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■少女たちの入れ替わり大作戦(10)

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「ビリーブって女子高生2人組で。それでこちら見た時、君と君が高校生かあるいは中学3年生くらいかなと思ったんで、ステージに立って何か適当に歌でも歌ってくれたらと思ったんだけど」
 
と言って、原さんはリサと留実子を見ている。
 
「でもよく見たら、君は男の子だよね?」
と留実子に言う。
 
「ええ、僕は男ですけど」
「この際、ちょっと女装して女の子歌手のふりしてみる気無い?」
「女装は嫌です。それに僕音痴ですよ」
 
「困ったなあ。それと君は外人さんかな」
「外人さんの血は引いてますけど、日本生まれの日本育ちで国籍も日本ですよ。でも私、歌はあまり上手くないです」
 
リサはピアノは上手いのに、歌は結構音痴なのである。
 
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その時、恵香が言った。
 
「代役するのなら、蓮菜と千里が良い」
 
「ほほお」
「背が低いのはいいことにしませんか? ちょっとオトナっぽくメイクすれば中学生くらいに見えますよ。女の子の年齢って元々分かりにくいし、背の低い女子中生は居ますよ」
 
「でも恵香はしないの?」
と蓮菜が言うと
 
「私、音痴だもん」
と恵果が言った。
 
「私も音痴だけど」
と千里が言うが
 
「私よりは上手い」
と恵香は言った。
 

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それで結局千里と蓮菜がステージに立って適当に30分間歌うということになった。
 
原さんはビリーブのステージ衣装は持って来ていたので、蓮菜と千里はそれを着せられた。
 
着替える時に千里の下着姿を見て、恵香も蓮菜も何だか頷いていた。
 
「でもこれミニスカ丈のドレスなんだけど、小学生が着ると普通のスカート丈だね」
「まあ背が低いから仕方ない」
 
ビリーブの2人は身長が154cm,158cmらしいが、こちらは千里が139cm、蓮菜が134cmである。
 
「しかし千里、スカート姿に違和感が無い」
と恵香。
「千里そういえば最近は時々スカート穿いてるね」
とリサ。
 
リサはいまだに千里の性別のことが分かっていない。
 
メイクをしてもらいながら話し合う。
 
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「でもどんな曲を歌えばいいんですか?」
「ビリーブの曲を歌ってもらうのが理想的」
「そのビリーブというのを知らないんですけど?」
「先月デビューしたばかりなんだよ」
「へー。でも聞いたこと無いなあ」
 

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結局最近のヒット曲を適当に歌っていいよということになる。どっちみち、ビリーブもデビューしたてで、持ち歌が少ししか無いから、ステージの大半はカバー曲になる予定だったらしい。
 
千里たちは伴奏をしてくれるキーボード弾きの人と曲目について打ち合わせ、またふたりの歌える音域を確認してもらった。
 
「君たちふたりとも音域広いね。だったらほぼ原曲キーで行けるかな」
「あ、行けると思います。だいたいテレビで流れているのに合わせていつも歌ってますから」
 
「しかし良かった。誰も捕まらなかったら、僕に女装して弾きながら歌ってよなんて言われて、勘弁して〜と思ってたんだよ」
と彼は言う。
 
彼は19歳で札幌でバンド活動をしているらしい。身長は165cmくらいだろうか。あまり背が高くないし細身の美青年なので、千里はこの人なら女装しても行けるのではという気もした。
 
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やがて時間となる。
 
「それでは皆さん、ビリーブの登場です」
と原さんがステージの脇で言った。
 
千里と蓮菜は顔を見合わせた。ビリーブの代役のデュオということにするものと思っていたのに、どうもビリーブだとして紹介するつもりのようだ。
 
「まあいいんじゃない。私にMCは任せて」
と蓮菜。
「うん、よろしく」
 
それで出て行くと蓮菜は
「こんにちは!ビリーフのセンとレイです」
と言った。
 
ビリーブではなくビリーフと言ったのがミソだが、お客さんにはビリーブのようにも聞こえたかも知れない。
 
「まだ素人同然ですけど、聞いて下さい。最初は古い歌ですが、ジッタリンジン『夏祭り』」
 
この曲は実はよくリサの家で友達同士数人で集まって、リサや千里がピアノを弾きながら歌を歌ったりしている時のレパートリーのひとつである。ホワイトベリーがこの曲をカバーして話題になるのは、この直後のことである。
 
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足を止めている観客は5〜6人しか居ない。気楽だ。
 
キーボードの人から最初の音をもらう。
 
「君が居た夏は・・・」
と蓮菜がアカペラで歌い出す。千里はまだ歌わない。
 
蓮菜が「打ち上げ花火」まで歌ってから前奏が始まる。そしてふたりで歌い出す。
 
「君の髪の香り、はじけた・・・」
 
ふたりはユニゾンで歌い出すが、「お祭りの夜は」の所は3度唱にする。脇で聞いていた原さんが「へ〜!」という感じの顔をした。
 
そしてこれで近くを歩いていた人が結構足を止めた。
 
ふたりが歌い進むと足を止める人が増えてきて、間奏の頃には20人くらいになっている。
 
蓮菜と千里はユニゾンで歌う所と3度唱する所を使い分けながら歌って行った。途中蓮菜が「うっ」と小さな声を出す。あ、歌詞が分からなくなったなと思った千里は、そこから作詞しながら歌う! 千里は実はこれが得意なのである。
 
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脇で原さんが天を仰いでいるのが目の端に入ったが、千里は堂々と適当な歌詞で歌い、蓮菜もそれに合わせて歌って、伴奏の人もそのあと早めにコーダに持って行ってくれたので何とか破綻せずに最後までたどり着いた。
 

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何か凄い拍手が来た。観客は40-50人くらいまで増えている。
 
「拍手ありがとうございます。これ友達のリサちゃんのお母さんが好きな曲なんですよ。お母さんが子供の頃の曲かなあ」
と蓮菜が言うが
 
「そこまで古くない。ほんの10年くらい前の曲」
とキーボードの人が後ろから声を掛けた。
 
その後千里たちは当時人気絶頂だったモーニング娘。の「恋のダンスサイト」、「LOVEマシーン」を歌い、更にポルノグラフィティの「アポロ」を歌う。男性ボーカルの曲だが、元々岡野さんの声がハイトーンなので、この曲は女性でも原キーで歌えるのである。
 
その後、箸休めに千里がメインボーカルを取って宇多田ヒカルの「Automatic」を歌う。英語の発音が外人さんっぽいので、それを聞いてまた足を停める人が増えた感じもあった。この曲で千里は宇多田がしていたように、日本語まで英語っぽく歌った。
 
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また千里は普段はだいたいソプラノ音域で歌ったり話したりているものの実はアルト音域も出る(但し極力人に聞かせないようにしている)ので、この曲のいちばん低い音 F3 も誤魔化さずに歌うことができた(この曲の最高音は E5 でこちらは千里も蓮菜も楽々出る)。
 
そして最後はまた蓮菜がメインボーカルを取って椎名林檎の「本能」を歌い締めた。
 
千里も蓮菜も実はこの歌の歌詞の意味が全く分からないまま歌っているのだが、「もっと中迄入って、あたしの衝動を突き動かしてよ」などという歌詞に、この曲を知らなかったふうの、蓮菜のお母さんが「何これ?」という感じで顔をしかめていた。
 
歌い終わると、物凄い拍手が来た。最後は観客が100人以上に膨れあがっていた。蓮菜と千里は笑顔で手を振ってステージを降りようとした。
 
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が「アンコール!」という声が多数掛かる。
 
蓮菜が原さんを見ると「行って行って」と声を掛けてくる。ふたりが伴奏者の所に寄る。
 
「ハワイアンの『Tiny Bubbles』できます?」
「OKOK」
 
それで最後はのんびりとした雰囲気のハワイアンをふたりで輪唱っぽく歌う。この曲のよく知られたデュエット・アレンジで、最初の8小節を輪唱っぽく歌った後、後半はハーモニー唱になるという趣向にする。千里が蓮菜の声にピタリと3度で合わせるのでとても美しい歌唱になった。
 
歌い終わると物凄い拍手をもらって、ステージを終了した。
 

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ふたりが控え室でメイクを落としてもらい、衣装を脱いで元の服を着ていたら原さんが入って来た。
 
「凄かったね〜。君たち上がらずに歌えたね」
と褒めてくれる。
 
「あがるって?」
と千里が訊く。
 
「うーん。まあ別に知らなくてもいいよ。これ無理を言ったし、凄く盛り上がったからお礼」
 
と言ってふたりにポチ袋をひとつずつくれた。
 
「中を見ていいですか?」
「どうぞどうぞ」
 
それで見ると各々1万円入っている。
 
「きゃー!こんなにもらっていいの」
「うん。デパートから金一封ももらったからね」
 

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ギャラとは別に食事券も、そこにいる人数分と言って7枚もらったので、商店街の中の和食の店に入り、各自適当なものを注文した。
 
「でもそのビリーブというユニットのピンチヒッターをするのかと思ったら、蓮菜たちがビリーブだということにして歌わせたのね」
と恵香が言う。
 
「びっくりした。だからビリーブではなく、ビリーフと名乗った」
と蓮菜。
 
「たぶんどうせ誰もビリーブなんて知らないだろうから、本人ということにしちゃえと思ったんだと思う」
とコハル。
 
「契約上の問題もあったのかもね」
と蓮菜のお母さん。
 
「センとレイとか言ってたけど」
と留実子が言うと
 
「ビリーブはシンコとライコのユニットなんだよ。シンとライだからシンライでビリーブ。だからそれに似た響きのことばで、千里と蓮菜からセンとレイと言った」
と蓮菜は説明する。
 
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「ああ、そういうユニット名なんだ。蓮菜知ってたの?」
と恵香が訊く。
 
「こないだ、たまたまテレビに出ているの見た。まだあまり知っている人は居ないんじゃないかと思う」
「へー」
 
「売れそう?」
「そこそこ売れるだろうけど、まあ大したことはない気がするな」
「ふーん」
 
「ついでに言うと、あの原さんって人も元アイドル歌手らしいよ」
と蓮菜。
「嘘!?」
「そのテレビに出た時に司会者の人がそんなこと言ってた」
 
「お母さん、知ってました?原知恵美さんっだっけ?」
とコハルが訊く。
 
「いや、全然知らない。私あまりアイドルとか興味無かったし」
「誰に訊いても知らないと言うから、きっとあまり売れてなかったんじゃないかな」
と蓮菜は言う。
 
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「でもあんたたち堂々と歌っていたね」
と蓮菜のお母さん。
 
「まあふだんリサんちで歌っている時のノリで歌ったからね。それより千里、歌詞を作りながら歌うのうまい」
と蓮菜。
 
「うん。わりとあれ得意」
と本人も言っている。
 
「あれでずいぶん助けられたよ」
「キーボードの人が最初はポーカーフェイスだったけど、最後の方は笑いながら演奏してたね」
とコハルは言った。
 

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