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4年1組でそのデザインを考えていた時、佳美が唐突に
「そういえば校長先生がドミノ倒し手術をしたんだって」
と言うので、千里は「ん?」と思ったのだが、医学関係に詳しい蓮菜が修正する。
「ドミノ倒しじゃなくて、ドミノ移植手術だよ」
「それどういうの?」
「校長先生は腎臓が悪いから、ドナーの人から腎臓の一部をもらったんだけど、その校長先生の腎臓を、もっと腎臓が悪い人に移植したんだよ」
「悪い腎臓を移植していいわけ?」
「もう腎臓が機能してなくて、人工透析しなければ即死んでしまうような人だと少々質の悪い腎臓でも、充分役に立つから」
と蓮菜は説明する。
「新しいサッカーシューズ買ってもらった子が今まで履いてたサッカーシューズをサッカーシューズ持ってない子に譲るような話?」
と留実子が言う。
「そうそう!まさにそういう話なんだよ」
と蓮菜。
「なるほどー!それなら分かる」
と佳美も納得した。
「でもなんでそれドミノって言うの?」
と穂花が質問する。
「ドミノ倒しではひとつの牌が倒れることで隣の牌が倒れるけど、その牌がまたその隣の牌を倒すでしょ? だから連鎖的に次の人へと送っていく様子がドミノ倒しに似てるんで、ドミノ移植と言うのよ」
と蓮菜。
「なんだ。結局、ドミノ倒しなのか」
と佳美が言う。
しかしその話を千里の隣の席で聞いていた小春が「はっ」という顔をした。
その日の深夜、小春は千里を神社に連れ出して、大神様の前に連れてきた。
小春は昼間千里たちのクラスにいた時は小学生の姿だったのに、今は25-26歳くらいの姿になっている。小春ってなんでこんなに見た目の年齢がコロコロ変わるんだろう?と千里は時々不思議に思っていた。
「一体こんな時間に何の話をするのじゃ?」
と大神様は少々不機嫌である。
「ちょっとしたドミノをやって4人を助けようという計画なんです」
と小春は説明した。
「4人?」
と大神様はいぶかる。
「千里はこういう話は冷静に聞けると思うから言っちゃうね」
「はい?」
「とりあえず千里、あんたはあと2年半で死ぬ」
と小春が言うと
「え〜〜〜!?」
と千里が言って絶句する。
「それからあんたの母ちゃんはあと半年くらいで、父ちゃんは1年くらいで死ぬ」
「うっそー!?」
大神様の機嫌が悪化している。寿命などというものを安易に人間に告げるのはよくないことである。
「その3人の命を助けて、更に健康を害している宮司さんも回復させようというアイデアなんだよ」
と小春は言う。
「ほほぉ」
と大神様は初めて小春の話に興味を持ったようである。
「千里のお母ちゃんは明日入院するよね?」
「はい。二泊三日で入院して、明後日乳癌の手術です。でも心配要らないからと言われたのに」
「千里のお母ちゃんの治療方針を簡単に説明すると、乳癌のできている部位を手術で取った後、放射線の照射、そしてタスオミンという抗エストロゲン剤を投与する。この治療はたぶん半年くらい続く」
「放射線って危なくないの?」
と千里は訊く。
「実はそれが問題なのさ」
と小春は言う。
「放射線治療は乳癌が再発しないようにするためのものなんだけど、その照射で確実にお母ちゃんの体力は奪われるし、おっぱい以外の部分に負荷が掛かる。特に卵巣には負担が掛かる。更に抗エストロゲン剤を入れることで更に卵巣に負荷が掛かる。その結果、お母ちゃんは半年後に今度は卵巣癌ができてしまうんだよ。ところが医者はこれを見落とす。それであんたのお母ちゃんは亡くなることになる」
その説明を千里はじっと聞いていた。そして小春に訊いた。
「それでどうするの?」
「泣かないね」
と大神様が感心したように言う。
「泣いてる場合じゃないみたいだから。小春の計画に私は乗るよ。私も何かしないといけないんだよね?」
と千里は言った。
「実はそうなんだよ。放射線治療と抗エストロゲン剤で卵巣がダメージ受けるわけだから、あらかじめお母ちゃんの卵巣を身体から外しておこうという魂胆なんだよね。そして半年後に乳癌の治療が終わった所で戻す」
「その間、どこに保管しておくの?」
「それを千里、あんたの体内に保管しちゃおうと思っている訳」
「保管できる?」
と千里は冷静に訊く。
「卵巣とか睾丸って、あまり拒絶反応を起こさないんだよ。他の臓器と違って。だから保存できる」
「へー!」
「ただ千里は男の子だから、男の子の身体に卵巣を移植すると、睾丸と作用が対立して、どちらもパワーダウンする。だから、千里の睾丸は取っちゃう」
と小春は言う。
「取ってもいいよ」
と千里は言う。
「但し半年間だけね。半年したら戻す」
「じゃ私の睾丸もどこかに保管しておくの?」
「うん。それを宮司さんの身体に放り込んでしまうというのでどうでしょう?」
と小春は大神様の方を見て言う。
「なかなか面白い。それは行けるかも知れない」
と大神様は小春の提案に興味を持ったようである。
「お父ちゃんはどうなるの?」
と千里が尋ねる。
「お父ちゃんが死ぬのは、お母ちゃんが死んで意気消沈するからなんだよ。だから、お母ちゃんが死ななかったらお父ちゃんも死なない」
「良かった!」
と喜ぶ千里を見て、大神様は複雑な思いを持った。確かに小春の提案を実行すれば、それで千里の両親は助かり、宮司も10歳の男の子の睾丸を移植すれば性的な能力が高まり、そこから精神的にも回復するだろう。しかし・・・
千里の寿命だけはどうにもならん。
そのことに千里は気付いていないようである。自分もこの子の寿命を延ばしてやりたい気持ちはあるが、故なくそのようなことをすることは許されない。
大神様はあることに気付いてこう言った。
「千里の睾丸って、実は機能していないということは?」
「あっ。そうかも」
と小春もその問題に気付いたようである。
「だったらこうしよう」
と大神様は言う。
「千里の睾丸を宮司に移植するのではなく、千里の父ちゃんに移植してしまう。あいつ少し乱暴すぎるから、睾丸の機能を落としたほうがまともになる」
「言えてる!」
と小春が言う。
「それで千里の父ちゃんの睾丸を宮司に移植する」
「ああ、それでいいですね」
「宮司さんのタマタマはどうするの?」
と千里は質問した。
「どうする?」
と大神様と小春は顔を見合わせる。
「どうせもう使い物にならないんでしょ?捨ててもいいのでは?」
「よし。宮司の睾丸は捨ててしまおう」
「でもそれ半年後はどうするの?」
と千里は再度質問する。
「逆に戻していけばいい」
と小春は言う。
「千里の体内に保管した卵巣をお母ちゃんに戻す。父ちゃんの体内に保管した睾丸を千里に戻す。宮司の体内に・・・・あ、しまった!」
と小春は自分のアイデアに欠陥があることに気付いてしまった。
「宮司さんの睾丸もどこかに保管します?」
と千里。
「いや。宮司の睾丸は外せない。宮司さんせっかく元気になっても元の睾丸になったら、また元気を無くす」
と小春。
「千里の父ちゃんの睾丸も戻さない方がいい気がするぞ。戻せばきっとまた暴力的になる」
と大神様。
「だったら、千里は睾丸無しにしちゃえばいいんですよ」
「なるほどー!」
「千里、あんた睾丸要る?」
「要らなーい。無い方がいい」
「だったら、半年後にするのは、千里の体内に保管した卵巣をお母ちゃんに戻すだけ。その後のドミノは放置」
と小春は言った。
「よし。そうしよう。今すぐ実行していいか?」
と大神様。
「はい!」
と千里と小春は言う。
「この結果、千里、お前はこれから半年ほど、睾丸が無くなり、卵巣が体内に入ることで、少し女性化すると思うが」
「女性化したいです」
「半年後にはその卵巣もお母ちゃんに戻すから、お前は睾丸も卵巣も無い状態になるが」
「構いません」
「この子にはその後も何らかの形で男性ホルモンか女性ホルモンのどちらかを摂取できるようにしてあげましょう」
と小春。
「うん。それはお前に任せる」
「男性ホルモンは嫌。できたら女性ホルモンにして」
と千里は言う。
「まあそのあたり詳しいことは後で」
と小春は言った。
「では実行する」
と大神様は言う。
「まず・・・・宮司の睾丸を・・・・廃棄した」
「ああ」
「どこに捨てたんですか?」
「宮司宅の生ゴミ入れに放り込んだが」
「うーん。まあいっか」
「どうせ気付かんよ」
「確かに」
「次に千里の父ちゃんの睾丸を・・・・宮司に移植した」
「これで宮司さん元気になるかな」
「明日の朝はたぶん10年ぶりくらいに朝立ちするだろう」
「朝立ちって何ですか?」
と千里が質問する。
「ああ、千里は朝立ちの経験は無いだろうな」
と小春が言う。
「まあ女の子は知らなくてもいいよ」
と大神様が言う。千里は首をひねっている。
「次に千里の睾丸を・・・父ちゃんに移植した」
「あ、無くなってる。嬉しい!」
と千里は喜ぶ。
千里はつい先日見た「夢」の中で、自分のご先祖っぽい4人のお婆ちゃんたちに男性器を切除されたことを思い出していた。あの夢を見た後、触ってみたら無くなってはいなかった。しかし「存在感」が薄らいだような気はしていた。
「最後に母ちゃんの卵巣を・・・・今千里の体内に入れた」
千里がうずくまる。
「どうした?」
と大神様が声を掛ける。
「なんか凄く変な気分」
と千里。
「まあ女性ホルモンが急激に体内に入ったから、生理が来たようなもんだね」
と大神様。
「その状態に慣れるまで数日は気分が悪いよ」
と小春。
「分かりました。我慢します」
と千里は言うが、きつい〜と思った。
「この後、だいたい毎月1回、こんな感じで気分が悪くなるから」
「それが生理ってやつですか?」
「生理のこと知ってる?」
「あまり詳しくは知らないです」
「だったら小春、よくよく教えてやれ」
「そうだね。女の子にはとっても大切なことだからね」
と小春は優しく言った。
例によって、千里は朝、ふつうに布団の中で目覚めた。小春と大神様と話した内容はまるで夢の中のできごとのようである。
千里はそっと自分のお股に手をやった。
そして物凄く嬉しくなった。頭痛と腹痛がするのは、今日は頑張って我慢しようと思った。でもバッファリンを薬箱から出して自分のポーチに入れておいた。
その日、千里や玲羅が学校に行っている間に母・津気子は入院した。旭川の美輪子叔母が学校を休んでサポートに来てくれていた。千里と玲羅は学校が終わってから母の入院した病院に行った。
「考えてみたら、姉ちゃん厄年だったもんね」
と美輪子が言う。
「そう。やはり厄年ってきくもんかなあと私も思ったよ」
と津気子も言う。
「厄年ってなぁに?」
「病気したり事故にあったりしやすいと昔から言われている年齢なんだよ。女は数えの19,33,37歳」
「へー」
「お母ちゃんは1967年生まれで今年は数えで34歳になるけど、厄年の前後も前厄・後厄といって要注意なんだよ」
「大変なんだね」
「去年は何事もなく過ぎたなあと思っていたんだけど今年来たね」
「厄年って、むしろ前厄や後厄で来ることも多いと言うよ」
「だね〜」