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■少女たちの入れ替わり大作戦(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2016-05-14
 
千里の母は千里と玲羅に鍵を1個ずつ渡して言った。
 
「お母ちゃん、昼間仕事に出ることにしたからさ。帰りが夕方5時すぎになると思うから、お前たち学校から帰ってきたら自分で鍵を開けて家に入っていてくれない?」
 
「うん。いいよ。何のお仕事するの?」
「水産加工のお仕事なんだよ。魚とかの缶詰を作るの」
 
「お母ちゃん、お金足りないの? 私のお小遣い減らしていいよ」
と千里は言ったが
「お前たちのお小遣いくらいは大丈夫だから心配しなくていいよ。ずっと働きたいと思ってたんだけど、玲羅が小さい内はと思ってたんだよ。玲羅も4月からもう小学2年になるし大丈夫かなと思って」
 
「うん。私、ゲームしてるから大丈夫」
と玲羅は言う。
 
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「何か適当なキーホルダー付けてあげようかとも思ったんだけど、各自好みのを買って付けた方がいいかなと思って。千里見てあげて」
 
「うん」
 
それで母は千里に210円くれた。100円ショップで見繕ってということだろう。
 

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それで翌日学校の帰り、玲羅と一緒に100円ショップに行った。
 
「あれ?お兄ちゃん、もうキーホルダー付けてる」
と玲羅が言う。
 
千里は可愛いキタキツネのキーホルダーを家の鍵につけていた。
 
「持ってたキーホルダーを付けたんだよ」
「それ、時々つけてる髪留めと似てるね」
「そうそう。同じシリーズ。だから私は買わなくてもいいから、お母ちゃんからもらった105円は玲羅にお小遣いであげるよ。内緒でね」
 
「ありがとう、お兄ちゃん」
 
「うーん。お姉ちゃんと呼んでくれたらもっと嬉しい」
「考えとく。でもお兄ちゃんって本当はお姉ちゃんだよね?」
「まあ私は女の子のつもりだけどね」
「それでなんでお兄ちゃんなの?」
「私もよく分からなーい」
 
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それで玲羅には可愛い猫のキーホルダーを選んであげて、105円払い、残りの105円は玲羅にあげた。
 

タマラのお父さんが作ってくれたバスケットのゴールは、タマラ一家が引っ越して行った後は、リサの家の物置に置いていて、使う時にリサ・千里・留実子の3人で協力して神社の境内に運び、そこで遊んでいた。
 
3月の下旬、千里たちがそこで遊んでいたら、身体の大きな男の子が数人やってきた。
 
「おお、すげー。こんな所にバスケのゴールがあるじゃん」
「やろうぜ、やろうぜ」
 
と言って勝手にストリートバスケ?を始める。
 
「お前ら、危ないぞ、どけどけ」
などと言ってリサたちを押しのける。
 
「ちょっとぉ。ここ私たちが遊んでんだよ」
とリサが文句を言う。
 
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「ガキはお手玉でもしてろよ。このバスケットは俺たちが使ってやるからさ」
「それ、私たちのゴールだよ」
 
「そんなの誰が決めたのさ」
「私たちの友達のお父さんが作ってくれたんだから」
 
男の子たちは少し顔を見合わせたものの、反論する。
 
「でもここは神社の土地だぜ。お前たちの土地じゃないだろ? だったら誰が遊んでもいいし、俺たちの方が有意義に使ってやれるから、ありがたく思えよ」
「俺たちが居ない時はお前らが遊んでもいいぜ」
 
「そんな勝手な理屈は無いだろう。ここは僕たちが先に使っていたんだから、僕たちに優先権があるはず」
と留実子が主張する。
 
すると男の子たちはこちらを睨む。
 
「何だ?中学生に逆らうのか? 何なら喧嘩で決着つけるか?」
と男の子。
「僕は強いよ」
と留実子。
 
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両者がにらみ合った時、コハルが割って入った。
 
「まあまあ、喧嘩もいいかも知れないけどさ、バスケの使用権で争うならバスケで勝負するってのはどう?」
 
「誰だお前?どこの中学だ?」
と男の子が言う。コハルは落ち着いた雰囲気なので、彼らには中学生に見えたかも知れない。
 
「それともあんたたち、小学生にバスケで負けるのかな?」
とコハルが少し挑発する。
 
「負ける訳ないだろ?」
と男の子。
「僕はそれでもいいよ」
と留実子。
 
「どういう勝負するんだ?」
 
「ゴールの真下から始めて各自2本ずつシュートを打つ。1本でも入ったらクリアしたことにする。双方ともクリアしたら距離を1mくらい遠くする。どちらか先にクリア失敗した側の負け」
とコハルはルールを提案した。
 
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「だったら楽勝だな」
と男の子が言う。
 
「俺は去年の秋の大会で1試合30得点したんだぜ」
「へー。それで勝ったの?」
とリサが言うと
 
「それは訊くな!」
と彼は怒ったように言った。
 
リサが吹き出した。千里は何とか笑うのを我慢した。
 

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とりあえず勝負を始める。中学生側はその30得点したという男の子がやる。こちらは留実子が千里を指名した。
 
ボールはお互い慣れているボール(千里たちは4号球、中学生たちは6号球)を使用することで双方は同意した。
 
最初はゴール直下から。
 
双方とも一発で入れる。
 
1mほど離れる。これも双方1発で入れる。
2mほど離れる。これも双方1発で入れる。
 
3mほど離れる。この距離になると(子供にとっては)結構遠い感覚だ。
 
千里は1発で入れた。中学生は最初外したが「あ、失敗失敗」と言って2発目できちんと入れた。
 
4m。フリースローの距離である。千里はまた1発で入れる。
 
「お前、結構やるな」
と中学生の男の子が千里に言った。
 
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彼はかなりマジな顔になっている。慎重に狙って・・・入れた。
「ふう」と息をつく。
 
もう周囲は固唾をのんで勝負の行方を見守っている感じだ。
 

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5m。これはかなり遠い感じである。
 
千里はしっかりゴールを見つめ全身のバネを使って撃つ。
 
入る。
 
中学生は何度かボールを地面に打ち付けて気持ちを集中していた。狙う。そして撃つ。
 
外れる!
 
「もう一発、もう一発」
と言ってボールを取って来て再度その距離から狙う。ジャンプしながら、少し高めの軌道にシュートする。
 
入る!
 
彼はジャンプの反動で座り込むようにし、大きく息をついていた。
 

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とうとう6mになる。スリーポイントの距離である。もっとも千里はスリーポイントなどというルールは知らない。
 
千里が撃つ。
 
届かない!
 
千里が目をつぶる。千里の腕力ではあそこまで到達させられないのである。
 
「どんまい、どんまい」
と留実子が言う。
 
千里はさっき中学生がジャンプしながら撃つのを見ていた。そうだ。立ったままの状態からシュートして届かなくても、ジャンプしながらなら何とかなるかも。千里はとっさにそう考えた。
 
ボールを持ってゴールを見つめる。
 
いったん身体を曲げて、斜め前にジャンプしながら身体を伸ばす。身体を伸ばしきる直前に「いちばん遠くまで届くはず」の角度に、力のある左手を主に使ってボールを送り出す。
 
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ボールは少し左にずれて、リングの左側にぶつかり、それから反対の右側にもぶつかった後、ネットを通過した。
 
「やった!」
とリサが叫ぶ。
 
中学生は「うっそー」という顔をしていた。
 
自分もボールを持って構える。
 
撃つ!
 
行き過ぎ!!
 
ボールはゴールより向こうに飛んでいった。バックボードが無いのでボードに当てて入れるという技が使えない。直接入れなければならないのが辛い所だ。
 
もう一度ボールを持つ。慎重に構える。
 
撃つ!
 
今度は手前過ぎた。
 
ゴールの手前に落ち、ネットに外からぶつかって下に落ちた。
 
「負けた!」
 
と男の子は言った。
 

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「じゃここは私たちが使うから」
と留実子。
「仕方ないな」
と男の子。
 
「そもそも中学生にはこのゴール低すぎるでしょ?」
「まあそれはそうだけどな。これミニバスより低いよな」
「私たちのグループには小学1年生とかもいるから、その子たちも遊べる程度の高さに作ってもらったから」
「だったら4年生くらいまでかもな」
「そんな気はするけど、どっちみちそちらはアウトだね」
 
「分かった分かった。勝負で負けたから潔く引き下がるよ」
と言って中学生たちは帰って行った。
 

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その後で千里は言った。
 
「4年生までなら、私たちもあと1年かな」
「かもね〜。あとはドーラたちに任せよう」
「それでいい気がする」
 
「その後はどうする? 千里はミニバスにでも入る?」
「なんかお金掛かりそうだからパス。毎月大会とかであちこち出かけているみたいだし、ユニフォームも要るみたいだし」
「確かにね」
 
「それにうちのミニバスって基本は男子のみみたいだしさ。女の子は3人か4人くらいしか居ないみたい」
と千里が言うと
 
「うーん・・・」
と留実子は悩んでいた。
 

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