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■少女たちの代役作戦(2)

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その日はお通夜が行われた後、旭川市内のホテルに泊まる。弾児さんの家は2DKのアパートで、そこに弾児と奥さん、2人の息子、祖父母の6人が生活していた。元々祖父母が暮らしていたアパートに弾児一家が「取り敢えず」と言って同居して、そのままになっているらしい。子供がまだ小さいから何とかなっていたのだろうが、驚異的な人口密度である。とてもそこにこちらの一家までは宿泊はできない。
 
こちらは食事は葬儀場で仕出しを食べているので、もうお風呂に入って寝ようということになる。このホテルはお風呂は大浴場に行く方式なので、母は玲羅を連れてお風呂に行った。父はまだ少し飲み足りないなどと言って葬儀場で用意していたビールを数本持って来ており、それを飲んでいたので千里はひとりで大浴場に行った。
 
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そして例によって男湯と女湯の暖簾が並んでいる所まで来て悩む。
 
うーん。。。。
 
悩んだ末、意を決して男湯の方に入ろうとしたら、ちょうどそこから出てきた男性が「わっ」と声を上げる。
 
「君、こちらは男湯! 女湯は向こう!」
「済みません!」
 
それで千里は反射的に女湯の暖簾に飛び込んでしまった。
 

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「まあいいよね」
 
と言い訳するように自分に向かって言って、そのまま女湯の脱衣場で空いているロッカーを見つけて服を脱ぎ、中にしまう。愛用のキタキツネの髪留めも外して中に置いた。人が多い時間帯のようで、服を今脱いでいる女性、あがってきて身体を拭いている女性、服を着て少し涼んでいる女性などが居た。
 
概して若い女性が多い。ここ安ホテルみたいだから、たぶんあまりお金の無い若い旅行者とかが多いのかなと千里は思って見ていた。聞こえてくる会話も、大阪や九州っぽいことばが多く、北海道の言葉とはイントネーションが違う。
 
ロッカーを閉めて鍵を手首につけ、タオルを持ち「母や玲羅に会いませんように」と祈りながら浴室に入った。
 
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玲羅たちの「波紋」を感じながら、そこから遠い場所で洗い場の空いている所を見つけて座り、身体を洗って髪も洗う。この時期の千里の髪は肩につくかどうかくらいの長さである。しっかりコンディショナーまで掛けてからそれを洗い流した時、目の端に母と玲羅が浴室から脱衣場に出るのを見た。ラッキー〜★ これで心配しなくて済む。
 

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それで千里はのんびりと浴槽につかり、ふっと息をついた。母と玲羅が脱衣場でジュースとか飲んで時間を取ったりしている可能性もあるから、こちらも少し時間を掛けてからあがった方がいい。
 
千里は湯船の中で手足の筋肉をもみほぐしていた。
 
その時
「あら?」
と言って千里を見て、声を掛ける人があった。反射的に会釈する。50歳前後の女性がふたり並んでいる。えっと、これは確か・・・祖父の兄・啓次さんの息子の奥さんの克子さんと、もうひとりは祖父の姉サクラさんの息子・礼蔵さんの奥さんで竜子さんだったかな?と記憶をたどる。
 
「こんばんわ、克子おばさん、竜子おばさん」
「やはり千里ちゃんね。でもよく私たちの名前覚えてたね」
「私、人の名前覚えるのわりと得意です」
「すごーい」
 
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「母と玲羅は先にあがってしまいました。私はゆっくり入っとこうと思って、まだ湯船につかっていたんですよ」
 
もうこうなれば開き直るしかない。
 
「そうそう。今、津気子ちゃんたちともおしゃべりしていた所なのよ。でも千里ちゃんって女の子よね?」
 
「まあ男の子なら女湯には居ませんよね」
「だよね〜。お通夜の会場で見かけた時に女の子と思っていたのに、さっき津気子ちゃんと話していた時に息子とか言うから、あれ?男の子だっけと思っていたところで」
「母はよく冗談で私のこと息子とか言うんですよ」
「それはひどい」
と言って克子さんは笑っている。
 
「克子おばさんはお住まいは長万部(おしゃまんべ)でしたっけ?」
「うん。私自身は十四春さんとは直接あまり交流が無かったんだけど、うちのお義父さんは、もうぼけてしまっていて、とても連れてこれないから私たち夫婦が代わりに来たのよ」
 
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「ある程度離れて住んでいると、こういう時くらいしか会う機会が無いですよね〜。竜子おばさんは江別市でしたっけ?」
「うん。よく覚えてるね〜」
と言って竜子さんは感心している。
 

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「あ、今気づいた。あんた凄い霊感がある」
と竜子さんが言う。
 
「霊感って何ですか?」
と千里は訊いた。そういえば昼間にも天子おばあちゃんから言われたよなあ。
 
「うーん。無自覚なのかなあ。千里ちゃん目をつぶって」
「はい」
 
それで千里が目をつぶる。
 
「あっと。念のため後ろ向いて」
「はい」
 
それで千里は後ろを向く。
 
「今私何本指を立てている?」
「右手は3本、左手は1本です」
と千里は即答する。
 
「うっそー」
と克子さんが驚いている。
 
「あんた透視能力がある。ひいばあさん譲りだね」
「とうし?」
 
「あんたのひいばあさんのウメさん、十四春さんやうちの姑サクラさんたちのお母さんが元イタコだったからね」
「へー」
 
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十四春の兄弟は、上から望郎・サクラ・啓次・庄造・十四春で、竜子さんはサクラの息子の奥さん、克子は啓次の息子の奥さんである。望郎とサクラは既に亡い。竜子さんと克子さんは同い年で、それもあって意気投合してしまったらしい。
 
「ウメさんはイタコだから目が見えないんだけど、目明きさんと変わらない動きだったらしいよ。サクラさんが小さい頃、悪戯とかしてると、即叱られてたらしいし」
 
「なるほどー」
「目が見えないから運転免許は取れないんだけど、実は運転ができてしばしばダットサン11型を乗り回していたと言うし」
 
「それ本当に目が見えなかったんですか〜?」
と千里は訊いた。
 
「ほとんど見えているに等しかったから医者に診せられたこともあるらしいけど、これで見えるはずがないというお医者さんの診断だったらしいよ」
と竜子さん。
 
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「何か面白そうな人ですね」
 
「実際本人も見える訳じゃなくて分かるんだと言っていたらしい」
「あ、私がさっき竜子さんの指の本数が分かったのもそんな感じです」
と千里は言う。
 
竜子さんが頷いている。
 
「でも村山の家系は、目の弱い人も多いみたいね」
と克子さんが言う。
 
「そうそう。ただ、目の弱い人も、霊感の強い人も、女だけに出るみたい。そういう遺伝なのかも知れないけどね」
「へー」
 
「天子さんが50代で失明してしまったし」
「しつめいって?」
「目が見えなくなることよ」
「天子おばあちゃん、目が見えないんですか?」
「うん」
 
「私、昼間天子おばあちゃんと話したけど、全然そんな感じしなかった」
「あの人も霊感が強いから。ひとりで買物とか行っちゃうらしいし。目が見えないなんて、気づかない人多いね」
「へー」
「もっともお店では買い物メモ店員さんに渡して品物選んでもらって、財布渡して代金取ってと言うらしい」
「なるほどー」
「自販機でジュースとか買いたいなと思ったら、通りがかりの親切そうな人を呼び止めて、私目が見えないので、代わりに○○のボタン押してくださいとか頼むんだって」
「そういう人なら、親切な人とだまそうとする人の区別もつくでしょうね」
「だと思う」
 
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「あれ?でも天子さんはお嫁さんだから、元々の村山の家系ではないのでは?」
「天子さんはウメさんの姪なんだよ。だから十四春さんとは従兄妹同士の結婚」
「そうだったんだ!」
 
「サクラさんもずっと弱視だったんでしょ?」
と克子さんが言う。
 
「うん。かすかに見えていたみたい。でも外出にはサングラスが必須だったよ」
と竜子さん。
 
「サクラさんのお姉さんも生まれながら目が見えなかったらしいし」
と竜子さんは付け加えた。
 
「あれ?サクラさん、長女じゃなかったんだっけ?」
と克子さんが訊く。
 
「戸籍上は長女なんだよ。でも実際は次女で、その上にひとりいたらしい。でもその人のことは誰も知らないんだよね〜」
 
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「その話は初めて聞いた。まあ昔は子供が成長して2〜3歳まで生きていたら、そろそろ出生届出すか、みたいな習慣だったみたいだしね」
と克子さん。
 
「そうそう。だからその人はどうなったのか誰も知らない」
と竜子さんは言った。
 

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「千里ちゃんは中学生くらいだっけ?」
と克子さんが話題を変えるように言った。
 
「まだ小学4年生です」
 
「ほんと?何かしっかりした感じだから」
「中学生なら、もう少しおっぱいがあります」
「そうよね! 胸無いなと思ってたところ」
「中学生でこんなに胸が無かったらきっと男ですよ」
「中学生男子が女湯に入ってたら、通報されて警察につかまってるね」
 
「ですねー。でも最近、けっこう乳首が立ってる感覚があるから、そろそろ膨らんで来るのかなあとは思っているんですけどね」
「うんうん。これから少しずつ女の身体になっていく所ね」
と克子さんが優しく言った。
 
「今はまだ中性かな。こないだ冗談で男子用の水泳パンツ穿いて水泳の授業に出ようとしたら『だめ〜!』と言われてスクール水着着せられました」
「そりゃいくら胸が無いからといってムチャだよ!」
と竜子さんが呆れたように言った。
 
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結局、克子さんたちとは10分近くおしゃべりしてから
「そろそろあがろうか」
と言って、一緒にあがった。脱衣場で身体を拭いて服を着ようとしていたら
 
「これあげる」
と言ってカツゲンをおごってくれたので
「ありがとうございます」
と言って、もらって飲んだ。
 

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翌日。ホテルで朝食を取ってからチェックアウトする。葬儀場に向かう。車の中で、父が母に訊いていた。
 
「献花は誰がするんだっけ?」
「女の子ふたりだからね。千里が女の子だったら、玲羅とふたりでドレス着せてさせたい所だけど」
「気色悪いこと言うな」
「男じゃ仕方ないから、うちの玲羅ともうひとりは、庄造さんの曾孫のえっと・・・みどりちゃんだったかな、そんな名前の子がしてくれることになった」
と母は答えた。
 
どうも母もあまり付き合いの無い親戚の名前は不確かなようだ。千里はケンカって何だろう?とっくみあいのケンカするんじゃないよね?などと思いながらその話を聞き流していた。
 

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葬儀場に着くと、玲羅はそのケンカというのの衣装を着せるからと言って母が連れていき、父は男性控室に行くと
「おお、兄貴、もう始めてるぞ」
という弾児さんの声に応じて、またまた酒盛りを始める。竜子さんの旦那さんの礼蔵さん、望郎さんの娘の夫・康夫さんも一緒だ。
 
千里は酔っ払い連中に絡まれてはたまらん、とそこから出てロビーで参列客が入ってくるのを見ていた。
 
するとそこに昨日千里に女子トイレの中で声を掛けた加藤さんが来る。
 
「あ、ちさとちゃん。衣装来ているから、こちらで着替えて」
と声を掛けたので
「はい」
と言って、一緒に近くの事務室に入った。
 
「サイズ測っているから合うと思うけど」
と言われて、ドレスを着せられる。この時、千里は自分がドレスを着せられていることに何の疑問も持っていない!
 
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「うん。ぴったりね」
と加藤さんは笑顔である。
 

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