も、どこかに男性器が余ってないか、知り合いの狐とかに聞いて回っていたのですが、実はあるお方から「これを使いなさい」と言われて20歳くらいの男の子の男性器を頂いたんです」
 
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「おぉ」
 
「そこでですね。今晩の内にこれをその男性器を失った高校生に移植してあげられませんか?」
 
「それを私がやるのか?」
 
「ちょっと複雑なことをして頂きたいのですよ」
「ん?」
 
「お父さんの方は既に子作りを終えているからどうでもいいのですが、この高校生はこれから結婚して子作りをしなければなりません」
 
「うん」
「それなのに赤の他人の睾丸が付いていてはまずいですよね?」
「ああ。分かった」
 
「さすが大神様」
 
「ふん。私にお世辞は不要だぞ、小春」
「恐れ入ります」
 
「つまりだ。そのお前がどこかから調達してきたおちんちんは高校生にくっつけて、睾丸は父親のを移植しようという魂胆だな」
 
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「御意」
「そしてお前が調達してきた睾丸を父親に放り込む」
「そうすれば丸く収まりますよね?」
 
要するにこのようにするのである。
 
宮司 陰茎:本人の物 睾丸:そのまま(武矢の物)
息子 陰茎:本人の物 睾丸:小春が調達してきた物
孫  陰茎:小春が調達してきた物 睾丸:息子(本人の父)の物
 
「20歳の睾丸を入れたら、父ちゃん元気になって浮気するかも」
「それが実は男の娘にくっついていて、本人が取って欲しがっていたのを取り外してきた物なので、20歳なのに凄く弱い睾丸なんですよ」
「ふーん。。。。」
「だから浮気までする気にはならないと思います」
 
「まあいいや。それなら宮司は今の睾丸(本来は千里の父の睾丸)をそのまま使えるし」
「はい」
「何よりも秋祭りをちゃんとやってもらえそうだし」
 
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「それがわりと重要かと」
 
「分かった。してやるから、小春案内せい」
「はい」
「千里は私が帰ってくるまで、この神社本殿で私の代理をしているように」
 
「私、神様の代理なんですか〜?」
「変なのが入って来ないように見ていてくれればいい」
 
「そのくらいなら何とかなるかも」
 
それで大神様と小春は出て行った。
 

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千里が少し心細そうに本殿内部でひとりでいたら、何か黒い闇のようなものが迫ってくるのを感じた。
 
千里はすっくと立ち上がると、その黒い念のようなものに鋭い視線を向けた。すると、その黒いものが粉砕された。
 
「やっつけたかな?」
と千里は独りごとを言った。
 
千里がその黒い念を粉砕した後は、神殿内部まで侵入してくるものは無かった。近くにいくつかの同様の存在を感じるものの、千里がさっきのものを粉砕したことで恐れているようである。千里はここは絶対に気を弛めてはいけないと思った。こちらが弱みを見せたら、付け入られる。
 

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小春と大神様は千里の感覚で3時間ほどで戻って来た。
 
「疲れた疲れた」
「お疲れ様!」
 
「宮司の孫はちんちんもタマタマも復活した。宮司も息子も今更手術を受ける必要は無いから、宮司は数日で戻って来るだろう」
 
「ありがとうございます」
 
「まあ朝になったら医者は仰天するだろうけどな」
「世の中には不思議なこともあるんですよ」
 
大神様は神殿内部を見回している。
 
「千里、ほんとにしっかり留守番していたようだね」
「結構緊張しました」
 
「やはり千里は私が思った通りの子だ」
と大神様はおっしゃる。千里は例によって大神様の姿も表情も見えないのだが、雰囲気的に、笑顔になっておられるようだ。
 
そしておっしゃった。
 
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「お前の母ちゃんに伝えろ」
「はい」
 
「大腸の検査を受けろと」
「ダイチョーですか」
「それ治さないと死ぬぞと言え」
「はい!」
 
どうもこのことが、千里がお留守番をしてあげた報酬のようであった。
 

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それで千里は翌10月2日(月)の夕方、夕食を一緒に作りながら母に言った。
 
「そうだ。お母ちゃん」
「うん?」
 
「こないだ神社でお母ちゃんが早く良くなりますようにってお祈りしてたらね、なんかよく分からないけどダイチョーって言葉が聞こえたんだけど、何だろう?それを治療しないとお母ちゃん、ちゃんと治らないよって言われた」
 
母はハッとした顔をした。
 

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津気子は実は大腸にポリープができているのでは?という自覚症状が数年前からあったものの、検査を受けるのがおっくうなのと、《病院代が無い》という問題から、放置していたのである。千里から言われて、津気子はこれを放置してはいけないと思い直した。
 
そこで次の4日水曜日、放射線治療と投薬を受ける日に合わせて、津気子は大腸癌の検査を受けた。その結果、中規模のポリープが見つかり、10月の休薬期間中に内視鏡手術によって除去してもらうことにした。
 
医者からは「あと1年放置してたら、人工肛門にしないといけなかったよ」と言われた。
 
費用は乳癌の手術・治療の代金も含めて入っていた生命保険と道民共済からかなりの保険金が出たので、高額医療費の直接支払制度も使うことによって、ほとんど経済的な負担無しで治療することができた。
 
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一方千里は毎日母の肝臓のメンテを大神様に言われた通りにしてあげていたのでこれで8月末の時点で大神様が言っていた、乳房・卵巣・肝臓・大腸という全ての危険箇所が治療され、津気子はこの年死なずに生きながらえることになった。
 
結果的に津気子の死のショックから翌年死ぬはずだった武矢も生きながらえることができたのである。この時点で小春や大神様は気付いていないが、実は睾丸を千里のものに交換し性格が以前より穏やかになったことで、船上で漁労長と衝突して船の指揮系統が混乱し、事故を招くはずだったのも回避されることになった。
 

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しかし千里の寿命はあと2年数ヶ月、小春が巧みに大神様から聞き出したのでは2003年4月9日仏滅23:51に命の炎が燃え尽きる予定である。
 
「でも千里、私はあんたを死なせないからね」
と小春は決意を秘めた表情でつぶやいていた。
 
 
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