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■少女たちの入れ替わり大作戦(8)

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千里はリュックのポケットから家の鍵を取り出した。そしてそのキタキツネのキーホルダーの付いた鍵を手で握り、しばらく目をつぶり腕を組んで考えるようにしていた。
 
そして言った。
 
「みんなの居る方に向かって行けばいいと思う」
 
「みんなの居る方って?」
「こちらの道だよ」
と言って千里は左手を伸ばして五叉路のひとつを指さす。交差している道の中でも特に細い道だ。
 
「なぜ分かる?」
「みんなの声のようなものが聞こえるんだよ」
 
蓮菜と田代君が顔を見合わせた。
 
「聞こえる?」
「何も聞こえない」
「鳥のさえずりとか、リスか何かの動く音とかは聞こえるけど」
 
留実子が言う。
「みんながそちらの方にいるとしてもだよ、その道が途中で切れていたらどうする?」
 
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「でもここからみんなの居る所まではずっと尾根が続いているよ。行けると思う」
 
「なぜ分かる!?」
「だって見えるじゃん」
 
「俺には見えん!」
 
すると留実子が少し考えて言った。
 
「僕はタマラから聞いた。小学1年生の時、スキーをしていてタマラたちが他の子たちとはぐれた時に、千里がみんなの居る所まで連れて行ってくれたって」
 
「うん。あの時もみんなのいる場所が分かったんだよ。やはりみんなの声のようなものが聞こえたんだ。今も聞こえてる。たぶん、みんなはまだ私たちがはぐれていることに気づいてない気がする」
と千里。
 
「よし。じゃ20分だけ動いてみよう。それで他の子たちと合流できなかったら、できるだけ安全な場所で救援を待つ」
と田代君が言った。
 
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「うん、そうしようか」
と鞠古君も賛成し、それでみんなは千里の言う方角に歩いて行くことにした。
 

「でも千里、手に何持ってるの?」
と蓮菜が訊く。
 
「家の鍵だよ」
と言って、それを見せる。
 
「何の意味があるの?」
「まあ、お守りかな」
「へー。あ、このキタキツネのキーホルダー可愛いね」
 
「それと同じデザインの髪留めも持ってるよね?」
と留実子が言う。
 
「うん。同じシリーズなんだよ。叔母ちゃんから東京のお土産にもらったんだ」
「ふーん」
 

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「でも千里もさっきは先頭に立ってたのに」
と蓮菜は言う。
「ごめーん。普段はこの手の感覚は眠らせているんだよ。だっていつもこういう声が聞こえてたらうるさくてたまらないもん」
と千里。
 
「それ、声というより波紋みたいなものかな」
と高山君が言う。
 
「あ、それに近いかも知れない。声そのものというより、声の振動の余波みたいなのが伝わってくる感じなんだよ。けっこうみんなの感情も分かる。凄く楽しそう。だから誰も私たちに非常事態が起きていることに気づいてないと思ったのよね」
 
この感覚を千里は後に「波動」と呼ぶようになる。
 
千里は山道をすいすい歩いて行く。
 
「ちょっと待って」
「もう少しゆっくり」
 
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「千里、運動会の徒競走では女子の組で走ってビリだったのに」
「結構体力あるじゃん」
「ここだけの話。私、か弱い女の子で居たいから」
「なるほどー」
「手を抜いているのか」
「えへへ。みんなには内緒でね。借り物競走は順番が分からなくなって適当に走ったら一位になっちゃった」
 
「千里、歌が下手なのもフェイクだろ?」
と留実子が言う。
「内緒」
 
「村山、そもそも本当は男だっての自体もフェイクで、本当は本物の女なのを女のフリしている男だということにしてるだけなんじゃないのか?」
 
と鞠古君が言う。
 
「ごめん、今のことば、意味が分らなかった」
「うん。実は俺も言っている内に自分で訳が分からなくなった」
「で、千里は本当は男なの?女なの?」
 
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「内緒」
と千里は微笑んで答えた。
 

千里たちが山道を10分ほど歩いていた時、前方に人影が見えた。
 
近づいて行くと、どうも40代くらいの女性だが、座り込んでいるように見えた。
 
「こんにちは、どうかなさいました?」
と蓮菜が声を掛ける。
 
「斜面から滑り落ちてしまったんだけど、足にツルが絡まっちゃって」
 
みると右足に植物の蔓が絡んでいて、取れないようである。
 
「鞠古、お前サバイバルナイフ持ってなかった?」
と田代君が訊く。
 
「うん。持ってる」
と言って鞠古君は荷物の中からナイフを取り出すと、その女性の足に絡まっているツルを切ってあげた。
 
「ありがとう!助かった」
「この付近の方ですか?」
「住んでいるのは深川なんだけどね。元々留萌の出身なんでこの付近はよく来るのよ。慣れた山なんでひとりで山菜採りに来てたんだけど、参ったと思ってた。持ってた鎌は斜面の下に方まで落ちて行っちゃったし」
 
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「歩けます?」
「何とか」
 

女性はこの付近の山道のつながり方を熟知していた、その人の案内で千里たちはそのあと5分ほどで登山道に戻ることができた。
 
千里たちがいきなり脇道から出てきたので、近くにいた最後尾を歩く2組担任の近藤先生がびっくりする。
 
「お前たちどこ行ってたの?」
「すみませーん。迷子になってました」
「よく戻って来たな」
「この方に案内してもらいました」
と千里が言う。
 
「いや、私もトラブっていて、この子たちに助けてもらったんですけどね」
と女性は言う。
 
女性はもう山菜採りを中止して下山するということだったので、お気を付けてと言って別れた。
 
「私たち、GPSを斜面に落としてしまったんです」
「ありゃりゃ。でもうまく慣れている人と会えて良かったな」
 
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「ではがんばって先頭まで上がっていきます」
「お前たち先頭だったの?」
「そうなんですけど、先頭だからうっかり違う道に入ってしまったみたいで」
 
その時、近藤先生の携帯に着信がある。
 
我妻先生からで、三国先生をきつく注意してから先頭に戻ってみると、2班が先頭になっていて1班が見当たらない。ずいぶん速く行ってしまったのだろうかと相談する電話であった。
 
それで近藤先生が
「1組1班ならここにいる」
と答えると、我妻先生はびっくりしていたようであった。
 
結局1組1班は無理して先頭まで上がらなくても、そのまましんがりを歩いて目的地まで行けばいいということにしてもらった。
 

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「でも僕たちが道に迷っていなかったら、あの女性はやばかったよね」
と高山君が言う。
 
「まあ怪我の功名って言うんだっけ?」
と蓮菜。
 
「世の中、うまくできているんだね」
と留実子は言っていた。
 
「結果的には高山の方向音痴のおかげで、あの人は助かったことになる」
と田代君。
 
千里は微笑んでいた。
 

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この事件の後、高山君はクラス委員の辞任を申し出たのだが、誰にも失敗はあるし不得手なこともあるから、今後気をつけて、また不得意なことは誰かできそうな人に頼るようにしようということで慰留され、高山君もまた頑張ると言った。そして遠足中に酔っ払った三国先生は校長先生から厳重注意を受け、始末書を提出したらしい。
 

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我妻先生が千里や留実子の性別に気づいたのは、この遠足の後、6月下旬に保護者面談をしていた時であった。
 
留実子の場合。
 
「でもルービッシュ君は男らしくて元気ですね。男子たちの中でもみんなから頼りにされているみたいで」
と先生が言ったのに対して
 
「ルービッシュ?それ誰です?」
と留実子の母。
 
「え?花和君のお名前、ルービッシュとお読みするんじゃなかったんでしたっけ? ご本人はロシア人とのクォーターとか言っておられましたが」
 
「いえ、うちのは普通にるみこですが」
「え!?」
「ロシア人とのクォーターとかどこから出てきた話ですか?うちの親も夫の親もふつうに日本人ですけど」
「え〜〜〜!?」
 
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そういうやりとりがあって、ルービッシュというのは留実子の冗談であったことが判明し、留実子の性別も実は女であったことが判明した。
 
「ただ、あの子、自分が女の子であることに違和感を感じているんですよ。男っぽい行動、女の子らしくない言動があっても、ある程度大目に見てあげていただくと助かるのですが」
 
「分かりました。でも花和さん本当に男らしいから、てっきり男の子と思い込んでいました。大変申し訳ありませんでした」
 

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そして千里の場合。
 
「でも千里さんって美人ですよね。こういうこと言うのはセクハラになることを承知で言いたくなってしまいます。5年生の男の子からラブレターもらってしまったけど、どうしましょうか?なんて相談も受けたんですよ」
 
と先生が言うと
 
「あの子、小さい頃からそんな感じで。結構女の子みたいに見えるから、1年生の頃も、あの子の性別を知らない男の子から『僕のお嫁さんになってよ』とか言われて戸惑ってたみたいですけどね」
 
と千里の母は答えた。
 
「女の子みたいに見えるって。。。。女の子ですよね?」
「いえ男の子ですけど」
「え〜〜〜!?」
 
「で、でも運動会の時はスカート穿いてチアガールしてましたけど」
「まあ女の子の服を着るのは好きみたいですから。本人がそういうのしたいと言っていたら、良かったらさせてあげてください」
 
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と千里の母は微笑んで言った。
 

そういう訳で最初留実子の性別を知った時に、放送委員を組み直さなければならないのではと思った我妻先生は、千里の性別も知って、そのままで良いことを認識したのであった。
 
我妻先生はあらためて学籍簿を見たのだが、留実子の性別は女、千里の性別は男としっかり記載されており、ガーンと思った。しかし結局1組は男子16名・女子11名ということになる。
 
でもあの子たち、身体測定とかどうしてたんだっけ?と思って保健委員の田代君に尋ねてみると
 
「ああ、それは村山と花和の診断票を琴尾(蓮菜)と交換していましたから大丈夫です」
と田代君は答え
 
「ごめんねー」
と先生は謝っておいた。ただ実際には千里はちゃっかり女子と一緒に身体測定を受けていることまでは言わなかった。実際千里を男子と一緒に測定を受けさせるのは問題がありすぎると田代君は考えていた。
 
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蓮菜と田代君は、実際には千里は肉体的にも既に女子になっているのではと想像していたのである。
 
 
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