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ということで、この件は直接話してもらって何とかなりそうになった。
「今パソコン持ってないけど、向こうに行ったら買うとお母さん言ってた。退職金もらったから、そのくらいは買えそうだって」
「あ、パソコンが無いとできないんだ?」
「まあそうだね。でも今安いパソコンなら12-13万円で買えるよ」
「すごい大金だ!」
「うーん。人によっては大金かもね」
「でも私も時々混ぜてもらってたけど、あのグループは面白いね」
と蓮菜は言う。
「うん。私はかえって気楽につきあえていいんだけどね」
「なんかいろんな言葉が飛び交ってた」
「日本語の怪しい子が多かったから。英語の方が通じることも多い。リサはフランス語、ヒメはポルトガル語を基本的には使うし。タマラは最初は英語が多かったけど最近は日本語も上手くなったしフランス語も少し話してた」
「珠良ちゃん、梨紗ちゃん、姫ちゃん、千里ちゃん、それに悲しいことになっちゃったけど勲男君の5人が主たるメンバーかな」
「そうそう。それにヒメの妹のオトメ、私の妹の玲羅も入ることがあった。他にもジェーンちゃん、エブリーヌちゃん、マリアちゃん、ドーラちゃんあたりも入ってた。ドーラちゃんのドイツ語は誰も分からなかったけど、何とか手振り身振りでって感じだったね」
「勲男君が唯一の男子だったのね?」
と蓮菜は意味ありげに千里に言う。
「えへへ。だから私はあのグループが居心地良かったんだよ」
と千里も言う。
「私も恵香も千里ちゃんの性別のことは理解しているつもりだから」
「ありがとう」
「留実子ちゃんは・・・あれどうなってるんだっけ?」
「良かったら、彼女のことは、ありのままに見てあげて」
「うん。今は観察中」
「女らしいとか言ったら彼女を傷つけるから。男らしいと言ってあげるのは褒め言葉」
「男の子になりたいんだっけ?」
「本人もそのあたりは微妙な気がする」
「難しいなあ」
「蓮菜ちゃんも男の子になりたいって時々言ってる」
「うん、ちんちん欲しい。男に生まれたかった。でも性転換までするつもりは無いんじゃないかなあ。自分でもよく分からないけど」
と蓮菜は言う。
「私のあげられたらいいんだけど。蓮菜ちゃん、お医者さんになるって言っているけど、お医者さんになったら私の取って蓮菜ちゃんにくっつけてもいいよ」
「くれるならもらってもいいけど、そもそも千里ちゃんに本当におちんちんが付いているのかは凄く疑問だな。実はこっそり取ってしまったりしてない?」
「内緒」
「でも5人で仲良くしていた内の1人、また2人抜けだと寂しくなっちゃうね」
「そうなんだよねぇ」
「今度のおひな祭りさ、良かったら私のうちでしない?梨紗ちゃんも呼んで」
「あ、それもいいかな」
「千里ちゃんの妹さんも連れておいでよ。こちらは恵香と佳美は呼ぶし、美那にも声掛けようかな」
「そのくらいの人数がいたら賑やかだね」
「でもおひな祭りだからさ」
「うん」
「女の子のお祭りだもん。千里ちゃん、スカート穿いておいでよ」
千里はドキッとした。
「こないだから何度かスカート穿いてるの見た。持ってるなら学校にも穿いてくればいいのに」
「そうだなあ。でもおひな祭りはスカートで行こうかな」
「うんうん」
2月末、ヒナの一家とタマラの一家は旅立って行った。千里はリサ、留実子、蓮菜・恵香と一緒に彼女たちを見送った。
3月3日(金)。蓮菜の家に、千里、玲羅、留実子、リサ、恵香、佳美、美那といったメンツが集まった。
「凄い。おひな祭りにこんなに人数集まったの初めて見た」
などと蓮菜のお母さんが言っている。
「女の子8人と男の子1人か」
とお母さんが言ったのに対して、一瞬恵香が全員を見渡してから
「うーん」
と悩んでいた。
「いや、その人数で多分合ってるよ」
と蓮菜は笑って言っていた。
「初対面の子もいるかもしれないけど、ほぼ女の子同士だしさ、お互い今後は呼び捨てで行こうよ」
と蓮菜が提案するので全員同意した。
「男の子が1人混じっているのではという説もあるけど、多分みんな女湯に入れる気がする」
と千里が言うので、恵香がまた悩んでいた。蓮菜が苦しそうにしている。留実子が
「開き直ってるな」
と言ったが、コハルが
「まあ女湯に入れるなら、女の子の一種なんだろうね」
と言うと、留実子も頷いていた。
「ほとんどが小学3年生かな」
「玲羅が小学1年生」
「はい!1年生です。でも呼び捨てでということだったから遠慮無く呼び捨てにさせてもらいます」
「OKOK」
「玲羅の方が千里よりお姉さんに見える」
「よく言われます」
「なんかしっかりしてるよねー」
「玲羅はお姉さんではなくてお兄さんだったりして」
「私、男でもいいですよ〜」
「コハルは5年生だったっけ?」
と留実子が訊く。
「まあそんなもん」
と本人。
「コハルっていろんなこと知ってるし、凄く大人びて見えることもある」
と蓮菜が言う。
「実は5年生じゃなくて25歳だったりして」
と千里が言う。
「いや、そう言われても信じてしまいそう」
と蓮菜。
蓮菜のお母さんが散らし寿司、鶏の唐揚げ、クッキー、パウンドケーキ、などを作ってくれていたが、女の子たちの食欲がなかなかで、どんどん消費されていく。ジュースもファミリーサイズがあっという間に5本消える。
「ちょっと待ってて。何か買ってくる」
と言って、お菓子の大袋を4つ買ってきてくれたが、それもあっという間に消費されて、さすがのお母さんも呆れていた。
「よく食べる子は育つというし」
「寝る子は育つでは?」
「そうも言うかも知れん」
ともかくも今回の集まりで、急に「外人仲間」が減って寂しい思いをしていたリサも少し気を取り直すことができたのであった。
2000年3月15日(水)。
雪子の小学校では明後日が卒業式、明日は卒業式の予行練習である。ミニバスのサークルではこの日の放課後、近隣の公立体育館で6年生まで入れた最後の練習をした上で、キャプテンを6年の田中君から5年の鈴木君に、副キャプテンを6年の河合君から5年の持田さんにバトンタッチした。
最後に6年生対4−5年生で練習試合をしてから、全員でファンタで乾杯し、締めた。
練習が終わってから三々五々に帰っていたとき、決心したような顔をした雪子が河合君のそばに走り寄り、
「先輩、少しだけお話ししたいんです。明日の昼休み、もしよかったら校舎裏の桜の木の所でお話できませんか」
「いいけど、今じゃダメなの?」
と首をかしげて河合君が訊く。
「あらためてお話したいんで」
「うん、いいよ」
それで翌日の昼休み、雪子は校舎裏の桜の木の下で待っていた。心臓がドキドキしている。私、ちゃんと言えるかなあ。。。2年生なのにこんなこと言ったりしたら、ませてると言われるだけかも。でも今の気持ちのままで河合先輩と別れたらきっと後悔する。雪子はそんなことを考えていた。
考え事をしていたので、河合君が近づいて来たのに気づかなかった。
「待たせた?雪子ちゃん」
と河合君の声がする。
ハッとして雪子は振り向いて
「すみません。お時間取って」
と言ったが、河合君の格好を見て「へ?」と思った。
「どうしたの?もしかして多枝ちゃんと斗美ちゃんに意地悪とかされてる?その件は私も(持田)朱美ちゃんに言っておいたから、何かあったら彼女に相談してね」
と河合君は心配そうに雪子に言う。
が・・・・・
「どうして先輩、セーラー服なんですか?」
と雪子は訊いた。
「ん?今日は卒業式の予行練習がこの後あるから。6年生は全員中学の制服だよ」
と河合君は言った。
「でも学生服じゃなくてセーラー服なのは?」
「えっと、私一応女だし」
と言って河合君は頭をかいている。
「え〜〜〜!?」
と雪子は声をあげてしまった。
「あれ?まさか雪子ちゃん、私のこと男の子と思ってた?」
「御免なさい! 手術して男の子から女の子に変わったとかじゃないですよね?」
「うーん。ちんちん欲しいと思ったことはあるけど、取り敢えず生まれた時からずっと女かな」
「え〜〜〜〜〜!?」
「あ、でもバスケとかバレーの女子選手にはほとんど男に見える子けっこういるよね。私もしばしば対戦していて男と思ってたら女だったことあるよ」
などと河合さんは言っていたが、雪子はショックでもう頭がぼーっとしてしまっていた。
そしてこのようにして雪子の初恋は終わってしまったのである。
「んじゃ作戦決行するぞ」
と留実子は千里に言った。
「うん。お互いがんばろう」
と千里も答えた。
留実子と千里はその日2人だけで近隣の温泉に駅前からの送迎バスに乗ってやってきた。
そして受付の所で「小学生男子1人・女子1人」と申告した上で、留実子が男湯に、千里が女湯に入ろうという「いけない計画」を立てたのである。ふたりは戸籍上は「男子1人・女子1人」で間違い無い。
今日留実子は普段より男っぽい服装をしている。下着も男物をつけてきたらしい。千里はスカートを穿いているし、むろん下着も女物をつけている。
ふたりとも(特に留実子が)ドキドキしながら玄関を入り、受付の所に行く。
「小学生2枚ください」
と千里が料金2人分を出して言った。
「はいはい」
と言った最初赤いタグのついた鍵と青いタグのついた鍵を出そうとした。
が、そこに「あ、違うよ」と声を掛ける人がいる。
その人は12月にリサやヒメたちと一緒にこの温泉に入りに来た時にもいた人だと千里は認識した。
「この子、男の子みたいに見えるけど女の子なんだよ。ごめんね、間違えて」
と言って留実子の方を見て微笑んだ。
ありゃー。留実子のこと覚えていた人があったのか!
それで結局赤いタグのついた鍵を2つもらってしまった。
「うーん・・・。どうする?」
と取り敢えずロビーで自販機のジュース(千里がおごってあげた)を飲みながらふたりは相談する。
千里の手の中には赤いタグのついた女湯ロッカーの鍵が2つある。
しばらく考えていた留実子は言った。
「僕、やはり男湯に突撃する」
「ロッカーは?」
「こないだ見てたら、ロッカーにちゃんと服を入れずに、そのあたりに置いてある籠に入れている人もあった。だから僕もそうするよ」
「なるほどー」
「でも千里はほんとうに1人で大丈夫?」
「平気平気。じゃ当初の予定通り」
「うん。鍵は千里が両方持っててよ」
「了解」
それでふたりは「男湯」「女湯」と染め抜かれたのれんのある所で手を振って別れた。女湯の入口の所には係の人がひとり座っているが、千里はそこを平然として通過する。(男湯の入口の所には誰も居ない)
千里はふだん通りにロッカーを開けて服を脱いでしまう。パーカーとトレーナーを脱ぎ、スカートを脱ぎ、女の子シャツを脱ぎ、女の子パンティを脱ぐ。こういう女の子下着は母がたまに気まぐれで買ってくれる少数のものをこういう時に使っている。髪も洗おうと思ったので、愛用している子狐の髪留めも外してスカートの上に置いた。
今日はタオルで隠したりもしない。前回タオルを使っていたのは留実子と一緒だった手前である。留実子のロッカーの鍵も自分のロッカーに入れ、鍵を掛けて自分の鍵は手首に付け、浴室に移動した。
今日は沢山お客さんがいるが千里は平気である。身体を洗い、髪も洗ってからイザナミの湯につかる。思いっきり身体を伸ばしてから、ふっと息をついた。
「そういえば私って男湯には入ったことないなあ」
などともうすぐ4年生になる千里は浴槽の中でひとりごとのようにつぶやいた。