[*
前頁][0
目次][#
次頁]
(C)Eriko Kawaguchi 2016-05-15
5月中旬のある木曜日、千里は朝から熱を出した。学校は休むことにして連絡を入れ、母が仕事を休んで千里を病院に連れて行ってくれた。
村山家は風邪などについては去年までは%%医院と言って町内で開業していたお年寄りのお医者さんの所で診てもらっていたのだが、先生がもう年で視力も衰えてきたのでということで2月で閉院してしまい、今回千里が連れてこられたのは@@内科小児科クリニックというところである。お医者さんはまだ30代の若い先生であった。
診せてくださいと言われて千里の母は千里が女の子下着を着けていることを思い出したものの、まあいいかと思う。それで聴診器を当てられ、喉なども見られて
「うん。風邪ですね。お薬出しておきましょう。注射もしとこうかな」
と言って処方箋を書き、処置室に行くように言う。
それで隣の処置室に移って注射をしましょうということになる。
「お尻に打ちますから、ちょっとズボンとパンツ脱いでね」
と看護婦さんから言われた。
千里は母に見られたくないなと思ったのだが、ちょうどその時、母が先生から
「お母さん、ちょっと」
と呼ばれた。
それでこの隙にと思った千里は、急いでズボンとパンティを脱ぎ、ベッドに寝転がった。
「あら、女の子に見えるけどカルテで男に丸付けてあるから実は男の子かなと思ったらやはり女の子だったね」
などと看護婦さんは言いながら、千里のお尻に注射の針を刺した。
「私よく性別間違えられるんです」
「ああ、なんか男女どちらもある名前だもんね〜。はい、おしまい」
針を刺した所に絆創膏を当ててもらう。「もう、いいですよ」と言われると千里はすぐにパンティをあげてそれから起き上がり、ズボンを穿いた。そのズボンを穿いている最中に母が戻ってきた。
結果的に千里はあの付近を看護婦さん以外に見られずに済んだ。
母と一緒に廊下に出る。
「いや、問診票に性別男って書いてありますけど、これ女の子の間違いですよね、とか先生から言われちゃって」
と母が言う。
「私、女の子でいいけど」
「でも男の子と女の子では使うお薬が違うこともあるのよ」
「へー」
「女の子用のお薬使ったり、女の子みたいな身体になっちゃうかも知れないし」
「私、女の子みたいな身体になりたい」
「うーん。。。」
それで料金を払い、処方箋を持って病院を出る。すぐ隣にある薬局で薬を買う。それで処方してもらっている間に母は診察券を見ていて
「あら、やだ」
と言った。
「どうしたの?」
「先生に訊かれて、男の子ですよと言ったのに、この診察券、性別がFになってるじゃん」
「Fって?」
「女という意味。男はM」
「私はFでいい」
「うーん。。。まあいいことにしとくか」
と母も言ってそのまま診察券と健康保険証とをバッグにしまった。
千里は結局翌金曜日も学校を休み(その週は土曜日も学校は休みだったので)結局日曜日まで寝ていて、月曜日から学校に復帰した。母は木曜日1日は休んで千里の面倒を見てくれたものの金曜日は「もし気分が悪くなったりしたら電話して」と言って会社に出て行った。
沖合の船に乗っていた父は金曜日の昼頃戻って来たが、千里が風邪を引いたというと「俺に移すなよ」と言って日本酒を飲んで寝ていた。同じクラスで近所でもある留実子がプリントなどを2日分持って来てくれた、父は留実子の腕をつかんで
「たくましい腕だね。漁師にならない?」
などと勧誘していた。
「高校出てから考えます」
と留実子は答えていた。
「うちの息子は腕が細くて困ったもんで。少し鍛えてやってください」
「村山さんはむしろ可愛いお嫁さんになるかも」
「そんな気色悪いこと言い出したら、叩っ斬ってやりますよ」
この時期は5月下旬に行われる運動会の準備も進められていた。4年生が出るのは、100m走、借り物競走、集団演技のフォークダンス、そして組対抗リレーである。千里たちの学校は各学年ともクラスが2クラスしかないのだが、2組対抗では面白くないというので、各クラスを2分割している。千里たち1組は千里を含めて男子16人と留実子を含めて女子11人で、これを男子8人・女子5-6人の「赤組」「青組」に分ける。2組も同様にして「白組」「黄組」に分けられた。
ちなみに千里も留実子も青組になったが我妻先生の組分け表では男子は留実子を入れて8人・女子は千里を入れて5人だったので
「これは全く問題ない」
とクラスメイトたちは言っていた。
リレーのメンバーは体育の時間に全員100mを走らせて各組いちばん速かった子を男女1名ずつ選ぶということだったのだが・・・・先生は「ではリレーの選手は赤組が田代と矢野(穂花)、青組が花和(留実子)と大沢(恵香)」と言った。
本来は男子と女子1人ずつのはずである。
「うーん・・・・」
とクラスメイトたちは悩んだものの
「花和は十分足が速い気がするから問題ない」
ということになった。
「男子が2人出たらまずいだろうけど、女子2人なら問題あるまい」
というのがおおかたの意見であった。
そもそも留実子は、青組の男子8人より100m走のタイムが良かったのである。
「花和、実はチンコ付いているということは?」
「誰かちんちん譲ってくれると助かるんだけど」
「村山のチンコを取って付けるといいのでは?」
「いや村山は既にチンコが無いはず」
「この会話は2〜3日に1度はしてるな」
「そうだ。琴尾のチンコを譲れば?」
などと言うのは当然田代君である。
「譲ってもいいけど、代わりに雅文のチンコを私に寄越せ」
と蓮菜は答える。
「うーん。俺のチンコ取られるのは困るな」
この2人の会話は他の子たちにはほぼスルーされている。
さて運動会には応援合戦がつきものである。これは「女子全員参加」と言われた。ただし太鼓係は4〜6年生の各学年から1名男子がやる。
それで「今日の放課後、女子の応援練習やります」と言われてクラスの女子がみんな体育館の方に行こうとしていた時、千里が「どうしよう?」という顔でいたら、それに気づいた恵香が
「はい、千里もいらっしゃーい」
と言って手を取って連れて行ってくれた。
「僕は行かなくていいよね?」
と留実子が言っていたのだが
「るみちゃんは太鼓係に指名されている」
と言って、結局留実子も参加である。
体育館に行くと
「はーい。みんなこれ穿いてね」
と言って赤いミニスカートを渡される。
「私も穿くの?」
と千里が不安そうに言うと
「当然」
と周囲の女子から言われる。
「僕は穿かなくてもいいんだよね?」
と留実子が言うと
「男子の太鼓係は当然スカートは穿かない」
と言われている。
スカートにはSサイズとMサイズがあり、合わない人にはLサイズを渡しますと言われたのだが、千里はふつうにSサイズで入った。
「きつくない?」
と訊かれるが
「うん。少しゆとりがある感じ」
と千里は答える。
「ああ、これアジャスターを短くした方がいい。やってあげるよ」
と言って佳美が千里が穿いたスカートのアジャスターを詰めてくれた。
「しかし千里細いな」
留実子は体育館のステージの方に行き、他の男子に混じって太鼓を打つ。
「お、4年生、力強いな。名前なんだっけ?」
「花和です」
「花和、お前がこの一番大きい太鼓叩け」
「はい」
それで留実子は自分の背丈ほどもある巨大な太鼓を叩いていたが「力強くていい」とか「やはり男の打つ太鼓はいいね〜」などと言われていた。実際、留実子の腕は千里の腕の倍くらい太さがある感じである。日々腕立て伏せなどして鍛えているらしい。
「花和、これだけ腕が太かったら漁船の網が引ける」
「こないだ体験乗船に行ったら即戦力だと言われました」
「やはりねー」
一方の千里たち女子はボンボンを手にして、基本的な動きから練習する。
「あ、君センスいいね。ちょっと前に出てきて」
などと言われる。千里は左右を見るが、どうも自分のことのようなので前に出て行く。
「君、少し背が高いし動きもいいから前で踊って」
などと言われて、5年生の麻美子さんと2人で前で踊ることになった。
「名前なんだっけ?」
「村山千里です」
「千里ちゃん、スポーツか何かしてるの?凄く運動神経いいみたい」
「私、体育はいつも1ですよ〜」
「それは不思議だ」
その会話を聞いた蓮菜は、千里は男子として評価されたら体育1かも知れないけど、女子としては結構運動神経の良い方なのではなかろうかと思った。きっと千里ってドッヂボールとかサッカーではあまり使えないかも知れないけど、多分ダンスとかはできそうという気もするのである。
[*
前頁][0
目次][#
次頁]
少女たちの入れ替わり大作戦(5)