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さて志水家では、お風呂が壊れて修理は明日になるということだった。
「でもお風呂今日は入れないとなると、急に汗が気になってくる」
などと詩子が言う。
「困りますよねー」
「この辺、銭湯とか無いの?」
「歩いて・・・7-8分の所にありますよ」
「じゃ、私そこに行ってくるわ。私も部屋の片付けで汗掻いたし」
「ごめんなさい!」
「いや、あんたは仕事してて。私がりゅうこちゃんを連れていってくるよ」
「すみませーん」
それで照絵は、龍虎お出かけセットを渡し、ミルクも作って(普通に流水を瓶に掛けて急冷する方法で作った。ただし時間経過で冷めることを考え、やや熱めに作っている)、地図をコピーして銭湯の場所にマークを付けて詩子に渡した。念のため照絵がおしめを交換しておく。
詩子が龍虎を抱っこひもで抱く。
「じゃ行ってくるね」
「すみません。お願いします」
それで詩子は龍虎と一緒に銭湯まで出掛けたのである。
銭湯もずいぶん少なくなったが、この付近は学生街に近いこともあり、まだ営業している銭湯があった。地図を頼りにそこまで行くと、派手なネオンサインで“湯”と表示されているので、詩子は一瞬「トルコ?」と思った。物凄くおしゃれな外観である。銭湯というと小ぎたないイメージを持っていた詩子は意外に思った(きれいにしてないと学生さんたちが来てくれない)。
玄関を入った先に下足置き場があり、その先が男女に分かれている。靴を脱いで下駄箱に入れて下駄箱の札を取る。“女”と書かれている方のドアを入る。番台に80歳くらいのお婆さんがいる。詩子はホッとした。この銭湯の外見に気合負け?していた詩子は、ここに美人のお姉さんでも座っていたら、逃げ帰っていたかも!?
(番台に美人のお姉さんが座ってたら男子学生が恥ずかしがるかも)
「おとな1人、子供1人」
と言うと
「480円(*3)」
と言われるので、500円玉を出すと、番台の所に多数並んでいる硬貨から20円をこちらに押し出すのでそれを受け取った。このあたりのやり方も昔風で和む。
(*3)東京都の公衆浴場の料金は、2000.5.21-2006.5.31では大人400円中人180円、小人80円である。東京都では髪洗い料金は1970年に廃止された。
脱衣場に入るが、学生さんとか外人さんが多いなと思った。こちらを見て
「可愛い!何ヶ月ですか?」
などと声を掛けてくる学生さんがいるので
「11ヶ月なんですよ」
と答える。
「じゃもうすぐ1歳ですか。でもこの子、ほんとに可愛いですね。その内、美少女アイドル歌手になるかも」
「そ、そうね、アイドルとかなれたらいいね」
などと答えた。
脱衣場のロッカーを開け、下足箱の札と、バッグを入れる。バッグには龍虎のおしめの代え、保温用のキルト袋に入れたミルクの瓶などが入っている。自分が服を脱いだ後で、龍虎を脱がせて服をロッカーに入れる。おむつを取ってビニール袋に入れ、バッグの中に入れる。
え!?
と詩子は龍虎の裸を見て驚いた。
話が違うじゃん!
と思っていたら、近くに居た30歳くらいの外人さんが声を掛けた。
「可愛いお嬢ちゃんですね」
「ありがとうございます」
詩子は少し悩んだが、気にしないことにした。きっと仕事が忙しくて記憶が混乱してるのよ。
それで龍虎を抱き浴室に移動した。
これが龍虎の女湯デビューであった!!
千里たちは夕食の後はいったん部屋に戻ったが、すぐ、お風呂に行くことにする。N小の児童は 19:00-20:00 に1組, 20:00-21:00 に2組、と指定されていた。ここの大浴場は男湯も女湯も各々定員が50人くらいである。N小の児童がいきなり20-30人も入ると、定員の半分を占有してしまうので、分散させることになったのである。
「みんなお風呂行こう」
と部屋で恵香が言うが、留実子が悩んでいる。
「大丈夫だよ。私たちが付いてるから」
と蓮菜が言うと
「じゃ一緒に行こうかな」
と留実子も言い、恵香・蓮菜・小町と一緒に行くことにする。
それで部屋を出ようとしたら千里がまだ座っている。
「千里行くよ」
と蓮菜が言う。
「いやちょっと私は・・・」
と千里は戸惑うように言ったのだが
「千里が公衆浴場に入っても問題無いことは既に判明している」
と恵香に言われ、結局千里は恵香と蓮菜に連行されるように大浴場に連れていかれたのであった。
「去年の宿泊体験でも女湯に入ったじゃん」
「それはそうだけどね」
ということで、千里も留実子も女湯に行ったのである。
例によって女湯の入口の所に居る仲居さんから
「男の子は男湯に行って」
と“留実子が”言われるが、
「この子、よく間違われるけど女の子なんですー」
と恵香が言うと
「ほんとに?ごめんね」
と言われる。それで中に入るが、また脱衣場で仲居さんが飛んできて
「男の子は女湯に入っちゃダメ」
と言われて、千里が
「この子、女の子なんです」
と言ってあげる。
「ホントに?」
と仲居さんが疑いの目で見ているので、
「ほら胸触ってみてください」
と言って、留実子の胸に触らせる。
「あら、本当に女の子なのね。ごめんね」
とは言ったものの、仲居さんは近くに居て、ずっと目の端で留実子を見ていた!
脱衣場には多数のクラスメイトがいる。仲居さんは留実子を見ているが、クラスメイトの女子たちはむしろ千里を見ている。
しかし千里がさっさと服を脱いで裸になると、みんなホッとしたような雰囲気。少し遅れて留実子が裸になると、仲居さんは首をひねりながらも、向こうに行った。
千里と留実子に少し遅れて恵香・蓮菜が裸になる。小町は公衆浴場は初めてだったようで、他の子に合わせて服は脱いだものの、少し恥ずかしそうにしている。
「大丈夫、バレないから」
と小町に言って、5人で浴室に移動した。
各々身体をきれいに洗う。千里は最初にあそこを洗うが、もうこの“形”になってから、2年以上経つので、男の子だった頃はどうやって洗っていたのか思い出せない気がした。こんな所に何か付いてたら凄く邪魔になりそう。
しかしここに出っ張りがある状態から、穴が空いている状態に変わるのは劇的なビフォア・アフターだよなぁとも思う。一応“この状態”は、母の癌治療が終わるまでとは言われているが、男の身体には戻りたくないと千里は思っていた。
そもそも今更自分の身体が男に戻ったりしたら、女子のクラスメイトたちから殺されそうな気がするし!剣道大会の団体優勝とかも取り消されて非難轟轟だ。万一そんなことになったら、バレない内に、どこかに密かに逃げ出さないといけないかも!?
千里はその後、髪を洗っていて、疲れが洗い流されていく感じがする。やはりお風呂はいいなあと思う。手を洗い、胸を洗い、足を洗う。足の指の間を洗うとこれがまた気持ちいい。
全身きれいに洗ってから、浴槽に入る。穂花が寄ってきて
「千里かなり胸が大きくなってきた」
などと言う。
「うん。まだまだ小さいけどね」
と千里。
「ねえ。下も触っていい?」
「まあ穂花ならいいよ」
それで穂花は下にも触る。
「やはり女の子なんだね!」
と穂花が言うと
「何を今更」
と蓮菜は言っている、
玖美子まで寄ってきて千里の胸を触る。ついでに玖美子も下まで触って千里の性別を再確認していた。
「こないだも私の裸を見たくせに」
「あの時は触ってないもん」
「でもこれAカップのブラ着けてもいいと思う」
「Aカップなんて、まだ恐れ多い」
「いや、行けるよね」
と美那が言う。
「千里、もうジュニアブラじゃなくてAA55を着けなよ」
「そんな小さなサイズのブラ売ってる?」
と千里はマジで訊いた。
「千里はソフト部のピッチャーだから、腕の力を付けるのに腕立て伏せ毎日100回とかやってる。それで胸も発達してるんだよ」
と玖美子が言う。
「ああ、やはり腕立て伏せは効くのか」
「でも100回とか凄いね」
「去年は10回もできなかった」
「でも千里は努力の人だから」
「さっすがー」
千里はここに(2組の)麦美たちが居なくてよかったと思った。女の子の身体ならソフトの公式戦に出てよとか言われたら、また話が面倒になりそうだ。ソフト部員で1組の初枝と杏子も幸いにもまだお風呂に来てないようである。
美那が優美絵のバストに気付く。
「ゆみちゃん、おっぱい少し大きくなってきてない?」
「最近急成長してる気がする」
それで他の子も優美絵の傍に寄る。
「これかなり大きい気がする」
「ゆみちゃん、これもうブラジャーが必要だと思うよ」
「そうかなあ」
「それ、昼間も言ってた所」
と佐奈恵が言う。
「でも私身体が小さいから」
「お店で訊いてみなよ。お店に置いてないものでも取り寄せてもらえるよ」
「そうそう。こんな大きな胸にブラ無しって、体育の時とかに揺れて痛いよ」
とみんな言うので、優美絵も今度お母さんと一緒に旭川のランジェリーショップとかに行ってみようかなあと言っていた。
千里、そして優美絵がさんざんみんなに注目されていたおかげで、留実子は目立たずゆっくり入浴できた。時々一般客がギョッとして留実子を見ることはあったが、留実子がわざとバストが半分くらい見えるように入浴しているので女の子なのかと思い、悲鳴をあげたりすることは無かったようである。一応(千里の指示で)そばに小町が付いててあげた。小町自身も初めての人間の!共同浴場で不安だったので、留実子のそばにいることで随分心強かったようである。
なお(ソフト部員の)初枝と杏子は今日の行程がハードだったので部屋で眠っていて、お風呂からあがって部屋に戻った佐奈恵と優美絵に起こされた。それで7:45くらいになってから慌ててお風呂に来た。あがったのは8:05くらいで2組と交錯している。それで千里が女湯に入ったのをふたりとも見なかった。
千里や留実子たちは7:35くらいには上がって、部屋に戻った。
一方、龍虎を抱いて浴室に入った詩子は、自分の身体を手早く洗ってから、赤ちゃん用の石鹸で龍虎の身体をきれいに洗ってあげた。夏はやはりたくさん汗を掻いている。頭を洗い、耳の後ろなどもきれいにしてあげる。首筋を洗い、手を洗い、身体を洗って、お股もちゃんと“開いて”中まで丁寧に洗う。足も洗う。その上で自分の身体に再度シャワーを掛けてから浴槽に浸かった。
学生さんが多いので、孫(?)連れは目立つ。数人の女学生が寄ってきて(男子学生がいたら大変だ)、
「可愛いー」
「女の子ですよね?」
などと声を掛ける。
「うーん。どっちなんだろう」
などと言いながら、龍虎の身体を持ち上げてみる。
「やっぱり女の子だった!」
と学生さんたちの声。
龍虎は彼女たちのアイドルと化して、たくさん“愛で”られていた。龍虎もたくさん声を挙げて笑って、女学生たちに愛嬌を振りまいていた。この子は天性のアイドルかも知れないと詩子は思った。
女の子であったとしたら!
千里たちが部屋に戻ると既に布団が5つ敷いてあった。
「誰がどこに寝る?」
「こうしよう」
と言って蓮菜は紙に配置を描いた。
蓮菜 留実子
恵香 小町 千里
奥側に蓮菜と恵香が寝て、千里が入口そばである。
「うん。これは凄く平和な配置という気がする」
と恵香も言ったが、小町が異義を唱える。
「自分の主人に守られる形にしたら小春さんから叱られます」
それで結局千里と小町は入れ替えることにした。蓮菜がだったら自分と恵香を入れ替えようと言った。
恵香 留実子
蓮菜 千里 小町
更に蓮菜は千里と留実子に言って↑恵香と留実子の布団の向きを逆にした。それで5人とも部屋の中央向きに枕を置くようにした。
「お互いに他の子の足を見ることのない配置」
「それもいいことだ」
「深夜までおしゃべりしていられる配置ですね」
それで、この配置で寝ることになった。