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■少女たちの代役作戦(12)

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廊下に出ていた男子たちは、千里が白雪姫の衣装を着ているのでびっくりする。
 
「村山が白雪姫なの?」
「他に誰もこの衣装が入らなかった」
「あぁ!」
「あの子、細いもんなあ」
 
それで劇が始まる。玖美子のお后が冬の窓辺で縫い物をしていたらうっかり針が指に刺さり、血が1滴、雪に落ちる。それでお后は言う。
 
「この雪のように白く、この血のように赤い子供が欲しい」
 
やがて生まれた女の子は雪のように白い肌と血のように赤い唇の持ち主であったことがナレーターの穂花によって語られる。ここで玖美子は赤ん坊の人形(蓮菜が自宅にあったポポちゃんを持って来たもの)を抱いてあやしている場面となる。
 
お后はしばしば鏡に向かって誰がいちばん美しいかと何度も訊く。
 
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その答えは「お妃様です」だったのが、ある日「白雪姫です」と答えが変わる。お后は猟師に白雪姫の殺害を命じる。
 
ここで白いドレスを着て赤い口紅を塗った千里の白雪姫の登場である。
 
会場にざわめきが起きたのを千里は感じた。昨日の予行練習の時に優美絵が演じていたから、それを期待していた人たちが騒いでるのかなあとは思ったものの、ここは開き直るしかない。優美絵はファンが多い。
 
田代君が演じる猟師は、千里演じる白雪姫を、散歩しましょうなどと言って誘い出し、森の中に連れていく。しかし殺害することができず、逃がしてやる。そしてそこに通りかかった鞠古君演じる鹿を仕留める。
 
この撃たれた時の鞠古君の断末魔の演技が熱演で、なぜか会場の笑いを取っていた。田代君の猟師は鹿の心臓を持ち帰り、お后に渡した。
 
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白雪姫は森の中で小さな小屋を見つけ、そこにあったベッドに疲れもあって寝てしまう(ベッドは実際には机を並べてシーツを掛けたものである)。帰って来た7人の小人は驚くが、白雪姫を親切にもてなしてやった。
 
一方鏡に質問して、白雪姫が生きていることを知ったお后は、おばあさんのリンゴ売りに化けて森の小屋にやってくる。自分の母親とは気づかずにりんごを一口食べて倒れる白雪姫。
 
そして城に帰ったお后は鏡に尋ねて「あなたがいちばん美しい」と言われ満足する。
 
王様がやってきて
「白雪姫を知らないか?見当たらないのだが」
と言う。
 
「あの子は森の中で毒リンゴを食べて死にましたよ」
とお后が言う。
 
「まさか、お前が殺したのか?」
「だったらどうなさるの?」
「なんてことをしたんだ?」
と言って怒って剣を抜いた王様をお后は自分も剣を抜いて返り討ちにしてしまう。
 
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王様の死に驚く大臣たちにお后は告げた。
 
「今日からは私がこの国の女王だから」
 

一方仕事に出かけていて戻って来た小人たちは倒れている白雪姫を発見。嘆き悲しむ。ところがそこにやってきたのが留実子の王子様である。留実子が
 
「なんて美しい姫なのだ」
と言ってキスする。
 
ここで本来はキスは寸止めの予定であった。
 
ところが!!
 
ここで留実子は足を滑らせてしまったのである。
 
「わっ」
と声をあげて、お棺(段ボール製)に突っ込む。
 
お棺がぐちゃっと潰れる。
 
そして留実子はまともに千里とキスしてしまった。
 
「わっ」
と言って千里も起き上がる。
 
ハプニングではあったが、小人その1の蓮菜が
 
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「あ、白雪姫が生き返った!」
と予定通りの台詞を言って、「事故」問題はスルーする。
 

そこに田代君の猟師もやってきて、お后が白雪姫を殺そうとしたことを告げ、王様も殺されたことを話す。
 
「だったらお后を倒そう」
と白雪姫は言い、王子と猟師、それに7人の小人を連れて城に赴く。お后は死んだと思っていた白雪姫が生きていて、城に攻めてきたので驚く。自ら剣を持って白雪姫の前に立つ。
 
「しぶとい奴め、今度こそは間違いなくあの世に送ってやる」
と言う。白雪姫も
「私は負けない。父の敵(かたき)」
 
と言って剣を取り戦う。
 
お后役の玖美子と白雪姫役の千里が剣を交えて戦う。この剣は鞠古君が工作して作ってくれた木製のもので、わりと重量があり、プラスチックなどとは違って立ち回りしやすい。
 
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この戦いがなかなかの迫力で会場がどよめいた。玖美子と千里は剣道部でいつも練習している相手同士である。それでこれが半ば剣道の試合のような感じになり、玖美子は「スイッチ」が入ってしまう。かなりマジになる。本来は少し戦って白雪姫が勝つシナリオなのだが、玖美子が頑張るのである。それで千里も「スイッチ」が入ってマジになった。
 
もうお后対白雪姫ではなく、玖美子対千里の剣道の試合になってしまう。
 
ここで結構な立ち回りをしていた時、千里はビリッという音を聞いた。元々ギリギリで衣装を着ていたので、激しい動きに背中が裂けてしまったのである。
 
ひぇーっと思った時、玖美子が「隙あり!」と叫んで面を取りに来る。千里はすんでで身をかわし、かわし際に鮮やかに胴を取った。
 
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なんか今のマジで面を取られる所だったぞ!?と千里は思う。しかし玖美子は、かろうじて自分の役割を思い出したようで
 
「やられた!」
と声をあげて倒れた。
 
「白雪姫。お后は倒れた。後は姫が私と一緒にこの国を治めよう」
と留実子の王子が言い
 
「ええ。私がこの国の新しい女王になります」
と千里が言ったところで幕となった。
 

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最後に出演者が全員勢揃いしてお辞儀をして4年1組の公演を終了する。
 
最後の展開は我妻先生が書いた台本であるが、当時としては新鮮味があって、けっこう受けたようであった。拍手も大きかった。
 
「何かビリッて言わなかった?」
「破れた気がする」
「あ、背中が裂けてる」
「けっこうギリギリだったからなあ」
「千里、下着が見えてる」
「きゃー」
「私が後ろに立ってあげるよ」
 

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それで恵香にガードしてもらって教室まで行き、着替えた。脱ぐ時に衣装は完全に崩壊してしまう。上下に分裂してしまい、ドレスの上を脱ぐのに一緒にシャツまで脱げてしまうし、下を脱ごうとしたらパンティまでずれた。
 
「ん!?」
 
千里は慌ててパンティを上まであげる。
 
「見ちゃった」
と数人の子が言う。
 
「千里、やはりおちんちん無いのね」
「隠してただけ」
「隠せるもん?」
「お股にはさんで隠すんだよ」
「ほんとに隠してるだけ?」
「実は付いてないのでは?」
「千里、やはり手術して取っちゃったの?」
「小学2年生の夏休みに東京の大学病院で手術して取ったという噂を聞いた」
 
どこからそんな噂が!?
 

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「付いてるよぉ」
「でも睾丸は取ってるよね?」
「えーっと」
「あ、タマタマだけ取って、おちんちんは中学に入るまでに取るんだっけ?」
「それで女性ホルモンの注射を毎月してるんでしょ?」
 
なんか話が勝手に進展してるし!
 
「あれって、あまり小さい内に手術すると形が崩れてくるから、中学生になってから手術した方がいいんだって」
「あ、私も聞いた。私の従姉の友達のお兄さんの同級生が小学生の内にタマタマを取って、高校生になってから、おちんちん取って女の子の形にしたらしいよ」
「へー」
「じゃ、千里もそういう状態?」
 
「え、えっと・・・」
千里はどう言ったらいいのか困ってしまった。
 
「でもタマタマが無いなら、少なくとも男の子じゃないよね」
「だったら、千里、今度から体育の時間も私たちと一緒に着替えようよ」
 
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「そうだなあ、それでもいいかな」
と千里は結構その気になった。
 

そのあと。他のクラスの劇を見ている内に蓮菜が「トイレに行こう」と言って千里や恵香を誘う。千里はこの日は彼女たちと一緒に女子トイレに入った。
 
「やはり千里がここにいても何も不自然じゃないね」
「むしろ千里が男子トイレに入っていたら、今日みたいな日は保護者のお父さんとかから『女の子が男子トイレに入ってはいけない』って注意されると思う」
「うーん・・・」
 
それで出て歩いていたら、廊下で千里の母と遭遇する。蓮菜や恵香は母を知っているので会釈する。
 
「蓮菜ちゃん、恵香ちゃん、こんにちは」
と母も挨拶を返すが、千里を見て
 
「あんたが白雪姫というので心臓が止まるかと思った」
などと言う。
 
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「白雪姫役の優美絵ちゃんが直前に腹痛起こして病院に運ばれたんだよ。ほかに白雪姫のセリフ入っている子いなくて」
と千里が言うと
 
「優美絵ちゃんの衣装が入るのも千里ちゃんだけだったんですよ」
と蓮菜が言う。
 
「あの子、細いもんね!」
と千里の母もなんだか納得している。
 

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ちょうどそこに我妻先生が来た。
 
「村山さんのお母さん、こんにちは」
「先生、こんにちは」
と挨拶をかわす。
 
「先生、優美絵ちゃん、どうでした?」
「単純な腹痛だって」
「食中毒とかじゃなかったんですか?」
「念のため検査したけど、その手の毒素は無いらしい」
「あらら」
「もしかしたら神経性の胃炎かもと先生は言っていた」
 
「じゃ精神的なもの?」
「そうみたい」
「たぶん本番前の緊張からお腹が痛くなったんじゃないかな」
と蓮菜が言う。
「あり得るかもね」
と我妻先生。
 
「あの子、身体だけじゃなくて、神経も細いからなあ」
と恵香。
「まあ私は、身体は細くても、神経は図太いから」
と千里。
「自分で言っていたら世話無いね」
と蓮菜が言っていた。
 
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ちょうどそこに、合唱サークルの馬原先生も来た。
 
「あ、琴尾さん、これこないだの旭川での地区大会の時の写真、4年1組の参加者の分、4枚渡しておくね」
と言って光沢紙にプリントした写真を蓮菜に渡す。おそらく学校のカラープリンタで印刷したものだろう。
 
「はい、ありがとうございます。配りますね」
 
それで蓮菜は取り敢えず恵香と千里に1枚ずつ渡す。
 
「あと1枚、佐奈恵の分はあとで渡そう」
 
千里の母はなにげなく、その写真をのぞき込んで、千里が可愛いチュニックとスカートの衣装を着て並んでいるのを見、「うっ」と小さな声をあげた。
 
 
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