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■少女たちのBA(19)

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2002年9月28日(土)、合唱コンクールの道大会が行われ、千里たち合唱サークルのメンバーは貸切りバスで札幌まで出掛けた。
 
昨年はビデオ審査で道大会に代えられたので、札幌でリアルで道大会に参加するのは2年ぶり2度目である。
 
この日は雨でみんな傘を持ってきていた。むろん道中は私服で、現地で制服に着替えるが「行くまでに濡れそう」といって、帰り用の着替えを用意してきていた子も多かった。
 
貸切りバスは正座席45席の大型で、部員34名(内ピアニスト2名)、引率の馬原先生と松下先生、保護者代表で、穂花の母と5年生の希望の母が付き添い、女ばかり38名である。今日は運転手さんも30代の女性だった。女子の団体ということで、女性ドライバーを回してくれたようである。運転手さんの制服姿に
 
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「かっこいい!」
と言う女子が多数で、運転手さんは照れていた。
 
貸切りバスは7時に学校を出て、深川留萌自動車道・道央自動車道を走り、2時間半掛けて9時半頃に札幌市内の会場に到着した。道中はみんな寝ていた。会場内に用意されている女子更衣室で制服に着替えた(男子更衣室は無い!いつもの男女差別)。
 

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大会は10時からである。午前中に小学校、午後から中学校の審査が行われる。高校は明日である。
 
最初に合唱連盟の会長が挨拶し、参加校の演奏が始まる。参加校は各地区の予選で優勝した全道10校である(札幌代表のみ3校)。N小は昨年全国大会に行って銀賞まで取っているのでラストの演奏。その前の9番目が一緒に全国大会に行った札幌のL女学園、その前が毎年上位に入っている函館のQ小学校である。実は6-8番目は昨年の成績順らしい。3-5番目は昨年出ていなかった学校で順序は抽選ということだった。
 
今年の演奏順序↓
1 札幌市立Z小(札幌3)
2 私立J小(札幌2)
3 北広島市立V小(後志石狩)
4 釧路市立M小(釧路十勝)
5 深川市立C小(空知)
6 室蘭市立P小(日高胆振 )
7 根室市立T小(オホーツク・根室)
8 私立Q小学校(渡島桧山)
9 私立L女学園(札幌1)
10 留萌市立N小(上川・留萌・宗谷)
 
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だいたい人口40-70万人あたり1校選出されているが、札幌市は人口196万人なのでここからは3校選出されている。
 

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1-2番目はその札幌の2-3位である。1位通過ではないので先頭に置かれているものの、レベルの高い札幌の代表なのでさすが上手い。みんな「上手いねー」と言いながら聴いていた。
 
みんな女声二部合唱での参加である。一部の学校に男子部員も多少いるものの、多くがアルトに参加していた。でも男子なのにソプラノに参加する子、中にはソプラノソロを歌った子もいて「すげー」とみんな言っていた。
 
津久美(ソプラノソロの予備歌唱者)がその子を凄い視線で見ていた。
「うまいねー」
「よくあんな声出ますね」
「去勢してたりして」
「まさか」
「声変わり前なんだろうけど、もったいないね、あんな子が声変わりしたら」
「やはり去勢制度の創設を」
などと映子が言うと、津久美が悩むような顔をしているので何だろうと思う。
 
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「でも男子だよね?」
「1人だけズボン穿いてるから男子だと思う」
「スカートが嫌いな女の子とかは?」
「疑い出すといくらでも疑えるが」
「スカートの好きな男子が混じっているかも知れないし」
 

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ずっと聴いていくが、千里は映子が緊張しているのに気付いた。彼女は地区大会で結局篠笛を吹いていない。学習発表会でも吹いてないので、実は観衆のいるステージで吹くのは今日が初体験である。千里はトイレに行くような顔で席を立ち、映子に
 
「ちょっと」
 
と声を掛けて一緒にホールを出た。そのまま玄関の外の屋根が少し張り出している部分まで連れ出す。雨が降っているのでこれ以上外には行けない。
 
「映子ちゃん、かなり緊張してる。私聴いててあげるからここで一度吹いてみてよ」
 
「でも笛だけ吹くのは何か・・・」
「私が歌うから」
「うん。それなら」
 
それで千里は映子から最初の音をもらい、『キツネの恋の物語』のピアノ前奏を「ラララ」で歌う。そこに映子の篠笛が入る。その後、千里はアルト・ソプラノの掛け合いを1人で歌って行き、それに映子が篠笛で合わせる。クライマックスとなって、アルトソロ・ソプラノソロも入るが、そこも千里が1人で歌う。篠笛が入り、千里がコーダを歌う。
 
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「うまく行った」
「うん。うまく吹けた」
「会場に人がいても、キュウリかニンジンが並んでると思えばいいんだよ。何も考えずに吹きなよ」
 
「ありがとう。頑張る」
 
それで映子もかなり落ち着いたようであった。
 
「でも千里凄いね。アルトのいちばん低い音からソプラノのいちばん高い音まで(G3-D6) 2オクターブ半あるのに全部歌った」
「このくらいはうまいソプラノなら出るよ」
「いや、ソプラノは逆にアルトの低い所は出ない」
 
映子は小さな声で訊いた。
「千里って声変わりはしないの?」
「女の子が声変わりする訳無い」
「やはり女の子なんだ!」
「何を今更」
 

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千里たちが席に戻った時は、既に6番目の学校まで演奏が終わっていた。7番目の根室T小が歌うのにステージに昇った時、物凄い雷があり、灯りが消える。場内は騒然とするが、灯りはすぐ点いた。
 
「お騒がせしました。近くに雷が落ちたようで異常電圧プロテクタが落ちましたが、全部戻しましたので」
と運営側から説明があった。
 
T小の子たちも気を取り直して歌った。事故が起きたとは思えない、美しい歌唱だった。
 
「気持ちの切り替えがうまいね」
「やはりしっかりした所はハプニングにも強いよ」
と馬原先生は言ってから
「あんたたちもたいがいハプニングに強いけどね」
と付け加えた。
 
「確かに色々ありましたね〜」
と部長の穂花も感慨深く言った。
 
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8番目の函館Q小が歌う。歌唱は無事終了したのだが、歌が終わった直後にまた近くで凄い雷があり、また会場全体の照明が落ちる。
 
「そのまま動かないでください」
という運営さんの声があり、3分くらいで照明は回復した。
 
明るくなった所でQ小の子たちはステージを降りて自分たちの席に戻った。
 
ステージのすぐ下で、何人かお偉いさんが話し合っている。大会をこのまま続けていいかどうか話し合っているようにも思えた。
 
「大変失礼しました。雷雨が激しくなっており、このまま大会を続けていいか協議しましたが、あと2校ですのでこのまま小学校の部は続けることにします。中学の部についてはまたあらためて協議します」
という発表であった。
 
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袖で控えていた9番目の札幌L女学園がステージに昇った。千里たちN小の児童は席を立ち、いったんホールを出て楽屋口からステージ袖に向かう。
 
落雷が激しい。いくつも近くに落ちているようだ。稲光から1秒もしない内に雷鳴がある。つまり300m以内に落ちているということである!
 
不安の中、L女学園は何とか歌唱を終える。そしてN小の子たちも少し不安な気持ちを持ちながらステージに入った。そして馬原先生が指揮台に就き、演奏を始めようとした時、
 

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これまでより明らかに近い場所で落雷があった。稲光と雷鳴がほぼ同時だった。つまり、ごくごく近くに落ちた。そして照明が消えた。
 
N小は最初ステージに立ったまま待機していたが、時間がかかるようなので、馬原先生が「みんな座ってていいよ」と言い、全員その場でしゃがんだり座り込んだりしている。
 
運営の人たちが走り回っているようだ。
 
10分くらい待たされた。
 
大会委員長さんが馬原先生の所に来て言った。
 
「実はこの会館自体に落雷しまして、会場の電気系統が壊れてしまいました。照明は点きません。どうしましょう?」
 
2年前は嵐で木が倒れてきて、エントランスの所の大きなガラスの壁が破壊されたし、全くこのホールは災難続きである。
 
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馬原先生は言った。
「暗い中でも構いません。歌わせてください」
「分かりました。よろしくお願いします」
 
「先生、これを指揮棒代わりに使ってください」
と言って、千里がペンライトを馬原先生に渡した。
 
「千里ちゃん、いいもの持ってるね!」
 
先生はふつうみんなを苗字で呼ぶが、この時は名前で呼んだ。やはり先生自身かなり動揺していたのだろう。
 
それで先生は指揮棒代わりにペンライトを振ることにした。これで暗闇の中でもきれいに拍が分かる。部長の穂花がみんなに声を掛けた。
 
「暗闇の中の歌唱って神秘的でいいかもよ。みんな頑張ろう」
 
みんな頷く。
 

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それで先生は「美那ちゃん行くよ」と言って、ライトをピアノに向け、前奏開始を促す。美那がピアノを弾き出す。美那は譜面が見えないが、当然暗譜しているので、大きな問題は無い。先生がそのピアノに合わせてライトを振る。部員たちが課題曲『おさんぽぽいぽい』を歌う。
 
非常事態にみんなの気持ちがひとつになった。それでこの課題曲がとてもうまく演奏できた。
 

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映子がアルトの列から出て来て篠笛を構える。
 
先生がまた美那にライトを当て、前奏開始。そのピアノに合わせて映子が篠笛を吹き、『キツネの恋の物語』の歌唱が始まる。アルトとソプラノが掛け合いをしていく。クライマックスで、希望のアルトソロに、穂花のソプラノソロが応え、篠笛の音色とともに全体が美しいハーモニーとなって終止した。
 
そのあまりに美しい終わり方に会場全体から拍手が贈られた。
 
(ピアノ・アルトソロ・ソプラノソロ・篠笛を全部正演奏者でやったのは結果的にはこの時の演奏のみとなった)
 

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運営が説明をする。
 
「この会場での本日の大会はこれで打ち切ります。中学の部は**大学ホールに舞台を移して1時間遅れの14時から実施します。小学校の部の結果は申し訳ありませんが、3時間以内に、各学校の代表者に電話連絡します。賞状・成績表は郵送させて頂きます。本日はこの会場はこれで閉鎖しますので、係員の誘導に従い、順序よく退場してください」
 
実を言うと、電源が落ちてしまったので、パソコンが使えず、結果が出せないのである。これは審査員が中学の部をおこなう**大学に移動してから集計することになったらしい。
 
退場に関しては、各校の代表を集め“足”を確認し、学校バスあるいは貸切りバスをこの会場に乗り付けている学校優先で1校ずつ退場させた。それでN小は3番目に退場し、バスに乗り込んだ。バスの運転手さんは予定より早い終了に驚いたようであったが、すぐお昼を食べるびっくりドンキーに移動した。
 
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予約時間より早かったので車内で15分ほど待機(トイレに行きたい人は個別に行く)する。この間にバスのカーテンを閉めてみんな普段着に着替えた。こういう時、全員女子なのは便利だ(少々男子が混じっていても「目を瞑っててね」と言って着替えたかも)。
 
やがて案内されて中に入る。そして予約していたランチを食べる。松下先生が全員にチョコケーキをおごってくれたので歓声があがっていた。
 
「でも千里、よくペンライトとか持ってたね」
と穂花が感心するように言うが、蓮菜は
「千里はその日必要になるものが全部分かってるんだよ」
と言う。
「なぜ必要になるかは分からないんだけどね」
と千里は言った。
 

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例によってランチ・ケーキを食べた上でも「雷でびっくりしてお腹空いた」などと言って個別に更にオーダーして色々食べている子たちもいた。映子は予約されていたランチに加えて!チーズハンバーグランチ、更にはピザまで食べて「そんなに食べて大丈夫?」と心配されたが「篠笛吹くので3食分くらいエネルギー使ったもん。それにもう演奏は終わったから大丈夫」と言っていた(学習能力が無い)。
 
みんな食事が終わって(トイレに行ってから)バスに戻り、留萌に向けて出発した。そして高速に入って10分くらいした所で馬原先生の携帯に連絡が入る。
 
「ゴールド?シルバー?」
と訊き直している。“金(きん)”と“銀(ぎん)”は電話では聞き間違いやすい。
 
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「本当ですか!ありがとうございます!」
という馬原先生の声が明るいので、みんな笑顔で顔を見合わせる。
 
馬原先生がみんなに伝えた。
 
「1位・ゴールド。金賞だったよ。また全国大会に行けるよ」
 
「やったぁ!」
「ばんざーい!」
と歓声があがり、帰りのバスはお祭り騒ぎとなった。
 
なお帰る途中、砂川SAでトイレ休憩したが、ここを出発したのは、SA到着後40分!も経ってからであった(馬原先生が運転手さんに「少し仮眠していてください」と言った)。みんなは寝たい人は寝て、起きてる人は1曲ずつリレーで歌って待っていた。このリレーは留萌に着くまで続いた。
 
なぜ40分も停車するはめになったのかは、ある女性の名誉のため、敢えて触れないことにしておこう!
 
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2002年9月29日(日).
 
昨日札幌まで日帰りで往復し、コーラスの道大会に出たばかりだが、千里は小春に言われて路線バスで旭川に出た。美輪子に呼ばれたということにしたが、美輪子には電話して
「旭川に出る言い訳に使わせて」
と頼んでおいた(美輪子はデートでもするのかなと思ったよう)。
 
美輪子が好きな黄金屋の洋菓子“金と銀”をお土産に持って行った。
 
でもそのお土産は小町に持って駅で待機していてもらい、千里は小春と一緒に、旭川市内某所に向かった。
 
「千里は、そろそろ加減を覚えた方がいい」
と小春は言ったのである。
 
「ヒグマを倒すのには、確かに現時点で千里のマックスのパワーが必要だった。でも倒すのにそれほどの力は必要ないものもある。全ての相手に全力を使っていたら、多数の敵を相手にした時に1匹倒しただけで、後続の敵にやられてしまう。だから、千里はその敵の“キャパシティ”を見抜いて、その敵を倒すのに必要なだけのパワーで相手を倒す必要がある」
と小春は言った。
 
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「だから今日はその練習をしよう」
「どうやって練習するの?」
 
「これから悪霊が、うじゃうじゃ居る所に連れていくからさ。どんどん倒して。但し各々の悪霊をその悪霊を倒すのに必要な最低限のパワーで倒す練習」
 
「へー。ゲームみたい」
 
「似てるけど、ゲームはあくまで遊びにすぎない。今日やるのは実戦だし、真剣勝負。失敗したら、千里の命にも関わるよ」
 
「でも私が倒せる程度のものが相手なんでしょ?」
「まあ今の千里なら大丈夫だろうと思うから連れていくんだけどね。でも絶対油断するなよ」
「分かった」
 

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それで2人が着いたのは、まるで神社のような外見の施設である。
 
「何これ?」
と千里は眉をひそめる。
 
「酷いでしょ?」
「こんな所にお参りしたら、たくさん変なのに憑かれる」
「そうそう。だから今日は大掃除だよ」
「勝手に掃除していいの?」
「まあ余計な親切だね」
 
それで2人は中に入った。いきなり寄ってきて憑依しようとした悪霊を一瞬で破壊する。
 
「強すぎ。今の半分の力で良かった」
「そう?」
 
とにかく悪霊はどんどん寄ってくるので、どんどん破壊していく。たいてい一発で破壊するが、手加減しすぎて破壊できず、至近距離まで来たのを慌てて再度エネルギーをぶつけて破壊したのもあった。
 
「気をつけて。相手をなめたらダメ」
「分かった」
 
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千里と小春はそれでそこの境内をほんの30分ほど歩き回る間に恐らく300-400くらいの悪霊を破壊した。
 
「だいぶうまくなった。かなり相手の力量を正確に見られるようになった」
「うん。何となく感覚が掴めてきた」
 
そんなことを言っていた時である。
 
千里は背中がぞぞぞっとした。
 
『千里?』
『分かってる』
 
タイミングを見計らう。
 
相手はかなり怒っている。でも怒っている故に隙があると思った。相手がこちらに背後から襲いかかろうとした。
 
千里は振り向きざま、マックスのエネルギーを相手にぶつけた。
 
相手が一瞬で消滅する。
 

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相手が大きかったからだろう。つむじ風のようなものが起きたが、千里も小春も霊鎧をまとって防御した。
 
「強すぎた?」
と千里は尋ねた。
 
「いや、今のはマックスで良かった。でもこないだヒグマを倒した時の倍くらいのパワーだったじゃん。私もびっくりした」
 
「だってヒグマより強いと思ったもん」
 
「千里のマックスが分からなくなった」
と小春は言った。
 
どうも今のが“ラスボス”だったようである。こいつが出てくるのは実は想定外だったらしいが、万一の時は“毘沙門天のお札”を使うつもりで持っていたらしい。でも千里の力で倒せそうだったから使わなかったと小春は言った。
 
「毘沙門天(びしゃもんてん)が効くの?」
「ここの神殿に居座っていたのは大狸。狸は犬=戌の仲間だから、五行では陽土。木剋土で、土を倒すには陽木を使えばいい。陽木は十二支では寅。毘沙門天のお使いが虎なんだよ」
 
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「むつかしー。でもずっと以前(1994)、狼倒すのにも虎使ったね」
「そうそう。あれと同じ」
 
あの時倒したのはニホンオオカミの生き残りかと騒がれたが、大学の先生が調べた結果、モンゴルなどに生息するユーラシア・オオカミと分かり、誰かが持ち込んだのだろうということになった。
 
あれ以来随分色々な悪霊・妖怪、時に野生動物も倒してきている。マムシとかイノシシを倒したこともある。リアルでは先日倒したヒグマが最大の獲物だ。私って必殺仕事人だったりして??ふたつ名は“鰊(にしん)のおちさ”とか?
 

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小春は“空っぽ”になった神殿に神様を1柱勧請して、ここの管理者になってもらった。まだ若い美人のお姉さんだった。それでここは“神社みたいな”変な施設から、小さいながらも一応まともな“神社”になった。
 
「空っぽのままだとまた変なのが入るかも知れないからね」
「前にもそんなこと言ってたね」
 
「性ホルモンとかも男性ホルモンも女性ホルモンも無いのはまずい。男性ホルモンを生産するものを除去したら女性ホルモンを生産するものを入れないとね」
 
「へー。私、女性ホルモンがあるよね?」
「もちろん。今は退避させているお母さんの卵巣の力だけど、癌治療が終わって卵巣をお母さんに戻した後のことも考えてるから」
「それは小春に任せた」
 
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千里のIPS細胞から作った卵巣・卵管・子宮・膣などのセットは小春の体内で現在育成中である。それをどうやって千里に移植するかは、実は何も考えていない。
 
2人はその後、もう少し“雑魚掃除”をしてから、その“神社”を後にした。一度市内の大きな神社に参拝し、昇殿して祈祷を受けて、身を清らかにする。
 
その後で小町にも連絡し、美輪子のアパートに向かった。
 

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少女たちのBA(19)

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