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■少女たちのドミノ遊び(11)

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翌26日朝。千里は教室で言われていたように、採り忘れないよう昨夜の内にキットをトイレに置いておいた。
 
そして採尿カップを組み立て、おしっこの出てくるのはこのあたりかなあ〜?という感じの付近に当てて、少しおしっこを出してみる。あ、もっと奥だ!と思って位置を調整する。
 
これって随分後ろの方から出るんだよなあ、とあらためて思う。このくらいの量でいいかな、と思うところでいったんおしっこを停め、カップからスポイトで吸い上げる。充分な量が取れたので、残りを放出する。カップ内の残尿も便器の中に捨てる。そしてカップは畳んでトイレの汚物入れに捨てた。
 
この時期、千里はまだこの「汚物入れ」の意味がよくは分かっていない。
 
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その日は朝の会の時に提出用袋に入れられた採尿袋を女子の保健委員である蓮菜が集めた。蓮菜はひとりひとり名前が袋に書かれているかを確認しながら集めていた。蓮菜は千里の提出袋も無表情で集めて行った。
 
この日の3時間目体育の時間の最初に健康診断をしますと言われる。それで千里は、他の女子と一緒に2組の教室に行き、他の子とおしゃべりしながら体操服に着換えてから、保健室に行った。
 
例によって千里は列の先頭に並ばせている。なおこの日、保健室の佐々木先生は出張で不在であった。代わりに5年生を担任している女先生、松下先生が(この時間授業が無かったこともあり)見てくれている。
 
朝提出した尿はいったん病院か検査センターに運ばれて検査された上でその報告書が届いているようである。
 
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千里は出席番号23なので、報告書も後ろの方に入っているが、蓮菜はそれを取り出して先頭に置いた。その千里が入って来て、体操服の上下を脱いで下着姿になり、身長と体重を測る。蓮菜が身長計と体重計の数字を読み、松下先生がそれを記録する。その間に本来の女子先頭である恵香が入って来て体操服を脱ぎ出すが、恵香は千里がそこに居ても別に気にしない。恵香は千里の裸を何度も見ているし、千里も恵香の裸を何度か見ている。
 
ふだんは身長と体重を測られるだけなのだが、今日は白衣を着た女性のお医者さんがいて、千里は「上半身裸になってください」と言われるので、女の子シャツを脱いでお医者さんの前の椅子に座った。4月に年度初めの健診を受けた時の先生とは違う先生である(あの先生は小児科医、今日の先生は実は婦人科医である)。千里が健診を受けている間に恵香は身長と体重を測定する。お医者さんは千里の身体の線を観察し、特に胸を見ているようだ。
 
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「乳首が少し立ってますね」
「はい。春過ぎくらいから、立つようになりました(ということにしとけと言われたからなあ)」
「なるほど、なるほど」
 
と言ってから今朝の尿検査の結果を見ている。そして目を丸くしている。
 
「あなた、生理はもう来てるよね?」
「いえ、まだですけど」
「だったら、今にもすぐ来るよ。おり物とか出てない?」
「あ、少しあるかな」
「これって明日生理が来てもおかしくない状態だと思う。お母さんと相談して取り敢えずパンティライナーとか買って付けておくといいよ」
「はい。母に相談してみます」
 
松下先生が「数値が高いですか?」とお医者さんに尋ねる。
 
「これは成人女性の女性ホルモン値に近いですね」
とお医者さんは答えた。
 
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蓮菜と恵香が顔を見合わせていた。
 
この会話は、お医者さん・松下先生のほかは、この2人だけが聞いたのである。
 

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千里は頭痛とか腹痛とかが強くなることは無いかなどとも尋ねていたが、千里は正直に、今月の初め頃数日頭痛と腹痛が辛かったことを言う。するとお医者さんは、生理の周期が始まっているので女性ホルモンの分泌リズムによって、そういうのが発生しているんですよと説明してくれた。
 
それで千里は解放され下着を身につけ体操服も着て「ありがとうございました」と言ってカーテンの向こうに行く。交替で恵香の次の美那が入ってくる。恵香が上半身も裸になってお医者さんの前に座った。
 

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その日の夕方、小春が千里に言った。
 
「さすがに千里がお母ちゃんにパンティライナー買ってなんて言ったら仰天されるだろうからさ、私が買ってきたから、これ付けておくといいよ。千里はパンティライナー付けたほうがいいかも知れないと思っていた」
と言って千里にパンティライナーの30個入りパックの入った黒いビニール袋を渡した。
 
「ありがとう」
「この黒い袋のまま、自分の机の引き出しとかに入れておくといい。無くなったら、また買ってきてあげるから。100円ショップで自分で生理用品入れを買ってそれにいつも数枚入れておくといい」
「うん。じゃ、その時はまた教えて」
「OKOK」
 
「私、生理も来るの?」
「そのあたりのメカニズムが千里はまだよく分かってないよね。千里には卵巣はあるけど、子宮が無いから生理は来ないよ(ということにしておこう)」
「そっかー。来たらいいのに」
 
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「まあでも20歳頃までには千里にも生理が来ると思うよ」
と小春は優しく言った。
 

9月29日(金)の夕方、神社で遊んでいる子たちのグループでリサの送別会をした。
 
出席したのは千里の世代では、千里・蓮菜・恵香・美那・留実子・小春。他は年下の外人さんの子供たちが20人ほどである。日本人も数人混じっているが、このグループに入る前は孤立していた子や、いじめられていた子が多い。
 
千里たちの世代は最近は自分たちが遊ぶのではなく、下の子たちの「面倒を見てあげる」立場になっている。
 
小学1〜2年生の頃、性別問題から、千里は男子たちとはあまり遊びたくなく、女子たちからは距離を置かれていた。しかし日本語がよく分からずに各々あまり友人を得られずにいた外人さんの子供たちとは仲良くなることができ、それが貴重な遊び相手になった。
 
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千里はタマラからは英語、リサからはフランス語を習い、また彼女たちには千里が日本語を教えてあげた。彼女たちとは日本語ミックスで会話していたし、ほとんどの言語を理解する小春という存在が、このグループのコミュニケーションを良好に保った。
 
ただ、成長するにつれ、千里を理解してくれる女の子が、蓮菜・恵香・留実子など少しずつできてきて、千里も孤独ではなくなってきていた。留実子の場合は前の学校で本人が孤立していて、こちらに来て、千里という自分と似た立場の親友を得たことで、彼女自身救われたのだ。
 

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送別会は社務所を兼ねている宮司さんのお宅で、各々の親が料理やおやつを持ち寄り、16時半から1時間ほど、歌を歌ったりして、楽しんだ。宮司さんまでフランス歌謡『オ・シャンゼリゼ』をフランス語で歌い、リサと母がそれに唱和する場面もあった。
 
この日は主として千里がリサの持ち込んだ電子キーボードを弾いて伴奏してあげていた。リサの母は「そのキーボードは記念に千里にあげる」と言ったので、千里ももらっておくことにした。(このキーボードは後に玲羅が使うようになり、25年後には玲羅の娘の遊び道具となる)
 
「千里、しかし何の曲でも弾くな」
と美那が感心していた。
 
「美那のほうが多分上手い」
「私はそんなにレパートリーが広くない。特に外国の民謡はよく分からない。ジャニーズもTOKIOとV6しか分からん」
 
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千里はリサのお母さんにピアノを習ったので、フランスの民謡・童謡をかなり弾きこなす。他にもブラジル人とか中国人とかインド人の子供などもいるのであちこちの国の童謡を覚えた。またリサがジャニーズ・フリークなので、ジャニーズ系の曲も網羅的に覚えた。
 
送別会が終わった後、小さい子たちを先に帰し、千里たち4年生の子たちで後片付けをする。4年生だけと言っていたのだが、3年生の子2人も手伝ってくれた。たぶん来年度はこの子たちが「お世話係」の立場になっていくだろう。
 
リサは主賓だし、引越の準備もあるだろうし帰っていいよと言ったのだが「私も手伝う」と言って、テーブルを拭いたり、ホウキで畳を掃いたりしてくれていた。
 
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10分か15分ほどできれいに片付く。でも本当に寂しくなるね、などと言っていた時、リサが「最後にまた留萌の温泉に入っておきたい。誰か付き合わない?」と言う。
 
「私も付き合いたいが、父ちゃんに御飯を食べさせなければ」
と美那の母。
 
「私も行きたいが塾があるし」
と恵香。
 

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それで結局、千里・蓮菜・留実子・小春・リサがリサの母と一緒に温泉に行くことにした。
 
リサの母がRenault Twingoに子供たち5人を乗せて温泉に向かう(帰りは各々の子をそれぞれの自宅まで送り届けますよとリサの母は言った)。
 
それで温泉に着くが、リサの母は千里は女の子、留実子は男の子だと思っている。それでフロントでは「大人女1人、子供女4人・男1人」と言って鍵を出してもらっていた。
 
蓮菜は「うーん・・・」と腕を組んで考えたものの、気にしないことにしたようである。
 
「はい、るみ」
と言ってリサの母は青いロッカーの鍵を留実子に渡す。
 
「ありがとうございます」
と言って留実子はその鍵を受け取り、手を振って「殿」と書かれた暖簾をくぐり男湯の方に入って行った。
 
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「ねえ、あれ大丈夫?」
と蓮菜が千里に訊いた。
 
「うん。大丈夫。実は私とるみちゃんの2人でここの温泉には何度も来ているんだよ」
と千里が言うと
 
「あんたたち色々悪いことしてるようだな」
と蓮菜は呆れたような顔で言った。
 
それで結局、リサ母娘と千里・蓮菜・小春の5人で女湯に入る。千里が何の照れもなく「姫」と染め抜かれた暖簾を通るので蓮菜は千里のそばに寄って小声で訊いた。
 
「ね、千里白状しなさいよ。キャンプの時も先週の札幌でも、あんたやはり女湯に入ったでしょ?」
 
すると千里は微笑んで
 
「ひ・み・つ」
と答えた。
 

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千里はごく普通に服を脱いで他の子と一緒に浴室の方に行く。各々身体を洗って浴槽の中でまた集まる。
 
蓮菜はチラッと千里の“何もぶらさがっておらず割れ目ちゃんらしきものが見える股間”を見たものの、気にしないことにしたようである。しかし湯船の中では千里の胸にさわり
 
「これマジで胸が膨らんでくる前兆だと思うよ」
と小さい声で言う。
 
「女性ホルモン飲んでるの?」
と蓮菜は訊いたが、千里はそれには答えず
 
「蓮菜の乳首も立っているね。それに少し太くなりかけている」
と蓮菜の胸を見ながら言う。
 
「その遠慮無く女の子の胸を見るのが千里の凄い所だ」
と蓮菜は言った。
 
「普通の男装女子なら、照れや遠慮が出るけど、千里にはそれが無い」
などとも蓮菜は言っている。
 
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「るみちゃんは少し膨らみかけているんだよ」
と千里は少し難しい顔をして言った。
 
「それであの子、男湯入れるわけ?」
「必死で隠すと言っていた。むろんお股も隠す」
「危ないなあ。それ変な男の人と2人きりとかになった場合に襲われたりしたらものすごく危険」
「襲われるって?」
と千里は意味が分からないので尋ねる。
 
「うーん。何というか・・・」
と蓮菜は少し考えていたが
「でもるみちゃんの腕力なら、変なことしようとした男はぶん殴って倒すかも知れないな」
と自分を納得させるように言った。
 

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「でも私、留萌、好きだったよ」
とリサが言った。
 
「特に昔はたくさん漁船が出入りしていて、賑やかで。外人さんもたくさんいたのに」
などとリサは言っている。
 
「釧路は今でもたくさん漁船が活動していて、スケソウダラとか、イカとかもいっぱい獲れているから、リサが引っ越して来た直後くらいの留萌に雰囲気が似ているかも知れないね」
と小春が言った。
 
「それだといいなあ。私、日本語あまりうまくないし、言葉の通じる子がいるといいんだけど」
「リサ、本当はもっと日本語話せるでしょ?」
「日本語でもだいたい行けるけど、微妙なニュアンスが伝えにくい所もあるんだよ。それがフランス語の通じる、小春・千里・蓮菜にはディレクト(ダイレクト)に伝えられてこちらもストレスがたまらなくて済んでいた」
 
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1年ほど前、蓮菜がこのグループに参加した頃はまだ蓮菜はフランス語が分からなかった。しかし千里にも教えられてかなり覚えたので、今蓮菜は日常的な会話ならフランス語でもかなり話せる。同時期に参加した恵香は最初から諦めていたようでフランス語を全く覚えていない。
 
「リサ、向こうではミニバスか何かやるといいよ。スポーツやっていると言葉無しでお互い心が通じ合ったりするよ」
と千里は言った。
 
「ミニバスかぁ。それもいいなあ。私たちあのバスケットゴールで随分遊んだね」
「うん。今はベルちゃんたちがいちばんハマっている感じだけどね」
 

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9月30日(土)の夕方、リサの一家は旅立って行った。
 
千里は出発前、リサとハグしあい、涙を流して別れを惜しんだ。
 

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少女たちのドミノ遊び(11)

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