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■少女たちの国際交流(4)

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それで千里はパンフルートをもらってしまったのである。
 
「凄いものもらったね!」
「うん。これ楽しそう!」
 
と言って千里は早速その場でパンフルートを吹いてみる。吹いたのは『アヴィニョンの橋の上で』である。
 
「千里、その楽器前にも吹いたことあるの?」
とタマラから訊かれる。
 
「ううん。初めて」
「初めてでなぜそんなに吹ける?」
「え?これ吹けば鳴るもん。管はドレミ順に並んでいるし。ハーモニカよりずっと易しい。タマラやってみる?」
 
と千里が言うのでタマラも吹いてみるが、全然まともな曲にならない。
 
「難しいよぉ!」
「やはりいきなり吹ける千里が異常なんだ」
とリサが言っていた。
 

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「でも千里、輪投げも目隠しフレシェットも凄かった」
とヒメが言う。
 
「うーん。気持ちを集中して当てたい所めがけて投げれば当たるよ」
「でも目隠ししたら見えないじゃん」
「そうだっけ? 気持ちを集中したら目隠ししてても見えると思うけど」
「いや、普通は見えない」
 
「千里目を瞑って」
とヒメが言うので目を瞑る。
 
「これ何本?」
とヒメが指を立てて訊くので千里は
 
「3本」
と即答する。
 
「じゃ千里向こう向いてて」
「うん」
 
それでヒメは千里の後ろで指を立てる。
 
「これ何本?」
「4本」
 
「やはり千里って目を瞑っていても後ろ向いていても見えるんだよ」
とヒメ。
 
「なぜ見える?」
とタマラ。
 
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「たぶん全身に目がある」
「東洋の神秘かも」
「うーん・・・」
 

そんなことを言っていたら、リサのお母さんが5人の所に来る。
 
「あ、ここにいたのね。ちょっと来て」
と言って連れて行かれる。
 
「ゲストでお招きしている歌手の前座をすることになってた小学生のグループが風邪引いちゃって休みらしいのよ。それであんたたちちょっと何でもいいから演奏してくれない?」
 
などとリサのお母さんが言う。
 
「何弾くんですか?」
「ピアノとヴァイオリンは用意してあるのよ。リサがピアノ、シサトがヴァイオリン弾いて、他の子は歌でも歌ってもらえたら」
 
と言ったリサのお母さんは千里がパンフルートを持っていることに気づく。
 
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「あら、その楽器は?」
「今ゲームでもらったんです」
「あ、それじゃそれ吹く?」
「それでもいいかな」
「だったらヴァイオリンは?」
とタマラが訊く。
 
「ヒメも弾けるよね?」
とリサ。
 
「あまり自信ないけど」
 
それで、フロアの一角に作られた楽器演奏コーナーで、リサがピアノの前に座り、ヒメがヴァイオリンを持ち、千里がパンフルートを持った。ヒメが少し弦をいじっていたが
 
「これ調弦されてないみたい」
と言う。
 
「貸して」
と千里が言ってヴァイオリンを受け取り、リサに
「ソの音ちょうだい」
と言った。
 
それで千里はG線を合わせ、それから5度の音程を取ってD線、また5度の音程を取ってA線、そしてまた5度の音程を取ってE線を合わせた。リサにレラミの音を順に出してもらって微調整する(平均律に合わせるため)。
 
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「これでOK」
と言ってヒメに返す。
 

「何演奏する?」
「タマラとコハルが歌えそうな曲」
「月の光には?」
「あ。それなら私もフランス語で歌えそう」
とタマラ。
「私もだいたいは分かる」
とコハル。
 
それで『月の光に(Au clair de la Lune)』を演奏することにした。
 
リサが前奏代わりに最初の4小節を弾いてから、一斉に演奏する。
 
リサがピアノで和音を弾くので、千里がパンフルートでドドドレミーレードミレレドーーーとメロディーを弾き、ヒメはヴァイオリンでドーーーミーレー、ドーレードーーーと根音?っぽい音を弾いた。それでタマラとコハルが
 
「Au clair de la Lune, Mon ami Pierrot, Prete-moi ta plume, Pour ecrire un mot, ...」
 
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と歌う。静かな夜に月の光が射してきて、それで中に居る人と外に居る人とが「ちょっと開けてよ」「隣の娘の所に行ったら?」などと言って会話する、やや意味深だが、とても美しい曲である。
 
タマラは途中で歌詞が分からなくなって何だがごにょごにょと歌っていたが、コハルがしっかり歌詞を覚えていたので、後半ではそれに合わせて歌い、何とか最後までたどり着いた。
 
とりあえず拍手をもらう。
 
「Encore!」
「Un plus!」
 
などと声が掛かる。千里たちは顔を見合わせた。
 
「What do we play?」
「Sur le pont d'Avignon?」
「OK Let's go」
 
それで今度は一転して明るく楽しい曲『アヴィニョンの橋の上で』を演奏する。最初の方だけちゃんと Les beaux messieurs font comme ca, Les belles dames... と普通通りに歌った後は、橋の上で踊る者にタマラの思いつきで色々な人を登場させる。
 
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犬が踊ったり猫が踊ったり、先生が踊ったり、お母さんが踊ったり、おジャ魔女が踊ったり、ドラえもんが踊ったり、タマラが自分が知っているキャラクターを色々登場させて歌うので会場もずいぶん盛り上がった感じだった。
 
大きな拍手をもらってから、待機していたおとなの合奏団の人に譲った。
 

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お礼にと言って、5人全員にお菓子の袋と直径20cmくらいのボールを1個ずつもらった。
 
「What kind of ball?」
「Football?」
 
などと言っていたら、お礼を渡してくれた人が
「C'est un ballon de basket-ball, la taille quatre」
と教えてくれた。
 
ミニバスで使用するのが5号球なので、それより1つ小さいサイズである。
 
実は今日演奏を予定していたのが男の子のグループだったので、男の子ならというのでバスケットボールを用意していたらしい。
 
「男の子が女の子になっちゃったのね」
「でもそもそもバスケットは男女ともするし」
「ミニバスは男女混合だもんね〜(*2)」
「でもうちの小学校のミニバスは男子しか入れないみたいね」
「うん。女子で1人だけ6年生のジュネさんが入っているけど、あの人すごくうまいもん」
「でもせっかくこんなのもらっちゃったし、少し遊んでみようか」
 
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(*2)ミニバスの国際ルールでは男女を分けずにチーム編成することになっているが、日本では男子のみ・女子のみのミニバスチームの方が圧倒的に多い。しかし男女を分ける流儀が広まってしまった結果、試合に参加するのに必要な10人の児童を確保できずに休部に追い込まれているケースも多い。
 

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それでパーティーから帰った後で話していたら、工作が得意なタマラのお父さんが次の日の日曜日にバスケットのゴールを作ってくれた。
 
鉄パイプの先に輪っかを溶接し、魚網の破れたやつをもらってきて巻き付けた。パイプを差し込む台はスーパーの幟を立てるコンクリートの台の壊れかけたのをお店の人に言ってもらってきて、セメントで補修して再利用した。
 
結構な重量はあるものの、台とパイプ&ゴールを分けて運べば小学3年生の女の子でも3〜4人で何とか運べる。それで千里たちはこのピーターさんお手製のバスケットゴール(ただしバックボードは無い)を近所の稲荷神社の境内に置いてずいぶん遊んだのである。
 
「でも私、キリスト教徒だけど、ここであそんでいいのかなあ」
とヒメが心配そうに言うが
 
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「日本の神様は八百萬(やおよろず)の神、eight million gods といって、たくさん神様がいるから、キリスト教やイスラム教にユダヤ教の神様が少しくらい加わっても平気なんだよ」
 
とコハルが説明すると、みんな感心していた。
 
「コハルは神道信者?」
「そうだよ。日本人はたいてい神道信者と仏教信者を兼ねているけど、私は神道だけ」
「へー。千里は?」
「私はよく分からなーい。12月25日にはメリークリスマスと言うし大晦日にはお寺の除夜の鐘を突きに行って、お正月には神社にお参りするし」
 
「わからん!」
とヒメとリサが言う。
 
しかしコハルは笑って説明する。
 
「元々が八百萬の神様だから、他の宗教の行事もどんどん取り入れちゃう。日本人はたいていは元々が神道信者で、仏教はインドから入って来て日本風にアレンジされたものだと思う。日本の仏教は他地域の仏教とはずいぶん違う気がするよ」
 
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「でも神社で遊ばせてもらうし、私、神道信者になっちゃおうかなあ」
と千里が言うと
 
「歓迎歓迎」
とコハルが言って握手していた。
 
「私たちはキリスト教徒のままでいい?」
「もちろんOK, Bien sur, Tudo bem」
 

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しかしタマラや千里たちが始めた「バスケットボール」は誰もルールを知らないので、むちゃくちゃであった。彼女たちはゴールを置いた場所から5〜6mほど離れた場所に目立つ色の石を置き、そこを回ってきてボールをゴールに入れたら「1点」ということに決めた。
 
しかしトラベリングなどというルールを知らないので、ボールを取った子は、ボールを抱えて石の所を回ってきてはシュートする。バックボードが無いので直接入れなければいけないのだが、小学3年生ということでタマラのお父さんが高さ2mほどに作ってくれているので、結構入る。背の高いリサなどダンクのようなこともしていたが、それをダンクということなど知らない。
 
「でもバスケットおもしろいね」
「うん。これ冬になっても雪の上でもできない?」
「できそう、できそう」
「冬は部屋の中では輪投げして、外ではバスケットしようよ」
 
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「だけど千里、バスケットもよく入れる」
「輪投げと同じ要領だよ。バスケットのネットの少し上を狙って撃てばいいんだよ」
「上を狙うのか!」
「だってボールはゴールの上から入って下に落ちるもん」
「そうか!」
「ゴールの下から入って上に出たらどうする?」
「あ、それ2点にしよう」
「了解了解」
 
2点ということになったのでタマラががんばって下から上に通そうとしていたが、ネットに阻まれてそう簡単には通らない。
 
「やはり2点ゴール難しいね」
などとタマラは言っていた。
 

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千里たちはきわめて適当なルールでやっていたのだが、やっていると面白そうだねと言って、このグループ外の子も何人か参加した。
 
ここに参加したのが後々まで千里との交友が続くことになる、蓮菜や恵香たちであった。しかし彼女たちも元々のバスケットのルールが分かっておらず、タマラたちが考えた適当なルールで遊んでいた。
 

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一方の雪子が参加しているミニバスチーム。
 
多枝と斗美の2人はその後毎週、ミニバスの練習に出てきていた。元々運動神経が良いのでパスとかドリブルとかもどんどん上達する。
 
ところがどうしてもシュートが入らない。
 
それを見ていた6年生の河合君が2人に言った。
 
「君たち、適当に投げてるでしょ。それじゃ入らないよ。ちゃんと狙って投げないと」
 
「それどうやるんですか?」
 
この2人もさすがに上級生にはちゃんとした言葉を使う。
 
「しっかりゴールを見て投げるんだよ。見ているだけでずいぶん違う」
 
と言われるのでやってみると、少し入るようになった。
 
「うん、その調子、その調子」
 
それでやっているのだが、しばしばネットに横から当たったり、ネットの下を通過していくことも多い。
 
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「狙う時にゴールの少し上あたりを意識した方がいい。ゴールって上からしかボール入らないから」
「確かにそうですね」
 
「これボールを下から上に通したらダメなんですか?」
「それはバイオレーションだよ」
と河合君は笑って言う
 
「あと下をすっぽ抜けて行くとアウトオブバウンズで相手ボールになっちゃうでしょ?上すぎて跳ね返ってきたら、またつかんでシュートできる可能性がある。だから上を狙った方が有利なんだよ」
 
「なるほどー」
 
それで何度か河合君の模範演技を見せてもらった上で、彼女たちはゴールの上の方を狙ってシュートする。すると確かに上すぎてバックボードで跳ね返るものもあるが、バックボードに当たって入るケースも結構あり、ゴールする確率が随分上がった。
 
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「うん。その調子、その調子」
と河合さんが2人を褒める。
 
雪子はそれを眺めていて、河合さんって格好いいなあと憧れるような表情で見ていた。
 
 
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