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■少女たちの入れ替わり大作戦(6)

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運動会では学年別の集団パフォーマンスも行われる。千里たちの学校では6年生が鼓笛隊の演奏、5年生はソーラン節(エッサッサをした年もあったらしい)、4年生はフォークダンスという所まで毎年定番になっている。3年生以下は年によって様々なマスゲームの類いが行われている。
 
今回千里たちのフォークダンスの曲目は『マイムマイム』と『オクラホマ・ミキサー』と決まった。
 
最近ではあまり演じられることのない『オクラホマ・ミキサー』だが、曲目を決める時にちょうど近くを通りかかった校長先生が「あれ是非やろう」と言ったので、入れることになってしまったらしい。校長先生たちの世代ではフォークダンスといえばオクラホマ・ミキサーだったらしい。
 
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(2016年にはauの三太郎のCMに使用された曲である。ミレドシドレドソミファという軽快なメロディ)
 
マイムマイムは全員が輪になって踊ればいいのだが、オクラホマ・ミキサーは男女がペアになって踊るタイプである。実はそれが男女差別だとか言われて、最近ではあまり取り上げられなくなった事情もあるらしい。
 
さて千里たちの学年は4年1組が男16人・女11人、2組が男15人・女12人で男がかなり多い。他の学年はこんなに極端に男女比に差が無いのだが、この学年はなぜかずいぶん男女の数に差が出てしまったようである。
 
どちらも奇数なので、2組女子の1人を1組にトレードすることにし、これはクラス委員の典子が自分が1組に入ると言ったので、それで1組が16:12、2組が15:11となる。どちらも男が4人多いので、男が2人女役で踊ってもらおうということになった。
 
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「るみちゃん、悪いけど今回は女役で」
「まあいいよ」
 
「村山は当然女役で」
「うん。女の方がいい」
 
「あと1人誰か性転換したい人?」
「じゃ俺が女になろうかな」
と言ったのが鞠古君だった。
 
「じゃそれで」
「鞠古、何だったら正式に性転換手術してから女になってもいいが」
「20歳くらいになってから考える」
「村山は、たぶん性転換手術終わってるよな?」
「内緒」
 
とここまではからかわれたものの、留実子の性別問題については男子たちはあえて言及しなかった。留実子がけっこう精神的に繊細であることをクラスメイトたちは感じ取っていた。
 

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ところで合唱については、馬原先生はピックアップ・メンバーで大会に出ることを志向したようで、4〜6年生の各クラスから3〜4人程度ずつの女子に声を掛け、20人ほどの「合唱サークル」を組織するに至った。
 
他のクラブ活動やスポーツ少年団などと重複しても活動しやすいようにあえて「合唱部」ではなく、サークルということにしたようで、練習も昼休みを中心にして、8月の地区大会出場を目指すことになった。
 
千里たちのクラスでは、佐奈恵・穂花・蓮菜の3人が選ばれた。
 
「千里もけっこう歌うまくない?」
と蓮菜から言われたものの、千里は
「私、ヘタだよ〜」
と言っておいた。
「なんか音が不安定なんだよねー」
と言って『みどりのそよ風』を歌ってみせる。高いドより上で音程が物凄く不安定になる。
 
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「うーん。それって歌い込めば安定していくと思うけどなあ」
「蓮菜たちの方がずっと上手いもん。大会に応援には行くからさ」
 
実を言うと千里はこの頃、その音域(A5〜E6付近)の発声方法を試行錯誤中だったので、特にC6より上の音程が不安定だったのである。千里の高音域が安定してくるのは6年生頃になってからである。
 

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「でも今回女子だけで構成するのか」
「女声合唱の方が曲目の選択が多いしね」
「混声合唱は統一感出すのが難しい」
「でも小学生だとそもそも男女の声の差はあまりないけどね」
「男子でも女子の音域が歌えて、スカート穿いてもいいなら参加していいと先生は言ってた」
 
「俺スカート穿いて参加しようかな」
と鞠古君が言うと、なぜか留実子が殴っていた!?
 
「なぜ殴る〜?」
「別に」
 
千里や蓮菜は思わず顔を見合わせた。
 
鞠古君はまだ声変わり前だし(実際まだ千里たちのクラスで声変わりが来ている男子はいない)、結構歌が上手いのでスカート穿くのがいやでなければ十分行けると千里は思ったのだが、留実子の行動の意図は当時の千里たちには分からなかった。
 
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2000年5月21日。運動会が行われる。
 
日曜日なので千里の父は戻っているのだが「寝てる」と言って家に居るので、母がお弁当を作って出てきてくれた。が、母は千里が赤いスカートを穿いてボンボンを持って踊っているの見て仰天したようである。
 
千里は最初に徒競走に出た。徒競走は1年生が50mから始めて。2年生も50m、3年生80m、4年生100m, 5〜6年生は150mになっている。4年生は2クラスで男子31名・女子23名いる。4人ずつ走らせると、男子8組、女子6組になる予定だった。
 
3年生が走っている間に6年の担任の東原先生が4年生を4人ずつそろえていく。千里は蓮菜・リサなどとおしゃべりしていたのだが
 
「おお、そこちょうど赤・青・白がそろってるな」
と言われて、赤組の所に蓮菜、青組の所に千里、白組にリサ、そして黄組に近くに居た数子が並ばされた。
 
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「あれ?ここ女子だっけ?」
と千里が言うが
「まあいいんじゃない?」
と蓮菜は言った。
 
留実子は「男子は向こうに」と東原先生からいったん言われたものの、
「この子、女子ですよー」
と周囲の子から言われて
「あ、そう?ごめんごめん」
と先生は言っていた。
 
結果的に女子は4人ずつの組がちょうど6組できて、男子はなぜか4人の組が7つと2人(赤と白)の組が1つできた。
 
「あれ?男子は1人休んだのかな?」
などと東原先生は首をひねっていた。
 

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やがて3年生が終わってスタート位置を移動し、4年生の徒競走が始まる。男子が順に走って行き、最後は2人だけで走る。1位と2位は賞品をもらえるので、この組で走ると確実に賞品がもらえるお得な組であった。
 
そのあと女子が始まる。恵香たちが走り、玖美子たちが走り、3番目が千里たちである。スタートラインに並びスタンディング・スタートの姿勢を取る。三国先生が昔懐かしいスターティング・ピストルを手に持ち「用意」と言って約2秒後に号砲が鳴って走り出す。
 
この組では長身のリサとミニバスをしている数子が先頭争いをし、その後、大きく離されて蓮菜と千里が走るという構図になった。トラックが一周150mなのでそれを3分の2走る。結局1位リサ、胸一つの差で数子、大きく遅れて蓮菜、そこから3mほど遅れて千里という順にゴールした。
 
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「リサちゃん、やっぱ凄いよ。ミニバス入らない?」
と数子はまた勧誘していた。
 

「千里はこの成績なら性別を疑われることは無いな」
「私、運動苦手〜」
と蓮菜と千里は言葉を交わした。
 
午前中ラストに借り物競走があったが、また千里は女子の方に並ばされた。今回は恵香・亜美・映子と一緒であった。3年の時は同じクラスだったので千里の性別を知っている亜美は
 
「なぜ千里がここに居る?」
と訊いたものの、恵香が
「徒競走では千里女子4人で走ってビリだったよ」
と言うと
「確かに千里、足は遅かったもんなあ」
などと言って納得していた。
 
それでスタートして借物のメモが書いてある紙を取る。
 
『スカート』と書いてある!
 
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千里は青組の応援席の所に駆け寄った。
 
「すみません。どなたかチア衣装のスカート貸して下さい」
と言うと
「私が貸すよ」
と5年生の麻美子さんが言ってくれて、自分の穿いているスカートを脱いで貸してくれた。
 
お礼を言ってそれを穿くと、急いでフィールドに戻る。平均台の上を走ってゴールに飛び込む。
 
今度は千里は1位で賞品の折りたたみ定規をもらった。
 

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午前中の種目が終わった所で各組の応援合戦が行われた。千里はさっきスカートを貸してくれた麻美子さんとふたりで前に出てアクションをする。留実子の打つ力強い太鼓が聞こえる。千里はその音に合わせて左右の手を広げたり高く挙げたりまた足を上げ、ジャンプしたり回転するなどの動きをしていった。最後は麻美子さんがバク転して着地した所を支えて美しく終わった(このバク転は来年千里がしてねなどと言われた)。
 
応援合戦の後、チアのスカートを脱ぎ自分の席の所に置いてから、白組の所にいる玲羅を拾って母の所に行った。お弁当は体育館で食べるということで、そちらに移動する。
 
「でもなんであんたスカート穿いてチアガールやってて、徒競走とかは女子の方で走るわけ?」
と母から訊かれたが
「さあ。あんたこっちこっちと言われて参加したけど、私は自分のこと女の子だと思っているから、全然問題ない」
 
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と千里は答えていた。母は悩むようにしていた。
 
3人で話しながら体育館に外から入る階段を上ろうとして、ふと千里はプールの方にひとりで歩いて行こうとしていた留実子に気づいた。
 
「るみちゃーん!」
 
留実子が振り向く。
 
「お母さん来てるの?」
と千里は尋ねる。留実子の所は共稼ぎで、どちらも商店勤めなので日曜日にも休めない。
 
「今日は来られないと言ってた」
「私たちと一緒にお昼食べない?」
「僕お弁当持って来てない」
「うちは多めに作っているから大丈夫だよ」
「じゃ少し分けてもらおうかな」
 
と言って留実子はこちらに来て、一緒にお弁当を食べることになった。
 

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後で聞くと留実子は母から「コンビニでおにぎりでも買って行って」と言われてお金をもらったものの、あまり気が進まず何も買わないで学校に来たらしい。それでお弁当が無いのでお昼はどこか目立たない所で寝転がってようかと思っていたと後で言っていた。
 
こちらは母が父も行くかもと思い結構多めに作っていたので、留実子が加わって結果的にちょうどよくなった。「余らせても無駄になるし食べて食べて」と母が勧めたこともあり、留実子は結構満腹したようである。
 
「やはり男の子は食べっぷりがいいわあ」
などと母は言っている。
 
千里は「ん?」と思ったものの留実子は男の子と思われて気分がいいようなので性別問題はあえて指摘しなかった。実を言うと、千里と留実子の交友について、双方の親は、千里の母は留実子を男の子の友人と思い、留実子の母は千里を女の子の友人と思う、という構図になっていた。実際千里は母から
 
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「男の子の友達がなかなかできないので心配していたけどやっとできた」
と言われたし、留実子も
「女の子の友達がなかなかできないので心配していたけどやっとできた」
と言われていた。
 
そしてこの状態が、実は中学3年頃まで続いていたのである。この時期千里たちのグループの子の親で、千里と留実子の戸籍上の性別をきちんと知っていたのは実は蓮菜の母だけであった。
 

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この日千里の母は
「そうだ。千里に色々お洋服をいただいてるみたいで」
と留実子に言う。
 
「こちらはあげる人とかがいないのでちょうど良かったんですよ」
と留実子。
 
「女の子の服もいただいているみたいですね」
と母は探るように言う。
 
「ええ。姉貴が着ていた服なんですけどね。僕は女物は着ないし」
「そうよね!」
 
千里は留実子から「姉」という言葉を聞き、少し疑問に思った。留実子には兄はいるものの姉はいないはずである。あるいは自分のために親が買ってくれた女物の服を千里にそのまま譲るのに、言い訳として姉という仮想の存在をでっちあげたのだろうか??
 

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