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お昼休みの後、合唱サークルの子たちは12:45に音楽室に集まり、まずは制服に着替えて、1度合わせた。それで体育館に移動し、吹奏楽部の演奏が終わったところで壇上に並ぶ。
今日の学習発表会では“バックアップ演奏者に場数を踏ませよう”という趣旨にしていた。それで指揮は6年の蓮菜が務め、ソプラノソロは穂花ではなく5年生の津久美、アルトソロは希望ではなく6年生の紗織、篠笛は映子ではなく4年生の由依が吹く。ピアノも美那ではなく5年生の香織が弾くので、美那はステージ下からのんびりと眺めてようと思ったら
「あんた折角だから歌いなさい」
と言われて、予備の制服を着てソプラノの列に並ぶことになった。
「私歌は下手なのに」
「気持ち気持ち。楽しめばよい」
なお、地区大会を見学した5人の内4人が正式加入して、現在部員は34名に膨れあがっている(内2名がピアニストなので、歌唱者は32名であり、部員全員コンクールのステージに立てる。あと4人増えると選抜が必要になる。馬原先生は来年からは選抜をしなければならないだろうなと覚悟している:前居た学校では毎年選抜していた)。
全員整列した所でレディススーツを着て指揮棒(先生から借りた)を持った蓮菜が入ってきて、会場に向かって一礼する。蓮菜は度胸があるので指揮者にはピッタリである。
部員に向かって両手を掲げ、ピアニストの香織とアイコンタクトする。前奏が始まり、最初の曲『大きな古時計』を歌った。この曲自体は春から練習していた曲のひとつだが、先月平井堅がCDをリリースして、びっくりした。しかし話題の曲だけに、会場の受けは良かったようである。
続けて『みどりのそよ風』を歌う。小学生の合唱ではおなじみの曲だが、美しく明るい曲なので、来年4年になる今の3年生への勧誘の意味もある!
3曲目にコンクールの自由曲『キツネの恋の物語』を歌った。篠笛、アルトソロ、ソプラノソロが入るし、音域も広い難曲であるが、学習発表会という場なので、みんなリラックスして歌うことができた。最高音のD6も千里・穂花のほかに、5年生のスミレちゃんも出していたので「おおっ」と思った。かなり練習したのだろう。出せる人数が増えると本当に心強い。
それで退場して音楽室に戻ったが、千里も穂花も、スミレを褒めた。
「まだ確実に出るわけじゃないんですけど今日は出ました」
と彼女は言っていた。
「最初はそんなものだけど、そうやって出していれば安定して出るようになるよ」
「喉を痛めないようにね。高い声出した後は、飴とか嘗めて喉をメンテしよう」
「はい!」
みんな制服から普通の服に着替えて、各々のクラスの所に戻った。これが13:40くらいである。でも14:00には教室に行って劇の衣裳に着替えた(本当に忙しい)。むろん千里も留実子も女子と一緒に着替える。
なお劇の時間が
14:30-15:00 6年1組
15:00-15:30 6年2組
となっているので、着替えはこのようにしている。
14:00-14:30 6-1=1組女 6-2=1組男
14:30-15:00 6-1=2組女 6-2=2組男
15:00-15:30 6-1=1組女 6-2=1組男
15:30-16:00 6-1=2組女 6-2=2組男
そして『オズの魔法使い』の劇が始まる。
第1幕第1場
舞台背景には、カンザスの大草原の景色が投影されている。今回の劇の背景は絵の上手い、千里と佳美、高山君が手分けして描いたものである。このカンザスの風景は佳美の絵だ。
ステージに小屋のセットが建っている。この小屋は実際には運動会で使うテントの骨組み(アルミ製)を借りて、ブルーシートを垂らしたものである。小屋の床は最初の状態ではステージの床より50cmほど高くしている。これは台の上に板を渡したもので、小学生4人くらいの体重は支えきれる。
ドロシー(優美絵)、トト(初枝:犬のぬいぐるみを着ている)、エムおばさん(玖美子)・ヘンリーおじさん(原田)がお茶を飲んでいました。(トトはお茶は飲んでいない)
そこにビュー!という音がします。ヘンリーおじさんが窓の外を見て
「大変だ。嵐が来た。みんな地下に入るぞ」
と言います。
「みんな入って入って」
それでおばさんが入り、ドロシーが入り、おじさんが入ります。
(この演技のために床は50cm高くしていた)
ところがここでドロシーが
「あ、トトがいない!」
と言います。それで
「ドロシー行っちゃだめ!」
とおばさんが言うのもきかず、ドロシーは地下室の穴から這い出します。そしてトトを抱きしめるのですが、ここで嵐が来てしまいます。
「きゃー!!」
とドロシーが悲鳴をあげます。
(背景の映像は縦横乱れるようになり(この映像は美那が画像をパソコンで加工して作った)、やがて激しい嵐の映像となる。背景に雲が流れていく。ついでに飛行船まで見える(*11) つまり小屋は空中を飛んでいる。その状態が1分ほど続いた後、背景は落下するような様子を映し、やがて「ドスン」という音と共に停止する。背景は森の中のような様子である。今回、森関係の絵はほとんど千里が描いている)
(*11) 空を飛んでいるのを強調するため敢えて描いた。『オズの魔法使い』が発表されたのは1900年5月17日。一方ツェッペリンが飛行船 LZ1 を完成させたのは同年7月2日で、実はオズの魔法使いの時点では“製品として完成された”飛行船は存在しない。但し実験的なものは1852年にアンリ・ジファールが飛行に成功したものが最初である。ライト兄弟が飛行機の飛行実験に成功したのは1903年。
第1幕第2場
ずっとトトを抱きしめていたドロシーはおそるおそる立ち上がるとトトを従えて小屋の外に出てきます。するとマンチキンたち(佳美、鈴木、津山)が
「ばんざーい!」
「ばんざーい!」
と言っています。
マンチキンの1人が言います。
「大魔女様、ありがとうございます。これで東の国は平和になります」
「私は魔女とかじゃないわ」
「でも東の魔女を倒してくださったじゃありませんか」
「何かの間違いでは」
するとそこに黄色いドレスを着た女性(北の魔女@千里)が出て来て
「いえ、あなたはこの家を東の魔女の上に落下させて殺したのです」
と言います。
見ると、小屋の下に銀色の靴を履いた足が出ているのでドロシーは
「きゃー!」
と悲鳴をあげました。
(実はドロシーが小屋を出た所で、小屋の床の支えを抜いて床の高さを低くしている。足はマネキン人形の足で最初からあったのを布を掛けて隠していた)
「私、人を殺しちゃったの?」
「気にすることはありませんよ。悪い魔女だったのですから」
「そう?」
北の魔女は、東の魔女が履いていた靴を抜き取り、ドロシーに渡しました。
「この靴を履いて行きなさい。きっとあなたを行きたい場所に導くでしょう」
「それで私、カンザスに帰れる?」
「ええ、きっとそういうことになりますよ」
「でもどうやったら帰れるのでしょうか?」
と優美絵が、ではなくドロシーが言うと、北の魔女は考えるようにしてから
「オズの魔法使いに頼めば、きっと願いはかなうでしょう。オズの魔法使いの住むエメラルド・シティに行くには、そこに続いている黄色い道を行くとよいですよ」
それで北の魔女はドロシーに「お守りに」と言ってキスをしました。ドロシーの額にキスマークが付きます(赤い色紙を唇の形に切ったものを両面テープで貼った。千里のキスは寸止め)。
語り手(穂花):それでドロシーは銀の靴を履き、トトを連れて、黄色い道を歩いてエメラルド・シティを目指すことになったのです。
第2幕第1場
それでドロシーはエメラルド・シティに向けて出発しました。
(小屋のセット(テント)を数人の男子で右に移動し、背景の映像は左→右にスクロールしていく。これでドロシーたちが歩いて行っている感じが出る。優美絵と初枝は実際は足踏みしている)
ドロシーは途中で麦畑に立っている、かかし(scarecrow@田代)に出会います。
(ここは田代が乗っている台車を背景のスクロールと同じ速度で男子2人で引いている。次に出てくる木こりも同じ)
かかし(田代)がドロシーに声を掛けました。
「お嬢さん、僕を留めている棒から外してくれない?ここにずっと立ってるのに疲れちゃって」
それでドロシーが棒から外してあげると、かかしは言いました。
「ありがとう。助かった。僕の頭の中身はわらばかりで、脳味噌(brain)が無いから、いつもカラスに馬鹿にされてるんだ」
「オズの魔法使いに頼んでみたらどうかな?もしかしたら何とかしてくれるかも。どうにもならないかも知れないけど、今より悪くなることはないもん」
「じゃ頼んでみようかな。そのオズの魔法使いってどこにいるの?」
「私も今そこに行く所なの。一緒に来る?」
「行く行く」
語り手(穂花):そういう訳で、かかしはドロシーと一緒にオズの魔法使いの住むエメラルド・シティに行くことにしたのです。
第2幕第2場
それでドロシー一行が歩いて行くと(例によって出演者は足踏み。背景スクロール)、道はやがて森の中に入り、1本の木が切りかけで、そばに斧をふりあげたままの金属製の木こり(高山)がいました(*12).
そしてドロシーたちが通り掛かると彼は言いました。
「助けてくれー」
「あなた何やってるの?」
とドロシーが尋ねます。
「お嬢ちゃん、よかったらそこにある油缶から油を少し取って、俺の関節に差してくれないかい?急に雨が降ってきて、おかげで錆び付いて動けなくなってしまって。動けないから油を差すこともできなくて」
「大変!」
それでドロシーは金属男の言う通り、油缶から少し油を油差しに取ると、まずは首の所に差します。すると金属男は何とか首が回るようになります。左手の手首・肘・肩に差すと左手が動くようになり、右手にも差すと右手が動くようになって、金属男は振り上げたままだった斧を振り下ろし、木は倒れました。そして足首・膝・足の付け根にも油を差すと、金属男は歩くことができるようになりました。
(*12)多くの「オズの魔法使い」の翻訳本には“ブリキ男”と書かれているが、原作は Tin woodman “錫(すず)製の木こり”である。
さて、“ブリキ”(日本独自の言葉で語源は不明)とは、鉄鋼板の表面に“錆びないように”錫(すず)をメッキしたものである(20世紀半ばまでは熱漬法(ねっせきほう)といって熔解した錫の中に鋼板を漬けて作っていた。現在は電気を使う。
つまり
錫(すず)は錆びない!
この点は原作公開後、かなり突っ込まれたらしい。
それで一部の親切な?翻案者が、木こりの身体の素材を錫ではなく鉄鋼板あるいはブリキ板ということにしてしまった。多くの日本語訳はそれを踏襲している。
ブリキも表面が錫だから普通は錆びないのだが、メッキが剥がれると鉄鋼部分が露出して錆びる。関節部分はよく動くのでそのメッキが剥がれてしまって錆びたのではないかと。
でも関節の所の部品を交換した方がいいと思う!
しかしブリキとするのは、やはり変えすぎだと思うので、今回は原作通り錫ということにした。ただ、錫男というのが語呂が悪いので金属男にした。
「助かったよ。ありがとう!」
と金属男。
「あなたはロボット?」
「俺はこれでも人間なんだけど」
「人間に見えないんだけど」
すると金属男は涙無しでは聞けない話をしたのです。
彼は普通の人間の身体だった。そしてある娘に恋をした。しかし娘の母は彼との結婚に反対し、東の魔女のところに行って、結婚を邪魔して欲しいと頼んだ。
ある日、木こりが木を切っていると、斧の手が滑って、彼の左足を切ってしまった。彼は金属加工職人のところに行き、無くなった左足の代わりに錫製の左足を作ってもらった。それで、彼がまた木を切っていたら、また斧の手が滑って、彼の右足を切ってしまった。彼はまた金属加工職人のところに行き、錫製の右足を作ってもらった。同様にして、左手・左足も錫製になってしまった。
それでも木こりが木を切っていたら、また斧の手が滑って彼の頭を切り落としてしまった。でも偶然、金属加工職人が通り掛かって、代わりの頭を錫で作ってくれた。それでまた木を切っていたら、また手が滑って胴体が真っ二つに切れてしまった。そこにまた偶然、金属加工職人が通り掛かって、代わりの胴体を錫で作ってくれた。
「そういう訳で、俺は全身錫製になっちゃったんだけど、胴体を失った時に心臓も無くなって、それでハートが無くなったから、俺は恋をすることができなくなって、彼女への恋心も消えてしまった。だから俺は心臓(heart)が欲しい。そしたらあの娘にもう一度求愛できるのに」
ドロシーも、かかしも、涙を流して、木こりの話を聞いていました。
「だったら、あなた私たちと一緒にオズの魔法使いに会いに行かない?オズの魔法使いなら、あなたにハートをくれるかも知れないよ」
とドロシーは言います。
「僕はオズの魔法使いに脳味噌をもらいに行く所なんだ。僕に脳味噌をくれるなら、きっと君にも心臓をくれるよ」
と、かかしも言いました。
「じゃ一緒に行こうかな」
と木こりは言いました。
語り手(穂花):そういう訳で、木こりは、ドロシー、かかしと一緒にオズの魔法使いの住むエメラルド・シティに行くことにしたのです。
そう穂花が言うとトト役の初枝が「ぼくも居るよ」というので、語り手は言い直します。
語り手(穂花):そういう訳で、木こりは、ドロシーとトト、かかしと一緒にオズの魔法使いの住むエメラルド・シティに行くことにしたのです。
(むろん言い直しになる所まで台本)
「ところであんた、チンコあるの?」
と、かかし(田代)が木こり(高山)に訊きます。
「無いと女と間違われるから、ちゃんとティン(tin)つまり錫(すず)で作ってもらったよ」
というやりとりは台本には無かった!(この2人で決めてやったもので、女子たちには本番まで内緒だったが、後で女子たちから非難された)