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「それで好きだからセックスしたくなるのもあるだろうし、凄く気持ちいいから、気持ちよくなりたくて、セックスしたくなるのもあるんじゃない?」
「なるほどー」
「ね、それオナニーとどちらが気持ちいいの?」
と留実子が訊く。
「オナニーって?」
と恵香が訊く。
「みんな経験無い?あのあたりいじってたら気持ちよくなるじゃん」
「それオナニーって言うの?」
「そうそう。あのいじると気持ちいい部分をクリトリスというんだよ」
と留実子。
「あれって男の子のおちんちんと同じものだよね?」
と蓮菜が言う。
「そうそう。クリトリスは小さなおちんちんだよ。男の子がおちんちんいじってるの知ってるでしょ?」
「教室でいじってる子いるよね?」
「いるいる。何してんだろ?と思ってた」
「なんか机の下で短パンの裾から出していじってる子いる」
「そのあたりは意見が別れているみたいでさ」
と蓮菜は言う。
「セックスの方が気持ちいいという人と、オナニーの方が気持ちいいと言う人とあるみたい」
「人によるのかもね」
「相性にもよる気がする。相性のいい人とのセックスはたぶんオナニーより気持ちいいんじゃないかな」
「なるほどー」
「でもその相性ってどうやったら分かるの?」
「たくさんの子とセックスしてみれば分かるかも」
「そんなにたくさんの子とセックスしたくない気がする」
「まあ運次第かもね」
「うむむむ・・・」
「でも千里はそのオナニーってしてないの?」
と恵香が訊く。
「オナニーってことばは知らなかったけど、あの付近をついいじっちゃったことは何度かあるよ」
と千里は正直に答える。
「どういう感じでするの?ちょっとやってみせてよ」
「そんなの人に見せるもんじゃないよ!(たぶん)」
「じゃ、実物に触らなくてもいいから、手の形だけ」
「うーんと、こんな感じでしてるけど」
と言って千里が左手の中指を立てて小さな渦を作るように指先を回転させると
「つかむんじゃないの〜?」
と恵香が訊く。
「つかむって?」
と千里が本当に分からないので逆に恵香に訊くと
「やはり千里には、つかむようなものが存在しないこと確定だな」
と蓮菜が言った。
この日は結局、みんなトランプは中断して「性のこと」について話した。恵香は千里を「解剖」したくてたまらない雰囲気だったが、蓮菜が自制するように言っていた。
性の問題については、蓮菜がいちばん詳しかったのだが、留実子も多少の知識を持っていて、補いあうように話が進んだ。恵香と千里は主として聞き役である。
話はかなり盛り上がっていたのだが、やがて11時頃になって我妻先生が回ってきて
「あんたたち、まだ起きてるの?そろそろ寝なさい」
と注意したので
「はい、おやすみなさーい」
と言ってそれで寝ることにした。
しかし千里は今日の話で何だか興奮してしまい、寝付けない感じだった。
それは他の子も同様のようで、明かりを消したまま小声で会話が途切れ途切れに続く。
「でもふと思ったけど」
と恵香が言った。
「キャンプファイヤーの最初の方で千里がいない気がしたから、どこかに行ってるのかと思ってたけど、ロマンスの話聞いてたということはちゃんと最初から居たのね」
「うん。2組の子とかと話してたから」
「ああ、なるほどねー」
深夜。
『千里。ちょっと起きて』
と言われて千里は目を覚ます。
『カオルちゃんがトラを見たと言ってたでしょ?』
『うん』
『どうも気になってさ。ちょっと退治に行かない?』
『どうやって退治するの?』
『千里、天子さんからサルの根付けもらったろ?』
『うん』
『あれを使わせてもらう。かなり疲労してたけど晃子さんがリフレッシュしてくれたから充分使えるようになってる』
『へー』
それで千里はこっそりとロッジを抜け出した。
『夜中だから千里には分かるだろ?』
『確かに何かいるね』
『放っとくと、他のキャンプ客がまた襲われるかも知れないけど、こういう輩を退治できる人は少ないから』
『それを私が退治するの〜?』
『千里にはできるさ』
それで千里はその「波紋」を感じる方角に向かって歩いて行く。歩いて行くにつれ存在感はどんどん強くなっていく。
『いた』
『私には見えない。でも何かいるのは分かる』
『大きなトラだよ。体長3mくらいかな』
『きゃー』
『恐れずに。向こうはもうこちらを認識した。怖がったらやられるよ』
『今こちらに近づいて来てるよね?』
『鍵に付けてる日吉さんの根付けを握って』
『うん』
それで千里はポケットの中に右手を入れ、鍵に取り付けているサルの根付けをしっかりと握った。
何か咆哮のようなものがした気がした。千里の身体から光の塊のような物が飛び出し「何か」にぶつかった。
静寂が訪れる。
その存在感はとても小さくなった。
『OK。お疲れ様』
『何か疲れた。私何もしてないのに。やっつけたの?』
『千里のエネルギーを借りたんだよ。千里って物凄いバッテリーだから。トラは消滅させるつもりだったんだけど、わずかに残った。かなり丈夫な虎だね。でもこれなら人に害を与えたりはしないだろう』
『ふーん』
『さあ、帰ろう』
『うん。でも私、トイレ行きたくなった』
『ついでに管理棟に寄ってトイレしてくるといい』
『そうする。でもどうやってやっつけたの?』
『おサルさんの力を借りた。《虎の威を借る狐》と言うけど、今夜は《猿の威を借りて虎退治した狐》かな』
『ふーん』
『トラはサルに弱いんだよ。天敵だよ』
『そんな話は初めて聞いた』
『トラは十二支では陽木になる。サルは陽金。金剋木でサルの方がトラより強いんだ』
『意味分かんない』
『木火土金水というのが五行。これに陰陽がある。木は寅と卯、火は巳と午、金は申と酉、水は亥と子。土は残りの丑・辰・未・戌。陽は子寅辰午申戌、陰は丑卯巳未酉亥。木生火・火生土・土生金・金生水・水生木、木剋土、土剋水、水剋火、火剋金、金剋木』
『話が難しいよお』
『千里少し占いの勉強しなさいよ』
『占いって当たるの?』
『占う人による』
『ふーん』
翌朝の朝ご飯は、男子が頑張ってみようということで、男子が中心になって作った。留実子は
「お前も男子の一種だよな。手伝ってくれない?」
などと言われて出ていったものの
「お前へただな!」
と言われていた。
「お前、これでは嫁行けないぞ」
「うん。僕はお嫁さんもらうからいい」
などと他の男子と言葉を交わしていたらしい。
「でもこれってキャンプというより調理実習だ」
「野外で生き延びるのに食事を作るのは基本中の基本」
それでも何とか作り終え、昨晩は1組女子が配膳したので朝は2組女子が配膳をした。後片付けを1組女子がすることになる。
それで8時頃、朝ご飯を食べ、片付けた後、昨日は行かなかった双子沼の方に行くことになる。
「歩くんですか〜?」
「あんたたち若いだろ。頑張れ」
と桜井先生に言われて、荷物は置いたまま遊歩道を歩いていく。昨日はここに行った帰りにカオル君は迷子になったんだったなと千里は考えながら歩いていた。
黒銅山がきれいに見えている。その山の姿が左右に並ぶ各々の沼に映って美しい情景である。
「ああ、カメラが欲しい」
などと言っている子もいたが、桜井先生や近藤先生が自分のカメラでその山が湖面に映った様子なども撮影していた。
ボートがあるので、乗りたい人は乗ってもいいよということだったが、男子がけっこう乗りに行っていたようである。留実子も男子の友人数人と一緒に乗りに行っていたが、千里たち女子の大半は草むらに腰をおろして、おしゃべりに花を咲かせていた。
「でも晴れて良かったね〜」
と玖美子が言うと
「うん。私たちが下山する頃までは持つんじゃないかな。夕方くらいから雨になるみたい」
と千里は言う。
「天気予報でも見た?」
「ううん。今私、夕方から雨になるって言ったね」
「言った」
「なぜそう思ったんだろう?」
「自分で分からないの〜?」
「ああ、千里のこの手の発言はほぼ当たる」
と隣にいる蓮菜が言う。
「どこかからそういうイメージが降りてくるんでしょ?」
「そうそう。そういう感覚」
「そして自分では言ったこと忘れちゃうよね」
「あ、そうみたい。よく指摘される」
「千里って霊感人間?」
「霊感ってこないだから聞くけどよく分からない」
「うーん。。。」
「千里はたぶん無自覚霊感人間」
と蓮菜は言った。
「それって多分霊媒タイプじゃないのかな」
と近くにいた桜井先生が言った。
「れいばい?」
「霊が千里ちゃんとこに降りてきて勝手にしゃべる。だから千里ちゃん自体は何も覚えてなかったりする」
「ほほぉ」
「狐憑きみたいなの?」
と質問が出るが
「ああ、狐に憑かれることはあるけど、すぐ出て行くみたいよ」
と千里は言う。
「なんか凄い発言だ」
「千里ちゃんは多分レベルが高すぎて、そんじょそこらの狐レベルでは居座れないんだと思う。千里ちゃんはむしろイタコなんかに近いんじゃないかな」
と桜井先生。
「そういえば私のひいおばあさんがイタコしてたらしいです」
「なるほどー」
「親戚で占い師をしている女性もいるらしいし」
「ほほお」
「でもうちの家系で、その手の感覚の強い人って女性だけに出るらしいから、私は多分、その霊感ってのは無いんじゃないかなぁ」
と千里が言うと
「うーん・・・」
と言って腕組みをして考える子が数人いた。