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■少女たちのドミノ遊び(10)

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4年生が馬原先生と一緒にお風呂に行ったのは18時少し前であった。小野さんたちが買ってきてくれた下着の替えと旅館の浴衣を持って行く。タオルは脱衣場に多数置いてあるらしい。
 
その脱衣場に入るが、千里は何の照れもなく女湯の脱衣場に入っていく。穂花はじっと千里を見ているが、その視線に気付いているのは蓮菜だけである。脱衣場では今あがってきた5年生の子たちと交錯する。
 
「みんな同じ下着に浴衣だから、自分のが分からなくならないように籠じゃなくてロッカーを使ってね」
と先生が言っているが
「6年生では分からなくなった子が出たみたいだけど、どうせ次は洗濯してから着るからいいよね、ということにしたらしいです」
と浴衣を着たばかりの5年生が言っていた。
 
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「あらあ。最初に注意しておくべきだったね」
 
穂花が千里を見ているが、千里は自分が見られていることに気付いていないのか、気付いていないふりをしているのか。
 
みんな色々おしゃべりしながら脱いで行く。千里は普通にポロシャツを脱ぎ、スカートを脱ぐ。パンティが露出するが、パンティに「その下に何かある」ような形は見えない。ここまでは、けっこう千里も他の女子に曝している。問題はその先だ。
 
千里が女の子シャツを脱ぐ。まだ4年生だから胸は無くて当然である。
 
が、ここで少し騒ぎが起きる。
 
「映子ちゃん、胸少し膨らんでる」
と佐奈恵が言う。
 
「あ、ほんとだ」
と言って、蓮菜も千里も!そちらを見る。
 
「映子ちゃん、生理来た?」
「まだだけど、きっとそろそろ来るよとみんなに言われてる」
 
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「もうこの身体は女になりかけてるもん。いつ生理来てもおかしくないよ」
と蓮菜。
 
「乳首もかなり立ってるね」
と言って千里は指先で、映子の乳首に触っている!?
 
穂花は「ちょっと待て〜?」と思った。もし千里が男の子であったとしたらこれは痴漢だ。重大犯罪だ。
 
一瞬頭に血が上った状態でそんなことを考え、ふと千里を見ると、もうパンティも脱いでタオルであの付近をさりげなく隠している。
 
しまったぁ!千里がパンティを脱ぐ瞬間を見逃した!
 

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「穂花どうかしたの?入らないの?」
と佐奈恵に言われる。
 
「あ、入る入る」
と言って慌てて自分も脱いで、他の子と一緒に浴室に入ろうとした時である。
 
「N小学校の村山千里さん、いらっしゃいますか?」
と脱衣場に旅館の仲居さんが入って来て言う。
 
「はい」
「おうちの方から電話が入ってます」
「はい。すぐ行きます」
と言って千里は
「みんな先に入っててね〜」
と言って、急いで服を着ている。千里は下着だけつけると浴衣を羽織って、仲居さんの所に駆け寄った。
 
穂花は千里がパンティを穿く瞬間、あそこが見えないかと注視していたもののよく分からなかった。
 
しかし・・・今電話が掛かってこなかったら、千里は本当に女子と一緒にお風呂に入るつもりだったのか??
 
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穂花は浴室に入るとまずは洗い場で身体を洗い、髪も洗い、それから浴槽に入る。
 
ここはとても広い浴室である。脱衣場も広かったが、浴室も多数の浴槽が並んでいる。織姫(おりひめ)の湯とか小野小町(おののこまち)の湯とか、色々名前も付いているようだ。電気風呂とかジェットバスとか水風呂まである。リサは紗織を誘って、あちこちの浴槽を冒険して歩いていたようだ。大半の子は最も広い「ピリカメノコの湯」に入っていた。ピリカメノコというのはアイヌ語で「美少女」の意味である。ピリカと光るような女(め)の子ということか。ここは近隣の温泉から運んだお湯を使用しているということで、少しぬるぬるしているが、温泉の湯だけあって、疲れが取れていくような気分だった。
 
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お風呂から上がって大部屋に戻ると、部屋に食卓が並べられていた。
 
「4年生全員戻ったかな?」
「リサちゃんがトイレ行ってます」
「じゃ、それ待とうか」
 
そのリサは千里とおしゃべりしながら戻って来た。ふたりはフランス語で話しているので内容は分からないが「オノコマシ」という単語が聞こえたのは何だろうと思った。
 
「始めるよ」
「すみませーん」
と言ってリサと千里が空いている席に着く。リサは映子と紗織の間、千里は穂花と蓮菜の間である。蓮菜の向こう隣に佐奈恵が座っている。
 
「では今日はみんなお疲れ様でした。そして優勝おめでとう!」
と馬原先生が言い、小野部長が音頭を取って、サイダーやコーラで乾杯して食事は始まった。
 
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「千里はお風呂どうしたの?」
と穂花は訊く。
 
「電話はすぐ終わったから、すぐ入ったよ」
と千里は言っている。
 
そういえば千里の長い髪は濡れているようだ。
 
「ね、千里。ここだけの話。千里、男湯に入った?女湯に入った?」
と穂花は小さな声で訊いたが、千里は微笑んで
 
「想像に任せる」
とだけ答えた。
 
穂花は腕を組んだが、その会話が聞こえたのか聞こえてないのか、千里の向こう側に座っている蓮菜は苦笑しているようにも見えた。
 

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なお、夕食の料理の内容は旅館にありがちな、お刺身・天麩羅・茶碗蒸し・小鉢、それに固形燃料を使った卓上コンロで調理する豚肉と野菜の煮物であった。御飯とお味噌汁はお代わり自由ということで、たくさんお代わりしてる子もいる。
 
わいわいとおしゃべりしながら、またさすが合唱サークルだけあって歌なども出て、楽しく食事は終わる。
 
そのあと、旅館の人が食卓を片付け、今度は布団を29枚敷いてくれる。
 
「壮観だなあ」
「予め言っておくけど枕投げは禁止」
「それ一度やってみたかったのに〜」
 

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布団も結局食事の時と同じ並びで寝た。千里の性別に関して、もやもやとしたものが残る穂花だったが、夜中トイレに起きたら、ちょうど蓮菜がトイレから出てくる所だった。穂花は蓮菜に訊いてみた。
 
「ねぇ、千里ってお風呂結局どちらに入ったのかな」
「さあ。知らない。でもこれだけは言える」
「うん?」
「電話が掛かってこなくて、あのまま千里が私たちと一緒に女湯に入っててもたぶん何も問題は起きなかった」
「うーん・・・・」
と悩んでから訊く。
 
「千里ってやはりもうちんちん無いの?」
 
「知らない。でも、もしあったとしても、それを絶対他人には見せない。病院のお医者さんにも隠し通したとか自慢してたことあるよ。だからあの子、病院の診察券は女になってる。誰にも見せないなら、無いのと同じかもね」
 
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「何か哲学的になって来た」
 
「そもそもさ、千里が脱衣場に居た時、みんな何か緊張したりしてた?」
と蓮菜は訊く。
 
穂花は少し考えてから言った。
「何も。ふつうに女子だけがいるのと変わらなかったと思う」
 
「あと、千里は私と穂花の間に寝てるけど、それで緊張したり、千里に警戒したりする?例えば、千里、夜中に私を襲ったりしないよね?とか」
 
「千里が女の子を襲うことはありえない」
 
「それで答え出てるじゃん。じゃ先に戻ってるね。おやすみー」
と言って蓮菜は部屋の方に戻って行った。
 
穂花はトイレを済ませてから部屋に戻り、ちらりと隣で熟睡しているっぽい千里を見てから自分も布団に潜り込んだ。
 
そして睡魔に吸い込まれるように眠りに落ちていく間際、あることに気付いた。
 
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リサが言ってた「オノコマシ」って小野小町(Ono no Komachi)のことでは?フランス語では chi は「シ」と発音すると聞いた気がする。リサはあちこちの湯を探訪していた。ひょっとして、リサは千里が小野小町の湯に入っている所に遭遇したのでは?つまり千里はやはり女湯に入った??
 

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千里たちは翌24日(日)の午後になってやっと動き出した電車に乗り、日曜日の夕方、何とか留萌に辿り着いた。
 
「お疲れ様〜」
と母。
「疲れた〜。でも優勝できたからいいや」
と千里。
「おお、それはめでたい」
と父。
 
千里はずぶ濡れになった合唱サークルの制服上下、その時着ていた下着と靴下、更にその後着た白いポロシャツと青いスカート、その下に着た下着、をまとめて液体洗剤を使って洗濯機に掛けた。それを後で室内に干すことになるが、その程度は平気である。
 
その日の夕食では父が「千里の優勝祝い」と言って、ビールを開けて飲んでいた。
 
「津気子、お前も飲まない?」
などと父は言うが、千里が
 
「お父ちゃん、お母ちゃんは手術してからまだ1ヶ月も経ってないんだよ。そんなの飲んでたら身体良くならないよ」
と言って停める。
 
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「そうか。まだまだ治るのに掛かるか」
などと言って父は不満そうである。
 
しかし千里は最近父がこれまでより少しだけおとなしくなり、あまり強引ではなくなったことを感じていた。やはり睾丸を私のに交換したせいかな〜?などと思う。本当に睾丸が無くなったのは千里なのだが、むしろ父の方が去勢効果が出ているような感じだ。
 

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9月25日(月)朝の全体朝礼では合唱サークルの道大会優勝・全国大会進出が報告され、千里たち28人の児童と馬原先生が壇上に上り、賞状とトロフィーを披露して全校児童から拍手をもらった。昼休みには音楽室に集まって、入院中の校長に代わり教頭先生から、あらためておめでとうの言葉をもらった。
 
この日の6時間目、学活の時間。
 
我妻先生は「明日は健康診断がありますので、女子は朝起きて1番のおしっこを採って持って来てください」と言って、先生自ら、女子全員に採尿キットと書かれた小袋を配った。
 
「男子は要らないんですか?」
と質問があるが
「女子だけの検査があるんです」
と言いながら、先生は配っていく。
 
先生は留実子の所に配らずに通過してしまったが、すぐ後ろの席の鞠古君が
 
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「先生、花和も女です」
と言ったので
「あ、ごめんごめん」
と言って、戻ってそこにもキットを置いた。
 
そして、先生は次は鞠古君の後ろの席の千里の机の上にもキットの袋を置いた。鞠古君は再度注意すべきか一瞬悩むような顔をしたものの、そのまま放置した!
 
そして先生は最後の穂花の所に置いた後で
 
「あれ?説明用に1個余分に持って来たつもりだったけど、数え間違ったかな?」
などと言っている。
 
穂花も先生が千里の所に配ったのに気付いていたので、それが余計なのではとは思ったものの、まあいっかと思う。千里も自分でそれを申告する訳が無いだろう!
 
「一応使い方を説明します。恵香ちゃん、ちょっと貸してね」
と言って、恵香の所に配ったキットを開けて中身を取り出す。
 
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「折りたたみ式の採尿カップと、大きめの醤油差しみたいなスポイト、それに提出用の紙袋が入っています。朝起きて1番のおしっこをこの採尿カップに採って、そこからこのスポイトで吸い上げ、しっかりふたを締めてください。提出用の袋には、学年・組と出席番号・氏名を書き、その中にスポイトだけを入れて提出してください。採尿カップは家でゴミに捨ててください」
 
「スポイトを入れる前に名前を書いた方がいいですよね」
と玖美子が補足する。
 
「そうだね。スポイトを入れた後で名前を書こうとするとちょっと大変だよね」
と先生も言う。
 
「あと朝1番に採り忘れないように、トイレにこのキット置いておくといいですね」
と蓮菜。
 
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「うん。それだと忘れにくいよね」
 
「でもこの採尿カップ結構小さいですね」
という声も出る。
 
「うん。でも何とか頑張ってそれで採って」
と先生。
 
「男はホースが付いてるから、わりとちゃんと入れられるけど、女は大変だな」
と田代君が言う。
「田代、そのホース取り外して、ホースの無い状態で練習してみる?。このカップ貸してあげようか?」
と蓮菜。
「琴尾が自分のホースを切り取って試してみればいいと思うよ」
と田代。
 
例によってこの2人のやりとりは、他の子からは黙殺されている。
 

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少女たちのドミノ遊び(10)

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